□■今宵、桜の樹の下で□■

「おい、タケル。宿題あとにして、先に風呂入れよ。遅くなるぞ」
リビングのテーブルで宿題を広げている弟に、キッチンの片付けを終えたヤマトが声をかけた。
「あ・・うん。もうちょっと・・」
だけども、切りのいいところまでと思っているらしい弟の返事は、どうにも生返事で、ヤマトはその背を見つめると小さく肩を竦めた。
いつも通り、週末を待つようにして兄のマンションに転がりこんではきたものの、午後はお互いはずせない用事が出来てしまい、今日はほとんど一日一緒にいられなかった。
夕食の時間になってやっと顔を合わせられたようなものなのに。
今度は、食事はすむなり山のような宿題と格闘してる。
これでは宿題が終わって風呂入って、冷たいものでも飲みながらビデオでも見てるうちに、きっと寝てしまうにちがいない。
甘やかで濃厚な夜を共にしたい気持ちで、こちらはいっぱいなのだが、なんといっても相手はまだ小学生で、さらにはそういうことに疎いときているのだがら仕方のないことなのだが。
「うーん・・・」
難解なのか、ノートを睨みつつ、金の猫毛を自分の手でくしゃくしゃと掻き回している。
ふいに、その手元で何かがピーっと音をたてた。
タケルが何かという顔をして手をとめ、音を発した張本人らしいDターミナルを開く。
「えっ?」
届いていたメールを読むと、きょとんと目を丸くした。
「何?これ・・・」
「なんだ? 悪戯か?」
「・・・・じゃなくて、デジタルワールドから・・」
「デジタルワールドからメール?」
「うん」
お兄ちゃん?と呼ばれて振り返るタケルの傍にいき、一緒になってそれを覗く。
「『デジタルワ―ルド、フォルダの丘の上で待つ。今宵は桜が満開。ぜひ来られたし・・・・・』って、何だこれ」
「やっぱり悪戯かな?」
「けど、デジタルワ―ルドのこと、知ってるなんてな・・」
坐ったまま兄を見上げて、『どう思う?お兄ちゃん?』と首を傾げる弟に、ヤマトがしばらく腕を組んでうーんと考えた挙句、問い掛ける大きな瞳を見つめ返して笑いかけた。
「行ってみるか?」
え・・・?と目を丸くするタケルに、『面白そうだしな』とヤマトが笑う。
別にデジタルワールドにまた危機がおとずれている。なんて話もきかないし、たまにはそういうことなしに行ってみるのもいい。
ゲートが開いている以上、自分たちはまだ選ばれているともいえるのだし。
だいたい、こんなふざけたメールを、愛おしい弟に慣れ慣れしく送ってくるヤツなんて、放っておけるはずがない。
それに、満開の桜。
しかも満ちた月夜だ。
今年はタケルと花見にも行けなかった。
ちょうどいい。
すっかり行く気になっているヤマトに、タケルが小さく笑った。
「なんか、浮かれてない?」
「そうか?」
「お兄ちゃん、嬉しそう。急遽、遠足が決まって嬉しくてたまらない小さい子みたい」
「なんだと」
悪戯っぽく微笑むタケルの頭を、コツンと拳で軽くこづくと、肩をすぼめてふふっと笑う。
「じゃあ、行こうか、今から」
「いいけど。おまえ、宿題は?」
「明日、お兄ちゃんに手伝ってもらうから、いいでーす」
「こいつ」
もう一度、コツンと額をぶたれると、さすがにタケルが『痛いよ、もうー』と頭を押さえた。



