バレンタインSS

          □■ アマイ・タメイキ □■


「うーん・・・」
鍋の中を睨みつけて唸ると、タケルはとりあえず醤油を大さじ一杯、とぽとぽとその中に入れてみる。
「あ・・・ちょっと入れすぎたかな? まあ、いいか。隠し味、隠し味」
それにしても変だなあ。
なんだか、どうにも物足りない味なのはいったい何が足りないのか・・。
よくわかんないけど、煮込んでいるうちに、きっと材料から味が染みだしてくるのだなと一人納得して、料理を続ける。
せっかくのバレンタインだし、チョコレート渡すだけというのも、なんだか味気ないし、いつも家事の大変な兄を助ける意味も少しはあって、タケルは学校が終わるとクラブもサボって、早々にヤマトの住むマンションのドアを開いていた。
ここのところ、母の仕事がたてこんでいて帰りが遅いため、ついに合鍵をヤマトの手から手渡され、兄の帰りを待って夕食をこちらで取って帰るというのが常になりつつあったから。
もっとも、いつまでもというわけではないのだけれど。
そう、母さんの忙しいときだけ。
だったら、ずっと忙しいといいなあ。
仕事してる時のお母さんは、大変そうだけど生き生きもしてるから・・・。
・・・なんて、都合のいいことを考えている自分に、ちょっと嫌気がさす。
なぜなら、ここにくる理由は、もちろんご飯だけじゃないのだから。
その気持ちだけで、もう十分、母を裏切っているのに、まだそれ以上を望む自分は、なんて親不幸なんだろう。
グツグツ煮える鍋を少し弱火にして、リビングの窓から暮れかかる空を見た。
「バンドの練習、休むって言ってたのにな・・・」
帰りが遅いヤマトを思い、少し胸を不安がよぎる。
なんといっても今日はバレンタインデー。
あのファンの多い兄のことだ。
どうせ、抱えきれないくらいのチョコをもらって帰ってくるだろう。
実際、マンションの郵便受けも、開いた途端にどさどさとチョコが落ちてきたし、扉の新聞受けからもチョコが溢れていた。
なかなか帰宅できない理由も、わからなくはない。
ちょっとうなだれて、窓ガラスを背にもたれかかる。
夕陽を背中に受けて、リビングの床に、タケルの長い影が伸びた。
その影に、兄の姿をみてしまう。
今頃、誰と一緒にいるのだろう?
だからといって、自分がヤキモチを妬くというのも変だ。
別に、自分達は恋人同士というわけでもないのだから。
お兄ちゃんの行動の、1つ1つを拘束できるというものでもない。

・・・・だったら。
   いったい僕らは何だろう?
   『恋人』でもなく、ただ『兄弟』というだけでもない。
   けれどキスだってするし、身体にふれあって、もっと深いことだ
   ってする。
   欲望のままに求めあうことが、いけないことだと知ってはいるけ
   れど、それをどうしたって止められない・・・。
   だのに、恋人にはなれない中途半端な関係・・。

