□■砂時計の砂は落ちても□■

玄関先のマットに坐って、用心深くそうっとスニ―カーを脱ぐタケルに、ヤマトが笑った。
「大丈夫だって。あとで掃除機かけりゃいいんだから」
「だって、靴下の中まで砂だらけなんだもん。あ、このまま洗濯機入れてもいい?靴下」
「砂は落としとけよ、玄関で」
「はーい」
玄関に坐ったまま返事を返すその声が、自分でもわかるほど弾んでいる。
久し振りの兄たちの住むマンションが、なんだかたった1ヶ月訪れていないだけなのに、懐かしいような気さえしてしまう。
靴下を洗濯機に放り込んで、リビングに行くと、兄はキッチンに立ってエプロンをつけているところだった。
「なんだか・・髪の毛も、気のせいか砂っぽい感じ・・」
「砂っぽいって何だよ」
吹き出すヤマトに、タケルがちょっと拗ねたような顔になる。
「だって・・・・」
“お兄ちゃんが・・・”と言いたげな顔に、ヤマトが肩をすくめた。
「はいはい。俺が悪かったよ。まったく、砂浜でラブシーンする時はいろいろ気をつけねえとな」
軽く言うヤマトに、まだ拗ねた顔のままでタケルが答える。
「近くにいたカップルの女の人の方、絶対見てたよー。あんなとこで寝っ転がって・・・」
「熱烈ディープキス? けど、先にキスしたのはそっちだぜ?」
「ぼ、ぼ、僕はちょっとだけ・・」
「唇にちょっとだけ?」
「・・・・・・う」
言い返す前に自分のしたことを思い出し、かーっと真っ赤になる弟を、にやにやしながらヤマトが見つめる。
「今すぐにでも、ここで押し倒してくれって顔してたから」
「し、してないよ! してません!」
ソファにどっかと腰をおろして、兄からフイと顔を背けるタケルに、まだもっとからかいたくて仕方ない気持ちを押さえ、ヤマトは笑いながらも冷蔵庫を物色し始めた。
笑ってるだけで何も言ってこない兄に、ちょっと不安になってちらりと様子を覗き見る。
そういえば、最初からここで会おうと言ったのに、電話でそう言った時は何か戸惑うというか、困惑した様子だった。
あれはどうしてだったのだろう。
聞いてみてもいいだろうか?
怒ったりはしないかな?
考えつつも、つい言葉が唇からこぼれ出す。
「ねえ・・・? 誰か今日くる予定だった?」
「ん? いや誰も? なんでだ?」
不思議そうな顔のヤマトに、幾分ほっとする。
「だって・・・来させたくなさそうだったから」
「おまえを?」
言ってから、思い当たったように゛ああ・・”と一人で納得する兄に、問うようにタケルが首を傾ける。
「最初から、家でおまえと二人っきりになるとな。話っつーか、そういう余裕がまたなくなりそうだったからな」
「え・・・?」
どういうことかわからず、まだ問うような顔で兄を見る。
「話、ゆっくりしたいと思ってても、なんせ1ヶ月ぶりだし、こういう密室でおまえと二人きりになったら・・・」
言いながら、いつのまにかソファの後ろに来たヤマトを見上げ、タケルがぎょっとした顔になる。
「おまえがいくらやだって言っても、とにもかくにも押し倒して、キスして、服ぴっぺがして・・・・」
「ちょちょちょちょちょっと待って、待ってお兄ちゃん!!」
後ろからずいっとせまってこられて、思わずソファから転がり落ちて後退さるタケルを見て、ヤマトが大笑いする。
「しねーよ、バーカ」
その額をちょんと指先でつついて、キッチンに戻って行く兄に、タケルが呆然とそれを見上げた。
あの“どうしよう!”という顔が、かわいくて可愛くて、つい構いたくなってしまうんだよなーとヤマトがほくそ笑んでタケルを見ると、からかわれたと知ってぱっと赤くなっている。
けど、今のははっきり言って、偽らざる本音なんだぜ? 
話もそこそこに、1ケ月振りに会ったというのにいきなり襲われたんじゃ、おまえきっと泣くだろう?