「わあ・・・」
その光景を見るなり、タケルが歓声を上げた。
デジタルワールドの夜を彩るかのように、桜、桜、桜・・・・。
数えきれないほどの桜の樹が、丘の上に向って連なり、風にその花びらを散らしていた。
溜息が出るくらい、美しい光景に、ヤマトもしばし佇んで見上げる。
花びらがまるで雪のように降り注ぎ、薄桃色の花の嵐のように風に流れて、髪や体に纏わりつく。
あまりに現実離れした〈実際、現実からは遠く離れた世界なのだが)その世界に、うっとりと魅入っていると、ポンと軽く兄に肩を叩かれた。
「上の方まで登ってみるか」
丘の上を指差して言う。
「そうだね・・」
たしか、招待をしてくれたメールの主は、丘の上で待つ。と書いていたし。
足元にまとわりつく花びらを、なるたけ踏んでしまわないように注意しながら、タケルがゆっくりと歩き出す。
ふいに手が目の前に差し出され、タケルはヤマトを見上げた。
その手に迷わず自分の手を差し伸べると、そっとあたたかな手の平の中に握ってくれる。
「お兄ちゃん・・・」
頬を染めて恥かしげにすると、兄はなんだよと笑った。
「誰も見てねえよ」
「だって・・」
言いながらも、手をつなぐなんてもう恥かしくて随分としていなかったから、何だかやたらと照れ臭くて。
それは兄も同じらしく、タケルの顔は見ずに、ぶっきらぼうに繋いだ手だけを引き寄せる。
無言のまま、静かで、おごそかで、ただ美しい夜の中を歩く。
それは、至福で、永遠に続くようにも思われて、タケルはもしこれが夢だとするならば、もうずっと目覚めることはなくても構わないのに、とさえ思った。
でも、繋がれた手の確かな温もりが、これが、その人が、夢の中で会ったわけではないのだと語っている。
現実だけど、リアルな世界ではない、仮想現実のような不確かな空間・・・。
ふいに考えるのをやめる。
そんなこと、どうでもいい。
どっちが現実かなんて、価値のあることじゃない。
傍にヤマトがいてくれる。
それがタケルにとっては、唯一たからもののように貴重なことなのだから。

