メッセージありがとうございましたv










「アリガトウ。」


まるで冷蔵庫の中のような車内で目が覚めると、目前のフロントガラスは内側は息で曇り、外側はうっすらと白い雪が積もっていた。
目を開くと同時に、寒さの余り、全身が勝手にぶるっと大きく震える。
深く被っていた毛布を抱き寄せるようにして、銀次は喚いた。

「んあー! 寒いっ! 寒いよ、蛮ちゃあん!」

運転席で、すでに起きて煙草を吸っていた蛮が、うざったるげに言う。
車内の白さはどうも、煙のせいもあったようだ。

「んだよ、起きたと思ったら、いきなりうるせえな! テメーは!」
「だって、だって! うお! 雪降ってんじゃん! さぶ〜〜!」
「そりゃ、冬なんだからよー。雪ぐれえ降るっての!」
「そんな呑気なコト言ってる場合じゃないよ〜! オレたち、このままじゃ、マジで車の中で凍死だよ!? んあー、鼻水出る〜〜」
「軟弱なこと抜かしてんじゃねえよ。なんのかんの言いつつ、去年の冬もどうにか生きて過ごせたワケだしよ」
「って、そういう問題じゃないんじゃないの!? だいたい去年は、ホームレスのおっちゃんちに泊まったりしたもん! って、今年も既に3日ほどお世話になったけど…! …じゃなくて! いい加減、オレたち真剣におうち持つこと考えないと、本当に車の中で…ふぁーっくしょん〜!」
「わぁーってるっつーの! 起き抜けで喚くな!」
「わかってるんだったらぁ」
「…ケドよォ、一発でどどーんと大金が転がりこんでくるような仕事がなかなか来ねぇんだからよー、しようがねえだろが!」
「一発でどどーん!じゃなくても、少しずつ貯めてったらいいじゃん! 蛮ちゃん、ちょっとお金入ると全部賭け事に注ぎ込んじゃうから、すぐに極貧状態になっちゃうんだもん! ちょっとずつ貯金とかしてったら…」
「ケッ! このオレ様が、んなセコイ真似出来るかっての! オレァ、宵越しの金は持たない主義なんだよ!」
「だってさ、蛮ちゃん!って、ちょっ、どこ行くの?!」
話の腰を折るようにして、運転席のドアを開く蛮に、銀次が驚いたように助手席の窓を開く。

「蛮ちゃん!」

「煙草、買ってくら」
「え! だって、上着も着ないで…!  ねえ、雪降ってるんだよ、そんな格好で行ったら風邪ひいちゃうよ、ねえっ!」
「ウルセエ」
「あ! ねえ、蛮ちゃん! ちょっと待っ…」

身体を捻って、窓から身を乗り出した途端。
ぱさりと銀次の毛布の上から黒いものが滑り落ちた。
何かと驚いて、銀次が助手席側の足下を見下ろす。

「あれ? これって、蛮ちゃんのコート…」




――そういえば。


夜中、寒さのあまり目が覚めて。
半分寝ぼけたままで、「寒い寒い」ってがたがた震えていたような。
そしたら、蛮ちゃんが何か毛布の上からかけてくれて、ぎゅって抱きしめてくれて。
こうしててやるから、って。



――ってことは。
蛮ちゃん、コート着ないで毛布被ってたんだ。
朝までずっと。





深夜の車内は冷えるから、上着はもちろん着たままで、その上から毛布を被って寝るのだが。
あのままじゃ、それこそ蛮の方が凍死寸前だったんじゃないだろうか。
それでも銀次のために。


銀次が、蛮のコートをぎゅっと抱きしめ、小さく微笑む。




蛮ちゃん、寒いの我慢して。
オレにかけてくれたんだ。
でも、照れ屋だから、あんな…。



「…ありがと」



頬を染めて、ぼそりと呟く。
寒いには変わらず確かに寒いけれど、心はほかほかと暖かくなった。
きっとこういうのは、家持ちになったら味わうことが少し減ってしまうのかもしれない。
不便な車生活だから、尚のこと。素朴なやさしさが身に染み入る。


銀次は助手席のドアを開くと、蛮の上着を片手に持って、雪のちらつく舗道を蛮を追いかけて駆け出した。


まあ、この冬も。
いっそ車暮らしのままでもいっか。などと考えながら。



「蛮ちゃあーん、待ってよー! オレも行くー!」



そして、追いついた肩にばさりと蛮のコートを掛けて、その上から飛びつくようにしてぎゅっと抱きついた。
首にいきなり体重をかけられ、蛮が思わず足を踏ん張る。


「うお! 重え、銀次!」
「えへへ―、あんがとv 蛮ちゃん」


そして、照れたようなその冷えた横顔に自分の頬を寄せ、銀次が小さくその耳に甘く囁いた。




「今度は、オレが蛮ちゃんをあっためたげんねv」












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