□■もしも明日が(番外編)□■
(イラスト/かわしま友絵さまv)
「おっと・・・」
窓側の席でぐっすりと眠り込んでいるタケルの頭が、車両の揺れに、ふらりと自分の肩を離れていくのを抱き寄せるようにして、そこに戻す。
外はもう真っ暗だ。
祖母の家を出たのは、朝食がすんですぐだったというのに。
雪のため、まず駅まで行くバスが来なくて、やっと来たかと思ったら、肝心の電車は遅れていて、待てども待てどもやってこない。
古びた駅で何時間も待たされて、寒くて寒くて凍えそうで、コートの中に弟の身体を包み込んでお互い暖め合いながら電車を待った。
そんなわけで、やっと新幹線に乗り込むやいなや、タケルは疲れきったように眠ってしまった。
この分だと、家に帰りつけるのは夜の10時くらいというところか。
まあ、明日は始業式だけで特に何があるというわけでもないから、それでも別に構わないが・・・・。
こいつは大丈夫かな? 無理がたたらないといいけど。
肩にもたれてスヤスヤ眠っている、まだあどけない弟の顔を見る。
その気配を察したのか少し身じろぎすると、半開きのなった唇から゛う・・・ん・・・・”と小さな声が漏れた。
その甘い声に、ヤマトが思わずぱっとタケルの寝顔から目をそらす。
正月からこっち、ずっといっしょにいるというのに、祖母や両親の手前、キスさえろくにしていないのだ。
耳元で、そんな声を出されては、何もやましい考えを起こすなという方が難しい。。
ヤマトは同じ車両内をちらっと窺った。
乗客は時間のせいもあって、まばらで、しかもほとんどがうたた寝しているような状態だ。
ましてや、ヤマトたちの席は、扉のすぐ近くだから、車両のど真中にいるほど目立つこともない。
・・・そう、騒ぎたてたりしなければ、誰にも気づかれることなんかない・・・。
(いや・・・しかし、な・・)
ちらっと横目でタケルの顔を見ると、何かいい夢でも見ているのか微笑みを浮かべて“ん・・”と、小さくまた声を漏らす。
(だから、挑発するなっての。・・・・・でも、まあいいか。少しくらい・・)
ヤマトは、毛布代わりに2人の上に掛けている自分のコートを少しばかり引き上げると、何食わぬ顔でその下に指を這わせた。
「う・・・ん」
ズボンの上から膝を撫でられ、それが内腿に回ってさらに自分の中心に向かって動いてくる感触に、タケルが眉を寄せて身じろぎする。
それがいきなり、強烈な感覚となって身体中を駆け巡り、驚いて思わずパッと瞳を開いた時にはもう遅かった。
ヤマトの指がジッパーを下ろして中に入り込み、下着の前を割って無防備だったタケルのものを手の中に握りこんだのだ。
「ア・・・・っ!」
両の膝がぴくんと上がって、冷たい手の感触にぶるっと身震いする。
「あ・・・な、何・・・・!」
言いかけた言葉はそれ以上続けられず、慣れた指がゆっくりとそこを愛撫し出すと、身を折り曲げるようにして声を殺す。
何がなんだかわからない間に、いつ誰の目にふれるやもわからない場所で、恥ずかしいところを握られ好きにされている。
そのとんでもない現実は、タケルの頭を瞬時にパニックに陥れるには充分だった。
けれど、それ以上の強い快感に、コートの下で抗う手も、思うように力が入らない。
どんどん荒くなっていく息に頬を真っ赤に上気させて、切なそうに眉をきゅっと寄せて、兄の肩口にその頬を押し当てる。
「思いきり、キモチイイって顔してるぜ?」
「・・・な、何言って・・・う・・・」
耳元で低くいやらしく囁かれる言葉に、タケルがヤマトの手の中にしっかりと反応を返す。
ヤマトが微かに笑う声が聞こえて、少し屈辱的な気分になるけど、否定のしようのない事実なのだから仕方ない。
タケルとて、実の兄が相手とはいえ、何度となくこういうことをしていれば、自分からしたいと思うことだってもちろんある。
そう望んだって不自然ではないと、少しは思えるようにもなってきた。
けれど、そこはやはり祖母や両親の手前もあるから、ずっと我慢してきたのだ。
ヤマトはそんな自分のことなど、想像もしないだろうが。
もともと年頃の男の子にしては性に淡白な方だと、自分でも思うから。
ヤマトもたぶん、そう思っているのだろう。
でも、そうじゃない時だってある。
今なら、たとえばこの狭い通路に押し倒されたとしても、それほど抵抗もせず、兄の思いのままに抱かれるかもしれない。
(むろん、本当にそんなことをされたらもちろん困るが。)
「アゥ・・・っ!」
突然にタケルがぴく!と震えて、ヤマトの腕を自分の股間から引き抜こうと身をよじった。
けれど、引っ張るというよりは逆にすがりつく形になって、タケルが小さく泣くような声を上げた。
既に固く張りつめて、兄の指を先走りの液で濡らしていたタケルのものから、ヤマトの指が離れて、その奥を開こうとしてきたからだ。
“イヤ・・・・”と消えいりそうにいいながらも、微かに腰を浮かせて受け入れる。
