最近気になることがある。というより気に入らないという方が正解か。
最初は、どうも相性がよくなさそうだと気をもんだりもしたけれど、最近ではそんな心配もなくなって、結構仲がよさそうにさえ見える。そうそう、友情のデジメンタルが大輔の手に引き継がれたあたりから。
皆でいる時、自分にはそっけない態度のくせに、やたらと大輔には絡んでいっているし。
からかって面白いんだろうけれど、後ろから首に腕を回して締め付けたり、頭を拳でグリグリしたり・・・自分にはそういうことをされた覚えがない。
「なんかさー、最近ヤマトさんと大輔って、ミョーに気が合ってるよねえ。自分の紋章を受け継いだコーハイは一味ちがうっていうか。ねえ?ヒカリちゃん」
「そうですよねえ、京さん。なんかほほえましい」
「友情のデジメンタル兄弟!って感じかな。でもさあ、あの大輔のお姉さんならさ。ほんとにヤマトさんの押しかけ女房になったりして」
「で、ホントに兄弟になったりして?」
「でも大輔は太一さんと兄弟になりたいみたいだけどねえ。どうどう?ヒカリちゃん」
「どうって、やだなあ。どういうイミです?」
「うーん。こっちの方は実現はなしだなあ。やっぱ。かわいそー大輔」
「もお。京さんったら」
女の子たちのおしゃべりに罪はない。おしゃべりに夢中で周りが見えなくなるなんて、よくあることだ。まして、パソコンルームの前の廊下にいるタケルのことなど、扉を背に話し込んでいる彼女等が気づくはずもない。
けれど、さすがに重い空気を察してか、ヒカリが振り返った。ちょっと驚いた顔になる。
「あ、タケルくん。・・・もしかして、さっきからずっといた?」
「ちょっと前からね」
「あ、じゃあ・・ 気を悪くしないでね、冗談だから。大輔くんとヤマトさんのこと」
「僕がヤキモチでも妬くって? いやだなあ、ヒカリちゃん。そんなことで気を悪くしないよ。もう子供じゃないんだからね」


「だから、なんだって!」
「なんだってじゃなくて、ついて来ないでって言ってるの!」
「ついて来るなって、今日はおまえん家でメシつくる約束だろ」
「今日はもういい」
「いいって、おまえが作ってくれって言うから」
「お兄ちゃんのご飯なんか食べたくない!」
「おい・・・」
「ついて来ないでったら、もう! ストーカーみたいに!」
「す、ストーカー?」
後ろから追いかけてくるヤマトに、なおも足早になってマンションの中へと逃げ込んだ。エレベーターに跳び乗って素早く『閉』を押すタケルに、追いついたヤマトが寸での所で手で扉をこじ開ける。その姿を睨むようにして見、それきりフイと横を向いて口をきかない弟に、ヤマトがやれやれと肩をすくめた。

