浅野 猛
あさの たける
高校2年。日々バイトと想いに明け暮れる働き者、苦労人属性の少年。
彼自身は多少突っ込み属性があるぐらいで普通だが、周りの人のせいでいつも騒ぎの中心
に居る。
浅野 加奈
あさの かな
中学1年。空手部の期待のエース、常に行動派の元気な少女。猛の家に居候している従
妹。
猛を兄貴と慕いつつ、おもちゃにしている。自称は”ウチ”だが関西訛りではない。
赤羽 燕
あかはね つばめ
高校3年。猛の想い人であり、面倒見の良い先輩である。常におっとりマッタリしているが、
しっかり者。
茂道
しげみち
高校2年。猛の友人、基本的にいい奴だが、友情より金を取る男。
店員
喫茶店の店員
お父さん
気が小さく、要領が悪く、家でも会社でも立場が低いちょっとダメな父親。だが、酒を飲むと
うっとうしくなる。
ナレーター
途中に入るナレーションを読み上げてもらいます。
『補足―名前だけ登場する人々―』
浅野卓(あさのすぐる):猛の弟、かなりの悪戯好き。今回加奈を猛にけしかけたのもこいつ。
「ショートケーキ戦争」
猛 「ヤバイ、俺緊張してきた……」
茂道 「今更怖気付くな、少年。それさえ渡せればお前は人生の勝ち組だ、そして
独身男の永遠の敵となる。覚悟は…… とうに出来ているんだろう?」
猛 「行かないとは言ってないだろ? 当たって。砕けてやる!」
茂道 「破片ぐらいは拾ってやる、行ってこい!」
SE:コッ、コッ ……とゆっくりと歩く音。
猛 「あ、あのっ、燕さん! ちょっといいですか!」
燕 「あら、猛君? どうしたの? 文化祭の片付けはもう終ったわよ」
猛 「あの、その文化祭なんですがっ。打ち上げってことで今度実行委のみんな
で映画でも見に行きませんか? みんなといっても俺と茂道の3人な訳ですけど」
燕 「映画? うーん、どうしようかな」
猛 「丁度バイトで貰ったチケットがあるんですよ。えっと、もしかして映画はお嫌
いでした?」
燕 「そんなことないわよ。うん、分かった。受験前に少しぐらい羽を伸ばしてもい
いよね」
燕 「日時はいつかしら?」
猛 「え?」(えっ、マジ、上手くいった!? という感じでちょっと呆然)
猛 「あ、ああはいっ! 再来週の日曜日とかどうでしょうか!」
燕 「おっけー、その日なら大丈夫。楽しみにしてるわね」
猛 「はい、俺もっす!!」(人生の頂点を味わってるような感じに)
ナレーター 「そして、時はあっという間に過ぎていき……」
茂道 「いよいよ明日がXデーか。頑張れよ猛」
猛 「おう。お前も、分かってるだろうな」
茂道 「当然だ、残念なことに明日俺は風邪をひく、それでいいんだろう?」
猛 「ああ。悪いな、こんなことにつき合わせて」
茂道 「気にするな。しかしお前も慎重だな、3つもチケットを買う必要はなかった
のではないか? 何しろ俺は行けなくなる予定なのだ、2つ買えば済むことだろう」
猛 「実際チケットを見せた方が説得力がでるだろ? 安いもんさ」
茂道 「貧乏性のお前がな…… 愛とは恐ろしいものだ。さて、俺はここまでだ。健
闘を祈る」
猛 「おう、じゃあな! 明日の報告を楽しみにしてろよ!」
茂道 「ふっ、破片は拾ってやるよ」
猛 「ったく」(苦笑する感じに)
猛 「……さぁて、明日はデートだ! 今度こそ振り向かせて見せるぜ燕さん!