心の中で、こっそりと呟く。
そんな素振りは見せず、キッチンから何事もなかったように声をかける。
「オムライスでいいか? おまえ、あんまり遅くなれねえだろうから買い物もせずに帰ってきたけど。あんまり大した材料なくてなあ」
まだソファから落ちて尻もちをついた状態で固まっていたタケルが、ヤマトの言葉にあわてて起き上がり答える。
「う、うん。お兄ちゃんのオムライス、大好きだもん」
「そっか」
笑って玉ねぎなどを取りだす兄に、背を向けて坐りなおし、テレビのスイッチを入れる。
なんだか、すっかり兄のペースだ。
まったくもう。
昨日まで、というか、
ついさっき、あの海に行くまでの重々しい胸のつかえはどこにいってしまったんだろう?と思う。
ヤマトが自分に向かって、自分にだけにしか見せない、やさしい表情で笑ってくれている。
それだけで、なんて幸せなんだろう・・・。なんて思ってる。
泣くたくなっちゃうよ、本当に・・・。
けど、悩んでいたのは自分だけじゃなかったんだ。
お兄ちゃんも、バレンタインからずっと、僕のこと、真剣に考えてくれていたんだ。
ちゃんと向き合って話そうと、それで海って・・・。
ちらりと台所にいる兄を見る。
「あ、やべえ。鶏肉あったっけ。確かこの前残った半分を冷凍・・・・」
誰に言うともなく呟いて、背中にとんと凭れてきた身体に、驚いたように言葉が途切れる。
タケルが、背中にぴったりとしがみついていた。
「おい?」
「・・・・・・いい?」
「え?」
「今日、泊まっても、いい?」
「え・・・・・・」
「・・・・だめ?」
背中から見上げて、しかもそんな可愛い声で゛だめ?”とか言うなよと内心焦りつつも、平静を保ってヤマトが言う。
「駄目じゃねえけど、明日、学校あるだろ? 教科書とか・・・」
「明日は卒業式の予行で、授業ないもん」
「あのな・・」
「ねえ、いい?」
くるりとタケルの方に向き直るなり、またしても可愛い声でねだられて、ヤマトがはぁー・・・と力なく溜息をつく。
「・・・・・おまえな」
「うん?」
「こっちはこれでもな。結構悩んで、出来るだけおまえのペースに合わせてやろうって決心したんだぜ。いつも、自分勝手におまえのこと好きにしてたって反省もして・・・。おまえが、ちょっと話がしたいとか言ってもあんまり聞いてやる余裕もなくて、とにかく会ったらすぐ抱きたくて、我慢できなくて・・」
いきなりそんなことを言われて頬を染めつつも、ためらいがちにそれに答える。
「・・・・うん・・・。もしかして、それだけのために僕のこと、好きって言うのかなって・・・思ったこともあった・・」
上目使いに言われて、ヤマトが苦笑する。
「ひでえな」
「だって・・」
向き合って、軽くタケルの腰上あたりに腕を回して、けど抱きしめるのは我慢して、ヤマトが困ったように言う。
「だからな。・・・挑発すんなって」
今度はタケルの方が、困ったような顔をした。
「だから・・・・いいよ」
「え・・・・?」
「いいよ、しても」
はにかむように言われて、思わず絶句する。
たぶん、自分は今すごく間抜けな顔をしてるだろうなとヤマトが思う。
『鳩が豆鉄砲を食らったような顔』というのは実際見たことはないが、きっと今の自分はそんな顔をしているのだろう。
「おい・・・」
そのままタケルが、ことんと凭れかかるようにヤマトの胸に入ってくる。
「今すぐ、でも、いい・・・」
「タケル・・」
全身の血がどっと沸騰するような台詞に、反射的に思わず腕の中に抱きしめて、ヤマトが夢にまで見た甘い香りのする項に唇を寄せる。
夢じゃないのか?と思うけど、唇は、確かにタケルのやわらかな肌の上を滑っている。
「いいのか・・?」
思わず、声が上擦った。
「うん」
「嫌、なんだろ?」
「ううん。そんな風には・・・思ったことない」
少し身体を離して見下ろして、薄い唇をそっと指先で触れる。
「今な。自分でも怖いほど余裕ねえぞ、俺。だから、やさしく出来ないかもしんねえけど・・?」
「・・・・・・・ん、いい」
「あとで泣くなよ」
言われて少しだけ不安になって見上げるなり、唇が下りてきて、キスをされる。
少しだけふれて、見つめて重ねて、それからゆっくりと深くなっていく。
他の誰ともキスしたことなんかなかったけれど、こんなキスをくれるのは、きっとヤマトだけだろうと、タケルは次第に痺れていく頭の隅で思う。