ゆっくりと丘を登っていくと、上にはデジタルワールドの夜が広がり、桜の木々が次第に眼下へと下りて行く。
その丘の頂上にも、1本の大きな桜の樹があった。
その枝ぶりたるや見事としか言いようがなくて、たわわになる花も、花びらの一つ一つが他のものより大きくさらに色鮮やかだ。
「誰もいないよね・・?」
その樹の下に目をやって、少し不安そうにタケルが言う。
そうだな、とヤマトが答えて、けど、おあつらえむきじゃんと笑った。
何が?と問うと、オマエ怒るから言わないと、くすくす笑う。
タケルは、少し憮然とした顔になった。
それでも、大きな桜の樹の下に坐り込む兄の、少し背中側に寄り添うように腰を降ろす。
遠くまで続く桜の木立は視界の下で、薄ピンクの風を起こし、夜空にはぽっかりと大きな月が浮かんでいる。
デジタルワールドの夜の空はいたってシンプルだ。
さざめく星も僅かばかりで、月だけがその下界に光を投げかけている。
それがまた、ロマンチックでいいなあ・・なんて、少し乙女な発想をして、タケルはヤマトの背に、体を横にして甘えるようにもたれかかった。
静かで、きれいで、ふたりきりで。
・・・なあんて、しあわせなんだろう・・。
兄の背に、片方の頬を寄せる。
いつも包み込んでくれる、あたたかな兄の匂いがした。
胸に抱きしめられるより、こうしている方がもしかすると好きかもしれない。
胸を合わせていると、肌を突き破りそうに躍る心臓の音を、聞きつけられてしまいそうで少し怖い。
その点、背中は表情も見えないから、尚、いい。
いつも、小さい時から自分を庇ってくれた頼もしい背・・。
ヤマトの背中が、タケルはとても好きだ。
そして、ここに甘えるのは、もっと好きだ。
思いながら兄の背に、そっと指先が文字を綴る。
カタカナで、2文字・・・。
ヤマトが気づいて、思わず吹き出す。
「笑うかな・・」
「ガキ」
「ガキって書いたんじゃないよ」
「わかってるよ」
言いながら、タケルの手を取り、その手の平に、タケルが書いたと同じカタカナ2文字を返す。
タケルが自分の手のひらをじっと見つめ、恥かしそうに頬を染めてヤマトを見上げた。
その目を見ずに、兄はふいっと視線をそらす。
「あ、その上に大輔の“大”の字、付けたしとけ」
照れ隠しに半分投げつけるように言う言葉に、タケルが嬉しそうに首を傾けてうなずいた。
「うん・・」
それから立ち上がって、兄の隣に移動しようとして、ふいに驚いたように頭上を見上げた。
「どうした?」
「あ。ううん・・。髪に枝がからまって・・・。あれ? さっき、こんなに下まで枝が下がっていたかな?」
不思議そうに、頭の上に覆い被さるように伸びる枝を仰ぐ。
確かにさっき、坐る時はもっと一番近い枝も高い位置にあったような・・・? 
大輪の桜をじっと見つめていると、ふいに意識がぼんやりしていくような、奇妙な浮遊感に襲われる。
大きな花びら。
およそ、現実世界ではお目にかかれないような類稀な桜の種。
微かに風が丘を吹き抜けていき、花びらが枝を離れてひらひらと降り注いでくる。
その1つがタケルの腕に触れ、チカ・・・と小さな感覚を残して地に落ちた。
「あ・・・・れ・・?」
「タケル?」
どうしたかと問うように弟を見るヤマトの目が、そこを通り抜けて、何かを見つけたかのように一点を睨む。
それには気づかず、自分の腕をじっと見ながら、タケルはヤマトの横に腰を降ろした。
「赤くなっちゃった」
「え?」
「ほら、ここ」
「どうしたんだ?」
「桜の花びらが触れたトコ」
「桜が?」
小首を傾げるようにして、腕を兄に見せる。
その赤い跡はまるで・・・。
「こら、俺以外のヤツにこういうの、つけさせんなよ」
「え? やだなあ、何言ってるの。だから桜の花びらが・・・・あ・・!」
憤慨したように言いかけて、ぴく!とタケルの身体が震える。
その白い腕を引き寄せて、同じ場所に兄は唇を寄せて吸い上げた。
「お兄ちゃんたら・・・。桜の樹に、嫉妬してる・・」
笑うタケルに、兄がタケルの腕から唇を離して、少し神妙な顔で聞く。
「タケル。そこから見えるか?」
「・・・何が?」
「見えねえか?」
「え・・・・・?」
いつになく厳しい面持ちの兄に、その視線を追ってタケルが振り返る。
だけども、そこにはただ静かに、一本の桜の樹があるだけだ。
夜空に白く大きな羽を広げたような、見事な枝を四方に開いて。
「だから、何が? 桜の樹・・・が?」
タケルの少し不安げな答えに、ヤマトが頬を緊張を緩めると、肩を抱き寄せてその耳に囁く。
「知らねえか? 昔から言うだろ? 桜の樹の下には魔物が棲むとか、その根元には死体が埋められてるとか・・さ」
低く言われて、ビク!としたように瞳を見開いて、思わずヤマトの腕に潜り込むようにして樹を振り返る。
その怯えたような顔に、ヤマトがくくっと笑いを噛み締めた。
「怖いんだ? ガキだなあ・・」
その言葉に、カッと真っ赤になって、タケルが素早くヤマトから身を離す。
「からかったの!」
「いや、そういうわけじゃあ」
「もう! お兄ちゃんのバカ! こんな時にからかわないでよ」
「からかったんじゃねえって」
まんまと兄のからかいにのってしまったと思い込んで、タケルがバツが悪そうにフイと横を向く。
怒ったのか、それきり黙ってしまった弟に、ヤマトは気づかれないように小さく肩を竦めた。
そしてまた、その樹を横目でギッと睨む。
「お兄ちゃんには、わかんないよ・・・」
ふいに、か細く言う声が聞こえ、ヤマトがえっ?と問い返す。
顔を背けたまま、少し淋しそうにタケルが言った。
「お兄ちゃんには、わかんない・・。いつもいつも、追いかけてるのは僕ばっかりで、苦しいのも僕ばかりで、だのに、いつもお兄ちゃんは僕のこと、子ども扱いばかりして・・!」
タケルの言葉に、ヤマトが微笑み、やさしくそっと髪を撫でて、小さな頭を自分の肩口に抱き寄せる。
「何言ってんだよ・・」
「だって・・・そうだもん」
言って、自分の頭にあるヤマトの手に、たどるように自分の手を重ねる。
切なそうな仕草とは裏腹に、少し甘えたような口調は駄々っ子のようだ。
ヤマトの愛情も充分にその肌を通して、体温で言葉で感じてはいるのに、信じてもいるのに、時折、そんな風に確かめるように拗ねた素振りを見せてしまう。
それを子供っぽいと言われれば、まさにその通りなのだけれども、賢い兄はこういう時はからかったりせず、わかりきったように宥めてくれる。
まだそういう幼さを、自分にだけは見せることが、ヤマトにとっては当然嬉しくもあるのだし。
「じゃあ、俺がオマエのこと追いかけたり、オマエのこと想って、苦しかったり不安になったりもしないって、そう思うか?」
背中に手を回して、そっと包むように抱き締めて、やさしい声で兄が囁く。
その言葉に切なげな瞳をして、けどどう答えていいかわからず、問うようにタケルが、その腕の中からヤマトを見上げる。
「同じだよ・・。いつだって、俺も、オマエを想って苦しいし、不安だぜ・・?」
「お兄ちゃん・・・」
泣きだしそうな震える青い瞳が、愛おしい兄を映す。
少し紅潮する頬を手のひらで撫でて、ヤマトが笑った。
「けど、それでも好きなんだから、しょうがねえよな・・?」
そう、たとえ、許されるはずのない想いでも。
唇がそっと近づき、タケルは静かに震える瞼を閉じた。
風がまた、丘を吹き抜け、ざわざわと桜の枝がそれにしなって音をたてた。




