メッセージありがとうございましたv




「融点」



「あ゛〜〜寒っ!!」
「やっぱ、つけっぱなしにしとくべきだったねぇ、エアコン」
「ビールとつまみだけ買って、すぐ帰る筈だったのによ。久保ちゃんが、いつまでも立ち読みしてっからだぞー」
「お前だって、マンガ立ち読みしてたじゃない」
「久保ちゃんが読み終わるの、マンガ読んで待っててやったんじゃねーかよ」
「そお? その割には、オレが読み終わってもなかなか動こうとしなかったけど? お前」
「だって、丁度いいところだったんだもんよー。しょうがねえじゃん。途中でやめたら、どうなるのか気になっちまうだろ」
「はいはい。じゃ、待っててもらったお礼に、熱いコーヒーでもいれよっか」
「お、そーだな!」
あっさりと返される言葉と笑みに、久保田が微笑み返しながら、キッチンに向かう。
その間に、暖房が効き始めるまでの寒さ凌ぎにと、床の上に放り出されていた毛布を引き寄せ、時任がソファに腰掛ける。
とりあえず、テレビをつけてゲームの電源を入れた。
「しっかしなあ、それにしても寒いっつーの! これじゃあ、部屋ん中も外も変わらねえじゃん!」
「まぁ、エアコン入れたから、そのうちあったまってくるっしょ」
「そーだけどさー。ああ、畜生っ! 手かじかんで、うまく動かせねえ」
苛つき気味にコントローラーを操作する時任に、久保田が二人分のコーヒーを手にしてソファに近づく。
「そりゃ大変。…あ、コーヒー。どこに置く?」
「お、サンキュ。寒ぃから先に飲む」
「カップ熱いから、気をつけなよ」
「ん」
時任のマグカップを差し出すと、ひとまずコントローラーを床に置き、時任がそれを両手で受け取る。
あちーと言いつつもゴクリと一口飲むと、やっとほっとしたような顔になった。
凍えた手のひらをあたためるように、両手でマグカップを包む。
「あー、あったけー」
「ちょっとは落ち着いた?」
「ん。まあ、まだ寒いっちゃ寒いけどな。遅ぇよ、エアコン効くの!」
「古くなってきたからねぇ、コイツも」
「あ゛ー、やっぱ寒っ!」
「そーね、雪でも降るかな?」

「――って。…何やってんの、久保ちゃん?」

自分の分のコーヒーを床に置くや、いきなりソファの背もたれに凭れ掛かっていた時任の背中を、長い足で跨ぐようにしてきた久保田に、時任が驚いたようにそれを見上げる。
「はい。もうちょっと前寄って、時任」
「く、久保ちゃん…!?」
「いや、さ。背中寒そうだから、あたためてあげようと思って」
「はあ!? あ、あっためるって…!」
「よいしょっ、と」
言うなり前に追いやられ、その身体を久保田の足の間に挟み込むようにして背後に坐られ、時任がぎょっとする。
「ちょ…! おい何だよっ。久保ちゃんっ!」
「んー?」
とぼけたように返すと、時任の下腹の上あたりで両手の指を組んで、ぴったりとその背中に身を重ねる。
「くっ、久保ちゃんっ!」
「どう? あったかい?」
「あ、あったけえも何も…!」
「何も… なに?」
「何って… ちょっ…! 俺の肩に顎のせるなよ、重ぇだろーがっ!」
真っ赤になって、じたばたと藻掻きつつ、時任が怒鳴る。
「んー?」
「うわ、耳くすぐってえ!」
「くすぐったがりやだなぁ、時任は」
「テメ…! わざとだろソレ! ぁあ、もうっ! 離せよ、久保ちゃんっ」
それでも、久保田の腕を無理矢理振り払うという気はないらしく、赤らめた頬のまま、時任がその腕の中で身を捩らせる。
ほとんどじゃれあっているかのように戯れて、愉しげに久保田が言った。
「だって、ほら。こうしてると、俺もあったかいし」
「――え。…な、なんだよ。久保ちゃんも寒かったのかよ」
「うん、そうだねぇ」
久保田が、にっこりとそれに頷く。
時任は、"じゃあ、仕方ねえ"と言わんばかりの顔をして、肩越しに久保田を振り返ると言った。

「――じゃ、別に。部屋あったまるまで、こうしててやっても、いいけどよ…」



このままじゃやりにくいからとゲームは消して、見る気もないテレビの画面を、二人重なってぼんやりと見つめる。
久保田のお気に入りの、深夜の通販番組。
時任にとっては、あまり役に立ちそうにないものばかりなのだが、これはあーだ、この商品はこーだと言いながら見るのは、なかなかに楽しい。
その間に、エアコンが正常に作動し始めた室内は、設定温度が高めになされていた為、かなり暖かくなっていた。



「…そろそろ、あったまってきたかな?」
「え?」
「部屋の中」
久保田の言葉に、時任がぼそりとそれに答える。
「――まだ、そうでもねえぞ」
「そう? でも」
尚も言い募ろうとする久保田を遮るように、少しばかり拗ねたような顔で時任が言った。


「俺様、まだ寒いっつってんの!」


その言葉に、久保田がくすりと笑いを漏らす。
もちろん。
その答えは、予測済み。
まだ離したくないと、時任の身体の前で組んだ自分の指に、自然と力が込められる。
久保田は、時任の髪に唇を寄せながら甘く尋ねた。



「じゃあ、もう少し暖かくなるまで――。こうしてよっか?」
「…お、おう。」










END












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