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 本当に、おかしなもので。
 あれだけのことがあったというのに、終ってみれば目の前にいつもと変わらない俺の部屋があった。
 まるで夢を見た後のように、静寂な日常が俺を受け止める。
 けれど……。

「ニア……」

 ……頬を流れた涙だけが、思い出を嘘ではないと印してくれた。
 






………………








 落ち込んだどころではなかったけど、折れはしなかったと思う。
 俺は仲間に支えてもらいながらも、日常と言う湯船に浸かって傷を癒した。
 貴輔とドツキ漫才をして、真菜に怒られて。
 そんな日々が俺を俺に戻してくれた。
 時には本当に気を使って優しくしてくれる真菜にすまないと思いながら。
 貴輔のバカ話の最中にアイツのことをふと思い出したりしながら。
 日常の歯車を回し続けた。
 悪夢は見なくなっていた、代わりに見るのは幸せな記憶だけだ。

 運動会、文化祭、音楽コンクールに剣道の全国試合。それと嫌な嫌なテスト。
 服役中の父に会って大喧嘩やらかした事もあった。
 
 それらの出来事をゆっくりと消化していき。
 季節は巡り、時は流れ、いつの間にか3年生の始業式を迎えていた。


「え〜、我が紫格高等学校には歴史と言うものは御座いません。その代わり皆さんの若い力と、その先にある輝かしい未来に溢れているのです。ですので、これから作られていく紫格の歴史を清く正しいものにしていく為にですね……」


 校長の長い長いスピーチを終えて。新しいクラスの面子に驚いてから受け入れて。新しい熱血気味の担任の血から強いHRを終えた帰り道。
 いい感じに満開の桜吹雪の舞う通学路を、またもや同じクラスだった貴輔と共に帰っていく。
 これでパーフェクトだ、志望大学まで同じなんだからそろそろ一生物の覚悟を決めるべきかもしれない。
 なんて馬鹿な話をしながら……。

「でだな空よ、その時俺様はいってやったのだ"今日一日丁寧語で喋るのだ"と。アーーーッハッハッハ!! アレは傑作だったっ! 丁寧語で喋る奈々々……それはもう間違えて田舎の方言を喋ってしまった大女優みたいな失敗っぷりでなぁ!」
「俺が風邪ひいて寝てるときにまた賭け勝負してたのかよ……絶対リベンジに来るぞ奈々々のやつ」

 それはもう腹にダイナマイト括って突っ込んでくるぐらいに。
 アイツならやりそうだから怖い。

「でもちょっと見たかったなそりゃ。ちゃんとやってたんだろ? そういうところは律儀だよな」
「クックック、見たいか空? ええ、見たいか? あまりにも傑作だったものだからICレコーダーに録音したデータがだな……」

 このとき。一陣の風が舞い込んだ。

「――聞かす、なっ!!」
「ぅごおっ」
 
 そして見事なまでにつま先で貴輔の腹筋を強打し、漫画みたいにぶっ飛ばした。
 ああ、なんか貴輔でも桜吹雪を伴ってぶっ飛ぶと味があるもんだな。
 ……と、思ってたらゴテッと地面に転がった。
 落ちると味気ないな。
 それに興味を失った俺は蹴っ飛ばした方に目を向けた、まぁ貴輔ならすぐ復活するだろう。
 見れば……、貴輔を蹴っ飛ばしたのは意外にも小柄な女子だった。ここまで走ってきたのかゼイゼイと肩で息をしている。
 男子のようなショートカットに気の強そうな眉、そして何より人をぶっ飛ばしておいて清々しい表情を浮かべているのが印象的である。
 学年章を見てみると、どうやら新入の一年生のようだ。

「あー……もしかして君、奈々々?」
「そういうアンタは空みたいだね、ま……なに。あたしもここに入学したからさ、とりあえず宜しく」
「おう、宜しく。……っと、俺はこっちじゃ井端空、ORZは英貴輔っていうから覚えておいてやってくれ」
「あたしは佐々木優心、とりあえず名前では呼ばないよーに。……ってそこ!!」

