*Sugar Spot*
外は、まだ雨だ。
ったく、えれぇ降りだぜ。
まあ、仕事が終わってブツを運び屋に無事引き渡した後だったから、よかったと言やぁよかったが。
「蛮ちゃーん。タオル、これしかないみたいなんだけど。使っていい?」
「ああ。オレがさっき使ったの、シャワーんとこぶらさがってたろ?」
「うん、だから、これでしょ。使うねー」
「ああ」
いくら安ホテルだからって、ツインの部屋だっつーのにタオルが一枚たぁ、なんとも中途半端な。
思いつつ、急遽泊まる羽目になったビジネスホテルの、真っ白な壁のシンプルな作りの部屋で、オレは溜息とともに紫煙を吐き出した。
まったく、予定外だっての。
帰ろうと思や、今日中には東京に帰れたのに、よ。
考えて、まだ濡れて半乾きの髪を、片手で乱暴に掻き上げる。
――この後に及んで、オレはまだ戸惑っている。
今のこの事態にだ。
泣き脅しに負けて、ホテルをチェックインしたまではよかったが。
(泣き脅しに負けてるあたりで、既にどうよ?という気もすっが。)
どうせ銀次のことだ。
腹が膨れりゃ、そんな妙な気も失せやがるにちがいねえだろう。
そうタカをくくったオレのホテルへ入った理由は、むしろ泊まりよりも食事にあったのだが。
見事にハズれちまった。
ヤツほど食いもんに弱い人間は他に知らねぇぐらいだから、デザートまでたんまりサービスして食わせ、うまく話をはぐらかせりゃ、なんとかイケる計算だったんだがな。
ヤツは、思いの外しつこかった。
いや、どっちかってぇと、さらにヤル気満々になっちまったような・・・。
まあな。確かに、据え膳食わぬは男の恥だとかいうけどよ、それも相手がチチのでかいねーちゃんてぇのならいざ知らず。
相手は銀次だ。
相棒で、十八歳の男で、しかも、か細い美少年ってえのならまだしも(もっともそういうんじゃ、オレの好みにカスリもしねぇが)、ガタイもそれなりにでけぇし、オレほどじゃねえが筋肉もある。
しかも、そのオツムの中は、時に小学生並だ。
まだコドモじゃねえか。
んなヤツ相手に、どうやってオレに毒蛇だのオオカミだのになれっての。
無茶ぬかすんじゃねえ。
窓ガラスに向かって紫煙を吐き出しつつ、夜の街に降りしきる雨を見つめる。
――テメーと初めて寝た頃はな。
まだ、オメーが実はこんなだって、知らなかったんだよ。
知ってたら、こんなお子ちゃまに誰が手つけるかってーの。
『でもさー、だったらさー。どうしてオレとそんなコトしたの?』
だから、そういう思考自体がガキだっていうんだよ。
ハズミってあんだろが。ハズミだよ。
『ハズミ? あんの? ・・・でも、オレはないけど』
だろーな。
テメーに"蛮ちゃん。オレ、ちょっとしたハズミでオンナの子とヤっちゃった"とか言われた日にゃ、オレの方が卒倒するだろう。
けど、オレはあるんだよ。
『だったら。そん時のオレも・・・蛮ちゃんとはハズミでしちゃったのかな。・・・ね、どう思う?』
知るか、んなこと。
――ただ。今になって思うことは――。
オレもテメーも、ただ寒かったのかもしれねぇ。
心の中を降る雨に濡れねずみになってひどく凍えて、寒くてどうしようもなくて。
そういう時に出会ったから。
あたたかい肌を、お互いに求めたのかもしれねぇな。
まあ、そん時のことなんて、オレも本当はどうだったか覚えちゃいねえが――。
オレは、さらに深い溜息とタバコの煙を吐き出しながら、いつまでもシャワーの音が止まないバスルームをちらりと見た。
冒頭部分です。蛮ちゃんがそんなわけでなかなか手出ししてくれなかったので、28Pで終わる予定が44Pに・・。(泣)
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