■ 愛ノ プラズマ
「おーし、今日こそ行くぜ、銀次・・!」
「オッケイ蛮ちゃん! どんとこい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ボカ!!
「わーん、なんで殴るのー!」
「そうじゃねえだろ、そうじゃ!!」
・・・確かに。
せっかく来たラブホテルで、ベッドをはさんで上半身裸でファイティングポーズをとっている銀次は、何か間違っている。
なんとなく・・・今回も目標達成はナシか?の嫌な予感が蛮の脳裏をかすめる。
奪還の成功率と依頼率は赤丸急上昇中だというのに、コッチの方が失敗続きなのは、いったいどういうわけだ。
構いやしねえ、コイツと一線越えてやろうと決めてから、それが結局越えられずにどんだけ経っただろうか。
それもこれも、こいつの特異体質のせいで・・。
今度こそ、しくじらねぇぞと決意を新たに、あまりゴチャゴチャやってないうちに、とっとと「その」体勢に持ち込んでしまえと、蛮が銀次の首ねっこを捕まえて、とっととベッドの上に転がす。
とりあえず寝技に持ち込んで・・!
(この時点でもう、何かはきちがえている気もする・・。)
「ねー、蛮ちゃあん」
「なんだ?」
答えながらも、組み敷いた銀次の身体の上に馬乗りになる。
「ずっと前から聞きそびれてることがあんだけど・・・」
「うっせえな! 今、それどころじゃないから後にしろ!」
「でもね、蛮ちゃん・・・」
「いいから、だーってろ!」
「うん・・・」
黙るけどさあ・・・。
でも一応、聞いておいた方がいいと思うんだけど・・・。
思いながら、上を見ると、自分自身と目が合ってどきっとする。
(また、鏡だ・・・。これってどこのホテルもそうなのかなー・・・。それとも蛮ちゃんの趣味なのかなー。お風呂とかも透け透けなんだけど、うわ、トイレもだあ! このホテル作ったヒト、趣味悪いよー。ま、選んで来る蛮ちゃんも蛮ちゃんだけど・・・。あ、カラオケもある・・。あれって、お金いるのかなー。でもオレ、どんな曲があんのか全然知らないや・・・。冷蔵庫の中、飲み物だけかなあ。お腹減ったなあ・・。食べるものは入ってないのかなあ・・・・)
「・・・・・・と」
そこまで考えて、自分の身体を撫で回していた蛮の手がいつのまにか止まっていることにやっと気づくと、銀次はおそるおそる自分の上にのっかっている蛮に視線を移した。
「ば、蛮ちゃん・・・」
「てめえ、銀次・・・・! いい度胸じゃねえか・・・!!」
銀次を見下ろしている蛮の顔は、蛇咬を繰り出す寸前の殺気に満ち満ちていた。
ボキボキ!と右手に力が込められて、骨が音をたてている。
「うわあぁぁ、蛮ちゃん、殺さないでー!!」
「うるせえ! てめえよくも、この美堂蛮さまにいただかれるっつー光栄に預かれる時に、ぼけっと考え事なんかしてやがったなああ!!! 余裕ぶっこいて後で泣くんじゃねえぞー!」
「だって、だって、蛮ちゃん!」
「だってもクソもねえ!」
「だって、なんか別のこと考えてないと、オレ、また気持ちよくなっちゃって・・!」
「あ゛ぁ?! 気持ちよくなりゃいーじゃねーか、そのために来てんだからよ!」
「でも・・・・。また電撃しちゃうもん・・」
「は?」
「前みたく、キモチよくなって、わけわかんなくなって、そしたら、我を忘れて電気出ちゃうしー」
だからキモチよくなったら、普通健康なオトコなら出るもんは電気じゃなくて精・・・・!と怒鳴りかけて、蛮が思わず怒鳴るのをやめた。
ベッドの上にちょこんと座る銀次が、ちょっとしょぼんとしていたからだ。
「おい・・」
「ごめんね、蛮ちゃん」
「あ゛? 」
「オレだって、蛮ちゃんと「したい」と思ってるんだけど、なんかどうなっちゃうのか、ちょっと怖いっていうか・・」
この「怖い」はそういうことをすること自体に経験がないから「怖い」のか、「蛮ちゃんを感電死させてしまいそうで怖い」のか、どっちだろう・・?
