「DOUBLE DESTINY2」



「銀次?」
問いかける声は、答えを促している。
銀次は、それに"待って"というようにゆっくりと俯いた。
―考えが、まだうまくまとまらない。
それに、この憶測はたぶん蛮を傷つける。
確証を得なくては、まだ口には出来ない。
過去の話を今自分にしたということで、蛮は充分に血を流している。
今、これ以上手負いの蛮に、血を流させたくはない。
抱えられるうちは、まだ、自分一人で。
そう思い、胸にしまう。
「やっぱ、オレにはよくわかんない。無限城にいた時は、雷帝化するたびにどこか記憶の一部が失われたりとかしてて、どうしても思い出せないこともたくさんあったから。・・・思い出したくなかったから、なのかもしれないけど・・」
「そっか・・」
短く答えて、蛮が心の中で苦笑する。
――まったく、わかりやすいヤローだぜ。
意識的なのか無意識なのか、かならず銀次は蛮にわかるように嘘をつく。
銀次が蛮に嘘をつく時、こんな風に視線をふっとよそに逃がすのは、今はまだ知らないフリをしておいて、そっとしておいてほしいという合図だ。
逆に、自分の嘘を見破ってほしい時には、強い瞳で真っ直ぐに懸命に見つめてくる。
そんな風に、蛮の前でだけ心の中を全部に剥き出しに晒していることに、銀次は気がついているのだろうか。
瞳を反らしている銀次の肩にそっと腕を回して、蛮はその身体を抱き寄せた。
案の定、熱が上がってきている。
少し熱い・・。
「疲れただろう? もう寝ろ」
「・・・うん、蛮ちゃんも」
「・・・なあ。銀次・・」
「うん?」
「何でもテメエ1人で抱え込もうなんざ、無謀なこと思いやがるんじゃねえぞ」
耳元で睦言のように囁かれる言葉に、銀次の肩がぴくっと跳ねる。
「蛮ちゃん・・」
「テメーが、こうと思ったら、頑固で意地っぱりなのはよく知ってるがな」
続く言葉は、少しからかいが含まれている。
責めたりしているわけじゃねえんだと、そんな意味合いもあるだろうか。
銀次は、強い意志を映してきつくなっていた眼差しを、その言葉にあっさりと和らげた。
いつでも蛮はわかっててくれる、だから安心して強がってもいられるのだと、そう告げているようだ。
「・・・・蛮ちゃんには、なんでもわかっちゃうね」
困ったように、それでも少し安堵の色も見せて銀次が言う。
蛮は笑って答えた。
「コンビだもんよ?」
銀次が目を見張る。
それが嬉しげに細められるタイミングを狙って、蛮の口づけが銀次の唇に降りてくる。
なんど触れても飽きのこない、やわらかでしっとりとした、それでいて弾力のある唇。
舌を少しだけ絡ませて吸い寄せ、それがもっとディープなものになる前に、蛮は引いた。
その気になっている場合ではない。
さっきよりも尚、身体が熱い。
「下に薬置いてたな」
「あ、風邪薬? うん、波児さんに預けてたから」
「よっしゃ、待ってろ」
「うん。ありが・・・・うわあ!」
「んだよ、うわあってのは」
「だって急に抱っこするから!」
「断り入れねえといけねぇのかよ?」
「そ、そうじゃなくて」
両腕にひょいと抱え上げられてしまう自分は、それでも蛮よりは少しばかり体重が重いはずなのに、屁でもねえやと楽々と抱き上げて、蛮は運んでくれるのだ。
ちょっとくすぐったい気がする。
横抱きにされるのは、とんでもなく恥ずかしいが、まあ人前じゃないから。
首に腕を回すとくっつけて、大事にされてるんだなあとしみじみ幸せな気分にもなるし。
甘い気持ちでベッドに降ろされ、銀次が壁際に詰めるように置かれて、額に軽くキスをされて布団をかけられる。
「ねえ」
「ん?」
「蛮ちゃんてさー。オレに大概甘いよね?」
布団を目のあたりまで自分で引き上げ頬を染めて言う銀次に、思わず蛮が照れてぶっきらぼうになる。
「自分で言うな! ったく、病人だと思ってちょっとやさしくしてやりゃあ、つけ上がりやがってよぉ」
フイと顔を背けベッドから降りると、ぶつぶつ言いつつ薬を取りに階下へと向かう蛮を見送りながら、銀次はおだやかに笑んだ。

明日は、(もう今日かな?)蛮ちゃんに、ちゃんと話そう― 
思ってること、全部。
その前に、ちょっとしなくちゃならないこともあるけれど。
それが済んだら、必ず。
――そう心に誓いながら。









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「DOUBLE DESTINY2」の、大分前の方です。
先のこととか、もっと先の(まだ本になっていないとこ)事とかをつい考えてしまうと、このシーンも色々切ないのですが・・。
でもとにかく、最後は皆が幸せになれるように頑張りますv