たとえばオレが、
公園のベンチの前に立って、
うーんと大きく伸びをして、空を仰いで。
おひさまの光のまぶしさに思わず、
「はっくしょん!」と
大きなくしゃみをしちゃった時とか。
そんな何でもない時に、
ふと視線を感じて振り返った、その先に。
蛮ちゃんの、”そういう顔”があったりする。
冬の日の陽だまりのような、あたたかでおだやかな、やさしい瞳。
目が合ったとたん。
いたずらを見つかった子供のように、
ちょっとバツの悪そうな顔をして、フイと視線を逸らしてしまったけれど。
「なーに、蛮ちゃん」
「んでもねぇよ」
そうして何もなかったような顔をして、
あさっての方向を見て、煙草を咥えた。
オレたちは、
つらいことが多すぎて、
一時、笑うことさえ忘れてしまったけれど。
今は――
微笑んでいて。
そんな風に穏やかに、微笑んでいて。
もっと、もっと。
オレのそばで。
ずっと―――。
ね、蛮ちゃん。
『武東の小箱』 武東様vよりいただきました。