「Symmetry 3」
(一輝v瞬+蛮銀パラレル)





「待ったか?」
「はい。…あ、いいえ!」

やさしい声に思わず素直に答えてしまって、瞬が、ぱあっと頬を染めて慌てて否定する。
その様に、一輝がくっくっと笑いを漏らした。
そして、雨宿りをしている瞬の上に、大きな傘が差し出される。

「いきなり日本に呼び戻されたかと思えば、傘がないから迎えに来い、と―。なかなか人使いが荒いな、お前は」
その言葉に、小さく肩を竦めて上目使いになって瞬が言う。
「呼び戻したのは、沙織さんの、女神の命だからですよ。僕のわがままではありませーん」
「差し金ではないのか?」
「僕の?」
「ああ」
「だったら、帰ってくれなかった?」
「いや―」


「余計に帰りたくなったやもしれんな」


一度赤く染まった肌は、もとが白すぎるだけに、なかなかそこから熱を引いてはくれない。まだ染まっている頬を持て余すように、自分の手の甲で冷ましながら瞬が答える。
「だったら、そういうことにしておいてください。どちらにしても、僕は――」
「ん?」
「雨の中、兄さんが僕を迎えに来てくれた。そのことがとても―。とっても嬉しいんですから!」
笑顔でそう言い、恥ずかしさを隠すように、兄の横をすり抜けて雨の中に走り出る。

「瞬!?」

一輝の傘が、慌ててそれを追った。
「こら! 濡れるだろう」
「いいですよー、もう既に大分びしょ濡れなんだもの」
「だからと言って! こら待て、瞬!」
「あはは、兄さん、こっちー! 早く早く!」
逃げるように雨の中をはしゃいで駆け回る弟に、それでも易々と追いつくと、その腕を取って兄が思わず顰めっ面になる。
「ああ、もう! 相変わらず、大人しそうな顔をしている割には、はねっかえりだ。お前は! 」
それに笑顔で、瞬が返す。
「ちょっと、影響されちゃったかも!」
「影響? 誰のだ?」
「あ! いえ。なんでもないでーす!」 

くすくす笑い声を上げる弟を傘の中にちゃんと入れてやり、やれやれとその肩を抱き寄せ、溜息をつきながら一輝が言う。
 
「濡れるぞ、もう少し寄れ」
頭の上からやさしくそう言われると、さすがの瞬も大人しくなり、こくんと頷く。
ふっくらした頬は、先程よりも、さらに朱に染まっていた。
「うん…」


そのまま、しばし、傘の中に寄り添うようにして街中を歩く。
兄弟の再会が、こんな日常の風景の中で行われることはごく稀なことだったから。
少し、肩を並べて歩いてみたい気分になった。


交わされる話の内容は、それでも相変わらず物々しいが。

「――で? 女神は俺に何処に出向けと?」
「地下に」
「地下?」
「地下闘技場(アンダーグラウンドコロシアム)に赴けとの命です。サブバトルGPで、呪闘士と戦うのだそうですよ」
「ブードゥーウォーリアー? 何者だ?」
「さあ。まだ僕も詳しいことは聞かされてないのですが。兄さんが揃ったら、沙織さんから説明があるでしょう。あ、予選は5人で1つのチームではないと出る資格が与えられないそうですから」
「気が進まんな。どうして俺だ。邪武でも檄でもよかっただろうに」
「邪武や檄では、立ち向かえませんよ?」
「何だと」
「そういう強者が相手だそうです」
「…ほう」

不快を露にして眉を潜めさせる一輝とは対照的に、どこか潔ささえ感じさせる微笑で、瞬が頷くことで兄に答える。

「何か楽しそうだな、お前は」
「そうですか?」
「そう見えるが」
「だったら、そうかもしれません」
「争いごとは、嫌いではなかったのか?」
「嫌いですよ。ただ、今度の場合は目的が違う。殺さずとも、とにかく勝ち進めばいいわけですから!」

やれやれ。
大した自信家だ。
微笑みは力強い。
いったい何を、女神自ら弟に入れ知恵してくれたものやら。

考えて、一輝が肩で息をついて弟を見下ろす。
瞬がそれを見上げ、邪気のない笑みで答えた。


「なんだか、ギャラクシアンウォーズを思い出しますよね」

その言葉に、一輝が思いきり渋面になる。
できれば、触れて欲しくはない過去だ。女神に反逆を企てた己がいる。
もっとも触れるなと、それで済まされるものでもないと、無論深く承知してもいるが。


「兄さん?」


黙ってしまった兄に、いぶかしむように瞬が少し不安げな視線を向けた。

「出て、くれますよね?」
心配そうな口調に、一輝の口元が苦く笑む。
この状況で弟に強請られて、拒絶などできるものでもないだろうに。



「ああ、ただし――」
「えっ?」
「無茶はするな」
「…はい!」


力強い笑みが、兄の言葉にしっかりと答えた。









雨はいつのまにか、小雨になっていた。
遠く東の空から、少しずつ日が差し始めている。
もっと小降りになったら、もしかすると虹も見られるかもしれない。
兄の逞しい腕に、甘えるように頬を寄せながら、瞬が思う。


地下での戦いは、どんな熾烈なものになるだろう。
それを思いつつも、どこか気持ちが高揚しているのはどうしてだろう。

兄と一緒に戦いの場に赴けるから?
もちろん、それが一番の確かな理由だろう。



そして。
それから、もう一つ―。








名刺の店を探すまでもなく。


地下に行けばもう一度、
間違いなく"彼ら"に会えるような、そんな予感がしていたからかもしれない――。








END










蛮銀好きの方も、一輝瞬好きの方も、
お読みいただき、ありがとうございましたv





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