□Bandage





「…なんかさ」
「んー」
「二人ぽっちになっちまったな」
ぽつりとこぼすように、時任が言った。
煙草の煙を視線の先で見ながら、くすりと久保田が笑う。
「おや。何だか不満気?」
「え?」
「せっかく、やっと二人っきりになれたのになぁ。つれないー」
瓢々と返される台詞に、時任の声が思わず裏返る。
「はあ? な、なんだよ、それ! 気持ち悪ッ!」
「うわー、酷いなー」
気持ちが全然篭ってない口調で返し、久保田がやや両肩を持ち上げる。
時任は、拗ねた子供のように唇を尖らせた。


そう言えば、いつの頃からか。
翔太がいない二人の時に限り、時任は、こんな風に子供みたいな表情を、久保田に見せるようになっていた。
やや甘えを含んだような。


「だってよ、なんか久保ちゃんが言うとよォ」
「なーに」
「な、なんかこう、ネチっこいっつうか、イヤらしいっつうか!」
「うーん。まぁ、そうかな?」
「み、認めるのかよッ」
「反論は出来ないかも」
「げ。なんかそれ、危ねぇ」


数歩後退りつつ、時任がけらけらと笑う。
そして、笑いながら手すりの上に腕を組むと、そこに頭を置いて久保田を見た。


「つうかさ。不安とか不満とか、そういうのは全然ねーけど。なんか、最初から『俺と久保ちゃんと翔太』、みたいな感じだったからさ。アイツいないのが、何かフシギっつうか」


そう? 
俺には、最初から。
俺×お前+翔太だったけど?
と、内心で久保田が思う。


「けど」
「ん?」
「もし、翔太がいなくて。俺と久保ちゃんと、最初から二人きりだったら…。どうなってたんだろうな」
ふいの疑問に、久保田がセッタをふかしつつ、苦笑して応える。
「そうねー。お前は、俺のシャツ着てとっとと逃走したきり、ユクエフメイ。俺は、仕方がないなぁと諦めて、また新しいシャツを買う」
「で?」
「うーん。それだけ?」
「そんで終わりかよ!」
食いつくように顔を近づけてくる時任を、はいはいとたしなめて、久保田が続ける。
「だって、自分から出て行ったのを、追いかけて、掴まえて、無理矢理シャツひっぺがしたら。それ、犯罪って言わない?」
その答えに、時任が思いきりむっとしたような顔で怒鳴る。
「つうか、テメエの拘りはシャツだけかっ! 俺が言いたいのは、『俺に対してもそれきりだったのか』って事だ!」

「あぁ、そういう事ね」




辛辣な眼差しに、久保田の瞳がフッと陰った。
細めた瞳の奥で、凍りついた欠片が微かに瞬く。