 いきなり放った佐々木の回し蹴りが、背後に忍び寄っていた貴輔の顎を打ち抜いた。
 すげぇ。
 気配を消した貴輔を捕らえられるのもそうだが、大衆の前面で思いっきり足を振り上げられるのが。
 貴輔はよろめきながらも今度は倒れなかった。あいつも褒めてやるべきなのか悩む。

「フ、フフフ……面白い、面白いぞ佐々木とやら。そのキレのある動き……琉球空手を学んでおるな?」
「チッ、腐ってもORZだねアンタ。あたしの蹴りを受けて倒れなかった男は初めてだよ」
「なに、それは相手に恵まれなかったと見える。だがそれもこの紫格に来たからには無用の悩みよ。我が剣道部は他流試合も(何故か)認めておる、いつでも挑戦しに来るがいいっ!」
「望むところだっ!」
「それ他流試合って言うか……ま、いいか」

 こいつらにとっての感動の対面はこれでこそ、正しいのだろう。
 ドツキ合いながらどこか嬉しそうな二人を見て、ホッとした。
 今年はだいぶ、楽しくなりそうだ。

「それにしてもお主、意外にも可愛いところがあるではないか。ピンクとはな……」

 楽しくなりそう、を少しだけ撤回したくなった。
 奈々々……じゃない、佐々木から俺でも分かるぐらいの殺気がブワッと噴出したからだ。
 ついさっきまで遠巻きに見つめていた生徒達が何故か居なくなっていた。

「殺ッ!!!」

 その後のことは語るまい。
 俺も迷わず逃げたし。






……………







「ただいまー」
「お帰りなさい。……あれ、お兄ちゃんは一緒じゃないの?」
「ああ、アイツはちょっとストリートファイトやってるから遅くなる。氷嚢でも用意しておいてやって」
「はーい」

 英家では普通の会話である。
 俺はタタタッとキッチンに引っ込んでいく真菜を見送りながら靴をそろえて玄関を上がった。
 ……っと、思ったらキッチンからひょこっと真菜が顔を出す。

「あ、そういえば居間にお客さん来てるから。着替える前に挨拶しといてね」
「あいよっ」

 いつの間にか敬語を止めた真菜に答えて、俺はネクタイを正しながら居間に向かった。
 ふと振り返ると、玄関には女物の靴が二足あった。

「どうも、こんにち……」
「あらー、リアル空君も可愛いー! お姉さんドッキドキだ! ……じゃない、今日は空君。お邪魔してるわ」

 ………聞き覚えが有りすぎる声に少し眩暈がした。
 見ると、居間には見知らぬ女性が一人楽しげに正座していた。
 もちろん初対面なんだが、一人で楽しげに正座できる人は今のところORZ以外は一人しか知らない。
 そして、俺が思い当たった顔をすると、その人はにこやかに笑うのだ。
 笑い皺が少しだけ目立つけど、長い黒髪のポニーテールが印象的な綺麗な人だった。

「あー……もしかしてあなた、プラムさん?」

 何故だろう、ついさっき同じようなことをいった気がする。
 するとパーンッ! と何故か目の前でクラッカーが鳴った。

「ピンポーン! 大正解ー!! ではではご褒美として本名を教えてあげましょう、あたしの名前は成川瞳(なるかわひとみ)といいまーす!」
「は、はぁ……俺は井端空っす」

 イエーーッ、いっちゃったー! って感じにハイテンションな瞳さん。
 相変わらず楽しいんだけどテンションに追いつけない俺だった。
 というかいつも以上にテンション高くないか?
 まぁ……いつもといっても、あの日以来の再開だけど。

「ところで、瞳さんはどのようなご用件でうちに?」
「名前で呼んでくれるなんて色男だねぇ少年、お姉さんもっとドキドキしそう」
「空と被るでしょうがっ! ……ってか、俺も空だけど」

