LOVELY EGOIST  /月嶋海里さまv






 好き、大好き。
 世界で一番大好きだよ。
 だから甘えさせて
 わがままを聞いてよ。
 ねぇ、お願いだから。


 オレだけを見ていて………。




「ば〜〜んちゃんっ」
「どわぁぁっ!」
うりゃっ、と勢い良く背中にダイブして、そのまま背中に圧し掛かる。
横になって新聞を読んでいた蛮は見事に銀次に潰される形になった。
「な〜〜〜にしやがんだ、このアホッ!」
「えへへへ、ビックリした?」
「当たり前だっ、退け、重いんだよ」
「じゃタレる」
「そういう問題じゃねぇっ!」
叫び声と同時に無理矢理身体を起こせば、背中に張り付いたままのタレ銀次が、コロンと転がり落ち、そのまま部屋の隅まで転がっていく。
「うきゅ〜〜っ」
思い切り壁にぶつかり、頭を打ち付けた銀次が、間抜けな悲鳴を上げた。
コブが出来た頭を擦りながら涙目で蛮を睨み付けるが、タレたままでは些か迫力に欠けるというものだ。
「酷いや、蛮ちゃんの意地悪」
「どっちがだ、重てぇ身体で飛び乗りやがって」
「酷〜〜い、オレそんなに重くないもんっ」
「重てぇ、重てぇ、すんごく重てぇな。お前、また太ったんじゃねぇのか?」
「そんな事無いよぉっ〜」
「とにかく、重てぇんだから乗るな!」
不満気な銀次に釘を刺し、蛮は再びゴロリと背を向けて寝転がり、読みかけの新聞を開いた。
「……そんなに重くないもん」
銀次は悔し気に呟き、ギュッと拳を握り締める。
重いと言われた事も悔しいが、蛮が自分を見てくれない、相手にしてくれない事が何よりも一番悔しい。
久し振りの、のんびりとした時間。今日は誰にも邪魔されず、蛮を独り占めできると思っていたのに。
思い切り甘えて、一日中イチャイチャするつもりだったのに………。
自分から蛮を遠ざける新聞が憎い!!と、本気で思ってしまう。

そんな銀次の思いも知らず、蛮は相変わらず素っ気無い態度で新聞を読み耽っていた。
「蛮ちゃんのバカ……」
呟いた声は小さ過ぎて、蛮の背中に届かない。
銀次は静かに立ち上がり、無限に落ち込みそうになる心を振り払う様に、二度、三度と軽く頭を振った。

―――オレ、諦めないんだからっ!

銀次はタレたまま力強くガッツポーズを取り、気配を消して、足音も消して、蛮に気付かれない様に背後に忍び寄る。

あと少し………。
あと一歩……。

「えいやっ!」
ギリギリまで距離を詰め、先程と同じ様に蛮の背中目掛けて勢い良く飛び込んだ。
両手を広げ宙を舞う銀次は、そのまま蛮の背中に着地する……筈だった。
「甘いんだよっ、バ〜カ」
銀次の考えなどお見通しとばかりに、意地の悪い笑みを浮かべながら、蛮は余裕でタレ銀次の攻撃をかわす。その為、銀次の身体は無残にも床に叩き付けられる事になった。
「何で避けるのぉ〜〜?」
「銀次ィ……さっきオレは何て言った?」
蛮は涙目で起き上がった銀次の襟首を引っ掴み、目線の高さまで持ち上げる。
サングラスの奥に隠された瞳が、怒りの色に染まっていた。
「まさか、忘れたなんて言わせねぇぞ」
「………タレたら重くないもんっ」
「やかましいっ、タレりゃ許されると思うなっ!」
「重くなきゃ、いいんでしょ〜〜?」
「そ〜いう問題じゃねぇって言ってんだろ〜が!」
ビチビチと暴れる銀次の耳元で怒鳴れば、涙の溢れそうな大きな瞳を更に大きく見開いて、銀次も負けじと怒鳴り返す。
「ちょっと位いいじゃんか〜、別に減るもんじゃ無いんだから」
「ダメだ、減る」
「・・・・・・・・・蛮ちゃんのケチ」

……ブチッ!!

銀次の呟きに、蛮の中の何かが派手な音を立ててブチ切れた。
片手で銀次の耳を掴み、思い切り引っ張る。
「黙れっ、人の話を聞かないのは、この耳かぁっ」
「痛いっ、痛い〜〜〜っ」
「少しは反省しろっ」
「やめて〜耳が伸びちゃうよぉ」
「伸びるか、アホッ!」
怒りが治まるまで散々耳を引っ張り続け、少し気が済んだ蛮は、タレ銀次を床の上に放り投げた。
投げ出された銀次は、痛む耳を押さえて床に蹲る。
その瞳から、堪えきれなくなった大粒の涙が溢れ出した。
「……バカ、蛮ちゃんのバカ〜〜〜」
抑え切れない感情が、涙と共に爆発した。
悔しかった、淋しかった。
傍に居るのに、こんなに近くに居るのに、蛮の心が遠く思えて哀しかった。
すごく我が侭だと思う。
こんなのは、ただの子供染みた独占欲だ。
そんな事は分かってる、だけど……