いきなり奥の方まで突き立てられて、大声をあげてしまいそうになる口を、ヤマトのキスが塞いだ。
あっという間に指が増やされて、知り尽くしたタケルの大好きな場所を責めたてる。
「う・・・・・あ・・っあ・・・」
唇と唇の間から、切ない声が漏れ、もうこのまま、すぐにでも達してしまいたいと思うタケルの耳に突然、前の扉から入ってきた車内販売の女性の声が飛び込んできた。
はっと我に返って、慌てて、怯んだヤマトの腕をひっぱり自分の身体から引き剥がす。
ずり落ちかけていたヤマトのコートを引き上げて、その下で服の乱れを素早く直した。
席の隣を通過していくのを見届けて、ヤマトが“残念だったな”と言わんばかりの顔でタケルを見下ろす。
タケルはぱっと赤くなると、席を立ち上がり、それからヤマトの顔を見ないようにしてその手をひっぱった。
「え?」
「・・・・トイレ、行くから。ついてきて・・」
小さく言って、なおも手をひっぱる。
え?と不可思議な顔をして立ち上がると、タケルの足元がふらりとよろつき倒れそうになったので、慌てて腕を回してそれを支えた。
そのまま、扉のすぐ向こうにある手洗いに向かうと、ばったり出会った車掌に心配げに尋ねられる。
「どうしたの? 気分悪い?」
「あ・・。ちょっと。大丈夫です」
小さな声でタケルが答えた。
その言葉にうなずいて、まだ少し気にしつつ自動扉の向こうに車掌が消えるのを確認してから、タケルをつれて狭い個室に入り鍵をする。
声をかけようとするなり、タケルがヤマトの首に腕を回して抱きついてきて、ヤマトは本気で驚いたようにそれを見下ろした。
「・・・騙された」
「え?」
「マジでキモチ悪くなったかと思った」
笑んで言うヤマトに、赤い顔をして上目使いにタケルが言う。
「そんなわけないでしょう・・」
「むしろ、その逆?」
「・・・・・」
「ヤりたくなったんなら、はっきりそう言えばいいんだぜ?」
「・・・・そうじゃないよ・・。ただ、指じゃ・・やだったんだもん・・・」
「同じことだっての・・」
含み笑いをしながら、ヤマトがタケルの腰に腕を回して抱き寄せる。
熱い息を確かめるように深く口づけた後、狭い室内の壁にタケルを追いこんで、もう一度口づけた。
それから、タケルのズボンと下着を足から抜いて、自分のベルトも緩めると、片足を上げさせて、その細い腰をヤマトの腕が抱え上げる。
「狭いもので、立ったままですが」
少しおどけて言う。
「うん、いい・・・。大丈夫」
「力、抜いてろよ」
うなずくなり、いつもと違う角度で、いつも以上の圧迫感でヤマトがタケルの中に押し入ってくる。
喉を上げて、それでも可能な限り力を抜いて、兄の侵入を受け入れるタケルの手がヤマトのセーターの背中をぎゅっと掴んだ。
「ア・・!! ア・・・ア・・・・」
痛みに思わず歪んだ表情を見て、ヤマトがそっと宥めるようにタケルの頬に口づける。
じんわりと、閉じた睫に涙が滲んでくる。
それでもヤマトが、ゆっくり深々と入りきると、タケルはほっとしたように息を吐き出した。
「苦しいか・・・? 後ろからの方がよかったか?」
とんでもないことを、耳元で低く囁かれる。
耳まで赤くなるけど、きゅっと唇を噛んで、目をかたく閉じて、タケルは微かに首を振った。
縋りつき直すように、再びヤマトの背中に回した手に、ぎゅっとそのセーターを握りこむ。
ヤマトが動き出すにつれ、次第にタケルのそれが切なげな表情へと変わり、セーターやシャツを一緒にたくあげられ、胸を吸われると小さく高い声を上げた。
感じやすい身体の奥のポイントをまっすぐに突き上げられて、早くなっていく動きに合わせて熱い息が弾む。
冷たい壁に背中を預けていると、その振動がなお深い快楽をタケルに与え、無理な体勢で抱かれながらも、タケルは車両の揺れと音に紛れて、押し殺した歓喜の声を上げ続けた。
何事もなかったように身支度をして席に戻ると、タケルの身体を支えるようにして座らせて、さも嬉しそうにヤマトがタケルの耳元で囁いた。
「すっ、げえ、よかった」
力を入れて言われて、真っ赤になってフイとそっぽを向く。
「おまえも結構・・」
最後まで言われないうちに、いつのまにか足元に落ちていたヤマトのコートを素早く拾い上げて、それをばさっと兄の頭に被せて言葉を遮る。
そして、反撃されないうちに、さっさと窓側に身体をもたらせかけるようにしてタヌキ寝入りを始めてしまった。
コートを直してそれを見ると、照れている弟が可愛くて、ついつい寝たフリをしている耳に、からかいを込めてこそっと言う。
「今年はなんだか、楽しみだな。いろいろと・・・。なんつっても新年早々コレだしな。タケルもやっと、ちょっとは目覚めてくれたみてえだし・・」
兄の言葉に、目をつぶったまま、どういう意味だろうかと考える。
「色々、挑戦してみるか」
(・・・挑戦・・って)
何に?
