「Symmetry
1」 (一輝v瞬+蛮銀パラレル)
「あーあ、すごい降りになってきちゃったなぁ…」
アンティークショップの軒下で、ウインドーガラスを背中に灰色の空を仰いで、瞬は深々と溜息をついた。
ポツポツと降り出した雨は、あっという間にどしゃ降りになり、慌ててこの軒下に逃げ込んだものの。 当分、動けそうにない。 迎えは、頼んだものの。 期待は、果たして出来るだろうか? 思い、先ほどより重いめの溜息が、ついその唇から漏れる。 俯き加減に、長い睫毛が碧の瞳を覆いかけた時、ふいに隣に飛び込んできた人影があった。
「わー、もう、なんでいきなり降ってきちゃうんだろー! んあー、もう! びっちょびちょだよー」
金髪についた水滴を、ふるふるっと頭を振りつつ払いながらこぼす青年を、驚いたように瞬が見上げる。 ちょうど青年の肩口あたりにぶつかった視線をさらに上に向けると、思いがけない童顔があり、その一瞬で警戒心が解けた。 童顔と、人なつっこそうな琥珀の瞳。
「あ、よかったら。使ってください」
さっとハンカチを差し出す手に、彼は、びっくりしたようにそれを見下ろした。 「え? あ、ありがとう」
うわー、可愛い女の子!――じゃ、ないか…。胸、ないし。
正直な瞳が、まるで声に出しているかのように、雄弁に心中を語っている。 それを察して、くすりと瞬が笑んだ。青年が、きょとんとする。 「はい?」 「あ、ごめんなさい。何でもないです」 言いつつも、肩をすぼめて、くすくすっと笑う少女のような可愛いらしいしぐさに、彼が思わずぼーっと見とれているようにそれを凝視する。
「―あ、スミマセン。いきなり笑っちゃ失礼ですよね。」 「あ! いや別に。ってか、なんか君、オレの知ってる人に、ちょっと雰囲気似てて。ええっとね、君みたいにきれいでさ。でも外見とは裏腹に、とっても強いんだよねー」 「は?」 「なんて―。いきなりそんなこと言われても困るよね。ゴメン!」 肩を並べるようにしてウインドーガラスに凭れ、彼が肩を竦めて子供のような笑みを浮かべる。 「あ、いいえ。あ、でも。貴男も僕の知り合いに少し似てるかな。背格好とか、髪の色とか――。性格はたぶん、別のトモダチの方に近いと思うんですけど」 「うん? そう?」 「ええ」 「偶然にしても、なんか嬉しいな。そういうのって。ね?」 本当に嬉しそうな笑顔でそういう彼に、瞬もつられてにこやかに微笑む。 人見知りというほどではないけれど、今逢ったばかりの初対面でこんな風に話せることは珍しいから、なんだか嬉しい。 「っと、ああっ、ごめん! ハンカチ、すっかり濡れちゃって。洗って返さなきゃ。―あ、オレ、天野銀次! 奪還屋やってるんだ、蛮ちゃんと!」 「え…? 奪還屋? 蛮、ちゃん?」 「うん! はい、これ名刺! 手作りだかんね。あんまたくさんは持ってないんだけど。お礼に、奪還料大サービス特価で引き受けちゃうから、何か奪り還して欲しいものがあったら、ココに会いに来てv」 「ホンキートンク内。奪還屋ゲットバッカーズ…?」 「うん、なんでも奪還しちゃうよ。なんたって奪還成功率ほぼ100%の…。いたぁっ!」
「ほぼ、ほぼ、抜かすなっつってるだろうがよ! ったく、どこほっつき歩いてんだ、テメーは!」
いきなりの怒鳴り声に、二人同時に揃ってビクッ!と肩を震わせ、慌てて顔を上げる。
いつのまにか目前に来ていた、ずぶぬれの黒髪の青年が、ぽかりと"銀次"の頭を殴りつけると、唖然とする瞬の前で一気にそうまくしたてた。
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