〜お知らせ〜


知的障がいをお持ちのお子さんのための

バイオリン 無料 合奏教室   

生徒さん募集!



〈応募資格〉

  音楽に興味のある、知的障がいをお持ちの小中学生のお子さん。

〈教室の場所〉 

 東京都清瀬市梅園


〈レッスン日〉

  土曜日の午後2〜4時の間の40分前後、月3回。

〈費用〉

 無料です。バイオリンもお貸しすることができます。

〈講師〉 

 久保井新太郎

〈お申し込み・お問い合わせ〉

  下のメールフォームよりご連絡ください。
                              
     



〜以下は本の紹介です〜 


本のタイトル

『知的障害・学習障害のあるお子さんへのバイオリンレッスン』

                                 著者 久保井新太郎

         

  (表紙カバー表)

*表紙カバー表裏の動物のシールは、Sandylion Sticker Design 社(カナダ)の製品です。


  このHPは、上記の本を販売するためのサイトです。購入ご希望の方は、

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(書店ではお求めになれません。)


 A5版 197P 定価 1,020円 +送料 180円  合計 1,200円


          

表紙カバー裏)

 
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 なお、アマゾン キンドル版をご希望の方はこちらからお求めになれます。




前書きより

  この本は、知的障害や学習障害を持つ子供たちを対象に、筆者が行ったバイオ

リンレッスンの記録です。

 私は20代の後半から30代をとおして、仕事が休みの週末に、発達障害のあるお

子さんを対象にしたバイオリンの個人レッスンを行ってきました。

 週に1日しかレッスン日をとることができず、加えて、おもに生徒さんの家に出張

して教えていたため、今までにかかわることができたのは合わせて8人のお子さん

です。

 本書ではその中から、ダウン症の男の子、自閉傾向の強い、知的障害の男の

子、そして学習障害の女の子の合計3人のレッスンの様子を紹介しています。

 私は大学では法律を学び、音楽や特別支援教育を専門に勉強した者ではありま

せん。また現在の仕事も、精神保健福祉士として民間の福祉施設に勤務してお

り、教育とはあまり関係のない職業に就いています。

 そのためこの本の内容も、解説や指導法を述べるといった専門的なものではな

く、単なるドキュメンタリーとなっています。

 早い話が我流の指導の様子をまとめただけのものなので、どうか気軽にお読み

いただけるとありがたいです。

 私はこの本を、発達障害児者のご家族の方、彼らの地域での音楽活動に興味

のある方、そしてピアノやバイオリンなどの先生に、とくに読んでいただきたいと思

って執筆しました。

 本書によって、どなたかに、音楽との新しいかかわりが始まることになれば、著

者として大変な喜びです。

 なお、この本のタイトルには「学習障害」という言葉が含まれていますが、本文で

は学習障害のお子さんに対する記述は20ページ程度であり、それほど詳しく述べ

ているわけではありません。

 本書は、主として知的障害児へのバイオリンレッスンについて書かれたものとい

うように理解していただいた方が、誤解が生じないかもしれません。




本文より 第1章 リョウ 第1節 キラキラ星

 私が初めてリョウに会ったのは、彼が保育園の年長のときでした。表情や仕草に

たいへん愛嬌のある、元気なダウン症のお子さんで、まわりの大人から、よく可愛

がられていたのを覚えています。
 
 彼が小学校に入学して間もないころ、私は彼のお母さんに対して、「リョウ君に、

バイオリンを教えてみたいのですが」と申し出をしました。しばらくして、お母さんよ

り、「お願いしてみようかしら」という返事をもらい、加えて、「もし可能なら、姉の方

も一緒に教えていただけませんか」と依頼されたのです。

 私はそれを承諾し、こうして彼と、小学5年生になる彼のお姉さんへのレッスンが