蛮が考えて、頭を抱える。
ま、たぶん、どっちもなんだろう。
あっさり答えを出して、またしょぼくれている銀次の肩を、隣に座ってぐいと乱暴に抱き寄せた。
「別によー。おめーの電撃なんざ、しょっちゅう見てるし何度もシビレさせられてんだ。もう慣れっこだしよ、大したこたぁねえさ」
「蛮ちゃん・・・」
「死にゃあしねーから、ま、安心してキモチよくなれっての。おまえは何も心配せずにイイ子で目つぶってりゃーいいんだよ」
「うん・・・」
「そのうち、刺激にも慣れてくっからよ」
「うん・・・」
それは、それでちょっとつまらない気もするが。
なんといっても、このトシで信じられないくらい性的なことに疎くて、まさに純粋培養なこの銀次を、自分の思いのままにするのが楽しいのだから。
ちょっと快楽のツボを攻めただけで、あっというまに涙目になるのが可愛いーんだし。
あんまり慣れられてもつまらない。
だから、尚のこと、急ぐことはないのだが・・・。
つっても、ここ数回せっかくラブホまで来てるってえのに、イレも出来ねーっつうのもどうよ?
ナニを入れるどころか、指すらイレてねーぞ!
いい加減、やるこたぁやらねえと!
決意を固めるなり速攻で、銀次をどさっとベッドに倒し、重なって抱き寄せながら蛮が銀次の首筋に顔を埋め、やわらかい耳朶を甘噛みする。
「あ・・・・」
それだけで小さく声を上げて、ぴくっと過敏な反応を返してくる。
耳の中まで蛮が舌で犯すと、頭に直接濡れた音が響いてきて、銀次はぞくっと身を震わせた。
蛮の右手が、銀次の肩から背中へと、しなやかな筋肉を辿りながら下がり、唇は鎖骨のあたりに降りて、上に重なっていた蛮の肌に擦られて既に固くなっている胸の突起へと降りていく。
「あ・・! 蛮ちゃ・・・」
舌先で転がすようになぞって、もっと固く勃ち上がらせてから、カリ・・と軽く歯をたてる。
「や・・・!」
きゅっ・・と眉を寄せる表情が、なんとも言えず蛮を煽る。
左手で膝頭を包んで、そのままハーフパンツの裾から手を忍ばせて、滑らかな太股の肉を存分に手のひらで味わう。
「う・・」
内腿の方に手を移動させるなり、びく!と全身をふるわせた。
ちょっと怯えたような表情がイイ。
思いながら、身体をずらせて、蛮が銀次の唇にそっと自分のそれを重ねる。
銀次の唇は弾力があって、オトコにしてはびっくりするくらい、やわらかい。
ついばむように口づけて、それから少しだけ開かせて舌を差し入れる。
ちょっと前までは、こんな風にされると口内を逃げ回っていただけの銀次の舌も、今は少しずつ蛮に答えるべく自分からそっと合わせてくるようになった。
妙に、そういうのを可愛いとか思う自分は、結構イカれているのかもしれない。
ヤロー相手に、キスだけでこんなに盛り上がってるなんて、銀次と出会う前の自分だったら考えられないことだ。
「ふぁ・・・・」
銀次がつい変な声を出してしまって、慌てて自分で自分の口を押さえた。
内腿にふれていた蛮の手が、さわってほしくて待っていた銀次のものにやっとふれてくれたから。
焦らしながら、巧みに追いつめてくる蛮に、銀次が翻弄されながらも必死で漏れそうになる声を抑える。
そう、このへんあたりからいつも、意識が真っ白になっていって。
キモチよくて、そのキモチよさをくれているのが大好きな蛮なのだと思うだけで、さらに快感も強まって。
夢見心地で昇りつめていく間に、身体中が心地よい電気に満たされていって・・・。
・・・・・・電気・・?
バチッ!
「おわっ!」
「ヤバ・・・・。蛮ちゃ・・ん、も・・・・・いい。やめ・・・・・電気・・・・・・」
「ボケが! んないいところで、やめてられっか!」
「だって・・・あ!」
「今日こそ、今日こそ、せめて、テメエだけでもイカせてやっから!」
「え・・・」
「おら、もっと足開けって」
「ふぁ・・・・・あ・・・・・ぁあ・・・・!」
バチバチバチ・・・・!
