■ モーモーPANIC!  小 説/月嶋海里さま
                      イラスト/片崎みきさま




何時もと同じ午後、何時もと同じ銀次の甘える声。
ただ一つ違っていた事と言えば………。
「ねぇねぇ蛮ちゃ〜ん、見て見て〜〜〜っ」
「何じゃそりゃぁぁぁ〜〜〜〜っっ!」
大喜びで飛び出して来た銀次の姿を見て、俺は飲んでいたブルマンを思い切り吹き出す破目になった。



「………で、その格好は何だ?」
ブルマンを吹き出し、ひとしきり咽返った後で、俺は漸く落ち着きを取り戻し、目の前でニコニコと無邪気な笑顔を振り撒く銀次を睨み付けた。
「何って……可愛いでしょ?」
「あぁ、まぁな………って、そ〜いう事を言ってんじゃねぇっ!」
思わず頷きかけて、俺は思い切りカウンターに拳を叩きつけた。
その衝撃でコーヒーカップがカシャンと小さな音を立てる。
「何怒ってんのさ?こんなに可愛いのに……」
そう言いながら銀次は目の前で両腕を広げ、クルクルと回って見せる。

俺の度肝を抜いた格好。
牛柄のパーカー(しかも耳と角まで付いてやがる)に白のズボン。

控えめに言っても、いい年した男が着るもんじゃ無いだろう。
っつ〜か、パジャマじゃねぇのか、それ?
「………可愛く無い?」
「だ〜か〜ら〜、そうじゃ無くだな……」
俺は頭を抱えたくなった。
いや、確かに可愛いんだけどよ……俺が訊きたいのは、何でそんな格好をしているかであって、可愛いとか可愛くないとかの問題じゃ無ぇんだよ。
それに『カッコイイ』とか『素敵』と言われるならともかく、男が『可愛い』なんて言われたって、ちっとも嬉しく無ぇだろ、普通は。
俺だったら言った相手を殴り飛ばすぞ。
「オレ、似合って無い?」
「いや、だからな……って、おい」
ちょっと待て〜〜〜っっ!
な、何で泣きそうな顔してんだよ、そんな瞳で見るんじゃねぇっ。
「ねぇ、蛮ちゃ〜ん?」
「に…似合ってるけどな……」
「ホントに?嘘じゃ無い?」
「あぁ、オカシイくらい似合ってる」
「うわ〜〜い、蛮ちゃんに褒められちゃった」
別に褒めたつもりは無いんだが……。まぁ銀次が喜んでいるんだから、ヨシとするか。
「それよりも、何でそんな服……」
「見て見て蛮ちゃん、シッポも有るんだよ〜」
俺の話を全く聞く気が無いのか、銀次は嬉しそうにパーカーの裾を捲り後ろを向いた。
目の前に突き出された腰が誘う様に揺れ、それと共にズボンから生えた牛のシッポもユラユラと揺れ動く。
不意打ちの様な銀次の行動に、俺の頭の中で、何本か血管がブチ切れる音がした。



                      (イラスト/片崎みきさま)


「――――っ!」

こ……このヤロウ、わざとやってんのか?
俺を煽って楽しんでるのか?
この場で押し倒すぞ、バカヤロウ!
「蛮ちゃん……?」
口元を押さえ黙り込んでしまった俺に気付き、銀次が不思議そうな顔で近付いてくる。
「ばっ、蛮ちゃんっ、どうしたの?凄い鼻血だよっ!」
「う…うるへ〜」
誰の所為だと思ってやがる、このバカ銀次。
ただでさえ、最近ご無沙汰で溜まってるっつ〜のに。
……後で覚えてろよ、夜になったらヒーヒー泣かせてやる。
俺様を煽った事を後悔させてやるからな。
そんな事を考えていたら、銀次に肩を掴まれてガクガクと思い切り揺さぶられる。
おかげで余計に鼻血が勢い良く噴き出した。
「蛮ちゃん、しっかりして〜!」
「ば、バカ……よせ、揺らすなっ。テメェも笑ってんじゃ無ぇっ、波児っ!」
今までカウンターの奥で、必死に笑いを噛み殺しながら俺たちを静観していた波児を睨み付けると、やれやれといった感じに肩を竦めて、ティッシュを箱ごと銀次の前に差し出した。
「ほら銀次、蛮の鼻血を拭いてやれ」
「ありがとう、蛮ちゃんティッシュだよ……」
「早く寄越せっ」
俺は銀次の手からティッシュの箱を取り上げ、素早く鼻に詰め込んだ。