始まりました。


 レッスンをスタートさせるにあたり、私はお母さんに、「リョウ君は歌を歌うことがで

きますか。それと、お箸を使うことができますか」という簡単な質問をしたのです。

 すると、「両方とも大丈夫」とのことでした。

 ちなみに、ある子供が歌を歌えるということは、音の高低や長さの違いを認識で

きるということであり、好き嫌いは別にして、その子が音楽を理解しているという判

断が、とりあえずできると思います。

 一方で、お箸を使えるということは、その子が自分の指を、ある程度自分の動か

したいように動かすことができる、ということが分かります。
 
 なお、これらの質問は、私がレッスンのおおまかな計画を立てる際に参考にする

程度のものであり、それほど重要な意味をもっているわけではありません。仮にそ

の子供が歌を歌えなくても、また、お箸を使えなくても、それが理由でバイオリンを

教えられないということは決してなく、あくまで参考にするための質問なので、どう

か誤解しないでいただければと思います。


 お母さんは、「両方とも大丈夫」と答えたあと、そばにいたリョウに何かを歌うよう

に促しました。すると彼は元気よく歌い始めたのです。

 ただし、当時の彼は発音が明瞭ではなく、また、音程もあっているか否かという

レベルの1歩手前の段階にありました。そのため私には、彼が何の歌を歌っている

のかが全く分からなかったのです。

 その様子から、彼の今後のレッスンについて、正直いって私はかなり強い不安を

感じました。それでもとりあえず、何かを歌っているようには聴こえたので、「たぶん

大丈夫だろう」と自分に言い聞かせ、最大限楽観的にかまえることにしたのです。


 さて、いよいよレッスンが始まりました。

 最初の約束では、リョウとお姉さんに、それぞれ30分ずつレッスンを行うことにな

っていましたが、始めてみると、彼の集中力はとても30分も持続しないことがすぐ

に判明したのです。

 初期のレッスンの様子は、だいたい次のような感じでした。
 

 まず始めに、リョウがバイオリンと弓を持ちます。続いて彼は譜面台を一瞥し、そ

こに何ものっていない場合は、「楽譜がないじゃないか!」というような趣旨のジェ

スチャーを始めます。

「リョウは、最初は音を出す練習だから、楽譜はいらないよ」と本人に言っても、全く

納得する様子を見せません。

 私は仕方なく、彼のお姉さんの教本を譜面台にのせます。

 すると彼は途中のページを開いて、「これでヨシ」というような態度になり、そして、

なにやら真剣な顔をしながら弓を動かし始め、いろいろな弦を適当に弾き、それに

合わせて左手の指(弦を押さえる指)をこれまた適当に動かします。

 つまりデタラメに音を出し始め、そのような調子でしばらく弾いているのです。その

間に私が、「こうしてごらん、ああしてごらん」と言っても、彼は全く相手にせず、ただ

ひたすらデタラメに弾き続けます。

 5〜6分たち、ひとしきり弾くと、くたびれたのか、あきたのか、満足したのか、理由

はともかく、彼は突然演奏をやめるのです。

「もう弾かないのか」と私が尋ねると、彼は小さくうなずき、それ以降はまわりでどん

なに促しても、彼は決してバイオリンをかまえようとはしません。

 こうして、その日のレッスンは終了するのです。
 

 彼の様子は、その場にいる人の顔ぶれや本人の調子によって多少の変化はあり

ましたが、スタートから1年半ぐらいの間は、だいたい今述べたような感じだったと

思います。

 私はこのような、レッスンとは言えないようなレッスンを続けながら、何を当面の

目標にして教えていけばよいのだろうと考えていました。


 さて、ここで少し、バイオリンの弦について説明させて下さい。

 バイオリンには太さの違う4本の弦が張ってあり、細い方からE線、A線、D線、G

線と呼びます。

 これらの線を弓でこすることによってバイオリンから音を出すのですが、違う線を

弾けば、当然違う音が出るので、1つの音を出そうとしたら、1つの線を弾き続けな

ければなりなせん。ちなみに各線は、写真1のように山なりに張られています。

(本には写真が入ります。)
 