いつも、考え出すと堂々巡りになるから、なるたけ考えないようにしているのだが、こんな日にひとりで兄を待っていると、どうしたって考えてしまう。
深い迷いの淵に考えが落ちていこうとした時、ふいに玄関の扉が開く音がした。
はっと顔を上げて、思わず走って玄関に向う。
「ただいま。遅くなって悪・・・・おいおい」
エプロン姿の弟に、いきなり玄関で抱きつかれて、驚いたようにヤマトが靴を脱ごうとしながらも、片手でタケルの腰を支えた。
帰宅してすぐ、靴も脱がせず、首にぎゅっとしがみつかれると、何をそんなに待っていたのかと、都合のいい誤解をしたくもなる。
「なんだよ? ここでしたいのか?」
「したいって何を・・・! お、お兄ちゃんの馬鹿!」
「いてっ! 冗談だろ、殴るな」
「殴られるようなこと言うからでしょ! 人が心配して待ってたっていうのに・・」
真っ赤になって、くるっと背を向けリビングに戻っていくタケルに、ヤマトがそれを追いかけて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
耳たぶに軽く噛み付くようにしながら、意地悪く囁く。
「へー、心配したんだ?」
「してない」
「今、言ったじゃん」
「事故とかじゃないかって、心配しただけです。 別にお兄ちゃんが・・」
言い終わらないうちに、後ろから顎を掴まれ、振り向かされて口づけられる。
「お・・・!」
「今日はさ。練習しねえっつってたのに、アイツラ1個でも多くチョコもらおうと欲張りやがって。急に2,3曲でも音合わせやっとこうとか言いだしてさ。それで帰りには、待ち伏せしてた女のコたちにもみくちゃにされて、もうクタクタだよ。・・・けど、おまえが心配してくれてたんなら、ちょっと嬉しいけど」
ヤマトの台詞に、「だんだん言い訳がうまくなってきた」と悪態をついて、ふと、その手に通学の鞄以外何も持っていないのに気づく。
「あれ? お兄ちゃん。もらったチョコは?」
タケルに言われて、ヤマトが得意げにそれに答えた。
「もらわなかった」
「え? もらわなかったの? どうして? 去年だって、すごかったじゃない」
「全部断った。俺は一個もらえりゃ充分だから」
余裕の笑みで、タケルを見て言うヤマトに、タケルがギクッとしたような顔をする。
「それにどっちにしても甘いものは苦手だし食えねえし。親父がいつも言ってんだ。゛食えないものには箸はつけるな”って」
ヤマトの言葉に、喜ぶかと思ったタケルは、ちょっとバツの悪そうな顔して部屋の隅っこを見た。
それを不思議そうな顔で見下ろして、タケルの視線の先にある大きな2つの紙袋を見ると、ヤマトが明らかに憮然とした表情になる。
「タケル」
「はい・・」
「・・・・おまえな。人が苦労して、チョコ断ってんのに、アレ何だよ?」
「あ、えと、京さんが持つの大変そうだからって手下げ袋くれて・・」
「袋じゃねえよ」
「・・・だって、お母さんはいつも“出されたものは、ちゃんと残さずいただきなさい”って言うもん」
「・・・そういう問題か?」
「・・・じゃないけど・・」
「タケル・・」
「あ・・。だって、去年だってこんなにもらわなかったし、最初にもらったの同じ班でよく話すコだったし、断れなくて、つい・・。けど一個もらっちゃったら、他のコもらわないのも悪くなってきて・・・。それももらってたら、なんか休み時間になる度に分刻みで呼びだされて。気がついたら、こんなになっちゃってた・・」
「あ、そ。色男はツライよな」
「お兄ちゃん・・ 怒んないでよ」
「怒ってねえけど。別に」
「だってー。いいじゃない。どうせ義理チョコばっかりで、本命チョコなんか、もらえっこないんだし・・」
「どうしてだよ?」
「どうしてって・・。誰も本気で僕のこと、好きなわけじゃないと思うから。だから、お兄ちゃんがもらうのとは訳がちがうよ・・」