キッチンの床に、唇を合わせたまま崩れるように坐り込み、抱き合って何度も口付け合う。
息もさせなくくらい激しくなってきたそれに、タケルの肩が微かに怯えて震えた。
熱い息とともに唇が離れ、同時にヤマトの手がタケルのシャツの下から差し入れられて、白い肌を味わうように上に這い上がってくる。
「・・・・ア」
小さく声を漏らして、シャツの上からヤマトの手を押さえるようにしながら、タケルがヤマトを見る。
「あの・・・・ここで、するの?」
「ああ」
「“ああ”って・・。ベッドとか、あの、せめて、ソファとか・・・・・あ・・・ん・・・ねえ、ちょっと・・お、お兄ちゃ・・・」
「待てねえって」
「だって・・・ ねえ、あの。待っ・・・・・・・あぁ・・・!」
シャツをたくし上げられて、露になった胸の飾りを唇に含まれ、のけぞったままの形でつめたい床に横たえられる。
狭い上に、キッチンの床は冷たいのにと思うのに、かり・・と軽くそこに歯を立てられると、甘い声を上げて抗うことさえ出来なくなる。
首元に顔を埋めて、しっとりともう汗ばむ首筋を舐め上げて、片手がせわしくタケルのハーフパンツの前を開く。
耳の中に入り込んできた舌にぶる・・と身を震わすなり、下着の中に入ってきた手に思わず身を横にして抵抗する。
中で既に熱くなっているタケルのものが、ヤマトの手に捕われて、身体中が電流に打たれたように跳ね上がった。
「・・・・・や! あっ・・・・あ・・」
横を向いたタケルの背中側にヤマトが身体を寄せると、狭い空間のために、タケルの身体はヤマトと流し台の間に挟まって、身動きすらままならない。
そんな状態で、兄の手の中で自在に煽られ、快楽を与えられて、苦しそうに息をしながら、タケルが達しかけて思わずぎゅっと膝を閉じる。
それをヤマトが自分の足でこじあけるようにして割ると、耳に息を吹きかけるようにしながら甘く囁く。
「タケル?」
「は・・・・・・・・ぁ・・・・・あ・・」
「俺のこと考えてた? 会えない間」
ヤマトの問いに、意味がわかっているのかわからないのか、とにかく、こくんと小さく頷く。
「考えて・・・一人で、した?」
「な・・・・・・何言っ・・」
「俺のこと考えて、一人でこうやって・・」
「やだ・・・やめてよ・・・・ぉ!」
みるみる真っ赤になっていく頬に肯定の意味をとって、ヤマトが満足げに微笑んだ。
それでも、その口からはっきり聞きたいと、肩口に歯を立てながら指を早める。
「いや・・・・・ぁ・・! ・・・・あ・・あぁ・・・」
先端に指先をひっかけ潤ませて、早く乱れた息に喘ぐ弟をさらに甘く責めたてる。
掴まる所がなくて苦しそうに流し台の扉を這い回る白い指を、ヤマトの空いている方の手が掴んで引き寄せる。
その手を力いっぱい握り締めて、ひときわ大きく喉を反らせて声を上げると、身体を痙攣するように震わせて、ヤマトの手の中でタケルが達した。
はあはあ・・・と全身で息をして、肩越しに兄を振り返るなり、幼い身体にはキツすぎる快楽に思わず涙がこぼれる。
それをやさしくキスで拭って、ヤマトが低く笑った。
「意地っぱり・・」
「だって・・・」
“言えるわけない、そんなこと”と涙で訴える可愛い弟に、あっさり降参してヤマトが言う。
「俺はしたけどな、おまえのこと考えて」
事もなげに言われて、真っ赤になる。
「普通だろ、健康なオトコなら・・。おまえが、今みたいに切なそうな顔してイクとことか、足いっぱいに開いて俺が入れるのを待っ・・・・」
「うわあああ!」
「いてっ、殴るな!」
「だって!」
「本当のことじゃん、いいだろ」
「だけどー・・!」
「ずっとおまえのこと考えてた」
ヤマトの言葉に、ちょっと驚いた顔になりつつも言う。
「ヤラシイことばかり?」
「も、含めてな。おまえのことばっかり想ってたよ」
からかいじゃなく、声のトーンを落として言われると、返す言葉に詰まってしまう。
「・・・本当・・・?」
「ああ、正直な。まいったぜ? こんなに惚れてるなんて、俺も知らなかった」
やさしく言って、それから照れたようにフイと瞳を反らして少し赤くなる兄に、いたずらを見つかった子供のような仕草を見つけて、タケルが涙を浮かべて、それでもせいいっぱい嬉しげに微笑む。
「お兄ちゃん・・・・」
兄のいとしい手がそっと頬にふれて涙を拭うと、口づけて、それを合図のようにタケルの腕がヤマトの首に絡みつく。
