君と願いと、そしてこれから。 (星矢/一輝×瞬)



一月一日。
神社の境内は、初詣客で溢れ返っている。
そんな中、一際目立つ集団が、やはり初詣にと此処を訪れていた。
女神の聖闘士が5人と、それから少女が一人と、後は幼児ばかりがぞろぞろと30人ばかり。




「しっかしなあ。なんでギリシャ聖域の聖闘士が、神社にお参りにくる羽目になっちまうんだあ?」
「文句言うなよ、邪武」
「郷に入っては郷に従え、というだろう」
「はぁ? そういうんならな、氷河! 少しはお前も郷に入って、"日本の冬"に合った服装しろっつーの! なんだよ、このクソ寒いのにノースリーブってよー! 見てるだけで寒いってよ」
「文句あるなら、いっそ寒さを感じないように凍らせてやろうか? 邪武」
「ばばば、バカ言うなっ」
「邪武も氷河も、くだらない冗談言ってる場合じゃないだろ! ちゃんと子供たち見ろって、ほら!」
「わかってるよ、星矢」
「ったく、なんで俺まで」


ブツブツと文句を言いつつも、両手に子供たちを従えて、邪武がごった返す人の波に大きく肩を落として溜息をつく。
「しっかしまあ、すっげえ人だなー。迷子になるなよ! みんな!」
先頭を歩いていた星矢が元気に振り返ると、チビッコたちも一斉に元気に返事を返した。


「「「はーい!!」」」


「返事だけはいいんだけどなあ。あ! 美穂ちゃん! 今、一人後ろでコケたぞ!」
「ええっ! あ、本当だわ! あきちゃん、大丈夫ー」
「うわあああん」
転んで泣く子に、星矢が慌てて戻ってひょいと抱き起こすと、その場に屈んで背中を向けた。
「ほら、泣くなよ。俺がおんぶしてやるから!」
「うわあん、ありがと。星矢ちゃん!」
「いいって! ほら、みんな! 俺の後ちゃんとついてくるんだぞー」
「でも星矢にいちゃん、ちっこいからなー! 見失っちゃうよなあ!」
「ええ!? ひっでえなあコイツ!」
「イテッ」
「ははは、ちがいねえや」
「うるせー邪武! お前だって変わらないだろ!」
「お前ほどチビじゃねえぞ」
「なんだとー!」
「目糞、鼻糞を笑う、だな」
「あーのなあ、氷河! もうちょっとマシな表現はないのかよ!」


「どんぐりの背くらべ」


「…まんまじゃねえか」
「ひょおが〜〜!」

涼しい顔の氷河にわなわなとなる邪武と星矢に、はあと1つ溜息をついて、列の真ん中あたりを歩いていた美穂が呆れたように言う。
「もういいから、星矢ちゃん! ちゃんと前見て歩いてよー!」
「ああ、わかってるよ、美穂ちゃん。まったく、保父さんも大変だよなあ。よーし、こっからさらに人が多いから! 氷河、紫龍、瞬ー。後ろと左右、誰か置いてけぼりくわないか、ちゃんと見ててくれよー!」
後方に向かって手を挙げる星矢に、一番後ろを歩いていた瞬と紫龍が顔を見合わせると、人込みを物ともせず穏やかに星矢に答えた。
「うん、わかってるよ、星矢」
「まかしとけよ」
やさしい目でコドモたちを見下ろすその表情に、うっとりとしたような目でそれを見上げると、わらわらと少女たちが紫龍たちの周りに集まってくる。
「紫龍さんは、ゆうちゃんとお手々つないでね!」
「まきちゃんも!」
「はいはい。どうぞ」
「紫龍さんって、しんしですてきよねーv」
「うんうんv」
「そーお? アタシは、氷河さんがいいなあ!」
「あったしもーv なんたって、くーるびゅーてぃーだもんねv」
「カッコいいもんねーv」
「ちょっと変わったトコあるけど、そこがまたかわゆいのよねーv」
「…はあ?」
両手を掴まれ、誉められている割にはエライ言われように、さすがの氷河もにたじたじとなる。
それを見、瞬がくすりと小さく笑った。
「瞬さまー! アタシ、瞬さまとお手々つないでいいですかー!」
「もちろん。いいですよ、お嬢さん」
「ああッ! ミカちゃん、ずるいっ! みうが繋ぐの!」
「だめだめ! 瞬さまは、ゆうこちゃんの!」
「やあちゃんの!」
「ゆりちゃんの!!」
「アタシのよお!」
「あたしだってば〜〜!!」
「ま、まあまあ…。って、うわあっ!」
小さなレディに蟻のように群がられ、どうしたものかと困ったような笑みを浮かべる瞬に、紫龍が揶揄するように言う。
「両手両足と背中と頭に"花"――だな、瞬」
「もう紫龍。笑ってないで助けてよー」
「ええっ、瞬さまごめいわく?」
「いいえ、とんでもない! あ、あは…光栄ですよv」
「わーいv」