たらったら〜ん♪」(適当に浮かれてる感じに)
猛 「っと、ただいまぁ」
加奈 「兄貴のバカァッ!!」
猛 「ぐぼぁっ!?」(※殴られた)
加奈 「アホッ、考え無しっ、この非人間っ! ウチのショートケーキを返せぇぇぇ
っ!!!」
猛 「いだっ、アダッッッ、ま、待てっ、いきなりなにすんだよ加奈っ!?」
加奈 「バカだバカだって思ってたけど……、兄貴はそんなことするやつじゃないっ
て思ってたのに…… 酷いよっ」(涙ぐむ感じに感情を込めて)
猛 「お、落ち着け…… な? 何があったか知らないが、俺はすごく無罪っぽい
ぞ?」
加奈 「うるさーいっ! ネタは上がってるんだからね!」
加奈 「死刑っ!」
猛 「だが断るっ!」
猛 「だから、そのネタって何だよ。俺はホント何もしてないぞっ」
加奈 「とぼけないよっ、冷蔵庫にあったウチの大好きなショートケーキ……。自腹
で買った貴重な限定品(※)だったのに……! あれ食べたでしょっ!」(※一切れ780円
なり)
猛 「ショートケーキ?」
猛 「待てよ、そんなの知らないぞ!」
加奈 「嘘だっ!」
猛 「嘘じゃないって! ホントに食べてない!」
加奈 「まーだ言う…… 見苦しいよ兄貴! 卓(すぐる)が見てたんだからね、食
べたのは兄貴だって!」
猛 「卓がぁ? あのやろう濡れ衣着せがってっ」
加奈 「天誅っ!」
猛 「うをっ(※避けた)だから殴るな! アダッ!? 話せばわか……」
加奈 「なにっ?」(いらっとした声で、短く)
猛 「……らなそうだな」
加奈 「さぁ覚悟を決めて…… ってあーっ、逃げるなコラーーッ!!」
猛 「俺は無罪、だっ! 明日はデートがあるんだっ、死刑にされてる暇はないん
だよっ!」
加奈 「ふん、どうせ片想いのクセにっ」
猛 「だから、両想いになるための重要なターニングポイントなんだっ、じゃなっ」
SE:バタンッ! (と、扉を閉める音を)
加奈 「くくぅぅぅ、金なし、頭なし、顔ありえないの三拍子揃ってるくせに生意気
なぁ! 絶対、ぜぇったい復讐してやるぅぅ……!」
加奈 「ウチのショートケーキを返せぇーーっ!」
猛 「ふぅ〜〜。ショートケーキ、ねぇ」(壁の向こうでほっとしている感じ)
ナレーター 「翌日」
猛 (心の声)「(ったく、昨日は散々だったな、いたた……)」
燕 「どうしたの猛君? 頬のところ、腫れてるみたいだけど」
猛 「あ、いや! 気にしないでください。ただの兄弟喧嘩ですから」
燕 「喧嘩したの? ダメよ、兄弟は仲良くしなきゃ」
猛 「あはは、大丈夫ですよ。喧嘩と言っても遊びみたいなもんですから。明日に
はケロッとしてるんです」
燕 「そう、ならいいんだけど」
猛 「それよりそろそろ映画館に行きましょう? そろそろこんできますし」
燕 「そうね、今日はありがとうね猛君、チケットまで貰っちゃって」
猛 「いえいえ、どうせバイト先で貰ったものですし!」
猛 「いやーそれにしても、折角3人で学園祭の打ち上げに行こうって話だったの
に、茂道(しげみち)の奴も運がないですよねぇ。こんな日に風邪ひくだなんて」
猛 (心の声)「(計画通りだぜ、ありがとう友よ!)」
燕 「ホントねぇ、後でお土産買ってあげましょうか」
猛 「ハハ、泣いて喜びますよあいつ」
加奈 「それで、何を見に行くの?」
猛 「無難にハリウッドの大作映画だ、あのCMに出てる奴だよ」
加奈 「うわー、無難すぎて面白くなーい」
猛 「む、じゃあ何がいいんだよ…… ってなんでお前がここにいるぅぅぅっ!!」