片手でタケルの背中を抱いて、もう片方の手で器用にタケルの下半身を裸に剥いて、まだ自分の放ったものに濡れている内腿を撫で上げて、それを指にとって後ろを開く。
「アア・・・!!」
タケルの腰が跳ねるのを体重をかけて押さえて、濡れた指先でそこを愛撫する。
十分に解されるまで待てず、宣言通り確かにもうやさしく出来る余裕などなくなってはいたが、それでも傷つけないようにゆっくりと、ヤマトがタケルの足を持ち上げて、その身体を満たしていく。
反った喉を舐め上げて、震える足先から少し力が抜けるのを待って一気に貫くと、タケルが声にならない声を上げて、大きく仰け反った。
次第に速度を早めてタケルを責め上げて行く兄に、もうわけがわからなくなったタケルが暴れるように身体の下で快楽にのたうつ。
狭い空間で、夢中になっているタケルの足や腕が、そこいらにぶつかって痣を作るのも気にしながらも、久しぶりの熱に浮かされて、ヤマトも夢中になって白い肌に赤い痣を落としていく。
口付けの合間に荒い息を吐き出して、ヤマトは弟の中に熱を放った。
はあっ、はぁっ・・と乱れた息をつきながら言葉を発することも出来ず、それでもすぐには、互いを欲しい気持ちは鎮められず、引き寄せて抱き合って、もう一度口づける。
うつ伏せされて腰を持ち上げられても、タケルは熱くてどうにかなりそうな身体をすべてヤマトに任せた。
脱がされないまま胸の上で止まったシャツを上げて、白い背中に口づけられて、脇や腰を兄の手のひらに撫で上げられて。
冷たい床に額を押し当てうめくようにしながらも、後ろから激しいヤマトの熱を受け入れる。
何度も何度も、声が枯れるまで叫ばされて、タケルは痙攣したように全身を震わせた。
身体を溶け合わせることで、会えなかった時間の淋しさを、埋め尽くすかのようだった。



「ゴハン・・・もういい・・・・・だるい・・・・・」
ぐったりするまでヤマトに愛されて、抱き上げられてベッドに降ろされるなり、力無くタケルが言う。
「悪い悪い」と苦笑する兄は、ちっとも悪びれてない様子で、なんとなくタケルは悔しい。
でも身体はどこもかも、指の先まで満たされていて、けだるい幸福感で一杯だった。
シャワーすら煩わしいというタケルを浴室まで運んでくれた兄は、汗と体液にまみれた身体を甲斐甲斐しく洗ってもくれて、とりあえずは清潔感を取り戻した肌は、ボディソープのいい匂いがしていた。
裸の身体にシーツの感触が気持ちいい。
タケルはベッドにおろされても兄の首に甘えて腕を回したままで、ヤマトが困った顔をする。
「おい・・」
「そばにいてよ」
「わかってるけどな・・」
「・・・やだ、いかないで」
腕を離そうとされて、またしがみつく。
「キッチン、あのままにしておけねえだろ?」
言われて、思わず口ごもる。
それはもちろん、あんな状態で父が帰ってきたらどう思うかを考えると恐ろしい。
哀しそうに手をひっこめる弟に、『すぐ来てやるからな』とやさしく額にキスをして、意外にも几帳面なヤマトがキッチンに向う。
あまり待たせずに戻ってくると、まだ眠らずに待っていたタケルに"ほら、ご褒美”と目を閉じている鼻の上に、ぽいと軽いやわらかいものを置いた。
何かと思って目を開けると、真っ白のものが見える。
「あ・・・マシュマロ・・?」
「すっげえ恥かしかったんだぞ、これ買うの」
聞けば、さすがにスーパーのホワイトデー売り場には近寄れず、コンビ二で売っている駄菓子の中から、それでもさんざん照れまくって買ったのだという。
どんな顔して、これをレジに持って行ったのかと思うとタケルは吹き出しそうになってしまった。
「それ食って、もう少し待ってろ」
「・・・ねえ」
「ん?」
「た、べ、さ、せ、て?」
「おまえなー・・・」
そんなに甘えん坊だったっけ?とかブツブツ言いつつも、心持ち赤面しつつ、タケルの口に放り込む。
とたんに、満面の笑顔でタケルが笑った。
「お兄ちゃんも」と言って一つつまんで差し出すので、仕方なしに口を開ける。
「おいしいよ?」
「うわ・・・・甘ぇ・・」
それを見てくすくす笑う弟が、なんだかもうかわいくて可愛くて、照れ臭くて。
とても静止できなくなって、照れ屋な兄は「まだ眠るなよ」とだけ言い残して部屋を出て行った。
それを目で追って、5つほどだけマシュマロの入った小さな袋を見て、タケルが声を立てないようにして笑う。