なんとなく言い訳がましく、けれど何に言い訳しているのか自分でもわからなくなってきて、次第に声が小さくなるタケルに、ヤマトが「やれやれ」というように、タケルの髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「じゃあ、その俺は、いったい誰のためにチョコを全部断ってきたんだ?」
゛あ・・”というと少し頬を染めるタケルに、肩をすくめて軽くキスをして、「ま、どうせ俺も本命チョコなんてそんなにもらうことねえけどなー」と言いつつ、タケルの身体を離すと、コートをかけに自室へ行き、ベッドの上に鞄を放り出す。
着替えは後回しにして戻ってきて、ふとキッチンにある2つの鍋に気づいた。
「吹いてるけど」
「うわあ」
「料理してくれてたのか?」
「え、えと。うん」
「へええ、おまえが」
「へええって、何? 少しは料理くらいできるようになったんだから」
「どれどれ」
いったいどんなものが出来たのやら、と。楽しそうに不安そうに鍋を覗いて、思わず絶句する。
それから、ちょっとひきつりながら微笑んでタケルを見た。
「え・・と。今夜のメニューは何・・だ?」
「きのこのブラウンシチューとミネストローネ」
自信たっぷりに言われて、ヤマトが困惑する。
(ど・・・・どっちがシチューでどっちがミネストローネなんだろう・・。なんで同じ色してるんだ?? それにメニュー的に、どっちかだけでいいような気も・・・)
「あ。タケル。しめじ、石鎚取ったか?」
「・・・石鎚? 何ソレ?」
「あ・・・いや、何でもない・・。俺が悪かった」
「?」
洗濯、掃除はそこそこOKだし、気もつくし、何といっても可愛いし、まったく、これで料理の腕さえ上がれば言うことなしの『弟』なんだけど。
いや、上がればなんて贅沢は言わない。
とにかく、インスタントでもいいから食えるもんさえ作ってくれれば・・。
「おなかすいた?」
無邪気に尋ねるタケルに、にっこり笑って首を横に振る。
「いや」
「あとでいい? じゃあ、先に着替えてくれば?」
「それもあとで」
「じゃあ、何から・・・ うわっ」
相談しようと近づくなり唐突に抱き上げられて、リビングの絨毯の上に引き倒されて、タケルが驚いたように抵抗する。
「ち、ちょっと待って! ちょっと、ねえ! 待ってったら、待っ・・・!」
抗う腕を開いて押さえつけ、ヤマトが上からのしかかってくる。
エプロンを外して、タケルのズボンからシャツを引き出して、露になった肌に待ちきれないように手を這わせる。
最近、時々、こういう時がある。
ゆっくり話でもしようと思うのを許してもらえず、とにかく待ちきれないといった状態で求められる。
中学生の兄の性と、まだ何もかも目覚めたばかりの自分の幼い性とでは、歴然とした差があると思い知らされる時が。
「お兄ちゃ・・・・ いや、だって、ば! 待って・・・・ ア・・!」
唇をキスで塞がれて、上に伸びてきた手に胸のあたりを触れられると、ぴくん!とタケルの上体が跳ね上がった。
「ア・・・・・ やめて、お兄ちゃ・・・! おねが・・・」
首筋に舌を這わされ、胸の突起をいじられて、息を乱しながらも、なんとかその腕を逃れようと身をよじる。
今日はそれなりに、想いを伝えるためにここにきたのだ。
だから、こういう風になし崩しにされるのは、タケルはどうも嫌だった。
いつもとちがうタケルの抵抗に、ヤマトが熱い息を吐き出しながら、早くその身体を欲しいままにしたい気持ちをかろうじて堪えて、少しばかり押さえつける手をゆるめる。
「なんだよ・・」
声に、隠しようのない明らかな不機嫌さが出てしまう。
普段は、カッコつけてはいるけれど、考えることといえば同じ年のオトコと同様そんなコトばかりなのだから、いざこれからという時に歯止めをかけられると、さすがに苛立ちを隠せない。
「ごめん・・ お願い、ちょっとだけ・・」
「だから、なんだよ」
せかすように言うヤマトに、タケルは衣服の乱れたままで、ずるずると床の上を移動し、ソファの上に置いてあったランドセルの中から小さい箱を取りだした。
それを、ちらっと上目使いに兄を見ると、黙って差し出す。
「え・・?」