加奈 「ふふふ……」
燕 「あら、猛君の知り合い? あ、もしかして例の妹さんかしら?」
猛 「い、いえ、こいつはそのっ」
加奈 「初めまして。ウチは猛の従妹(いとこ)の加奈っていいます、父が仕事の都
合で単身赴任してるので居候させてもらってるんです。いつも兄貴がお世話になって
ます」
燕 「あらあら、ご丁寧にありがとう。私は3年の赤羽燕よ。うふふ、そっかー猛君
にこんな可愛い親戚の子がいたなんてねぇ」
猛 「……何しに来たんだよ」
加奈 「何って、酷ーい! せっかく携帯持ってない兄貴のために伝言しにきてあ
げたのにさ!」
猛 「伝言?」
加奈 「茂道から家に電話があってね、ウチが出たら『チケット捨てるのも勿体ない
し、一緒に連れて行ってやったらどうだ?』って」
猛 「なにぃっ!」
猛 「そ、そうか茂道がなぁ」
猛 (心の声)「(買収されやがったな、友よっ!)」
加奈 「そんなわけで、お邪魔でなかったらご一緒させてもらいたいんですけど、い
いですか? 燕さん」
猛 「け、けどなお前は初対面だし……」
燕 「いいわよ加奈ちゃん。たくさん居た方が楽しいし、一緒に行きましょう? い
いよね猛君?」
猛 「もちろんであります!」
加奈 「やった! ありがとう燕さん! 今日一日よろしくお願いします!」
加奈 「兄貴も、よろしくねー?」
猛 「く、くぅぅぅ……!」
猛 「とほほ」
ナレーター 「映画館にて」
猛 「燕さんは映画とかはよく見るんですか」
燕 「んー、ひとりでは行かないけど。こうやって友達と見に行くのは好きだから、
誘われたら行くぐらいかな」
猛 「なるほど、やっぱ皆で見た方が面白いですよね」
加奈 「でも、ウチは無難すぎると思うな」
猛 「ぶり返すなっ」
猛 「えーと…… お、あったあった! 席はこの3つみたいですね」
加奈 「わーい、ウチ真ん中ねーっ!」
猛 (心の声)「(ぬわにぃぃっ!? これじゃ燕さんと隣同士になれないではない
かっ!!)」
燕 「それじゃ私はこっちに、と。……どうしたの猛君?」
猛 「あ、いや! ぐぬぅ…… ぽ、ポップコーンでも買ってきましょうか?」(笑顔
が引き攣ってるような感じで)
加奈 「"ぽ"が多いよ兄貴」
猛 「うるさいっ」
燕 「それじゃあ、3人分買ってきてもらってもいい? お金は私が出すから」
猛 「あ、いいですよそんな」
燕 「いいのいいの、チケットを貰ってるんだし、年上なんだからこのぐらいは面
目を立たせてくれない?」
猛 「わっかりました、それじゃ買ってきますね」
加奈 「あ、ウチはワサビ味ね」
猛 「あるかそんなもんっ(※)」(※実は売ってるらしいです、一部では)
ナレーター 「喫茶店にて」
加奈 「う゛う゛う゛ぅ…… めっちゃいい話だったぁ。ラストシーン最高ぅ……」
燕 「ハンカチ使う?」
加奈 「うん、ありがと。ございます」
猛 「こういう所は純粋なんだけどなぁ」
加奈 「なにやってるの兄貴、早く店員さん呼んでよ」(コロッと態度を変えて)
猛 「すいませんね気が利かなくて。……すみませーん!」
店員 「はーいただいまー! お待たせしました、ご注文はお決まりでしょうか」
加奈 「えーと、季節限定特性ラズベリーショートケーキを1つとー、このフルーツた
っぷりショートケーキを1つとー、イチゴのショートケーキを1つお願いします!」
燕 「あらあら、全員分頼んでくれたの?」
加奈 「うん、みんなウチのお薦めだよ! あ、大丈夫、全部兄貴の奢りだから。ね、