「イデデデ・・・・!畜生、この電気竿め! くそー、こうなりゃ、このまま一気にオレもブチ込んで・・・!」
超強力な電撃をくらうまで時間がないと判断した蛮は、銀次のハーフパンツのジッパーを下ろし、下着ごとそれを勢いよく銀次の腰から一気に下げようとした。
その手を、面食らった様子で銀次の手が慌てて押さえる。
「え・・えっ? ば、蛮ちゃん、何するんだよー!」
「な、何するって、ナニに決まってんだろーが!!」
「な、な、なんでパンツ脱がそうとすんのー!」
「・・・・・・・ハァ!? 脱がなきゃ、できねーだろうが!!」
「で、できない・・の!?」
「いちいちズボンのケツに穴あけてすんのか、おめーは!」
「ど、土台、何を何にイレるんだよ・・・!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しーん・・・・・
「・・ああ!?」
まさかと思うが、冒頭に「聞きそびれてることがある」と言ったのは・・・・・コレか?!
「おまえ・・・・まさか・・・」
「えと・・・・。オトコ同士って、どーすんのかなーって・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛?」
「今さら・・・・聞くの、遅い・・・よね?」
「あ、あ、あのなあ!! て、てめーまさかオトコとオンナもどーすんのか知らねえってことは・・!」
「あ、それは知ってるv 無限城にいた時に士度に教えてもらったし、蛮ちゃんの拾ったエロ本もちゃんと毎回読んでるし」
別にちゃんと読むようなもんでもねーけど、ちょっと待て、猿マワシが何だと!?
あの野郎、まさか妙なこと銀次に吹き込んじゃいねえだろうな!?
「でも、ふつーのエロ本じゃ、オトコ同士のって載ってないし」
読みたけりゃ買ってやるけど、別にオレはそういう趣味じゃねえぞ。
ただ、テメーとヤリたいって、それだけで、他のヤローとなんざ考えただけでも反吐が出る。
蛮が思いながら、ふーとため息をつき、おもむろにかいつまんで説明する。
「だからよー。オトコにゃ◎◎◎がねーから、その代わりに▽▽▽で代用すんだ。ま、慣れたらどーってことねえって」
「もしかして、つーことは、オレの・・・▽▽▽に・・・・蛮ちゃんの☆☆☆を・・・・・イレんの・・・?」
「だな」
目を白黒させている銀次に、蛮がだー・・と脱力する。
ちょっと待て。
てえと、オレがいつもイレさせろっつってたのは、いったいナニにナニを入れるんだと思ってやがったんだ?
なんか、頭痛がしてきやがった・・・・。
「ま、いいか。とにかくそういうことだ! んじゃ、気を取り直して今度こそイッパツ・・!」
「む・・・」
「あ?」
「む、無理だよ!」
「ああ?」
「無理だって! そんなの絶対無理だよ、蛮ちゃん!! だいたい、そんなとこにそんなもんが入るわけないもん!! オレ、壊れちゃうよ・・!!」
「でーじょうぶだって。ちゃんと壊れないようにゆっくりたっぷり慣らしてから、だな」
「無理だよ、ムリムリ、絶対無理! 無理だってばー!!」
「銀次、おいこら」
「だって、だって、蛮ちゃんの、そんなおっきいのがオレの・・・・に入るわけないよおー!!」
「・・・・・・・・・・・いや、まー。ソレはそーだが、じゃなくて、ちょっと待てって、おい」
ベッドをどんどん後ずさっていく銀次に、蛮がなーんだかまた振り出しに戻ってくような嫌な予感に苛まれつつも、銀次をベッドの端に追いかけていく。
「テメーなあ、だいたいカクゴ決めてるつっといて、今さらソレはねーだろうが!」
「だって、知らなかっただもん〜!」
「知らねーから、これから親切に教えてやろーっつってんだろー!」
「でも、だって、そんなこと急に、ねね、ちょっと待って、蛮ちゃん、オレ、まだキモチの整理が・・!」
「てめーのキモチの整理なんか、オトコの生理は待てねえんだよ!」
「ひええぇぇ・・・・」
「いー加減覚悟しやが・・・・・・だあぁあああぁぁ〜〜〜〜!!!!」
バリバリバリバリバリ・・・・・・・・!!!!