「うわぁぁぁん、蛮ちゃんのバカ〜〜〜」
「……ぎ、銀次?」
急に大声で泣き出してしまった銀次に、さすがの蛮も少しばかり焦った。
いつもなら蛮の素っ気無い態度にもめげず、更に反撃を返してくるところなのに。
「おい、銀次……」
泣きじゃくる銀次に手を伸ばすが、蛮の手は触れる直前に銀次の手によって振り払われた。
「……っらい、大っ……嫌いっ……」
小さく震える唇が、声が、残酷な言葉を紡ぐ。
「蛮ちゃん……なんかっ……大っ嫌い」
「あぁ、そうかよ……」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
短く応えて蛮が背を向けると、銀次の泣き声が一際大きくなった。

―――どうしろってんだよ……。

蛮は小さく舌打して振り返り、大声で泣き続ける銀次の身体を無理矢理に抱き寄せた。
痛い位に強く抱き締めれば、暴れる銀次の拳が蛮の胸に何度も何度も叩き付けられる。
「ばっ…ちゃ……蛮…ちゃっ…ふえぇぇっ」
「……悪かったよ、だから泣くな」
蛮の胸を叩きながら泣き続ける銀次の耳元で、そっと囁く。
涙に濡れる頬に唇を寄せ、銀次が安心するように何度も口付けた。
「蛮ちゃっ……ごめ……なさいっ」
「……ん?」
「ひど……こと言って……ごめんなさいっ…」
「バ〜カ、気にしてねぇよ」
「き……嫌いっ……なんて嘘ぉ……」
「分かってんよ、んな事は」
「蛮ちゃんがっ……新聞ばっか……見てるからぁ…オレの事……見てくれないからっ……」
途切れ途切れの告白に、蛮は目を見開いて驚き、そして苦笑する。
こんな些細な事で、淋しいと泣かれるとは思ってもみなかった。

―――何だかなぁ……。

込み上げてくる擽ったい感情。
こんな風に誰かに愛されるなんて、誰かを愛せるなんて、あの頃は想像も出来なかった。
そう、銀次に出会う前までは……。
「蛮ちゃん……好き……大好きなのっ……」
「分かってるって……」
愛しいという気持ちを、蛮は言葉の代わりに、腕の中で泣き続ける銀次の唇を優しく塞ぐ事で伝える。
「……んっ……ふ……ぅ」
吐息さえも呑み込んで、深く、もっと気持ちが伝わる様に深く口付ける。
愛しさの全てを籠めて……。
「……ふぁっ……ぁ…蛮ちゃぁん」
十分に甘い唇を堪能してから解放してやると、銀次が首に手を回し縋り付いてくる。
まるで離れたく無いとでも言うように。
「機嫌は直ったかよ?」
頬を濡らす涙を指で拭い、微かに朱に染まった銀次の顔を覗き込む。
「………うん、ごめんなさい」
「謝んな、バ〜カ」
申し訳なさそうに小さく頷く姿が愛しくて、蛮は再び銀次の身体を強く抱き締めた。
「ばっ、蛮ちゃん?」
「気が済むまで、こうしててやる」
「……うん、ありがとう」
「それじゃぁ、朝まで放さねぇぞ」
「それは困る〜〜」
「うるせぇっ、オレ様の気が済むまで、このままなんだよっ」
「えぇ〜オレの気が済むまでじゃないのぉ?」

抱き合って、互いの温もりを感じて、笑い合う。
こんなにも幸せは、日常に転がっている。

「蛮ちゃん、お腹すいた〜〜」
「ダメだ、放さねぇって言っただろ」
「蛮ちゃ〜ん、もう許してよぉっ」
手に入れた幸せを噛み締めながら、二人は互いを抱き締める腕に力を込めた。



 好きだ、愛してる。
 そんな安っぽい言葉なんかじゃ
 この気持ちは伝えきれない。
 だからもっと甘えろよ。
 もっと、もっと甘えて我が侭を言って


 もっと、オレを困らせてくれ……。





「Secret Garden」 月嶋海里さまvからいただきました。



『ポラすけ」さま内の奪還屋中心サイト「Secret Garden」さまで、『祝・10000HIT達成!大感謝企画』にて、フリーにしておられた月嶋海里さまのSSをいただいてまいりましたvv いや,相変わらずラブラブで甘甘〜な蛮銀に、背景壁紙をどうしてもハートにしてしまいます!!!(笑) 蛮ちゃんの背中にダイブしちゃう銀ちゃんが可愛いですvv タレてもよけられちゃうあたり・・v 蛮ちゃん完全に遊んでますy。泣いて、蛮ちゃんの胸をたたく銀ちゃんもかわゆくて、こんな子と毎日暮らしてたら、本当に「もっと甘えろよ。もっと困らせてくれ」って言いたくなっちゃいます! ああ、旦那サマ・・・! あなたは本当にシアワセモノです〜vv 本当にアテられっぱなしですvv でも新聞だけでなく、銀ちゃん、電化製品やら食器にも、蛮ちゃんが見たさわった撫でたとヤキモチやいてそうですv フフフv それでも蛮ちゃんは「可愛いヤツ・・」と思ってそうだv
相変わらずシアワセな二人を、本当にありがとうございました!!! 月嶋さんの二人は本当に仲睦まじくて、読ませていただくとほこっと心があたたかくなるのです〜vv



モドル