Cherry
緑色の液体が炭酸に溶け、心地良い音を立てる。 「はい、銀ちゃん」
「有難う〜!夏実ちゃん!」 目の前に出されたそれに、銀次の視線は釘付け。 「アイスも乗せました〜」 「クリームソーダーだ〜」 ニコニコ笑顔で答え、銀次は両手万歳。 夏実もその笑顔に答えながら、もう一つのオーダーであるコーヒーを銀次の隣に置く。 新聞を読んでいた蛮は、サンキュウ。と答え、また元の位置に目線を落とす。 「銀ちゃん、銀ちゃん」 「んっ?」 長いスプーンをしっかりと握り、アイスクリームを食べながら銀次は顔を上げる。 「さくらんぼ。食べました?」 「ん〜、まだ。下に入っちゃった」 スプーンでさくらんぼを取り上げ、銀次は枝を指で挟む。 「はい、銀ちゃん食べてください」 ニコニコ笑顔で言われ、銀次は流されるままにそれを口に含む。 ガサガサと蛮が新聞を捲る。 モグモグと銀次がさくらんぼを食べる。 何とも奇妙な光景に、波児は注文されたピザを作りながら、横目でチラリ。 「んっ・・・食べたよ?」 「ふふふっ。では、残った枝がありますね?」 人差し指を立て、夏実は笑顔を一つ。 「う、うん」 「口の中で舌を使ってそれを結んでくださーい」 「む、結ぶ・・?ん、うん」 首を傾げながら、夏実の言った通りに枝を結ぼうとするが、中々上手くいかない。 むっ〜。と唸りながら、銀次はがんばる。 「銀ちゃん、がんばれっ!」 「う、うん」 可愛い女の子のお願いなら、どんな事でも叶えてあげたい。と瞳を輝かす愛の戦士は、 とにかくがんばる。とにかくがんばる。 ・・・・・だがしかし、世の中、そんなに甘くない。 「出来ない〜!!蛮ちゃーん!!」 一生懸命にチャレンジしたせいか、真っ赤になった頬のまま、銀次は手を伸ばし、蛮の読んでいる新聞紙をぐしゃ。と掴む。 「おいっ、読めねぇだろうが!バカ銀次」 「ねぇ、蛮ちゃん!結べないっ!!」 「知らねぇよ。離せよ!」 「ヤダっ!!」 頑なに新聞紙を握り締める銀次に、蛮は諦めの溜息と同時にそれを畳む。 「なんなんだよ・・・」 「これ、結べない。蛮ちゃん、出来る?」 舌の上に枝を出し、蛮に訴える。 「ったくよぉ、てめぇは・・・」 ブツブツと文句を言いながら、蛮は指を伸ばしそれを掴む。 「簡単だろうが」 己の口にそれを放り込み、何度か口を動かす。 期待満々の顔で自分を見つめる、銀次と夏実の視線に苦笑しながら、口の中の結び目を舌で確認して、それをもう一度指で取り出す。 「ほら、出来たぜ。銀次、舌出せや」 言われたままに素直にペロっ、と舌を出したそこに枝を置く。 「うわ〜、蛮さんっ。すごいです〜」 驚きながらニコニコと喜ぶ夏実の反応に、銀次は指でそれを取り見つめる。 「すごーいっ!!蛮ちゃん、スゴイっ!!」 「しかも、結び目が二個ですよっ!」 「うんうん。蛮ちゃん器用なんだよ〜」 夏実の言葉に、自分の事の様に喜ぶ銀次に、その光景を見つめていた波児は小さく笑う。
「で、夏実。これが何なんだ?」 新聞を読む事は諦めらしく、蛮は目の前のコーヒーに手を伸ばす。 「そ、そうなんですっ。えーっと、学校のお友達に聞いたんだけど、さくらんぼの枝を結べる人は・・・・」 そこで一端言葉を切り、夏実は細い指を唇に当てニッコリと笑う。 「キスが上手なんです」 その言葉に反応したのは銀次。 瞳を大きく見開き、うわ〜。と声を上げる。 (よくある話しじゃねぇか) 口には出さず、蛮はコーヒーを飲む。 「って事なので、蛮さんはキスがとても上手って事ですね」 首を傾げ、ふふふっ。と笑えば、何故か言われた本人よりも焦っている人物が居る。 「な、な、夏実ちゃん!」 「なんですか?銀ちゃん」 「・・い、いや。な、何でもないけど」 真っ赤になっている銀次を見つめ、蛮はニヤリと笑う。 「なぁ、銀次。どうなんだよ?」 「へっ?」 蛮の問い掛けが分からず、首を傾げれば、とても男前の顔が自分に近づいて来て、思考がうまく纏まらない。 至近距離の綺麗な瞳に見つめられ、息すら止まりそう。 「俺様のこれは、どうよ?」 煙草の香りが染み付いている指で唇に触れられ、銀次の頬が真っ赤に染まる。 夏実や波児の手前、答えられる筈もなく。 「し、知らないっ。な、何言ってんだよっ!!蛮ちゃんっ」 「ふーん。知らないねぇ」 蛮は一端近づけた顔を元に戻し、テーブルに置いた新聞を開く。 頬に手を当て、自分を落ち着かせる様に残りの炭酸を喉に通す。 「銀次」 新聞を広げながら蛮はチラリと視線だけを銀次に投げ、名前を呼ぶ。 「・・・・んっ?」 ストローから口を離し、まだほんの少しだけ赤い頬のまま銀次が答える。 視線が交わり、銀次の大好きな男前が唇の端を上げ囁いた。
「今夜、教えてやろうか?」
戻り掛けた頬が、さくらんぼと同じ色に染まった。
2003.0302 Ichigo
Arimura FreeNovel GetBackers/TheVampireBlue
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