「どうしたんだよ?」
部屋に入るなり、やさしく問われ、リビングに立ちつくしたままチラリと兄を振り返る。
「別に」
「別にじゃないだろ」
「いいよ、放っておいて」
「・・どうしたんだよ?」
もう一度やさしく問われて肩に手を置かれ、自分がなんだかバカみたいに思えて涙がでそうになってしまう。
「別に無理に構ってくれなくていいんだよ」
「無理じゃないけどな。全然」
少し首を傾げて困った顔で微笑むヤマトに、なんだか悔しい気持ちになって、肩にある手を思い切り振り払う。
「お兄ちゃんは、僕より大輔くんみたな弟がいいんでしょ」
「え?」
「本当は大輔くんみたいな弟が欲しかったんでしょ!」
「何言ってるんだ、おまえ」
「だったら、そうだよ! ヒカリちゃんたちが言ってたみたいに、あのお姉さんとケッコンして、そうしたら、大輔くんとも兄弟になれるし、それに・・!」
「おいおい、ちょっと待てって!」
半泣き状態のタケルにとんでもないことを言われ、慌ててそれを遮ると、宥めるようにその両肩を掴んで自分の方に向き直らせる。
「だから、どうしたっていうんだよ? 俺と大輔が兄弟になって、おまえそれで嬉しいのかよ」
嬉しいわけなんてないじゃない!と言いたいけれど、意地っぱりの今日のタケルには、とてもそんなこと言えそうにない。
「そうしたら、僕はヒカリちゃんとケッコンして、それで太一さんにお兄ちゃんになってもらうから!!」
余裕でタケルを宥めていたヤマトの頭に《太一が兄》という言葉が入った途端、顔色が変わった。
「どういう意味だよ」
「どういう意味って・・・」
「おまえ、言ってることわかってんのか?」
「わかってるよ。お兄ちゃんが僕より大輔くんがいいみたいに、僕もお兄ちゃんなんかより、太一さんの方が・・」
「ああ、わかったよ! じゃあ、勝手にしな!」
いきなり怒鳴られて、タケルがビク!と肩を震わせる。
「お兄ちゃん」
「おまえの言いたいことはよくわかったよ!じゃあ、そうすればいいじゃねえか! 俺は大輔と兄弟ごっこやるから、おまえは勝手に太一と兄弟ごっこやれよ。どうせおまえはいつだって、本当は俺より太一の方が頼りになるって思ってんだろ、だったら好きにしろよ!」
ヤマトの怒りにきゅっと唇を噛んで兄を睨みつけると、タケルはそのまま踵を返して自分の部屋へと駆け込んだ。バンと扉の閉まる音の向こうで、小さく泣いているような声が漏れる。・・・しまった、と思った時には既に遅しで、ヤマトは自分の放った言葉に肩で大きく息をついた。自分に対する腹立たしさと苛立ちに、ドンと拳で壁を殴る。
いつもこうだ。タケルに太一のことを引き合いに出されると、どうも冷静さを欠いてしまう。太一に対するコンプレックスのようなものは未だ続いているのかと、さすがに嫌気がさしてくる。あいつの方がタケルの兄にふさわしい、などと本気で思った3年前が今では笑い話だと思っていたのに。
(成長してねえな、俺も・・・)
自嘲気味に心で呟いて、とりあえずは傷つけたまま、そのままにはしておけない弟の部屋へと向かう。ノックの音に涙声が答えた。
「・・入らないで・・」
ベッドに身を投げ出すようにして突っ伏しているタケルに、その言葉を無視して、ベッドに腰掛ける。
「入らないで・・って言ってるでしょ・・あっち行って、よ・・」
「タケル・・」
うめくようにいうタケルの髪を、そっとやさしくヤマトの指が触れる。
「僕、今、自分にどうしようもなく腹がたってて、どうしようもなく情けなくて・・・そのうえ、こんなことで泣いてるなんて・・馬鹿みたいだし・・・すごく凹んでるんだから・・見ないで・・よ」
そう言ったきり、顔を枕に埋めて泣き出した弟に、胸を痛めながらヤマトがその背中を宥めるように撫でてやる。
「怒鳴って・・悪かった」
ヤマトの言葉に、タケルがぴくりと肩を震わせる。
「確かに、大輔からかってると面白ぇけどな。それがどうしたって言うんだよ」
「だって・・・・」
「大輔みたいに手荒に扱われる方が嬉しいのか?」
「・・・・・・」
「フツーの兄弟みたいに?」
「・・・・・・」
「だったら、こうするか。その代わりに、もう俺はおまえに料理もつくってやらないし、キスもしないし、抱き締めたりも、一緒に寝たりもしない。それでいいか?」
ヤマトの言葉にバッと身を起こすと、タケルは唇を真一文字にきゅっと結んで、涙を溜めた瞳でキッと兄をにらみつける。そして、言葉の代わりに拳でドンと兄の胸を叩いた。悔しげに、その首に腕を絡ませる。
「そんなの・・・いやだ」
搾り出すような声に微笑んで、タケルの華奢な身体を抱き締める。
「嘘に決まってんだろ」
笑って、タケルの耳に言う。
「俺だって、いやだよ」
ヤマトの言葉に、さらにぎゅっとしがみついて、涙声のままタケルが言う。
「お兄ちゃん、嫌いだ・・・」
「ん・・」
「お兄ちゃんの、馬鹿・・」
「うん・・」
「お兄ちゃんなんか・・・・」
「ん?」
「・・ごめん・・お兄ちゃん・・」
「タケル・・・」
「嫌いにならないで・・・」
「ヒトのこと、嫌いって言っておいて、ひでえな・・・」
言って、ヤマトが笑う。やさしく髪を撫でてくれるヤマトに、少し身体を離して、タケルには珍しく自分からキスをねだるように唇を寄せた。軽くふれたところですぐ身体を引いて、やっと少し微笑む。
「ごめんね・・・」
「いいさ、妬かれるのは嫌いじゃないしな」
「いいよ。もう」
ちょっと頬を染めて、タケルが笑う。
「おまえって結構、嫉妬深いんだ?」
「そうだよ、知らなかった?」
「知らなかった」
ヤマトの答えに今度は悪戯っぽく笑って、タケルが言った。
「けど、僕は知ってたよ。お兄ちゃんだって、意外にヤキモチ妬きだよね。3年前の冒険の時だって、僕が太一さんと仲良くしてると、ずっと機嫌悪かったもん」
にっこりして言うタケルに痛いところを突かれ、さすがに懲りることなくムッとする。けれども今度は怒ることなく、ヤマトは急にニヤリと笑うとタケルの身体をくるりと反転させ、後ろからのしかかる様に抱き寄せた。そして、首に腕を回して締め付け、拳でタケルの小さい頭をグリグリする。
「な、なに! いたい、いたい、痛いって、お兄ちゃん、やめてよ!」
「おまえなあ、そういうことわかってるんなら、ヒトを挑発するようなこと言うなよなぁ、コラァ!」
「痛い、いたいって、もう降参!」
ぐしゃぐしゃになった髪を直しながら“お兄ちゃん、子供みたい”と笑いころげるタケルを見下ろして“ダイスケみたいにされた感想は?”と笑いながら聞いて、それからもう一言。と、少し神妙な顔つきになってヤマトは言った。










「もしも、もしも仮にだ。遠い将来に、おまえとヒカリちゃんがケッコンするようなことがあったとしても、だ」
「へ?」
「太一のことは“太一さん”でいいからな!“お兄ちゃん”なんて呼ぶなよ!絶対だぞ!」
ヤマトの言葉にきょとんと目を丸くして、じっとそのちょっと赤面してる顔を見つめて、それからタケルはさも嬉しそうに微笑んだ。
「うん。うん・・わかったよ、お兄ちゃん」

 ウィークポイント(弱点)





友情のデジメンタルを大輔が受け継いだあたり
で、やたらお兄ちゃんが大輔に絡むので、つい
私の方がヤキモチ妬いて書いてしまいました;
結構タケルも、普通にしてるけど実は胸中おだ
やかじゃなかったり?
いや、大輔にはいいとばっちりで申しわけないん
だけど、ヤマトにグリグリされたりって、ちょっと
いいじゃんv 
ま、本人はやっぱりいい迷惑なんでしょうけど。
あんまり友情のデジメンタル欲しくなさそうだった
のは、そのせいかも?(風太)




              <モドル>