まったく酷ぇ目に合ったぜ………。
鼻血の海で溺れて死ぬなんて、そんな情け無い死に方ゴメンだぞ。
「蛮ちゃん、大丈……ふぎゃっ!」
心配そうに覗き込んでくる銀次の頭に、俺は力一杯拳を叩きつけた。
ゴンと鈍い音がして銀次の顔がカウンターに減り込む。
「いったぁ〜、何すんのさっ」
「それは俺のセリフだっつ〜の」
「俺が何したって言うんだよ、蛮ちゃんのバカ〜」
「やかましいっ、所構わず挑発しやがって!」
「何言ってんのか分かんないよっ?」
だぁ〜っ、自覚が無いのが余計ムカツク。
よもや他の野郎の前でも、同じ様な事して見せたんじゃ無いだろうな?
いや、この格好を見たのは俺が一番最初だろうから、今のところまだ大丈夫だろうが……。
でも、このバカなら十分に有り得る、油断は禁物だ。
とにかく今の銀次の格好は、かなりヤバイ。破壊力が有り過ぎる。
面倒な奴等(特に赤屍や弦巻き)に見られる前に、何とか着替えさせなくては………。
俺は二、三度深呼吸をしてから銀次の肩を掴んだ。
「………とにかく少し落ち着け、銀次」
「落ち着くのは蛮ちゃんの方でしょ〜っ」
「分かった、それじゃぁ二人で落ち着こう」
「今日の蛮ちゃん、言ってる事がオカシイよ」
「いいから深呼吸だ、ほらっ」
そう言って目の前で深呼吸をしてみせると、それに釣られて銀次も大きく息を吸い込んで深呼吸を始める。
二度、三度と繰り返していく内に、俺の頭も徐々に冷静さを取り戻し、それと同時に鼻血の方も治まり始めていた。
「よし、落ち着いたか?」
「そのセリフ、そのまま蛮ちゃんに返すよ」
何だ……今日の銀次は、やけに反抗的だな?
「まぁいい、とにかく座れ」
俺は、たっぷりと鼻血を吸い込んで膨れ上がった鼻栓を引き抜いて、すっかり冷めてしまったコーヒーを一口啜り………そのまま固まった。

この膝に感じる重みと柔らかな感触は何だ?
まさか………?

「ぎ…銀次?」
「なぁに、蛮ちゃん?」
ギシギシと、まるで油の切れた機械人形の様に首を動かせば、間近に迫る銀次の顔。
「………いったい何やってんだ?」
「何って、座れって言ったの、蛮ちゃんでしょ?」

「誰が膝の上に座れなんて言った〜〜っ!!」

マジで今すぐ犯すぞ。
俺様の理性の限界を甘く見るなよ、もうギリギリだぞ、コンチクショーが!
ヤバイ、興奮したら折角止まった鼻血が………。
「蛮ちゃ〜ん、ティッシュ、ティッシュ〜〜ッ」
「ふがっ……ぐぐぐっ……」
慌てて銀次がティッシュを俺の鼻にグリグリと押し付ける。
はっきり言って痛いっつ〜の、そんなに沢山詰まる訳無ぇだろ、バカヤロウ!
「このアホんだら〜〜っ」
銀次の腕を無理矢理引き剥がし、力の限り叫ぶ。
力んだ所為で鼻栓が勢い良くスポーンと飛び、再び鼻血がボタボタと流れ出した。
「蛮ちゃん、ダメだよ〜」
「煩ぇっ、俺の鼻の穴を広げる気か」
これ以上銀次に任せていたら、俺の鼻が裂けちまう。
そうなる前に、自分で適度な大きさの鼻栓を造り、両方の鼻の穴に詰め込んだ。
「……なぁ、銀次」
落ち着け、落ち着くんだ、俺!
これ以上の出血はマジで危険だ。
この無敵の蛮様が、よりにもよって鼻血で失血死なんて、シャレになんねぇ。
身体中の血液が全て流れ出る前に、何としても目の前の危険な生き物を、どうにかしなくては……。
「とりあえず、膝から降りろ」
「えぇ〜何で?」
「それから、その服は脱げ」
「ばっ、蛮ちゃんのエッチ〜〜」
「そうじゃ無く、何時もの服に着替えろって言ってんだ、このバカ!」
「どうしてさ、こんなに可愛いのに〜」
「だから、俺の命が危険なんだよっ!」
「訳分かんないよっ?」
「いいから脱げ〜〜〜っっ!」
力の限り叫んで、俺はモーモーシャツを引っ掴んで勢い良く捲くり上げた。

