■ 白昼夢
土曜日の午後。
とろけるように、弟とのひとときをベッドの中で過ごした後。
眠ってしまったタケルを起こさぬように、ヤマトは静かにベッドを離れると、身仕度を整えた。
昼下がりの陽の光が、カーテンの隙間から漏れて、けだるいような、まだまどろみの中にいるような、
奇妙な感覚に捉われる。
その背後で、小さく身じろぎをして、タケルがぼんやりと瞳を開いた。
「どこ・・・行くの?」
少し掠れた声が、追いかけるようにその背中にかけられる。
「起こしたか・・・? ちょっと買い物行ってくる。冷蔵庫の中、カラッポなんだ」
「僕も行くよ」
間髪入れずに言う弟に、ベッドに近づき、その耳元に小声で囁く。
「まだ、動けねえだろ・・・?」
その言葉に耳まで真っ赤に染めて“誰のせい?”と膨れる頬が可愛いくて、ヤマトはベッドに腰を
降ろすと、その頬にそっと口づけた。
くすぐったそうに身を縮め、くすくす笑いながら兄の膝に頭をもたげる。
「甘えても、いい・・・?」
「もう、甘えてるだろ・・?」
そう笑って、ふと思う。
確かに弟は、3年前に比べて格段に、甘えるのが下手になった。
小さい頃は、抱きついて、しがみついて、いつも泣いたり甘えたり笑ったりと忙しかった。
無邪気に、無防備に。
それが今は、少し遠慮がちになり、仲間と一緒の時には、大人びた表情さえ見せることがある。
成長の証だけではない、何かがタケルの心を拘束している。
離れている間に、その胸のうちにどんな変化が起こったのか。
そばに自分がいてやれれば、もっと守って、そんな子供らしからぬ顔などさせないのに。
何もかも一人で抱え込もうとしているような今のタケルが、強くて脆くて、ヤマトには切ない。
「ふぁ・・・・」
眠そうに両手で目をこすって、小さな欠伸をするタケルに、ヤマトがやさしく髪を撫でつける。
「眠いんだろ・・・? もう少し眠れよ・・」
その言葉に、ちょっと眉を寄せて見上げて、タケルが探るように言う。
「だって、寝ている間にお兄ちゃん、一人で行くでしょ? お買い物」
「行かねえよ」
「本当?」
「ああ、本当だって」
ヤマトの瞳をじっと見上げて、その包み込むような蒼い色に見つめられて、タケルは安心したように
微笑むと、そのままヤマトの膝で目を閉じた。
でも、すぐ疑わしそうな上目使いで見上げるタケルに、思わずヤマトが笑いを漏らす。
「信用ねえなぁ・・・・」
「そういうわけじゃあ、ないんだけどね・・・」
ヤマトの言葉に、悪戯っぽく小首を傾げるしぐさが可愛い。
そういえば、最近のこいつは、よくこういう顔をするようになった。
子供っぽいしぐさや表情。
それが、自分の前だけなのだとふと気がついて、何だか胸が切なくなった。
「なに・・・?」
「ん? いや、なんでもない。買い物は、おまえが一眠りしたら、それから一緒に行こう」
「うん! 約束だよ」
満面の笑みで頷く。無防備で、ヤマトにしか見せない子供っぽい笑み。
可愛いくて、たまらなく愛おしい。
守ってやりたい。今度こそずっとそばにいて。と、ヤマトの胸中が呟く。
心の中にある今までの淋しさや、堪えてきた涙も全部、俺が受け止めてやるから。
小さな額にキスをひとつ落として問いかける。
「タケル・・・・」
「お兄ちゃん?」
「眠ってしまう前に・・・。晩メシのリクエストは?」
「ん・・・と。激辛じゃないカレー・・・」
タケルの言葉に、ヤマトはくっくっと笑うと、軽く指先でタケルの額をつつきながら、それに答えた。
「・・・・・・了解」
初めて書いたヤマタケです!
お恥ずかしい;;
今読み返すと、このころから私の
書くヤマトはオッサン臭かったんだ
な〜と(笑)
タケルのこと、やたら可愛い可愛い
って言ってるもん。心の中で。
いや、まあ可愛いんですけどv
(風太)