 用件なんて聞くまでもなかった。
 ――あいつは、あの後どうなったのか。
 それを聞けばいいだけど、きっとこの人はそれを教えにきたはずなのに。
 聞けない……俺がいた。

「フフ、だからあたしは君のことを知ってから空(くぅ)ちゃんって呼ぶようにしたんだ。だから大丈夫。……そしてそして、今日はなんとその空ちゃんとご対面してほしくてやって来たのだ!」
「え……」

 その瞬間、俺は固まった。
 冷たくではなく、その言葉の意味することに暖められて。心臓が嬉しさで飛び跳ねたのだと思う。
 だからまともに、息も出来なかった。

「あの、もう入っていいんか……?」
「あーんダメやん空ちゃん、何もいわずに背後から入ってきて『ワッ』っと脅かしてやるのが楽しみだったのにぃ」
「や、やっぱダメやった……?」
「あ、ああ……気にせず入ってくればいいと思うぞ」

 ほんの少し襖(ふすま)を開いてこっちを見ている顔を促した。
 すると……。

「おじゃま、します」

 あの時のニアのように。
 長い髪をストレートに流した女の子が……入って来た。
 流石に紙の色は黒だけど、それでも色素は少し薄く……なによりPCのニアに驚くほどよく似ていた。
 そういえば、天使になった時に外見も似たのだという話を聞いたことがあったことを思い出す。
 彼女はどことなく所在無さげに、ブラウンのスカートを折り畳んで瞳さんの隣に座った。

「あの、初めまして。成川空や……じゃない、です」
「俺は井端空、こっちでも宜しくな」

 あまりにも嬉しくて声が弾んでしまっていた。
 テンションが上がりすぎて自分も座るのを忘れてしまうほど。
 だだ、空は俺を見上げながら予想外の言葉を発した。

「あなたも空なんや……じゃない、ですね。面白いですね」
「え……?」

 空は、俺のことなど覚えてはいなかった。





……………





「……そういうわけで、最初から逆月さんは伝説の.hackersの武器のコピーであるあの短剣を使えば、あるいは空ちゃんは助かるかもしれないっていってて実際その通りになって。そこまでは良かったんだけど」
「でも、記憶は失ったままだったんですね」
「四ヶ月ぐらい起きずに植物状態だったうえに、ね」

 その四ヶ月がどれほど苦しいものだったのかは、想像が付かない。
 俺でもアレだけ悲しかったのだから、目の前で死んだように動かない空を見せ付けられた瞳さんは死ぬよりも辛かっただろう。
 安易に慰めの言葉をかけることは出来ない。
 だけど、目を覚ましただけでも良かった。心から良かったと思った。

「ただ、そのあいだ空は君の名前やあたしのことをうわ言のように呟いたりしてたんだ。……いつもなら一晩で記憶が消えて普通に起きて『どこ?』って聞くのに、今回だけはまるで……何かに抵抗するようだった」
「……もしかしてそれって」
「それだけ、忘れたくなかったんでしょうね。結局は思い出せないみたいだけど……でもね、今回はちょっと違うと思うんだ」

 俺に一通りの説明を終えてから、瞳さんは懇願するように言った。
 俺の肩を掴んで。

「鍵穴に、鍵を差し込む時間よ空君。ショック療法でもいいから、少しだけ空ちゃんと一緒に居てくれない? これはただの妄想かもしれないし、科学的根拠も一切ないし、下手したら悲しいだけかもしれないけど。万が一にも……記憶が戻るかもしれない可能性があるのなら」
「やります。……そんなこと、いわれなくたってやらさせて頂きます」
「よし、グッドラック」

