<人生の勝利?>  北風が〜〜沁みるぅぅ〜〜〜。  容赦なく〜〜寒いぃぃ〜〜〜。  素晴らしく〜〜高えぇぇ〜〜〜。  ああ、落ちたらいっそ楽に〜〜とか思っちゃダメよ〜〜〜。 「……バカか。……俺は」  当たり前の真実に気付き、俺は物の3分でこのアホらしい思いつきの歌を止めた。確か に体は温かくなったが心は素晴らしく寒くなったからだ。  日本のお父さん達と少数ながらお母さん達が働いている、とある企業の無駄にでかいビ ルの高い場所。そして物理的に寒いと同時に背筋も寒くなるような場所。  そんな場所に、俺は居たりした。  『窓拭き』と言う立派なお仕事の名の元に。 フフ、どうだお子様には出来ない仕事だ ぜ。  ……なんて、寂しい事を考えながらキュプキュプと冷たい洗浄液の染み込んだ兵器を憎 き半透明にして平面なデンジャラスに向かって擦り付けている。  ひたすら擦り付けている。まるで親の敵でも汚れの成分に含まれているかのように拭き まくっている。  稼ぐためとは言え、やたら手際が良かった。  ダテに我が家の窓を10年以上も牛耳っちゃあいない、掃除に関して俺は鬼だ。自分で 言うのも難だけど。  俺の黄金の右腕によってデンジャラスは5分で見事にクリーンなガラスとなる。危険分 子は綺麗さっぱり無くなってデンジャラスから一転、平和な平面世界が訪れた。これで上 司の機嫌を損ねる確立が0.02%くらい減った事だろう、日本のお父さんの平和はこの 俺が守ったのだ。  めでたしめでたし。 「おーい新人の浅野〜〜、次行くぞー!」 「うぃーすっ!」  これで何枚目のガラスだろうか?  ウィーーーンとか、ちょっと男の子ならときめきそうな音を立てて動く足場にやはりと きめきなら、俺は恨めしげに平面世界の敵を睨みつけた。  ……その向こうにいた秘書の女の人に睨み返されたので、慌てて笑みを浮かべて睨むの は止めた。  俺に『めでたしめでたし』が来る事は多分無いだろう、と。この時そう思ったのだった。  何故にこの若さでこんなにハードな仕事をせにゃアカンのだ。  因みに秘書の女の人の目線はハエくらい殺せそうな凄みがあった。また別の意味で背筋 が寒くなる。多分転職前は素晴らしいお職業をなされていたのだろう。 「………えっっっちゅきしっ!!」  堪らなく哀愁の篭ったくしゃみの音が、嫌味なほど青い冬の空に響いた。  鼻水が凍りそうなほど寒かった。  ついでにヤワなカツラなら2分で飛ばせるほど風も強かった。  そしてそんな感想を抱くと同時に俺は気付いた。俺の顔面のすぐ目の前にあった凄く高 級そうな分厚く広い色ガラスの中央に大量の鼻水が付着している事に。  その嫌味なほど高級そうなガラスを挟んだすぐ奥に、社長さんらしき髪の薄……威厳の ある後頭部が有る事に。  俺の首を懸けた必死の清掃が……今、幕をあげた。 …………… 「はぁぁ……」  ハードなバイトを始めたせいなのか、俺は最近The Worldに来た後も溜息を漏らす事が 増えた。  いつもならこの魅力満点の世界に来れば仕事の疲れなどぶっ飛ぶのだが、流石に体にき ていると否が応にも疲れは表面にまでこみ上げてくるらしい。  そしてなんな俺を心配そうに覗き込んでいる仲間を見ると、余計に俺は自分が情けなく 思えた。柄にも無く涙が出そうだ。 「ウィールさん、だ……」 「大丈夫、だよ。2、3日したら元に戻るからね」  『大丈夫ですか?』と、これ以上心配を掛けさせるわけにはいかない。  俺は言葉を遮って笑みのアクションを起した、そして何事も無かったかのようにマク・ アヌの町並みを歩き出す。こう言う時に毎回同じ動きをするPCの表情は便利だ。 