「バレンタイン、だし」
「おまえから?」
「オトコからもらっても、きっと嬉しくないだろうけど」
「いや、そんなことねえよ」
でも別にしてからでもいいじゃん、と本音を吐き出しそうになるのをさらに堪え、のびた髪を邪魔くさそうに掻きあげながら、ソファに腰かける。
タケルがおずおずと、兄の手にそれを手渡した。
手馴れてないラッピングに、店でしてもらったのじゃないとすぐにわかるけど、一生懸命丁寧に包んだというのは見て取れるから微笑ましい。
包装紙を破らないようにそっと開けると、小さな箱の中には手づくりらしいチョコレートが入っていた。
ヤマトがそれをじっと見、ちらっとタケルの顔を見て、それからどうリアクションしたものかという顔をする。
(テニスのラケット・・じゃあねえよなあ・・・。ってことは・・)
ああ、そうかと思い当たって、思わずクク・・ッと笑いが込み上げてしまう。
間違っても、こと料理に関してはお世辞にも器用と言えないタケルが、本でも見ながら必死でチョコを溶かして、ベースの形に(たぶん・・・)してくれたんだろうと思うと、あまりに可愛くて笑わずにいられない。
絨毯の上にぺたりと坐ったまま、心配そうに見上げているタケルの顔が、そんなヤマトの様子に、見る見る真っ赤になっていく。
「笑うかな・・。人がせっかく・・」
言いかけて、怒ったように立ち上がる手を素早く握り締めて、ヤマトがぐっと引き寄せた。
兄の膝の上に抱き寄せられる格好になって、タケルは、逃れるように慌てて身を引こうとした。
「ありがとう。嬉しいよ・・」
その膝から降りようとした瞬間に耳元で甘く囁かれて、どきんとしたようにタケルが身を固くする。
しっかりと腕に抱きしめられると、抗う力を失ってヤマトのやさしいキスをうけた。
「大変だったろ」
「え・・ううん。そんなことないけど」
言って、自分の手の中に握り締めたタケルの手の指に、小さな水ぶくれを発見して、はっとなる。
チョコを溶かそうと湯煎した時にでも、やけどをしたのだろう。
そこにもそっとキスをして、今度は頬に口づける。
「ありがとうな・・。すげー嬉しい。他のチョコ、全部ことわってきた甲斐があった」
「お兄ちゃん・・」
「食っていい?」
「え、うん。」
少し不安そうなタケルを前に、形を欠けさせてしまうのが何だか申し訳ないような気になりながらも、カリッと歯で割ってそれをほおばる。
甘さに歪むはずのヤマトの顔は、ちょっと意外そうな表情でタケルを見た。
「へえ、ブラックチョコじゃん」
「甘いの、苦手だって」
「ん。いや、これくらいなら平気だな。美味いよ、なかなか」
「よかったぁ」
「おまえも食う?」
「え?」
言うなり、タケルの頭の後ろに手を回して、髪に指を滑らせながら、そっと引き寄せ唇を合わせる。
甘さと、ほろ苦さのまじったキス・・。
「ん・・・」
離して、合わせて、もう一度深く。
「お兄ちゃん」
キスの合間に、呼ぶ声が少し笑う。
「まだ、肝心なこと言ってない・・んだけど」
「ん?」
「告白させて・・よ」
「あ・・」
“そうか”と、納得して、ヤマトがキスを休んでタケルを見る。
どうもいけない。今日は我ながら、本当に特別格別余裕がない。と心の中で苦笑する。
早くふれたくて、早く深くふれたくてたまらなくて。
こういう”好き”は、まだタケルには早いのだからと、何度も自分に言い聞かせてきたのだが、一度一線を超えてしまえば、いつでもどこででも、許される限り触れて自分のものにしていたい。
健全な中学生の男子なら、そう考えても少しも不自然ではないだろう。
ただ、哀しいかな、その相手は実の弟で、しかもまだ小学生だ。
だから、「自粛・自制」と呪文のように頭の中で繰り返して来たはずなのに、どうも昨今ソレすらヤバイ。
そんな兄の胸中も知らず、ソファに腰かけるヤマトの足を跨ぐ形で向かい合い、その足の上にちょこんと坐ってタケルが言う。
大きな蒼い瞳が、一途な想いで兄を映している。
最近、このまっすぐな瞳が眩しすぎて、ヤマトはつい目を反らしてしまう。