 俺たちの会話を、不思議そうに空は聞いていた。





……………






「……といっても、何をすればいいのやら」

 とりあえず空を連れて家を出てみたものの、まるで行くあてがなかった。
 記憶といって真っ先にThe Worldを思い浮かべたが、真っ先に却下した。ログインした瞬間また取り込まれたりしたら笑い話にもならない。
 しかし、本当にどこに行けば……。
 ああ、こんなことなら真菜にデートスポットでも教授してもらえばよかったかな。
 ピッカピカのお天道様を見上げてみるが何も教えてくれない。
 だというのにまだ肌寒い春の強風が『早くしろ』と急かすかのようでもある。
 落ち葉を巻き上げて突き抜ける風に一瞬身をすくめて、空は俺の顔を見上げる。
 
「あの、空……さん? ほんとにウチなんかと遊んでくれるの?」
「はい、変な奴だからとか友達少ないとかそんなこと言うのは禁止な。君とは楽しく遊べると思ったから遊びに出たんだ、そこに嘘はナッシング!」
「ぅ……いいたいこと先にいわれてもた。なんかお母さんみたいや」

 ああ、なんか瞳さんのノリが感染し始めているらしい。
 心中で嘆きながら、俺は空の手を引きながら一歩踏み出した。
 戸惑いながらも、空は付いてくる。

「迷ってても仕方ないし……とりあえず映画とかショッピングとか、行ってみるか」
「うん! ウチどこでもえーよ!」

 まだ微妙に慣れていないようだけど、空は基本的に嬉しそうだった。
 それは白紙の頃の彼女とは遠い笑顔で。
 きっと、あの時描かれた心はまだ残っていると思えた。
 ああ、だから瞳さんは――――

「……よっしゃ、そうと決まったら全力で遊びに行くぜー!」
「おーっ!」







……………







 映画、ショッピング、ゲーセン、公園……凡そ娯楽として思い浮かぶ場所は大抵回ってみたけど。楽しいだけで空の記憶が戻ることはなかった。
 そのことを空も気にしているのか、遊んでいるときは笑顔なのだけどそれが終るとすぐにすまなさそうな顔をする。

「ゴメン、ウチ……まだ思い出せへんみたいで」
「いや、そんなに気にするなって。そんなにすぐ思い出せるものでもないんだろうし」
「でも、大事な記憶なんやろ? 申し訳なくて」
「謝るなって、お前に悪いとこなんてないんだし」

 そういいながら落胆の声が消しきれてない俺が、最低だと思った。
 夕飯代わりに早めに入った喫茶店"あみん"から並びながら出て行く。
 そのまま二人とも言葉が続かなかった。
 空は元々あまり喋る方ではないけど……こうなると空気が重い。
 黙ったまま、家路に着く。そろそろ帰らなくてはいけない。
 瞳さんは気を利かせてコチラに引っ越してきてくれたみたいだけど、今日は家具の整理とかで早めに帰りたいのだそうだ。
 だから、今日はもうおしまい。
 それでも色々と歩き回ったせいか辺りはいつの間にか夕焼けに染まろうとしていた。
 夕焼けに……赤に……。

「……あっ!!」
「ど、どうしたんや? そんなけったいな声あげて」
「悪い、空っ! ちょっと最後に付き合ってくれ!」
「ええけどっ、ひ、引っ張りすぎやて空っ……手加減しぃやっ!?」

 いわれて少し少し速度を緩める。
 
「どこに行くんや?」
「学校だよ、あそこなら……綺麗に見える」

 走った。
 地上12階建て、この近辺で最も高い建物に向かって。
 






……………






 紫格高校は2000人以上の生徒数を包括するマンモス校である、そのため校舎も非常に大きく頑健なつくりをしている。
 札幌の高層ビルやテレビ塔まで行けばもっと高くていい景色を見られるのかもしれないけど、生憎遠い。
 俺たちは息を切らせながら校門まで走り、顔見知りである警備員のおっちゃんに転校生の案内をするといって何とか空を入れてもらい。
 ヘトヘトになりながら校内のエレベーターに乗り込んだ。

「ねぇ、空……こんな所に来てなにするん? あ、いいところやとは思うけど」
「ちょっと、ハァ……な。俺達って空だろ? だからさ、空を見ようと思って」
「あ、なるほどな。ウチが空見るの好きって知ってたんや……」

