DOUBLE DESTINYより小説一部抜粋(↓)

「苦い〜」
「苦くても飲んどけって」
「はーい・・」
公園の駐車場に置いたスバルに戻って、ペットボトルの水と薬を手渡され飲み込むなり、銀次がうえっと顔を歪めた。
どうしてこう胃腸の薬というのは、吐き気を増幅させるように苦いのだろう。
思わずこみ上げてきた嘔吐感をどうにかやり過ごして、銀次がシートにもたれてほっと息をつく。
「大丈夫か?」
「ん・・・」
「明日になってもよくなんなかったら、医者つれてくかんな」
「ええ〜! 大丈夫だよ、オレ! お医者さん嫌い」
「なーにガキみてぇなこと言ってんだ。タチの悪ぃ風邪とかだったらマズイしよ、第一、とっとと治しておかねーと仕事来た時に困んだろが!」
「だって、お金かかるし・・」
「オレらみてぇな危険を伴う裏稼業は、身体が資本なんだからよ。いらん心配してねぇで、とっとと治しやがれ。足手纏いになりたかねーだろ」
「うん・・」
厳しく言われて、銀次がちょっとしょぼん・・として、シートに凭れたまま両膝を抱える。
確かにこんな状態では、せっかく仕事が来ても蛮の足手纏いになってしまう。
それは嫌だ。絶対に。
思って、項垂れるように抱えた膝の上に額を置くと、やさしい手がポンとその頭の上に置かれた。
「だったら、ちゃんと医者行けって。・・な?」
その言葉に驚いて、顔を上げて蛮を見る。
不思議なくらい、この人には自分の心の声が届く。
そうして、自分が苦しい時に、いつも一番欲しいやさしさをくれる。
「うん・・」
それに答えて微笑む銀次の身体を抱き寄せるようにしながら、サイドシートの横のレバーを引いて、ゆっくりと銀次の坐るシートを倒す。
唇が重なる。
あまり無理はさせないように、軽く舌を絡ませるだけのやわらかいキス。
「・・あ、ごめん」
「あ? なんだよ」
「オレ、吐いた後、あんま、ちゃんとうがいしてない」
「だから何だよ」
「変な味、しなかった?」
「ああ・・。胃薬の味はしたっけか」
「あ、苦かった?」
「別に構やしねえ。味よか、テメーのやわらけぇ舌の感触のがイイからよ」
「・・・なんかヤラシイなー」
「さんざん、ヤラシイコトしといて今更何言ってんだ」
「・・・・・イイよ」
「あん?」
唐突な銀次の言葉に、蛮がその瞳を覗き込む。
「・・・・イイ・・よ。たくさんティッシュももらったコトだし」
ちょっと躊躇いがちに言われた言葉に、蛮が片眉を上げて、それを凝視し、それから、はあー・・と脱力したように溜息をついた。
「オメーなあ・・。誘うんじゃねえよ、んな体調の悪ぃ時に」
「だって」
「ったく、普段なら"させろ"っつっても何のかんの理由つけて、なかなかさせねーくせに」
「でも、結局するくせに」
「結局するんだから、大人しくさせろっての」
「・・・・もぉ、蛮ちゃん」
「そんかわし、今日は駄目、だ」
お預けをくらった子犬のような目をする銀次に、蛮が困った顔でフッを笑む。
「なぁんで今日に限って、またそんなにヤりたがるよ? 腹こわすと発情すんのか、テメーは」
「そうじゃないけど・・ ただ・・」
「ん?」
「あ・・・ううん。何でもない。・・あ、それより、ねえ。夕方のアレ、何だった?」
「あ?」
「蛮ちゃん、何か変だったよ?」
鳥頭だと思っていたが、やっぱ覚えてやがったかと、蛮が内心舌打ちする。
「ああ・・。いや、だから巨乳オンナがよー」
「そんなで、オレが誤魔化されると思う?」
「・・・テメーなぁ・・」
ったく、なんだか女房みたくなってきやがってよーと、口の中でブツブツ言いつつ、返事を待って上目使いになっている銀次に、重力に逆らったヘアースタイルの髪を自分の手で掻き混ぜるようにしながら面倒臭そうに言う。
「なーんか、妙な気配を感じただけだよ。それも、すぐに一瞬で跡形もなく消えちまって」
「・・心当たりとかは?」
「ねえわけじゃねーけど、1個や2個のモンじゃねーかんな。オレが関わってきたヤバイ"心当たり"はよ。だから、んなもんいちいち気にしてられっかっての」
「うん・・」
"んなことはいいから、さっさと寝ろや"と言われて、まだ少し物言いたげな銀次をシートに戻し、蛮がサイドシートに身を傾けるようにして腕を伸ばす。
それが銀次の肩の後ろとシートの間に割り込んできて、腕枕をされている形になって銀次が微かに頬を染めた。
いくとこまでいっておいて(しかも男同士で)少し経つというのに、未だに銀次はそんな具合で妙な所で初々しい。
まったくイマドキそりゃねえだろうと思うが、そういうとこも、実はかなりイイと思っているのだ。
蛮が、こりゃあ我ながら相当だなと自分で思いつつ、それでもそんな素振りは微塵も見せず(見せていないと本人は思っている)、少々荒っぽく銀次の唇をついばんだ。
「もういいから、寝ろ」
「うん」
もう一度振ってきた口づけに、銀次の睫毛が思わず震えて陰を落とす。
少し長めに、やわらかく舌を絡ませられると、陶酔したかのように眠気が来た。
薬が効いてきたらしい。
胃のあたりの不快感も、大分とやわらいだ。
銀次は、抱きしめてくれる蛮の腕の中で、、ゆっくりと眠りに落ちていきながら、全開になっているスバルの天井から見える月をぼんやりと見ていた。
月は、きっちり計って2分割したような見事な半月だった。




これで2P半ぶんぐらい・・。あと51Pぐらい延々字だらけのページが続きます・・。
でもってこのお話は「DOUBLE DESTINY1」でやっと前編が終わったって感じなので、
2で中編、3で後編という形になるかと思われます。最後まで読んで下さる方は
果たしておられるのだろうか・・。不安(泣)。