多分、自分の瞳の蒼はきっと、こんな風に澄んではいなくて、欲望に曇っているだろうから。
「お兄ちゃんが、好きだよ」
迷いのない澄んだ瞳が、少し怖い。くらいだ。
上気する頬を両手でやさしく包み込んで、その瞳をかろうじて反らさず見つめかえして、問うように言う。
「その答えは、1ケ月後・・か?」
え・・・っと躊躇する声が返ってきて、少し間を置いてから、「うん、それでいい」と答える。
ここですぐに、ヤマトからの答えがもらえるものと思っていたから、少し困ったような顔をする。
ヤマトには、それが不思議でならない。
今更、何を不安がるんだか。
逢う度に、しつこいくらいに想いを口にしてきているのに。
こんな風に求めるのも、その証のようなものなのに、タケルにはまだ理解し難いことなのだろうか。
ヤマトは当然のこととしてそう思うけれど、タケルはやはり不安だった。
兄に求められて、自分がそれに答えられているのかどうかさえ、自信がなかったから。
・・今、返事がないことに、何か未来を暗示する含みはあるのか・・?
だいたい、身体を合わせるくらいの深い間柄というのに、実際は、恋人とは誰に認められることもない不安定な関係の自分たちなのだし。
約束も、誓いもなく、何一つも未来を指し示すものもないのだし。
「タケル?」
「ううん、なんでもない・・」
小さく首を横に振って、それから少し考えて、意を決したように兄の耳元に唇を寄せ、何事かを消え入るような声で囁く。
ヤマトが、ぎょっとしたような顔をした。
「えっ・・」
聞き間違えたか?という顔に、タケルが耳まで真っ赤になって、それからヤマトの膝を降りて、ソファの下に屈み込む。
子供の背伸びだと思われても、構わない。
どこかを、ほんの少しだけでも対等にしてみたいだけ。
ちらっとヤマトを見上げ、まだ驚きを隠せない兄の制服のズボンのファスナーに指をかける。
「おい・・」
無理すんなよと言いかけて、思わず息を飲んだ。
ファスナーを下ろして、兄のそこに顔を埋めて、ぎこちなく唇を這わせる生々しい感触が、ヤマトの脳神経を直撃する。
どくん!とタケルの口の中でヤマトが脈打ち、タケルは少し怯えたように肩を震わせた。
自分からすると言ったものの、正直どうしていいかわからない。
いつも同じことをヤマトにしてもらっているのに、恥かしさと快楽に我を忘れて、どこをどうされているのか、どんな刺激を受けているのかすら思いだせない。
それでも、懸命にそれに舌を絡めるタケルの唇は赤く湿っていて、ひどく艶めかしかった。
その姿態を見ているだけで、達しそうになる自分自身をなんとか戒め、いとおしむように金の髪を撫でてやる。
「・・・・・・・く・・っ」
ヤマトが苦しげにうめき、喉の奥で兄のものがさらに固く膨張してくる気配に、タケルが怖がって背中を震わせる。
その瞬間、ヤマトの手に髪をまるでわし掴むようにして、そこから引きはがされた。
思わず、ケホっ!とむせて、生理的な涙が片目だけ頬を伝う。
どうしたと問う間もなく、ソファの上にひっぱり上げられ、薄手のセーターを脱がされ、あっというまに下肢も裸にされてしまう。
「お・・兄ちゃ・・・!」
怯える間もなく、先ほどと同じように、ヤマトの上に跨ぐ格好で向かい合い、それから強く腰を引き寄せられた。
「ア!! アアァ・・・・・ッ!」
まだ何も解されてもないのに、初めての形で強引に突き立てられて、苦痛にタケルの身体がのけぞって跳ね上がる。
それを許さず抱き寄せて口づけると、繋がったまま、ヤマトの指がもどかしげに、タケルの白いカッターシャツの胸を開いた。
「あ・・・ア・・! ・・・・うっ・・・・はあ・・あ・・・っ」
露になった胸の薄桃色に舌を絡めて、タケルの欲情を誘う。
悲鳴のようだった声に、揺り動かされているうちに甘さが加わり、細い腰を抱き寄せながら、もう片方の手が幼い性を煽っていく。
不安定な体勢のままヤマトの首にしがみついて乱れ、やがて思いきり胸を反らすと、タケルは兄と同時に高みへと昇りつめた。