「あ・・・・」
「・・どうした・・・?」
「お風呂、入ってなかった・・・」
「いいじゃん、別に」
「だって・・・。汗かいたもん」
「後でいいだろ」
どうせこれからまた、かくんだし。と白い肌の上を、唇を滑らせながらヤマトが笑う。
お兄ちゃん・・と咎めるようにタケルが呼ぶと、おまえの匂いや味がもっとするからその方がいいよ、などと余計に恥かしいことを言われてしまった。
シャツの胸をはだけられ、月明かりの下に鮮やかな白い肌を晒して、タケルが少し困ったような顔をする。
「ねえ・・・」
「ん・・?」
「ここでするの・・・?」
「不満か?」
笑う。
桜の樹の下でなんて、ロマンチックじゃねえか。と言われて、確かにそうだとは思うけれど。
外でなんて、初めてだよ?と。
「少し、怖いよ」
「誰かに見られたら?」
「うん・・」
「ここは現実世界じゃないぜ?」
そりゃあ、そうだけど。
でも、じゃあ、もしパタモンとかに見られでもしたら、どうするのさ。
彼は小さくて可愛いけど、とっても嫉妬深いんだよ?
「パタモンになら、見せておくさ」
オマエが俺のものだって。
それ、悪趣味だよ、と言うと兄は『そうか?』とさもおかしそうに笑って、草の上に横たわる弟の唇に、そっと指を置いた。
「いいから、もう黙れ」
「だって・・・・・あ・・・・・・・!」
唇をキスでふさがれ、離してはまた口づけて、それだけでタケルの思考が溶け出していく。
ヤマトの唇が、髪にふれ、それから頬を辿って、耳から首筋を味わって、鎖骨を舐め上げ、夜風に微かに震える薄い胸に口づける。
淡い桜色に舌を絡ませると、そこはたちまち隆起して、ぴく!と可愛い反応をヤマトに返す。
充分にタケルに甘く鳴かせて、ヤマトはその胸の上から睨むように桜を見た。
・・・目が合った。
既にヤマトの愛撫に夢中なタケルは、それに気づくことはない。
ひゅうう・・と風のしなる音がして、花びらが宙を舞う。
その一つがタケルの胸に落ちて、先程と同じように微かに触れただけで小さな赤い痣を作った。
(おい・・。ヒトのもんに勝手に跡つけんなよ・・!)
心の中で吐き捨てて、その跡に上から口付けて自分の所有の印を刻む。
忌々しげに「それ」はヤマトを見下ろすと、しかしそこからは動けないらしく、ただ、佇んで想い人の白い肌を見つめた。

