タケルの目覚めるのを待って、2人で夕食の買い物にでかけ、マンションに戻ったときには辺りはもうすっかり薄暗くなっていた。
「腹へったろ、すぐ作るから」
そう言って、タケルのりクエストのカレーの材料をキッチンに運び、準備を始めるヤマトを、買ってきたものを冷蔵庫に片付け終えたタケルが隣からひょいと覗き込む。
「あ、ジャガイモ、僕が剥くよ」
「えっ、出来るのか、おまえ」
「大丈夫、家庭科でやったことあるもんね。包丁借りるね、おにいちゃん」
「おまえ、ピーラー使えば?」
「大丈夫だってば」
あまりの必死の形相に口を挟むのをやめ、その隣で同じようにイモを手に取り、ヤマトが器用に手の中でジャガイモを回しつつ、スルスルと皮を剥いていく。
そして、横目で悪戦苦闘のタケルの手にあるイモを見て、気づかれないようにくくっと笑いをかみ殺した。
「なんか皮剥いてる、つーか、実を削ってるってかんじだな」
「そう? そうかな」
「ま、いいけどな」
「できたよ、じゃ次は人参」
「ピーラー使えって」
「わかってるってば。でも切るのは包丁でしょ」
「・・・タケル・・・それ、大きくねえか。馬に喰わせるんじゃないんだから。・・だから大きすぎるって、オイ」
「ああもう、うっるさいなあ!」
「あ、玉葱は俺が剥くから」
「大丈夫、できます! こんなの簡単・・! ・・・・・いた・・・おにいちゃん、目痛い・・」
「だから俺がやるって・・ ああ、よしよし、見せてみろ、ほらこっち向け」
タオルで目を押さえながら、さすがに“料理の才能ないのかなあ”とタケルが落ち込みつつ、戦線離脱してソファに腰掛ける。
休んでろよとヤマトに言われて、見たくもないテレビのスイッチを入れた。
そして、そこからじっと、テレビには目を向けず、ヤマトの背中を見つめていたタケルは、やがて部屋に漂ってきたカレーのいい香りに、やっと自分が空腹だったことを思い出した。
「おなかすいたな・・」
「もうすぐだから」
「ね、辛くない?」
「甘口買わせたのおまえだろ。俺は嫌だってのに」
「ほんとに辛くない?」
疑わしそうな瞳をして上目使いに見るタケルに、ヤマトがその子供っぽいしぐさに苦笑する。
 ・・・数時間前に、自分の腕の中で甘い声をあげ、艶めかしい姿態を見せていたタケルと同じ人物とは、さすがにどうも思い難い。
なんだか夢でも見ていたような、狐にでもつままれたような、そんな気さえしてしまう。
そんなところもまたタケルらしさなのだと納得するけれど、なんだか妙に、してやられ気がして、だからヤマトはつい、からかいたくなる。
「本当だって。味見してみるか?」
兄の言葉に“うんっ”とソファを降りてそばに行くと、ヤマトがスプーンにやわらかくなったニンジンを掬い上げ少し冷まして“あーん”とタケルの口に放り込む。
「!? 〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
思ったとおりの反応に満足して、ヤマトが心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
「あ、まちがえた。これ、親父のだ」
「お、おにいひゃん!」
予想だにしていなかった辛さに、口の中が火事状態のタケルが、思い切り責める目をして、ヤマトを睨みつける。
「辛いか?」
「・・げきから・・」
「悪かった」
「わ、わるすぎ・・」
「わかった。じゃ返しな」
「・・・?!」
















言うと強引にタケルの肩を抱き寄せ、顎を捕らえて逃げられないようにして、その唇に深く口付ける。
驚き、瞳を見開くタケルのその口中を、ヤマトの舌が深くまさぐり、口の中の物を奪い取る。
なにがなんだかわからないままのタケルは、痺れた舌を兄のそれに絡み取られ、立っていられなくなって、ヤマトの胸にもたれかかった。
「ん、美味いじゃん」
タケルから奪い取ったニンジンを飲み干し、満足げに微笑むヤマトに、真っ赤になったタケルが空になった口を押さえ、抗議の目を兄に向ける。
「もう辛くないだろ・・?」
やさしく問われて、怒る気もなくしたタケルが、困惑気味に兄を見上げ言った。
「・・・・辛かったのか、甘いのか、わからなくなった・・・」

 夢のあと

白昼夢というお話の続きなんですが
せっかくしっとりしたのに、何もオチを
つけなくてもなぁと思ったりもしたけど、
なんかやっぱり照れるのよね。
ヤマトさん、恥ずかしいし・・・・;
それにしても、最初から完全にデキあ
がってる兄弟を書いてたんだなと思う
と笑える。(風太)


        
                     <モドル>