目の前に広がる眩しい肌の色。
誘う様な胸元の、ピ、ピンク色した……。
ピンク色の………。
ピンク………。
……………………。
「ぐっはぁ〜〜〜〜っっ」
三度吹き出した鼻血が、勢い良く鼻栓を吹き飛ばし椅子から転げ落ちた俺の視界を赤く染める。
「ばっ、蛮ちゃんっ、蛮ちゃ〜〜ん!」
じ、自分で止め刺してどうする、バカか俺は……。
「どうしよう、鼻血が止まんないよぉ〜」
銀次の泣き声と共に、笑いを堪えている波児の声が遠くで聞こえる。
チクショー、波児のヤロウ。笑ってる場合じゃ無ぇだろうが。後で覚えてやがれっ!
「ぎ……銀次ィ」
とにかく今は銀次が先だ。これ以上の犠牲者が出る前に……
いや、俺の意識がある内に何とかしなければ……。
俺は銀次の手をギュッっと握り締めた。
「良く聞け……銀次……」
「蛮ちゃん、しっかりして〜〜っ」
「それ、早く着替えろ……よ…」
「分かったから、今すぐ脱ぐから、だから死なないで蛮ちゃんっっ」

………今、何て言った?
今すぐ脱ぐって……おい、バカ止めろっ!

俺の心の声が届く筈は無く、銀次は一気にモーモーシャツを脱ぎ捨てた。
そして、そのままズボンに手が掛かり……。
「ぶほぉっ〜〜〜〜〜っ」
「ばっ、蛮ちゃん、何で〜〜〜っ?」
パンツ一丁で泣き叫ぶ銀次の声を聞きながら、俺は文字通り鼻血の海に沈んだ。




 モーモーパジャマ。
 それは最強最悪な魅惑の煩悩兵器だ。






Secret Garden
/月嶋海里さま・片崎みきさま よりいただきましたv

こちらは月嶋さんのサイトさまで、『お誕生日企画後夜祭・第2弾』としてフリーにされていた、片崎みきさまのイラストと月嶋さまのSSをいただいてきたものですv! もおもお(またシャレか・・/笑)みきさんの銀ちゃんのキョーアクな可愛さったらありません!!! しかも、尻尾って・・!いや、尻尾は盲点でした! そうか、しっぽあるよね、角もあったぐらいだし! 可愛いオシリのとこに可愛い尻尾・・!!! うわああ・・・v ということで、思わず鼻血が・・。その後で、月嶋さんのSSを拝見して、あああ、やっぱり蛮ちゃんも鼻血だよ、そりゃそうだよ・・!と思いました!!! 蛮ちゃんがもう素敵すぎ・・。失血死寸前の美堂さん、そんな状態では夜にこれを脱がされる時は、鼻にティッシュをつめて輸血をしつつ頑張るしかありません! いやもう、本当に楽しませていただきました!後日談もおありになるというこで、ゼヒゼヒ裏を作られたら拝見したいです!!! (裏ネタだそうですvv)
イラストとSSを、別々に飾らせていただこうかどうしようか迷ったのですが。あまりにもマッチした内容に、これは一緒の方がイラストもSSも2倍美味しいかもvということで、勝手に一緒にアップさせていただいてしまいましたv スミマセン・・! でもとってもシアワセ〜v
お二人とも、本当にありがとうございましたー!!v




モドル