<他人との違いを求め>  俺は、一般人だ。  ホントに、自分でも嫌になるくらい………『くらい』じゃなくて無くて嫌だけど。  兎に角普通な人間過ぎる自分が嫌で嫌で仕方が無い。何か、『これが自分なんだ』と言う 証拠が欲しい。自分を証明するもの、それが個性なんだと思う。  さっき通り掛った緑色の重斧使いの100分の1でもいいから個性が欲しいなぁ。いや、 もしくは見つけたいなぁ。  個性の無い自分。  そんなもの、記憶の塊がそれに従って動いてるだけみたいじゃないか!  本能から滲み出る、それが個性なんだぁーー!! 「…………だぁぁぁぁ!! はぎゃうっ!」  見事にベット(中古)から落ちた。しかも二段ベットだ。 物凄く全身が痛い……。  俺はその中でも特に痛む腰の辺りをしきりに摩った。何かしてないとジーーンと全身に 痛みが染み渡ってしまい、凄くやるせない。……言葉の使い方が違ったか? 「起きないのかよ……、卓……」  中一の弟、浅野 卓(すぐる)はハードロックのような鼾をかいて(恐らくバンドの夢 を見ている)これ見よがしに爆睡している。  コイツは朝の7時を超えないと『絶対』に起きないのである。前に一度コップ一杯の水 を顔面にかけて起こそうとした事があるが、俺の敗北に終わった。  何となく嫌な事なのだが、思えばこれも弟の個性なのだろう。そう思うと少し羨ましく なる。  少し悔しくなったので、俺は弟の枕を抜き取って顔の上に置いた。そして朝食を作る為 に一階へと降りる。  そう、母さんは6時30分を超えないと起きないのだ。  俺は痛む全身を引き摺りながら、相変わらず自分を滑り落とそうかとしている様な使い 難い階段を降りていく。因みに、自慢ではないが寝ぼけて落ちた事は1回や2回ではない。 手摺の無い、段差のある、角が丸いこの階段は容赦なく人を滑り落とすのである。  友人すら何度も落ちているので、落下地点に血痕が残ってるくらいだ。家の中では『魔 界』と呼ばれている。 「………卵もねぇ、………バターもねぇ、……………パンも、ご飯すらねぇとはどう言う 事だ!!」  俺は悲惨な現状の冷蔵庫と炊飯器を覗いて思わず叫びを上げてしまった。  親父が一週間出張だからってこの手の抜きようは何だっ!  あんたのせいで簡単な料理なら作れるようになった俺も、何も無い所から食料は出せな いわっ!  ああもう、ぐーたらオバンめ……。こうなったら自分でコンビニにでも………。 ピシッ! 何かが凍り付いた音がした。多分自分から出た音だ。 「は、はは……。そう言えば半年前から小遣いなんて貰ってないや……」  こう言うのを『自虐的笑み』と言うのだろう。  俺の周りだけ気温が下がり風が吹き、その中で俺は1人笑っているのだった。たぶんそ の姿を他人が見たら両手を合わせる動作をする事だろう。  俺は『来月に纏めてー……』と言って半年も伸ばした親父を、無性に殴り飛ばしたい衝 動に駆られた。  母さんが起きて来る時間、コンビニに行く時間(少し遠い)、学校までの距離(もっと遠 い)を計算すると、どうしても朝飯を買いに走っている余裕は無い。  財布から200円ばかり失敬して買いに行けばいい事なのだが。生憎俺には我が家の財 布を覗く勇気はなかった。  朝飯抜き決定である。 「……………」  無言で水道の水を飲む俺の姿が、朝日に照らされて眩しく輝いた。 *********** 「ようっ! 元気してたか?」 振り返ると色黒の男が立っていた。 肌の色は褐色、髪は長くて黒、服も黒ズボンも黒、マントまで黒。真っ黒な弓使いであ る。アーザスと言う、一度在ったら『絶対』に忘れられないと保障できる変じ…………… 偉大なPCだ。 絶対に倒せない、と言われていたバグを倒してしまう様なPCなので偉大な事は偉大なん だが………、その、性格が……。 