Silence




「蛮ちゃん…」
額にかかる髪が、そっと上げられ、そこにやさしいキスが降りてくる。
「…もう、我慢などしなくていい、銀次。荷をおろせ。テメェは楽になっていい。後は全部、オレが背負う」
「蛮ちゃん…」
至近距離で、瞳を合わせる。
あたたかな、深い慈愛を以て、紫紺の瞳が銀次を見つめる。
言いたい言葉があるはずなのに、うまく声にならない。
切ない気持ちで、胸が、ただ一杯で。
蛮の手が、包むように銀次の頬を撫で、吐息が絡むように唇が近づく。
そっと唇を触れ合わせてから、まるで赦しを乞うように、蛮が一度、銀次を見つめる。
微かに痙攣する息を吐き出しながら、銀次がそれに、静かにゆだねるように瞼を伏せた。


「……あ」
蛮のキスが、銀次の瞼に落ち、目尻から頬に降り、耳の下を辿る。
涙の落ちていった、その痕跡を辿るかのように。
「……蛮……ちゃ……ん」
やさしく、唇で触れられて、髪を撫でられて、それだけで銀次はもう夢心地だ。
身体を重ねて腕に包まれ、その中でまるでうっとりとしているかのような瞳で蛮に問う。
「ねえ…。これも、邪眼(ユメ)…?」
「あ?」
「なんか… ふわふわして、気持ちいい…よ?」
子供っぽい表現に、蛮が低く笑う。
指先で項を辿り、唇は首筋の滑らかな感触を味わって肩に降りた。
「その方がいいってか?」
「ん…?」
「邪眼でした、ってオチのがいいか…?」
蛮にしては、少々、らしくない遠慮がちな問いだ。
今度は、銀次が小さく笑う。
なんだよ、と言うように、蛮がちゅっ…と音を立てて、笑っている唇にキスをした。
「そうじゃないけど、ただ…。蛮ちゃんと、こういうコトするって…思わなかったから」
戸惑っているのか、愉しんでいるのか、その両方のような口調で言う銀次に、蛮が失笑する。


「オレも、まあ…。意外だがよ」


こぼして、既に互いに肌を晒している上体を、抱き寄せるように腕を回すと、銀次がしなやかに蛮の首に腕を絡ませてくる。
口づけて肌を合わせると、その人肌のやさしさと体温に泣きたいような気持ちになって、銀次が蛮の肩にそっと甘えるように頬を寄せた。









蛮ちゃんが目覚めた後の、書き下ろしの部分です…。
エロは…。ごめんなさい、ヌルいです(涙)