BathRomance

       注;このお話の二人は、家持ちです。




正月から五日目、まだまだ正月番組で賑わうテレビの画面を眺めていた蛮がふと思い付い
た様に口を開いた。
新年の挨拶にでも行くか。
と言い出した蛮の言葉に、こたつに入ってむしゃむしゃとミカン食べていた銀次はコクン
と頷く。
「てめぇ…食いすぎだぞ。正月太りなんてしてみろ。ただじゃおかないからな」
年の初めから恐ろしい眼光で睨んで来る蛮に、銀次は引き攣りながらも頷く。
ジャケットを着込む蛮の後ろで、銀次は茶色のダッフルを着込みグルグルとマフラーを首
に巻く。どうにも寒いのは苦手だ。両手にしっかりと手袋をして玄関を出る。
「雪だるまじゃねぇんだからよ…ったく」
鍵を閉めながら蛮はブチブチと文句を言うが、銀次は何度も首を横に振って、絶対にこの
カッコじゃなきゃ外には出ない。と無言で主張する。
「……行くぞ」
カンカンと音を立てながら、アパートの階段を下り、少し離れている駐車場に向う。
スバルに乗り込み、蛮は波児の店を目指す。
「明けましておめでとう〜。夏実ちゃん、今年もよろしくね」
元気よく扉を開け、銀次はニコニコと挨拶を交わす。
そこには、何時もの様に新聞を広げた波児と冬休みのため私服姿にエプロンをしている夏
実が皿を拭いている。
「おめでとうこざいます。今年もよろしくお願いします。蛮さん、銀次さん」
ペコリとお辞儀をする夏実に連られ、銀次も頭を下げる。
「よぉ、今年もよろしくな」
「今年の目標は立てたか?」
波児の質問に、銀次は首を傾げる。
「あぁ?なんだそりゃ」
蛮の返答に、波児は新聞からチラリと二人に視線を投げる。
「この店のツケを払う。っていう目標だ」
「今年の目標にしては、ちゃちくせぇんじゃねぇか?」
定位置に座り、蛮はジャケットを脱ぎ煙草を銜える。
「そういうセリフは、しっかりとツケを払ってから言うんだな」
「へいへい」
去年と変わらない二人のやりとりに、銀次と夏実が同時に吹き出した。
ツケではないコーヒーを飲みながら、蛮は新聞を、銀次は夏実の行動を楽しそうに見つめ
ている。
「ねぇ、ねぇ、夏実ちゃん。何作るの?」
「七草粥です。本当は七日なんだけど、明後日は学校始まっちゃうし、今日スーパーで材
料が纏まって売ってたから。つい買ってきちゃいました。二日早いけど、折角だから。ね
っ、マスター」
無言で頷くマスターにニコリと微笑みを返し、材料を袋から取り出す。
「七草粥?お粥って事なのかな」
「はい」
まな板を取り出し、夏実は突然包丁でそこを叩き出す。
「………四、五、六、七」
数を数え、材料をまな板の上に置く。
「七草なずな、唐土の鳥が日本の土地にわたらぬ先に、七草なずな」
と、その言葉もまな板同様、七回呟く。
「な、夏実ちゃん!それ何、何で七回なの」
カウンターに乗り出し、銀次が興味津々と言った顔で質問を繰り返す。
「家ではこうやって作るんです。意味なんてあんまり考えた事ないけど。なんでだろう?
不思議ですよね」
ふわり。と笑い、材料を切り始める。
銀次の中に溢れた疑問は、ムクムクと大きくなっていき。両手をぎゅ。っとして首を横に
向ける。もちろん、その視線の先は……蛮だ。
「蛮ちゃん!どうして!」
その声に、蛮は軽い溜息を付き、新聞を大雑把に畳む。
こう言う時の銀次は、どんなに蛮が無視をしても食い下がらない。
謎を解くまでは。
(俺は、なんでも博士じゃねぇぞ)
そう腹の中で毒付いても、ついその大きな眼差しで問い掛けられ、答えれば、零れるばか
りの笑顔で、蛮ちゃん、すごいっ!と両手を叩かれれば、所詮は惚れた弱み。
蛮は自分の不甲斐なさに苦笑しながらも、毎回つい答えてしまう。
「古代中国から伝わる年中行事で、日本では平安時代に普及したんだ。まぁ、桃の節句や
七夕みてぇなもんだな。さっき、夏実が言ってた言葉は、本来なら、鳥追いという意味で
な、年の初めに農作物に被害を及ぼす鳥を追い払っぱらい、豊年を祝う行事だったものが
新年の七草粥と結びついた。っていうのが大体の理由だと思うぜ」
成るべく分かりやすく説明したつもりだが、夏実はともかくとして、どうやら隣の相棒に
はチンプンカンプンの様だ。
「う、うん。何となく分かったよ。有難う、蛮ちゃん」
「嘘付け」
鋭く返せば、えへへ。と笑う。
脳天気な笑顔を見つめながら、蛮は何かを思い出す。七草について引っ張り出した雑学の
中にもう一つ意味があった事を。
「なぁ、銀次。七草にはもう一つ重要な言い伝えがあるんだぜ」
「言い伝え?」
「あぁ、どうだ。試してみるか?」
「試すって…お粥食べるって事じゃないの?」
「食い意地の張った奴だな、てめぇは」
「むっ。悪かったね」
「いいから、とにかく試して見るか?損はしねぇ」
「う、うん。どうすればいいの?」
ムクリ。と立ち上がった蛮の悪魔の角に気付かず、指でちょいちょい。とやられ、銀次は
素直にその口元に耳を持っていく。
「・・で、家に帰ったら……、一緒に……んだよ」
「な、ななな、なんでっ!別々でもいいじゃん」
「バーカ。一番最初じゃなきゃ意味がないんだよ。同時にするしかねぇだろうが」
「だ、だだだって…恥かしいし、そ、そんなの」
「今さらだろうが」
「だって、まだ外明るいしっ」
「あぁ?うるせぇな。とにかく試すって言ったんだからな」
鍋に材料を放り込みながら、グツグツと煮える七草粥を見つめながら、夏実は二人の中途
半端にしか聞こえない会話に首を傾げる。
波児は、あいかわらず新聞から視線を反らさず苦笑。
「もうっ!蛮ちゃんのスケベっ。今年も一年スケベ決定だよ!」
真っ赤になって叫ぶ銀次の声と共に、今年も変わらない一年が始まる。
 
