「とらんきらいざ」 |
…に、しても。 ソファに仰向けになり、だらりと両手両足をのばして気持ちよく眠っている姿は、まさしく飼い主に無防備に腹を見せて、爆睡する猫のようで。 思わず、久保田が低く笑いを噛み締める。 その気配に、黒い瞳が片方だけ薄目を開けた。 「…何だよ」 「あれ? 起きてた」 「あれじゃねぇよ。何笑ってんだよ」 「いや、別にね。寝ている時の猫の手は、グーなのかパーなのかって考えて」 「…何だ、そりゃ」 「まぁ、それはいいとして。寝るんなら、ちゃんと寝室に行きなさい」 「うるせぇぞ、久保ちゃん。せっかく、ヒトがいい気分で寝てんのによー」 「はいはい。だからね、どうせキモチよくなるなら、ベッドでイこうね」 「……日本語間違ってるぞ、お前。ベッドで、じゃなくて、ベッドに!だろうがっ」 「同じ意味デショ」 「ちげえ! っつーか。久保ちゃんがそういう事言うと、何かやけにエロ臭ぇし!」 「そりゃあ、嬉しいね」 「喜ぶとこじゃねーだろっ! あぁっ、もうっ! うるさくて寝れねぇじゃん!」 「だから、時任ね」 「わかった、いいから、お前もここで寝ろっ!」 「んっ?」 唐突な時任の言葉に(いや、いつも彼は唐突なのだが)、久保田が首を傾げるようにしながら、ソファの傍らに膝をつくなり、その右手にぐいと腕を掴まれる。 「うあ?」 「ここ坐れッ」 「はい?」 「こーこ! 坐れよ、久保ちゃん」 腕を掴まれたまま、時任の寝そべっている頭のすぐ上へと、腰掛けろと引っ張られる。 「こう?」 「おうっ」 「…で?」 眼鏡の奥で問いかける久保田の目を見上げると、にかっと無邪気に子供のように笑むと、時任はずり上がるようにして、その膝へと頭を置いた。 「へへっ」 ご満悦だ。 こんなしぐさも、まさしく猫。 |