いつのまに気を失っていたのか、はっと目をさますと、ソファの上に毛布を掛けられて寝かされていた。
身を起こそうとすると、身体の奥がいつも以上に痛んで、慌ててまた横になる。
「お兄ちゃん・・・・?」
姿の見えない兄に不安になって小声で呼ぶと、洗面所の方からそれに答える声が聞こえた。
ほっとして、全身から力が抜ける。
エプロン姿の兄がタケルのそばに来て、頬に1つキスを落とした。
「痛むか? ごめんな・・」
そうストレートに聞かないでほしい、どうせ答えられないんだからと赤面して、タケルが黙ったまま毛布を引き上げる。
「ズボン、今、洗濯してるからな。洗い終わったら乾燥機かけてやるから、帰るころには乾くだろ」
「え・・・?それって僕の?」
「アセって片足しか抜かなかったから。それと俺の」
どんなふうに、どんなことをして、そうなったのかを頭で考えて想像して、かああぁ・・と赤くなる顔を毛布の下でさらに手で隠す。
「あ、シチューな。けっこういい味になってたぜ。おまえ、ちょっと料理できるようになったじゃん?」
その言葉に、ぱっと毛布の中から顔を出す。
「本当?」
「ああ。タケルにしちゃ、上出来。やっぱしめじは石鎚のまま入ってたけどな」
「そう? あ、ミネストローネは?」
「え? あ、ああ・・・ あっちはなかなか、普通には出せねえ微妙な味で・・・・」
「うー」
「唸るなって」
笑いながら、ヤマトがソファの端に腰掛け、唇に軽く口付ける。
ああ、いつもながらの、甘いキス・・・。
・・よかった、あんなことをしたから、嫌われたかと思った。
我ながら、よく出来た。と思う。
それなりに、自分なりに、今日という日に必死だったから出来たんだろう。
とにもかくにも、想いを伝えねばならない日だったから。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「好き」
「さっき聞いた」
「もお」
また笑う。
答え、欲しいよ。本当は今すぐ。
言いたいけど、言えない。
今もし、願いとは違う答えを聞いたとしても、まだ身体に甘い疼きがあって、起き上がって逃げ帰ることさえ出来ないのだし。
まだ、いい。もう少し。
あと1ケ月。
同じ思いでいるのだという、幸せな幻想の中にまだいたいから。
お兄ちゃんは、ずっと自分の傍にいてくれるのだと、不確かな未来にさえ、そう思わずにはいられないから。
黙ってしまったタケルに、またやさしいキスが降ってくる。

幸せだ。少なくとも今は。
ひどく。

そしてまた、会えない明日から、タメイキの日々が始まる。
ただの兄弟でもなく、ふつうの恋人でもない。
堂々巡りの思考は、とどまることを知らない。
少しだけすれ違っている想いと、
少しだけ歩む速度の違う恋。


ユウウツなタメイキと、
アマイタメイキの日々の中で。
この想いは、いったいどんな風に育っていくだろうか・・・。



END




なんのかんの言いつつ、どうにかバレンタインに間にあったよお。
よかった、よかった。
せっかくのバレンタインなので、いつものオヤジモードは捨て去り(?)、青臭いヤマトに挑戦してみました。一部オヤジ入ってますけど、まあ少しはいたしかたない。
少し想いのズレあってる兄弟を書いてみたかったのですが、どんなもんでしょ? 今回ちょっといろんなこと(?)に、私なりに挑戦してみたのですけど、努力の片鱗は窺えるでしょうか?
タケルから・・というのもまた萌えかと。ダ、ダメですか? (風太)


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オモテtopにモドル