兄貴?」
猛 「ハ、ハハ、モチロンダトモ。ドンドンタノンデイイゾー」
燕 「無理しなくていいのよ猛君?」
猛 「いえいえこのくらいは。(財布確認して)うん、大丈夫ですから」
店員 「お飲み物はいかがなさいますか」
猛 「すみません、それじゃアイスコーヒーを1つ」
燕 「私はアイスレモンティーで。加奈 ちゃんは飲み物何にする?」
加奈 「ショート…じゃなかった、イチゴミルクで!」(わざとっぽく間違える)
店員 「かしこまりました、少々お待ち下さい」
加奈 「ふふふ、楽しみだなー。あ、ちょっとお手洗い行ってくるね」
猛 「はいはい行ってしまえ行ってしまえ」
加奈 「燕さん、先に来てもウチの分を食べないように兄貴を見張っておいて下さ
いね!」
燕 「ええ、了解よ」
猛 「早く行けっ。……まったく」
燕 「ねぇ猛君、ちょっといい」
猛 「はい、なんですか?」
燕 「加奈ちゃんとなんで喧嘩したの?」
猛 「やっぱりお見通しでしたか。実はですね……」
加奈 「あー美味しかった」
燕 「ほんとねぇ、加奈ちゃんのお薦め、美味しかったわ。……それにしても、ホ
ントによかったの猛君? 私は割り勘でも気にしないわよ」
猛 「いえ、大丈夫です! こんなときぐらい見せ場を下さい」
加奈 「ぷ、無理しちゃって」
燕 「あ、そうだ加奈ちゃん。これ、お土産に持っていって」
加奈 「え? う、うん。……ぁ! これ、もしかして、ケーキ……」
燕 「さっき猛君がお会計を済ませてる間に隣のレジで買ってきたの、1ホールあ
るから家族みんなで食べてね」
加奈 「えっと…… ありがとう」
燕 「このお店ね、とってもケーキが美味しいって評判なのよ。猛君が調べてきて
くれたの。昨日の晩に電話が掛かってきてね「ちょっと予定変更してもいいですか」っ
て」
加奈 「兄貴が……?」
燕 「そう、だから喧嘩しちゃだめよ? 遊びならいいけど、今日みたいなのはち
ょっと猛君が可哀想だと思うわ」
加奈 「……ゴメン、兄貴。ちょっとウチ、調子に乗ってた」
猛 「うわっ、加奈が頭下げたっ! 気持ちわるっ」
加奈 「な、なに、悪い?」
猛 「別に。お土産にするつもりだったんだけどな。ケーキ、美味かったろ?」
加奈 「うん、めっちゃ美味かった」
燕 「今日はありがとうね、猛君。とっても楽しかったわ」
猛 「こちらこそ楽しかったです、よかったら茂道も誘ってまた行きましょう」
燕 「そうね、その時は加奈ちゃんも一緒にね」
猛 「んー、まぁしょうがないなぁ」
燕 「うふふ、それじゃ。またね」
加奈 「……いい人だね、燕さんって」
猛 「だろ? あの人の優しさに免じてそろそろ許してくれよ」
加奈 「しょーがないな、燕さんに免じて、だからね」
ナレーター 「自宅にて」
父「うぃぃ〜〜 ひっく! ただいまパパが帰りましたよーんっ! だれかぁ〜、みずぅ
〜」
加奈 「お帰りー、伯父さん…… うわっ、お酒クサッ!」
猛 「お帰り父さん。はい水」
父 「(水を飲む演技を)ぷはぁ!」
父 「おやーん、甘い匂いがするねぇ。昨日食べたショートケーキがまだ残ってた
のかなぁ」
加奈 「……けーき?」
父 「いやー、あれは美味しかったなぁん。また食べたいなぁ…… あ、ん? どう
したんだ2人とも、そんなにお父さんを見つめて? 親子じゃ結婚はできないぞ〜?」
加奈 「お、お……」
猛 「お前かーーーーっ!!」
加奈 「お前かーーーーっ!!」(※できれば2人同時に)
『ショートケーキ戦争』
『ショートケーキ戦争』