「そうかそうか、毎回黙って俺の前にログインするのは尊敬の証と言う事か!」 違います。 貴方が俺のホームの前で待ち受けているだけです。断じて、好きで目の前に現れている 訳では御座いません。 出来るなら普通に会いに来て挨拶して下さいませ。 俺はThe worldにログインして、当たり前のようにリア・ファイルの雑踏の中(堂々と) 目の前に立っているアーザスへ向けて激しくそう思った。 これはストーカー行為では? などと思ったが、本人に悪気は無いので既に直そうと言 う気は失せている。 因みにリア・ファイルの爽やかな空気の中、色黒でPCデザインも真っ黒なアーザスは酷 く目立っているのだが。本人は全く気にした様子が無い。ある意味凄いが、それ以外の意 味で捉えればだいぶ鈍い性格なのだと思う。 まぁ、それも強力なアーザスの『個性』の一部なのだろう。 「今日は、ウィール君。御免なさいね、いつもいつもアースの相手をしてもらって。この 人君の事が気に入っちゃったみたいなの」 「な、慣れましたよ既に……。はは。は、ははは……」  セレアさん、貴方は何て優しい人なんだ……。この人が居なければアーザスはどんな人 間になっていた事やら。  貴方は本当に偉大です、アーザスと違って。  俺はこの限りなく優しい偉大なセレアさんに向って、本当にそう思った。あのアーザス と常に一緒に行動していて平気だなんて……、もう神様よりよっぽど偉大だ。  アーザスの相手はそれ程までに疲れるのである。 ある時は宝箱から見たことの無い弓が出ると、頭の上にりんごを載せられて弓の練習代 にされ。またある時は混乱のステータス以上になると『必ず』俺に襲い掛かり。またある 時は泉の中に蹴落とされた事も有った……。(勿論もっと良くなった訳ではない) 思い出したらまだまだ有るのだが、俺は悲しくなるのでこの程度でやめる事にした。 「じゃあ行くぞ」  と言いつつも既に扉の閉まる効果音が聞こえる。 「なにっ! 俺のホームへか!?」  アドレスを交換してしまったのがそもそもの間違いだったのだろうか……。  俺は呆然とその扉を見つめる。  そして、俺は綺麗好きなんだ、だから人に見せても大丈夫! ……と自分を鼓舞し。  絶対に、恐らく、多分、あのアーザスも人のホームをいじる様な事はしないだろう。… …と自分を励ました。 「あ、私も興味有るな。ウィール君のホーム」  慰めるようにセレアさんが声を掛けてくれる、ホントにええ人だ貴方は……。 「どうぞ、汚い所ですが……」  俺は決心して(諦めて)ホームの中に入って行く。セレアさんもその後に続いて入って くる。  アーザスはキョロキョロしながらもソファに座っているだけなので、俺はホッと胸を撫 で下ろした。  俺のホームは白と青をベースにして、全体的に爽やかな感じにしている。ガラス製の机 や白いふかふかのソファが特徴だ。自慢ではないが綺麗好きなので家具はスッキリとした 配置になっている。 「中々センスの良いお部屋ね」 「ありがとう御座います」 「何だか白くて落ち着かないんだが……」 「貴方が黒いのが原因だと思います」  俺はそれぞれに返事をすると、セレアに着席を促し自分も椅子に座った。二人にはソフ ァに座ってもらって、自分は向かい側の背の低い椅子に座っている。  ……何だかリアルでは考えられない高級感だな。いつものボロ椅子じゃないと落ち着か ないなんて、情けない……。  俺の体にはネットを越えても貧乏が染みこんでいる様だ。 ……もしかしてこれが俺の個性? ……だったらちょっとやだな。 俺は浮かび上がってきた恐ろしい疑問を振り払うと、この機会に2人に色々と質問して みる事にした。……と言うかアーザスには聞きたい疑問が山ほど有る。  