「教えてやるから」
(いいよ・・・教えていらない・・)
きっとロクなことじゃない。
「・・・・・だから」
眉間に薄く皺を寄せて、色々考えている風なタケルにヤマトが笑う。
「おまえさ。毎日、俺んとこ来ていいぜ? 溜まったら、俺がマメにヌいてやっから」
「ぬ・・・・・!」
「だから、もったいねえから、一人ですんなよな」
「な、な、な、な、何言ってんのーー!!」
同じ車両の寝ていた人を一人残らず叩き起こして、タケルがヤマトの言葉に憤然と立ち上がる。
そして、周囲の抗議するような目に合うと、はっと驚いたように゛あ、スミマセン”とぺこりと頭を下げた。
仕方なく、渋々兄の横に坐りなおし、ぎゅ、とその手の甲を親指と人差し指で怒ったようにつねり上げる。
“イテテ”と兄が声を上げると、タケルは少し仕返しできて満足したように、くすっと笑った。
その頬を、ヤマトの指が「こらっ」と笑ってつつく。
それに笑みを返すと、タケルはコートを掛け直して、また寝なおそうと兄の肩にもたれて目を閉じた。
今度はからかうことはされず、やさしい腕がそっとタケルの肩を抱いてくれた。
もう明日から3学期・・・。
お正月、あっというまに過ぎてしまった。
楽しかった・・・。
楽しい時間は短い。
飛ぶように時が過ぎていく。
今それを思うと、たまらなく切なくなるけれど。
眠くなってきた目をこすって、小さく欠伸を1つすると、それと一緒に涙が一筋頬を伝った。
それに気づいて、お兄ちゃんの手がそっとそれを拭ってくれる。
ちがうよ、泣いたんじゃないよ。
欠伸が出ただけだってば。
それより僕、たぶんこの調子じゃ、足ががくがくして歩けないと思うから、新幹線降りたら腕に掴まらせてよね。
あまり早く歩いちゃ、やだからね。
そう、ちょっと責めるように言うと、お兄ちゃんは涼しい顔をして、
おう、俺がおぶってってやるから心配するな。
と僕の頭をポンと叩いた。
・・・・嘘です。ちゃんと歩きます。
本当だよ。お兄ちゃん。
ねえ、本当だったら。
お兄ちゃんってば!
END
というわけで、お年賀SSでございました。
えと、オモテの「スクラップブック」に書いたSSの番外編というわけで、新年早々やっぱりめでたくやらねば!というわけでやってしまいましたです(笑) 痴漢のようなヤマトは何ですが、トイレに誘うタケルもタケル。というわけで、今年もこんな感じの兄弟を一年書いていくのでしょうか? 大丈夫なのか、私。
こういうコメントの後になんか真面目にシメるのもかえって失礼なような気もしますが。
本年もヤマタケに疾走するアイツウシンをどうぞヨロシクお願いしますですv 裏の更新もがんばります。 (風太)
★かわしまさんからイラストもらっちゃったいv でへへ・・v
サイトのSSにイラストつけるなんて、すごい夢だったのに、いきなり夢がかなってしまって、ちょっと錯乱してる風太です! かわしまさん、ありがとう!! え?小説の挿絵に使っていいなんて言ってない?? そう? いやいや、とにかくありがとう!(ごーいん)
借りはかえしますってばv もちろんカラダで、タケルの!
●イラストおっきくして見たい方はコチラvから。
『もしも明日が』にモドル
ウラTOPにモドル
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