 各線がこのように張られているのは、内側の線を弾いたときに、となりの線も一

緒に弾いてしまうのを防ぐためであり、仮に4本の線が平行に張られていたら、A

線やD線を弾いたときに、ほかの3本の線も同時に弾くことになり、余計な音が出

てしまうのです。
 

 話をリョウのレッスンに戻しましょう。

 初めの何回かのレッスンで、彼は弓をいいかげんに動かして、いろいろな線から

音を出していました。しかしその様子をよく見ていると、意識的にそれらの線を弾い

ているというよりは、弓を動かす運動が不安定なために、結果としていろいろな線

を弾いてしまっているようでした。

 そこで私は、「彼が弓をまっすぐに動かして、1本の線をなるべく長く弾けるように

なること」を、レッスンの当面の目標として設定しました。

 いいかえると、「彼が自分で弾こうと思っている線を、きちんと弾けるようになる」

というのを目指すことにしたのです。

 さっそくレッスンのときに、私は1番右端のE線を指差して、「この線だけ弾いてご

らん。ほかの線は鳴らさないように」と言いました。そして実際に弾いてみせたりし

て、こちらの意図をリョウに伝えようとしたのです。

 すると彼は私の言っていることを理解したらしく、それほど時間を経ずに、E線だ

けを弾くような感じで弓を動かし始めました。

 しかし、どうしても弓をまっすぐに動かすことができずに、となりの線のA線のみな

らず、そのとなりのD線まで弾いてしまうのです。

 何度か挑戦したものの、結局うまく行きませんでした。また、そのうちうまく行きそ

うな雰囲気も、ほとんど見られなかったのです。
 

 私が接してきた、発達しょうがいをもつ子供たちは、手先というか腕先がきわめて

不器用な子供が多く、彼らが自分のイメージしたとおりに体を動かせないでいる場

面を、私はよく見かけました。

 リョウもその例外ではなく、単に弓を動かすことはできるものの、まっすぐに動か

すというふうになると、当時の彼の運動能力をだいぶ越えてしまい、年単位の練習

が必要な様子だったのです。

 私は、どうしたものかと考えた結果、バイオリンに張ってある4本の線のうち、おも

い切って、間の2本を外すことにしました。正確にいうと、4本のうち、外側の2本を取

り外して、内側の2本をそれぞれ外側に張り替えたのです。

(図1、写真2) (本では図と写真が入ります。)

 こうすることにより、弓がとなりの線に接するまでの角度が広くなり、かなり不安

定に弓を動かしても、となりの線を鳴らさずにすむのではないかと考えたのでした。


 ちなみに、それならいっそのこと、線を1本だけにすれば、間違いようがないでは

ないか、という方もいらっしゃるかもしれません。

 しかしバイオリンは、駒(こま)という木の部品を線と本体の間にはさむ構造になっ

ていて、仮に1本しか線を張らないでいると、その駒が演奏の際に倒れてしまい、

音を出せなくなってしまうのです。2本線の場合でも、しばしば駒が倒れ、そのつど

私はそれを起こして調弦(線の音を決められた高さに合わせること)をしなおしてい

たので、これ以上、線を減らそうという気にはなりませんでした。


 2本線にしてみると、リョウの練習の様子は、次のようになりました。

 まず彼は、右手で持っている弓で片方の線を弾きながら、左手では適当に線を

押さえて色々な音を出し、少しすると、もう片方の線を同じようにしばらく弾いて、そ

してまた元の線にもどるといった具合です。

 いいかげんに弾いているのは以前と変わりませんが、今度の場合、明らかに線

を弾き分けているように見えました。そのため私は、とりあえず1歩前進といった感

を持ったのです。

 なお、左手(線を押さえる方の手)についてですが、そのとき、どの程度右手と連

動していたか、つまり、弓で弾いている方の線を左手の方でも押さえていたかにつ

いては、私の記憶が定かではなく、はっきりしたことは覚えていません。確か、弾

いている方の線を押さえているときもあれば、そうでない線を押さえているときもあ

ったような気がします。


 さて、このような調子のレッスンを続けていると、しばらくして秋がやって来まし

た。私は、この姉弟以外の子にもレッスンを始めていて、「できることなら年内に1

度、発表会を開いてみたいな」と思うようになっていました。

 しかし、仮に開催したとしても、私が教えている生徒さんだけでは出演者が少な

く、会があっという間に終わってしまうのは明らかでした。そこでほかの出演者を探

すため、「発達しょうがい児者を中心とした、音楽発表会に参加してみませんか」と

知り合いに声をかけたのです。

 すると思いのほか、参加希望者が集まり、その年の12月に発表会を開くことにな

りました。

 もちろん、リョウも発表会に出演することになったのですが、問題は何を発表する

のかということでした。

 前述のとおり、リョウは曲を弾くという段階ではありません。しかし発表会という以

上、何か曲目を決めないと格好がつかないため、とりあえず曲は、「キラキラ星」に

しようということになりました。

 とはいえ、彼が発表会までの2ヵ月ちょっとの間で、「キラキラ星」を弾けるように

なるということは、もちろん考えられません。

 そのため発表会では、曲全体のうち、始めの4小節だけを弾くことにして、その部

分が弾けるようになることを目標に、私たちはレッスンを続けたのです。
 

 ところで「キラキラ星」は、バイオリン初心者が弾く曲の代表のようなもので、使わ

れる文脈によっては、"最も簡単な曲"という意味を含むことがあります。

 この曲が簡単な理由はいくつかあるのですが、その1つは、"開放弦が多く使わ

れている"という点です。

 バイオリンは左手で線の様々な場所を押さえて、線が振動する長さを変えること

により、音の高低を表現します。

 当然のことながら、正しい高さの音を出すためには正しい場所を押さえなければ

ならず、これが原因で、多くの人がバイオリンの演奏を難しいと感じています。

 開放弦とは、線が左手によってどこも押さえられていない状態のことを言い、各線

の開放弦は、決められた高さの音が出るように、演奏の前に予め調弦されていま

す。例えば、A線だったらAの音です。

 そのため、開放弦を弾く場合は音程を間違える心配がなく、線を押さえる場合よ

りも簡単に、正しい音を出すことができるのです。

「キラキラ星」の第4小節までというのは、歌詞でいうと「♪キラキラひかる〜」まで

で、ドレミで表すと「♪ドドソソララソ〜」になります。

 この中で、「ド」と「ソ」は開放弦で出せるので、左手の指で線を押さえる必要があ

るのは「ラ」の音だけになります。(二長調、移動ド)