個性全開のこの2人の話を聞いてみれば個性とは何なのか分かるかもしれない。そう思 った。 「えっと、そう言えばお二人は何でいつも一緒に行動してるんですか?」 「そうね……、『成り行き』かな?」 「………もしくはアースが外に出て人様に迷惑を掛けないか心配だから」 「その意見、激しく同感致します」  俺はうんうんと頷いた。そして言うまでも無いが、一秒置かずにアーザスの拳骨が飛ん できた。 「次は、アーザスの弓の元持ち主『サルティ』ってどんな人なんですか?」 「いつも私達を庇ってくれたお兄さん、ね。もう死んじゃったけど……… あの人についてはアーザスに聞いた方がいいわね」  セレアさんはさっきまでの明るさから、少し元気なくして返事をした。  悪い事聞いちゃったかな?  庇ってくれたお兄さん、か………。庇われてるって事は昔いじめられてたのかな……。 「アイツは、いつも『不撓不屈(ふとうふくつ)の精神があれば、勝てる』そう言って俺 達を励ましてくれた……」 「ふとうふくつって?」 「強い信念を持って一途に行動する事よ」  成る程、不撓不屈……。良く言う『不屈の精神』って奴か。  それにしてもあのアーザスが励まされた!?  有り得ない気もするけどセレアさんも言っているから本当なんだろうな。 こんなアーザスだけど、ちゃんと苦労する所では苦労してるのか……。 俺は、普段明るく快活なアーザスにも暗い部分が有ることを知った。何の汚れも無く幸 せに生きて来た人間なんてそんなにいないだろうけど、実際に聞いてみるとその重さが良 く分かる。 アーザス尊敬していたんだ、そのサルティって人の事を。今もその遺品を持ち歩くぐら いに……。 「今でこそフラフラしてる身分だけどな。サルティを殺した奴を追っていた時は随分と苦 労したもんだ……」 「ちょっと待って、何でネットゲームなのに其処までするの? 死んだらゲームオーバー になってセーブした所からじゃ……」 「そうね……、普通ならそうなるわ。でもここは普通のゲームじゃないのよ」 「普通の、ゲームじゃない……?」 「御免なさい、これ以上は詳しく知らないの……」  普通じゃない?  このThe worldが? どう言う事だろうか………。 俺は単純で少ない自分の知識を総動員して考えてみる、だけどゲームで人が死ぬ所なん て想像できなかった。でも実際に何人かThe worldをやっていて意識不明者が出たと言う 事は聞いた事が有る。 もしかしたら本当にこの世界は普通じゃないのかもしれない。 「今度は俺達が質問する番だ。ウィール、お前は何でこの世界で遊んでいるんだ?」 「それは……。自分の『個性』を探す為、かな」 「何だ、分からねぇのか?」 「うっ、俺にそんな個性なんて……」 「ふふ、見つかるといいわね。ウィール君の個性」 「はい……」  俺は、今日少しだけ個性について分かったのかもしれない。  個性は既に俺の中に有るって事だ。  分かった、分かったんだけど………。今だ貧乏と綺麗好きくらいしか思いつかない。  でも、きっと何か有る筈だ。別に今直ぐに見つけなくてはいけない事でもない。  『不撓不屈』、か。  俺は何を基準にして生きているんだろうか? 多分、アーザス達と一緒に居ればそれが 見えて来るような気がする。  2人とも、確りと自分を知っている。   仕方ない、もう少しアーザスに付き合うかな。 ―――――――――――――――― 主人公が疑問をぶつけまくるお話が書きたかったんですか……。 ぶっちゃけ雑談会になってしまいました!(汗) しかも曖昧に答えてるだけで詳しい事話してないし。(苦笑) この2人はこれからも謎だらけですな。 それにしても投稿時間……、いい加減ギリギリばっかりは止めないと。(滝汗) インスタント文才とか売ってない物だろうか……。