 話してるうちに最上階に到着する。
 といっても12階だ、屋上には階段を使わなきゃいけない。
 ……が、実は行っても鍵が掛かっているわけで。そこは立ち入り禁止だったりするのだが。

「貴輔直伝、開錠の術。うりゃ」

 何度も生徒の違法な侵入を受けたドアの鍵は、ひん曲がって天寿を全うされていた。
 その代わり鍵が有っても開かなくなっているのだが、まぁ……蹴っ飛ばせば開くという裏技が有ったりする。
 その裏技を体現できるのは10人にも満たないという。密かに自慢である。

「……ええの? ここ、入って」
「おう、このドア壊れてんだよ。気にしないで」

 嘘も方便。
 もう心を読む力もない空は、好奇心を一杯に顔に浮かべながら屋上へと飛び出した。
 それに俺も続く。

「わぁ……」

 間に合った、天上は広すぎてドームのようにすら見える広々とした夕焼けだ。
 そこから降り注ぐ赤光が白いはずの校舎をオレンジに染め上げている。
 そして俺たちも。
 ……手摺のところまで歩いていき、並んでその空を見上げた。
 赤を少し強くした夕焼けは明るいオレンジ、雲を照らして……心なしか黄色く見えた。

「…………」

 空は、目の前に広がる自分と同じ名前の世界に見入っていた。
 言葉もなく、ただジッと見上げている。

「いつか、俺に見せてくれたよな。空には七色の貌があって、いろんな色の空を探すのが好きだって」

 空は、釘付けになったように空を見上げ、微動だにしない。
 それはまるで彫刻のようで、少し不安にさせる。
 それでも、自信を持っていった。

「俺、国語の点数悪いからさ、上手くいえないけど。……あの時見せてもらった空はキレイだった」

 今でも鮮明に思い出せる。2人で見上げた、あの空を。
 あの美しい空をもう一度見上げられたらどんなに幸せだろうと、何度願って、何度裏切られただろうか。
 けど、もう願うだけじゃない。

「記憶が無いままでもいい、一緒に居てくれないか」
「それは……」

 振り向き、少し戸惑った顔を見せた空が……急に狼狽し始めた。
 目をごしごしと擦っている。

「あ、あれ、なんでや? ウチ、わからへんハズなのに……涙が……。ウッ、なん……でや、なんでこんなに溢れて……ック……ぅぅ」
 
 そのまま、拭うのも諦めて空は泣き出した。
 否定しようとした言葉を、空の中の何かが必死に止めさせようとしているみたいに。
 手を貸そうとすると、空のほうから俺の腕にしがみ付いて。泣き続けた。
 あんまりにも泣き続けるもんだから、いってやったんだ。

「……空、好きか」
「っう……え?」
「空は好きか」

 それはあの時の言葉。
 翼をもがれた空っぽの鳥にむけて話しかけた、始まりの一歩。
 そう、目の前にいる少女のような。傷心した誰かにかけた……。

「そら……空は、大好きや。大好き。けどな、ホントは違うんよ」

 腕から見上げるその目は、涙に濡れていて。
 とても幸せそうな笑顔を、泣き濡らしていて。

「雲の上の空より、ウチはここに居る空が大好きなんや。世界のどんな空より、大好きなんや!」
 
 ―――有無を言わせず、飛びつくように唇を重ねてきた。
 だから、俺もそれに答えて、抱きしめた。
 とても暖かかった、人の体の温もりは。
 彼女の想いの暖かさだった。

「……空。ずっと一緒に居てくれるんやろ」
「ああ、ずっと一緒だ。クソジジイになっても天国まて連添うからな、覚悟しとけ」

 そういって笑い合った。
 赤いカーテンを背に受けて、ずっと抱き合っていた。
 いつまでも、もうけっして離れたくないと。

 紫紺の空が訪れるまで。
 
 
























……… それは、あの空が繋ぎ合わせてくれた奇跡 ………
 

























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