(キティちゃんだよ・・・ かわいー)
さすがに僕でもレジに持ってくの恥かしいよ。と肩をすくめるけれど、そんな兄の気持ちが心から嬉しい。
もうこんな風に、心も身体も満たされる事はなくて、ずっと空っぽのまま生きていくのかと、本当に夕方まではそんな気分だったのに。
一人で思い悩んでいた事すべてが、不思議なほど、今はどうでもよくなっている。
好きだと言ってくれた。
それは永遠に好きだということではもちろんないけど、それでもちっとも構わない。
今の、こんなちっぽけで、何もない自分を好きだと言ってもらえた。
それだけで、その言葉は永遠に価値のあるものなのだ。という気がした。
〈今年も桜、いっしょに見られるんだなあ・・・)
そんなことをぼんやり考えているうちに、意識が次第にまどろみへと落ちて行く。
額にやさしい温かい手が降りてきて、隣に兄の体温が寄り添ってくるのがわかった。
人肌のやさしさが、タケルに深い安心感を与え、頭を兄の裸の胸にもたげるようにしてそっと目を閉じた。
「眠い・・・・」
「ああ、もう眠っていいぜ・・?」
ずっと眠れなかったから、身体が睡眠を切望しているんだ。
瞼が重い。
「僕たちは・・・・・兄弟としても・・・いっしょに暮らしてない分・・・ふか・・・・んぜんなきょう・・・・だいで、恋人とし・・不自然・・・・な・・・ふつー・・じゃ・・・・・でも・・・もー・・・・い・・い・・・・・・・・・・」
語尾が消えいていって、それがスースーという寝息に変わっていく。
「は?」
なんのことだろうと首を傾げながら、きっといろんな事をこの1ヶ月思い煩わせたのだろうと考えて、眠ってしまった弟の肩をそっと抱き寄せる。
まだ、細い幼い肩。
守ってやりたい。
今離れることが、本当はこいつのためかと何度も何度も苦しいほど考えたけど、結論はいつも同じだった。
今離れたら、タケルも自分も、心が引き裂かれてしまうだろう。
エゴだってわかってはいるけれど、離れることなんかどうしてもできない。
こんなに好きなのに。
考えながら、あたたかい弟の体温に、ヤマトもまた身体が重くなって深い眠りに落ちていく。


明日、起きられるかな・・?
ああでも、卒業式の予行だって言ってたな・・。
夕食抜きにしちまって・・。
朝はきちんと食わさねえと・・・。
卵あったよなあ。
スクランブルエッグ、こいつ好きだし、ベーコン焼いて
あとはサラダと、トーストと・・・。




どんな恋人同士だって、未来のことまではわからない。
そんな先の心配より、俺はおまえが裸のまま寝て、明日の朝、風邪ひいてりゃしないかとそっちの方が心配だよ・・。
眠りに落ちていきながらそんなことを考えて、ヤマトが布団を引き上げながら横を向き、タケルの身体を自分の身体で暖めるように抱き包む。
タケルが小さく微笑んで、甘えるようにヤマトの胸に頬を寄せると、猫のように身体を丸めた。
あたたかいヤマトの腕の中は、世界中のどこよりも安心できた。

END






エロい?エロくない?大丈夫??って、のっけから何を聞いているんだ私は! やっとこさ、ホワイトデーSSの裏アップで〜す、なんか甘々書くのひさしぶりのような気もいたしますなあ。なんだかすごく気恥ずかしいけど、やはり甘いのはよいですv タケル、しあわせだしv ところで、石田宅には実は設定で見る限り、ソファとかは置いてないのですが・・。いろいろ不都合が(どんな?)あるので、一応テレビ前にはあった方がよいのさということで、ソファをプレゼントしてございます(笑) まあほら、並んでテレビ見たりね。そのうち兄が肩抱いたりしてさ。でもって兄の肩にタケルも頭を置いてみたりなんかしてさ。キスしたりしてるうちに押し倒され・・・ オイオイ。結構でかいのがいるやん、それじゃあ・・・。
それにしても、だんだんベッドでなさらなくなってきた我がサイトの兄弟ですが・・・。理科室、新幹線に続き、キッチンですか。ふう。きっとあちこちぶつけてタケル青痣だらけだよ、そこに兄のつけた赤いのも混じって・・・。すごいことになってるに違いない・・。
なんか、さりげなくエロトークになってきたので、このへんで。なかなか時季モノって書いてて楽しいかったですv はい(風太)


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