メッセージ、ありがとうございましたvv 






「殺し文句」
〜その後〜





その夜、オレたちは。
今日がこの冬一番の冷え込みとかってニュースで流れていることなんかちっとも知らず。
ベッドの中で、ほこほこにあったまってた。
カラダはもちろん。心もねv


オレは今、眠っている蛮ちゃんの肩口あたりに頬をくっつけて、その寝顔をじっと見つめています。
ベッドの脇の淡いライトに照らされてるその顔は、ちょっぴり影を落として疲れているみたいに見える。


って。
…えっ? オレのせいじゃないよ!!!


そういうコトなら、むしろ疲れてるのは、オレの方…って。
いやいや、そういうハナシではなく!!!










…ねえ、蛮ちゃん。


最近、眠れてなかったんでしょ。
オレ、知ってるよ。
夜中、てんとう虫くんのシートで何回も寝返り打ってたコト。


卑弥呼ちゃんの誕生日が近いんだって、そう言ってたよね。
それと何か関係があんの?
そう聞いたら、はぐらかされちゃったけれど。


『アイツの兄貴と約束したんだよ』って、それだけは以前に教えてくれたよね。
けど、その約束の中身を、オレは知らない。


でも。
「頼む」って。
妹を頼むって、そう託されたんじゃないかなあって、オレはそう思ってる。

 
思いながら、その胸に頬を寄せる。







――ねえ。

ここにある、痛みとか悲しい思い出とか。
全部、オレが引き受けるから。
もらったげるから。

お願いだから、オレにも分けてよ。
一人で抱え込まないで。





ねえ、どうしたらいいかな。
どうしたら、蛮ちゃんが痛いの、ちょっとはマシにしてあげられっかな…?








――考えて、そうだ、と閃いた。





おまじないをかけるのです。
魔女のなんちゃらなんて、そんなむずかしい御呪いは知るはずもないけど。


こういうのなら、大得意です。
よく、おかあさんが転んだ小さい子にやってるもんね。
で、してもらった子は、ちゃんと「もう痛くないー」って泣きやんでるもんね!
きっと、効果絶大なんだ。あれって!!









――では、早速。





「痛いの、痛いの、とんでけ〜」



でもって、遠いお山の向こうにもし飛んでって、誰か知らない人が痛くなっちゃったら困るから。



「ぜーんぶ、オレのとこに飛んで来〜〜…」








――パシッ!!

「おわ?!」



蛮ちゃんの胸の上あたりで手の平をくるくる円を描くようにさせて、そいでもって、それを自分の方に向けて持ってこようとした瞬間。
オレの手首は、ぱしっと蛮ちゃんの手に掴まれてしまった。


「あ…」


「なーにやってんだ、テメエは」
「んあああっ。何すんの、蛮ちゃん!!!  落っこちたじゃんか〜!!!」
「はあ!? 何が」
「蛮ちゃんの”痛い痛い”をオレんとこにもらってあげようとしたのに! ベッドのあっちの方に落ちちゃったよ、どうしてくれんの〜〜っ!!!」
「………はあ?」
「あ、オレ、ひろってこよー」
「こら、ちっと待て」
「んあ、離してよっ」
「あのなあ、何、ワケわかんねーコト言ってんだ。オメーは」
「だってさー。ああもう、せっかくのおまじないだったのにー! 」
「おまじないだあ?」
「あ! いえ、別に。なんでも」
「おい、どこ行く」
「だから、拾ってこなくちゃって」
「何を!」
「だーからー、おっこちた”痛い”をですね!」
「あぁ? いいから、落としとけ!」
「ええっ、だって!」


「ぎーんじ」


それでも蛮ちゃんの手を振り切ってベッドを降りようとするオレを掴まえ直すと、蛮ちゃんは少々乱暴にオレの身体をベッドの上にひっくり返した。


「うわっ!」
「…ったく。オメーはなぁ」


「…蛮ちゃん?」


「それで俺が痛くなくなっても、テメエが痛けりゃ一緒だろうが」
「いっしょ? なんで?」
「テメエが痛けりゃ、俺も痛い。同じことじゃねえか?」
「蛮ちゃん……」


そっか…。

うんうん、なるほど。
そう言われてみれば、そうかもしんない。
そんな気がしてくる。



って、なんかうまくゴマかされたような…。



「今も現にテメエがいるから、俺の痛みは以前の半分以下になってんだ。んな、ガキ臭ぇまじないなんぞしなくてもよ」
「…え」


その一言に、あっというまにオレの頬が熱くなる。
それを見下ろしながら、蛮ちゃんが照れたように笑った。




ズルイな。もう。
こんな体勢で。


そんな殺し文句。





そして、ばさばさになった前髪を掻き上げつつ、蛮ちゃんが欠伸を一つ―。

「あーあ、それにしても、よく寝たぜ」
「あ、よく眠れたんだ?」
「おう、ぐっすりよ。ここんとこ、いまいち眠り浅くてよ。まあ仕事もちょろいもんばっかだったから、カラダなまってんのかもな」
「…うん、きっとそうだね。でもどっちにしても。蛮ちゃんがよく眠れたんなら、よかった」
「あー。んじゃま。寝直すために、もうちょい頑張っか!」
「うん。って何を?」
「もちろん、続きに決まってんじゃねえ! カラダなまってるからな!」
「え、え、え!!! ちょ、ちょっとあの! ていうか、既に3回…」
「うーるせえ。俺様はよ、痛ぇのが半分になるよりもな。気持ちイイのが倍になる方がずっと愉しいんだっての!!」
「ええっ、そんなあっ!!!」





そりゃまあ、「半分よりも倍になって尚嬉しい」って方がいいに違いないんだけどね!
マイナスより、プラス。


――とはいえ。何かがチガウような…。








それでも、まぁいいや、と。
ベッドの向こうに落っこちた”痛い”をまだ気につつ。


オレは蛮ちゃんにされるがまま。


ともかく、マイナスをプラスに。
痛いよりも、気持ちイイことをたくさん。
半分よりも、倍の倍の倍をめざして。


蛮ちゃん曰く”愉しい”方をいっぱいにすることに。
とても熱心に激しく頑張っちゃったのでありました。






やれやれ。














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