 リョウの楽器では、2本だけ張ってある線のうち、左の線の開放弦は「ド」の音、右

の線の開放弦は「ソ」の音が出るようにしてありました。

 したがって、「ドドソソララソ」と弾くためには、まずそれぞれの開放弦を2回ずつ弾

いて、「ドドソソ」と音を出し、次に「ラ」を出すために、左手の人差し指で右側の線の

先の方を押さえて、「ララ」と2回弾きます。最後にもう1度、右の線の開放弦を弾い

て「ソ」の音を出せば終わりになります。


 さて実際に練習を始めてみると、なかなかこちらが思うようには進みませんでし

た。口で説明したり、彼の手を動かしてみたり、私が弾いて見せたりといろいろなこ

とをやってみましたが、いざリョウに弾かせてみると、以前と同じようにデタラメに弾

いてしまうのです。しばらく練習を続けましたが、ほとんど成果は上がりませんでし

た。

 そのため、課題をもう少し簡単にしようと思い、後半の「ララソ」を削って、「ドドソ

ソ」と開放弦だけ弾けばよいことにしてみたのです。しかし、それでも結果は変わり

ませんでした。


 結局、リョウは発表会までにそれらを弾けるようにはならず、会の本番では、彼の

お姉さんが後ろに立ち、彼の両手を始めから終わりまで動かして、「キラキラ星」の

全曲を演奏したのです。

 リョウが弾いたというよりは、お姉さんが弾いたという方が正しい表現かもしれま

せんが、こうして、彼の初めての発表会が終了しました。

(第1節 終わり)


リョウ君の数年後の発表会の様子
(↑ここをクリックすると、ユーチューブにジャンプして、
  ビデオが始まります。 http://youtu.be/XLKqP9_EovE)


第2章 ソウスケ 第1節より

 私がソウスケにバイオリンを教え始めたのは、彼が小学3年生になったときでし

た。ただし、彼と初めて出会ったのは、それより少し前で、彼が5才のときのことで

す。

 当時彼は自閉症と診断されていて、ほとんど人と目を合わすことはなく、同じ年の

子供が喜びそうな、おもちゃやアニメのキャラクターなどにも興味を示すことはあり

ませんでした。("当時"と入れたのは、彼の自閉症的な特徴はその後、成長と共

に目立たなくなっていったからです。)

 彼は言葉のないお子さんでしたが、こちらの言っていることについては、部分的

に、なんとなく理解していたようで、名前を呼ばれたときや、簡単な指示に対して

は、だいたい応じることができていたように思います。

 昼の間ソウスケは、保育園に通っていました。しかし、お気に入りの場所で好き

なことをやるために、保育室をたびたび勝手に出ていってしまうのでした。

 彼の行き先は、屋上であったり、庭の片隅であったりとまちまちでしたが、それら

の場所に行って、砂をつかんでは頭の上に上げ、そのまま手を開いてパラパラ落

とすというようなことを延々と繰り返していたのです。

 保母さんたちは安全上の配慮から、彼を保育室に連れ戻すのですが、彼はすぐ

にまた部屋を出ていき、そして同じように連れ戻されるのでした。

 一方、家でのソウスケは、ラジカセで音楽のカセットテープを繰り返し聴いてい

て、ちょっと目を離すと、ボリュームを目一杯まで上げてしまい、注意すると1度は

下げるのですが、少しするとまた上げる、といった様子だったのです。

 この時期だったと思いますが、ご両親がおもちゃのキーボードを彼に与えました。

しばらくの間、彼はそれを使って遊んでいたそうです。

 しかしある日、私が彼の家に行くと、そのキーボードがなくなっていたため、お母

さんにそのことを尋ねると、彼が鍵盤を引きはがしてしまったので、仕方なく処分し

たとのことでした。

 私は、そのような彼の様子を見て、彼は音楽、あるいは音の刺激に対して、大変

興味を持っていることは間違いないが、バイオリンを教えるのは少し無理だろう、と

思っていたのです。(以下、本では第1節が続きます。)