きゃあきゃあと賑々しい後方の声に、それをちらりと肩越しに振り返り、やれやれと星矢が肩を竦める。
「相変わらずモテるなあ。瞬は」
「なんで、オンナの子は後ろに集中してんだよ? 俺らの周りはワルガキばっかだってーのによー」
いかにもやんちゃそうな男の子を両肩にのせて、少々ふてくされたよう邪武が言う。
「ちっこくても、オンナは面喰いなんだよー、星矢にいちゃんも邪武にいちゃんも」
「はあ!? どーゆー意味だよ、それ!!」
「ナマ言ってると、落っことすぞー!」
「うわあっ!」
「あはは、ケンちゃんったら!」
「なんだよ〜美穂ちゃん」
「笑うなよー、美保ちゃん」




「あ、あの。お嬢さんたち、ちょっとあの。あんまり押さないで…。うわ! 肩にのってるお嬢さん、髪の毛ひっぱらないで〜! って、ああ! えーとキミはミカちゃんだったかな? そっちじゃないよ、こっち、こっちだからね! あああ〜! 背中のキミ、ちゃんと掴まってて、落ちるから! い、いたた…。わー、なんか服、破けちゃいそう」
5,6人のちっちゃい少女を連れているため、だんだんと皆の集団から遅れてきた瞬は、とにかく一人でも迷子にさせないようにと必死になっていた。

「みんな、大丈夫ー?」
「はーいっ」


「お前は、とても大丈夫そうに見えんがな?」


「ええ。これでも結構必死で…。ん?」
背中におぶさった子がずり落ちそうになるのをなんとかしようと、前屈みになったところで、ふいにその背が軽くなり、代わりに頭の上から聞き慣れた声が聞こえた。

「あれ…?」

驚いて見上げると、一輝が瞬の背中からずりおちかけていた子を、腕に抱き上げたところだった。




「兄さん…!」




見上げた瞳が、一瞬でぱあっと喜色の色になる。
兄は苦笑した。

「大変そうだな」
「ええもう、ほんとうに大変で…って、兄さん。なんでここに?」
「ああ、それがな――」
「わーい、一輝さまだぁ!」
「いいなあ、あかねちゃん、一輝さまに抱っこしてもらって! ねえ、まろんちゃんも一輝さまとお手々繋ぎたい!」
「ひめちゃんも一輝さま!!」
「…構わんが」
あっというまに少女に取り囲まれる兄に、瞬が肩を聳やかしてくすくすと笑う。
辟易としている兄の顔が、どうにもおかしいらしい。