 2003/0104 GetBackersNovel Ichigo Arimura 「TheVampireBlue

 

*七草を入れ立てた「七草風呂」の一番湯に入るとその人は
    その一年は病気知らずと言う言い伝えがありましたとさ。



「TheVampireBlue」 有村苺さまから、お年賀としてフリーSSをいただきました・・! 
ひゃー素敵です!!!
いつもながら有村さんの蛮ちゃんは大変にオトコマエで、銀ちゃんでなくても惚れてしまいますよねーvv 博学さも板についてて、もう本当にカッコいい! 
そして、そんな蛮ちゃんを頼りにしている銀ちゃんもとても愛らしいですv 
きっと世の中のわかんないことは、全部蛮ちゃんにきけばいいんだ〜vと思っているのですよねー。 「蛮ちゃん! どうして!」が、とってもとってもカワイイです! 
そして、そんな風に頼られると、結構ワルイ気はしねーなと思ってる蛮ちゃんがまた素敵v 
ああ、でも、家持ちっていいですよね! 好きなときにお風呂にも入れるし!
でも、オトコ二人で一緒に浴槽にはいるには、かーなり密着していないとキツイかなーv ふふふふ・・・v
新年早々、どっぷりと素敵な妄想に浸らせてくださって、ありがとうございますv 
有村さんの書かれる文章は、説得力があって、しかも端麗でやさしいのでお手本にしたいといつも思って拝見しています〜vv
今年も有村さんの小説を心の糧にして生きていきたいと思いマスv 
本当にありがとうございましたv(風太)