あれは、いつだったか・・。
まだ小さかった手で、手折れた枝を可哀想にと拾い上げて、肥えた土に戻してくれた。
「希望」をくれた。
あれからずっと、もう一度キミに会いたかったんだよ・・・と、タケルの意識の深くに声が届く。

「・・・?」
薄く瞳を開いたタケルは、どうした?とヤマトに問われて、『ううん、なんでも、ない・・・』とまた目を閉じた。
その後はもう、ただ熱に浮かされるばかりで、何も考えられなくなってしまったけれど。
「あ・・・・・・・あ・・っ・・・・・・くぅ・・・・・ぁ・・」
途切れ途切れに萌える喘ぎを、自分の手で口を押さえてなんとか堪えようとする。
いつもながらに、そんな強情な姿が可愛くて、ヤマトの指がなお執拗にタケルの快楽の場所に絡みつき、まだ幼いものを固くそそり立たせ、その先端を泣かせる。
「い・・・・・やあ・・・」
閉じたい膝をさらにこじ開けられて、すべてを兄の舌に溶かされていきながら、羞恥に染まる頬に涙が伝う。
「おまえの、そういう顔好きだぜ・・」
「な・・・・何、言・・・・っ・・・・はぁ・・・・!・・・」
「気持ちイイのを必死に我慢してる顔。すげー可愛い・・」
腿の付け根を舌先でなぞって、指を傷つけないように注意深く、その体内に差し入れる。
「ああ・・っ!」
ひときわ高い声を上げてのけぞり、タケルの両の指が兄の髪にもぐり込む。
もう欲しいと息も絶え絶えに、声にならない声を上げて心の中で哀願して、それでもさんざん焦らされて、ようやく兄はその細い身体深くへと欲望を突き立てた。


深く強く、か細い肢体を撃ち貫きながら、息を弾ませ、汗を滴らせ、ヤマトがすっかり余裕をなくしつつも、誰に言うでもなく心で叫ぶ。
(こいつは、俺のだ! 絶対、誰にも、渡さない!)
呼吸を奪うような口付けをされて、意識を失う瞬間。
タケルは、桜の樹の下に立つ人影を見た。
真白な長い髪をもつ、透きとおるように白く美しい顔をした男(・・・?)が、こちらを見ていた・・・・ような気がした。






気がつくと、そこは見慣れたヤマトの部屋のベッドの上で。
「いつの間に眠っちゃんたんだろう・・・?」
首を傾げるタケルに、同じようにヤマトも身を起こしながら、かったるそうに伸びた髪を掻き上げる。
「あ・・・そういや、おまえ、宿題は?」
「あ・・・! うわあ、全然出来てない!」
あたふたと鉛筆を握って宿題に向うタケルを見ながら、妙に身体が重いなあなどと考えて、ついさっきまで何かしていたような、そのわりには痕跡だとか名残がどこにもないな・・・などと、ヤマトが不思議そうにベッドを振り返る。
(ま、いいか・・・。シャワーでも浴びてくるか・・)
ヤマトはそう胸中で呟くと、宿題と格闘するタケルに声をかけた。
「おい、シャワー先にしろよ」
「待って、もうちょっとで終わるから!」





そして、その夜のことは。
何が起こったのか、何があったのか、僕もお兄ちゃんも何1つ覚えていなかったんだけれど。
ただ。
いくつか残された僕の胸の赤い痣のうち1つは、なぜか長くそこにあって、幾日かが過ぎてもなかなか消えることはなかった。




END




桜をテーマにやおいを!と思っていたらば、すっかり散ってしまった後だったので、こんな形でやってみました。(ヤってみましたというのも・・・)少しミステリアスなものをと思ったんだけど、なんかハズした感じ・・。むう。
桜はいいですね。散りぎわの潔さだとか、魔性が棲むとか、白骨が埋まってるとか、いろいろオイシイネタが豊富で。しかも幻想的だし。ま、たまにはこういうのもいいかなー。いや、甘いのは相変わらずですけど。(風太)



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