「モテモテですね、兄さん」

笑いながら言うと、ぎりっと睨まれ、瞬が首を縮め、小さく舌を出した。
「あ、それより、よくここがわかりましたね? もしかして星の子学園に?」
「ああ。そうしたら、園長がお前らが子供たちを連れて出たというんでな」
「連れて出たというか、新年のご挨拶に星矢にくっついて出かけたら、みんなが初詣に行きたいって言い出しちゃって。でも美穂ちゃんだけだったら、とても人で混み合ってるこんなトコにみんなを連れてくるなんて無理でしょう? じゃあ、僕たちが一緒に行ってあげようかーってことになって」
「なるほどな」
「でも兄さん。園長先生に聞いて、それで手伝いに来てくれたんですねー」
「嬉しそうにするな。別に、単なる気まぐれだ」
「それでも、僕は、すごく嬉しいですけど」
頬を染めて瞳を細める弟に、照れも入ってか不機嫌そうに兄がフンとそっぽを向く。
瞬がそれを、さらに嬉しげに見上げる。
「でも、こういうの。初めてかもしれない」
「ん?」
「兄さんと、初詣」
「――賑々しいおまけ付きだがな」
「ふふっ、そうですねー」
肩を竦める弟に、一輝が穏やかに瞳を細める。
兄のこういった顔を見るのもひさしぶりかもしれない。
コドモたちのおかげかな?と瞬が思う。
ぶっきらぼうではあるけれど、本当は温かいその心の奥が見えるのか、星の子学園の子たちは皆一輝が好きだ。
時に、瞬がやきもちをやきたくなるほどに。



「ところで、お前は」
「え?」
「何を願うんだ?」
何を問われたのかとしばしきょとんとして、それから、やっと何のために此処に来ているのかを思い出し、瞬が"ああ"とぱちりとまばたきをした。
「――あ。そう、ですね…。じゃあ、この子たちがいつも楽しく平和に暮らせるように、かな」
「ほお」
「少しでもこの地上から諍いが減って、人々が安心して生活できるような世の中になるように。小さな命がもうこれ以上、奪われたりすることがないように」
その答えに、兄の表情が微かに険しくなる。



そういうヤツだと、とうに知ってはいるけれど。
本気でそんな願いを持てるところが、弟は潔いと思う。
同時に、哀れだとも。



苦い表情で、呟くように一輝が言った。
「他にはないのか?」
「え?」
「他に、お前個人としての願いはないのか?」
「…僕、個人としての願い、ですけど?」
「――まったく」
「あ、どうかしました?」
兄の機嫌を損ねたらしいことに気が付いて、瞬がその顔を覗き込むようにする。
一輝が応えのように、肩を落として息をついた。


「おまえは――。もう少し我が儘でいい」
「…はい?」
「もっと我が儘になれ」
「えっと…」


どういう意味だろう?と、困ったように思考を巡らす瞬に、兄がそれ以上は言わず参拝の列の最後尾についた。
その横に並んで、まだその意味を考えていた瞬が、ようやく思い立ったように、あっと小さく声を上げる。
それから、逞しい兄の肩に頭をもたげるようにして、穏やかな笑みを浮かべた。
小さく、囁くほどの声で言う。



「…じゃあ、今年は―。去年よりももっとずっと、たくさん。僕が、兄さんを独り占めできる時間が増えますように」



「…叶えてくれます?」
言って、少し悪戯っぽく微笑む。



「叶えてやるさ」
「本当に?」
「ああ…。」

「…じゃあ」



視線をゆっくりと下げてくれる兄をその肩口から見上げ、睦言のように、瞬が形のよい唇で甘く告げた。





「僕が願いを捧げる"カミサマ"は、"兄さん"だ――」





告白後のようなうっとりとした翠の瞳を驚いたように見つめ返し、ややあって、兄の喉元がくくっと嗤った。

「――とんだ、私利私欲の神だ」

自嘲のような兄の言葉に、春の陽光のようなやわらかさとあたたかさで、瞬が幸福げに微笑んで答えた。








「いいんです。僕だけのカミサマだもの」








END







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なんだか久し振りにコドモネタを書いたような気がします。
ちょっと昔書いていた一輝v瞬の雰囲気に戻ったかなあ。
ちなみに、コドモたちの名前(笑)
もしかしてコレって、私?と思った方。
きっとそうです、アナタです(わはは) 無断借用、大変失礼いたしましたv

ああ、それにしても。
邪武は大変貴重なキャラだということに、長いことやってて、やっと気がつきました! 
書きやすい!
星矢となんかいいコンビですねーv かわいいですv



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