「銀次ィィィィ・・・・!」
「蛮ちゃあん・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
結局、またしても本日も、本当に「ご休憩」(しかも、ちっとも休憩にもならなくて、返って疲れただけだった)で終わってしまったことに、完全に怒っているらしい蛮を、サイドシートからおそるおそる銀次が声をかける。
しかも、しっかり本気で電撃までくらわせてしまったし。
でもって、あわや火災を引き起こすところで、警報器は鳴り響くし、またしてもホテル内は大騒動に発展してしまった。
そのうち、都内のラブホのブラックリストにでも載せられるんじゃないだろうか・・。
オトコ同士の客で、片方は金髪で、片方はウニ頭で・・・とか。
笑えない冗談だ。
これなら、笑師のギャグのがよっぽどマシだよ。
本当に、とほほな気分で銀次が肩を落としてため息をつく。
「蛮ちゃん・・・・。ごめんね・・・。オレ、なんか本当になんも知らなくて、無知でごめん・・。あの・・・」
殴られるならまだしも、こんな風に口をきいてくれないということは、よほど怒っている証拠なのだろう。
別にいやだったわけじゃないのだ、ただ、本当に何も知らなかったから頭の中がパニくってしまっただっただけで。
あとから思えば、そんなにどーしても無理ってわけでもナイ気もするし。
でも、せめて蛮ちゃんのがもっとちっちゃかったら・・・。
いや、そういう問題でもナイか・・。
しょぼーんとしたまま、ちらりと銀次が蛮を見る。
「オレさー、蛮ちゃん・・。今度、奪還料入るまでに、ちゃんといろいろ勉強すっから・・・。電気も漏らさないように頑張るし・・・。それとも、オレとなんかもう、そういうことしたいとか、思わない・・・? つか、思わないよね、フツー。でも、オレ、わかんないこと士度とかに聞いて、もっかい・・・」
「んだとお!? 猿マワシになに聞くっつーんだ、てめえはよー!」
「え? だって、蛮ちゃん・・」
「わかんねえことはオレに聞け!」
「あ・・・・うん!」
「ちゃんと教えてやっからよ。手取り足取り・・」
「うん・・!」
「いいな、つまんねーこと、猿になんぞ聞くんじゃねえぞ」
「うん! ありがとう、蛮ちゃん!」
「・・・・んな、嬉しそうにするんじゃねーよ」
こちとら、ヨコシマな思いたっぷりで言ってるのに。
まったく何も知らないところから自分好みに調教できるなんて、よく考えてみればこんなオイシイ話はない。
上等だ、一からたっぷり仕込んでやろうじゃねえか!などと、つい頭の中で楽しくもよからぬ想像を膨らませすぎて無言になっていたなんて、銀次は知るはずもない。
「おーし、こん次までに、またしこたま稼いで、今度は休憩なんてケチなことはしねーで、一泊ヤリまくりだぜー! たっぷりかわいがってやるからな、銀次!!」
「・・・・うん。でも蛮ちゃん、窓全開で恥ずかしいコト叫ぶのやめて・・。しかも信号待ちだし、みんな見てるし・・・」
「あ゛・・?」
そんなこんなで、今回もまたしてもお預け状態だったわけで。
いつになったら、目標達成の日は来るのやら。と蛮がハンドルを握りながら、ふう・・と煙草の煙を外に吐き出す。
それでも銀次は、蛮が怒らずに「教えてくれる」と言ってくれたのが何だかとても嬉しくて。
蛮は蛮で、正直、無知も無垢もここまでくりゃあ国宝級だなどと思いつつも、これから楽しみが増えたことにかなりご機嫌だったので。
なんのかんのと言いつつも、夕暮れの街を疾走する「てんとう虫」の車中は、結構しあわせモード・・なのだった。
まだまだ続く・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ってことは、まだまだ出来ないってこと? だろうか。
いや、でも、とても楽しいのでv でへへv
一応、蛮ちゃんの念願達成で最終回かなあ?v
|
|
|