「ラブパニック」〜続編〜 後方の男子に思いっ切り回し蹴りをお見舞いして、ロロが素早く教室の窓を開く。 (うわ、三階って、さすがにちょっと高いけど…。まあ、何とかなるよね…) 楽観的に考えて、しかし、ちょっとこれはどうしたものかとふわふわのスカートの裾を持ち上げて考える。 押さえて飛べば捲れ上がりはしないだろうけれど、兄にもし見つかったら、それこそ「はしたない!」と叱られることは必至だ。 いや、だけど。背に腹は代えられない。 第二波がもうすぐそこまで迫ってきている。迷っている場合じゃない。 それに、ハートの帽子に比べれば幾分護りやすくはなったものの、左胸の上につけられている掌大のピンクのゴム製のハートは、あまり激しく動き回っていると衝撃に胸を離れて、気づかないうちに、どこかにぽよんぽよんと弾んでいってしまいそうだ。 そして、それをもし誰かに奪われでもしたら、その相手とロロは必然的にカップルになってしまうのだ。冗談じゃない。 (本当に会長ってば、ろくな企画を考えないんだから…) 愚痴と溜息は胸中で落とすことにして、ひとまず、この状況からの脱却が今は最優先事項だ。 (よーし…!) 決意して、窓を開いて身を乗り出す。 そこからは、躊躇はしなかった。 している場合ではなかったのだ。 振り向けば、またもや後ろに迫ってきたラグビー部の男子が、ロロの腕を強引に掴もうと手を伸ばしている。 「ロザリーさん、どうか俺の恋人になってく…!」 「わ! 離せ、この! しつこいっ!」 「ひっ」 叫ぶが早いか、ロロが相手の顎を靴の先で思いきり蹴り上げる。 白い腿とちらりと一瞬下着まで見えた気がしたが、相手が兄でなければどうでもいい。 ロロの羞恥をくすぐるのは、いつだって最愛の兄だけなのだから。 呻き声を上げながら、屈強な男が背中からどすんと床に倒れていくのを、ロロがふんと冷ややかに見下ろす。 ナイフを使わないなんて、やさしくなったものだな僕も。 ロロはさっさと身体の向きを変えると、今度こそ窓枠から飛び出し、ふわりと優雅に跳躍した。…筈だった。 予想外のことが起こってしまったのだ。 まさか、真下に人がいようとは。 (えぇえええ!? ちょ、さっきまで誰もいなかったのに…!) 「す、すみませんっ、ど、どいて! そこどいて…くださいっ!!」 直撃コースとわかりながらも、落下はどうにも止められない。 仕方がないので、開くスカートを両手で押さえながら懸命に叫んだ。 「…え?」 頭上から聞こえた声に見上げるなり、そこにいた男子生徒がぽかんとなる。 いきなり上から女の子が降ってきたのだから、当然だけれど。 だが、それでも茫然としていたのは一瞬だけで、彼は動じる様子もなく、咄嗟にさっと腕を広げた。 (ちがう! 受け止めるとかそんな余計なことはしてくれなくていいんだ…! ともかくどいてくれたら、着地は自分で出来るんだから…っ) が、そんなロロの思惑をものともせず、逞しい両の腕は落下してきたロロの体をしっかりと抱き止めた。 「うわぁっ」 「君、大丈夫…!?」 「は、はい、どうもすみませ…」 謝って、相手の顔を真近で見るなり、ロロがぎょっとなる。 聞き覚えのある声。 「く…」 (枢木卿…! どうしてここに…!?) 思わず叫びそうになって、ロロが慌てて口をつぐむ。 所属は違えど、相手は上司。 しかもどこからどう見ても女の子の格好をしている自分の現状を、果たしてどう説明していいかわからない。 しかも、この体勢。 静かにパニックを起こしながら、ひとまず、ついスザクの首にしがみついていたことに気づいて、ロロがはっと腕を離して赤面する。 (うわー、に、兄さん、どうしよう…! いや、しっかりしなくちゃ。僕だって、もしばれたら、色んな意味でやばいんだ。と、ともかく…知らないふり、知らないふり…) 頭の中で唱えながら、ちらりと様子を窺えば、スザクの瞳がどこか懐かしげにロロをじっと見つめていた。ロロが赤面しながら困ったようにそれを見返す。 どうやら、バレてはいないようだけれど。 「あ、あの…」 「あ、あぁ、失礼。ちょっとね。以前にもこんな風に、女の子が空から降ってきたことがあって」 「え…?」 「偶然とはいえ、こんなことってあるんだな、と思って」 「…はぁ…」 「あ! 初めて会ったのに、いきなりこんな話をしてごめんね。ところで、キミ。どうして窓から飛び降りるだなんて無茶をしたんだい?」 「え…! その、えっと、わ、悪い人に追われてて、ですね」 「は?」 「あぁ、じゃなくて! このハートをですね。奪われそうになって、僕」 「ぼく?」 「いえその、ぼくのものになれ、っと言われまして、わっ、わたくし、怖くなって思わず窓から飛び降りてしまいました…の」 最後の『の』は必要だったんだろうか、何か取って付けたようになってしまったけれど、もしかしていらなかったんじゃないのか? まったく『お嬢さま』だなんて設定にするから、ヴィレッタめ…!と、使ったこともない言葉に鳥肌を立てながら、ロロが情けない気持ちではぁ…と溜息を落とす。 「それにしたって、無茶をするね。あんなところから飛び降りたら、下手をすれば骨折じゃすまない」 「ぁ…。ご、ごめんなさい…」 貴方がいなかったらちゃんと降りれたんですけども…と心で弁解しながらも、ロロが仕方なくしゅん…とアッシュブロンドの長い髪を項垂れさせる。 「けど、怪我がなくて良かった」 「はい、ありがとうございます。……と、ところであの、すみませんが」 「うん?」 「そろそろ、下ろしてもらえないでしょうか…」 恥ずかしそうに言われて、スザクがやっと『あぁ』と納得したように頷く。 あまりに軽いので、どうやら気が付かなかったようだ。先ほどからずっと、ロロを腕に抱き上げたままだということに。 「そうだね、けど」 言って、ちらりとスザクが視線を流す。同じくそちらを見れば、ちょうど校舎の影から現れたロロ(=ロザリー)狙いの男子生徒たちの第ニ波が、ロロたちを発見したところだった。 「このままの方が、早いかな」 「は? 何がです……の?」 そのころの兄さん。(まだ台詞とか適当です…) 「だから、違うと言っているだろう! いいか、誰彼なしに愛想を振り捲くんじゃない! 俺の弟は、俺以外にはあんな風に笑ったりしないんだ…!」 「…は、ですが。人間関係は円滑にと常々ルルーシュ様も…。いえ、兄さんもいつも言ってるし」 「そんなものは俺の役目だ。お前が気に病むことじゃない。咲世…いや、ロロ。お前はいつも通り俺に全部まかせて、俺の腕の斜め後方すぐに控え、俺だけを頼っていればいいんだ…!」 「はぁ…」 言っている傍から携帯が鳴り、それをルルーシュが不機嫌に開いて耳へと引っ掛ける。 「あぁ、ヴィレッタか! ロロはどうした! ロロの位置は確認できているのか!? な、……ぬわぁぁにぃぃぃいっ!? ロロが枢木スザクにお姫様抱っこをされて、そのまま拉致されただとぉおおおーーーー!?!?」 というかんじで原稿をすすめております…(笑)まだまだ変更すると思いますが;; しかし、ま、間に合うのかなー;; |