「はい……」  ただ、それでもバレバレなのか。後ろからついて来たアーサの声からは『心配していま すからね』と、心の声が一緒に聞こえてきた。  仲間の絆とはPCの境界線を越えて心と心を直接繋ぐようなものなのかもしれない。  俺の薄っぺらい虚勢なんてアーサにとって透明なガラスよりも透けていて、向こうっ側 にある俺の心が簡単に見えるのだろう。つまり、俺の虚勢は簡単に見抜かれていたようだ。  嬉しくもあり、反面そんな俺の心が見抜かれてしまうのが物凄く情けなかった。  ニヒルなヒーローならここで無表情に立ち去るだろう、強情なヒーローなら無理やり笑 い続けるだろう。  ヒーローならば切り抜けられるはずだ。  だが俺は間違いなく一般市民だった。  虚勢は呆気なく崩れ去る。 「正直に言うと、今の状況は辛い。体は何とか大丈夫なんだけど、……どうしても心が… ね」  川の上で歩みを止める。そしてせき止めていた溜息が溢れて言葉になったかのように、 言葉が流れ出てきた。  無意味な笑みは止めた。  無意味な元気のいい声も止めた。  素直に自分の声と表情を曝け出す。  プライドなんてクソ喰らえだ、人前で泣いて何が悪い。……もう、仲間に嘘をついてい たくなんてない。  俺は、マク・アヌの橋の手摺に崩れた。  本当は倒れ掛かりたかったけれど、PCは自然な動作で手摺に手を掛けて川を覗くよう な姿勢になった、それが仕様だ。  紅い陽射しを柔らかに反射する運河の姿が美しかった……。  誰だよ、一番最初に『男は泣くな』なんて言った奴は。   「………」  アーサは、何処までも気が利く子だ。  普段は少しおっとりとした所が有るけれど、こう言う時の心配りは本当に心が篭ってい る。  彼女は、俺が下手に慰められるのを嫌がる事を良く知っていた。  情けないのは承知の上だ。  だけど俺は少しだけ、彼女の無言の優しさに浸りたいと思った……。  静かに目を閉じた。  その時、不意にメールが届いた。  凄く嫌な予感がした。 『ピンポンパンぽーん♪ イヤッハァ!ナイスな心の友よ、ご機嫌いかがかなぁーん?  元気で生きのいい新着メールが届いたよーん。 開けてみないかーい?』  シリアスは物の5分で崩れ去った。  水素爆弾でも落としたかのように宇宙の彼方までぶっ飛んでいった。  もう、二度と戻ってこないだろうと思われた。  所詮俺の出てくるシリーズはギャグに走るのだ! ……そんな感じのする楽し過ぎる着 信音だった。 「………ぷっ」  近くに居たせいか、アーサにも着信音が聞えたようだ。やたら音量が高かったし。  無言の優しさも長くは続かない運命にあったのだろう。 「卓だな……、このふっっざけた音に設定変えやがったのはぁぁっ! 許ぅぅさぁーーん っ!!」  『ちょっとゴメン!』とアーサに言い残して俺はHMDを脱ぎ捨てる。そして弟がのん気 にテレビでさん○御殿なんか見ているであろう一階へと走るっ!  途中に階段で滑り落ちそうになるがそんな事はどうでもいい。兎に角正義の鉄槌を下す べく俺は走った。  見ていたのはいい○もだった、だがそんな事はどうでもいい!  俺はせんべいなんか齧っている弟の背後に荒い息をたてながらノソリと立つ。 「すぅぅぐぅぅるぅぅぅ……!」  弟はいけしゃあしゃあと湯飲みのほうじ茶を飲みながら振り返った。  そして自分がを何した? って感じの表情で俺を見ている。  まるで自分が無罪なことを主張しているかのような無邪気な瞳だ。だが14年も付き合 っている俺を欺ける筈も無い!  俺はギリギリと睨み返した。 「んぬ? なんだよタケ兄その顔はぁ………あっ! もしかして枕の下に朝青龍のブロマ イド入れといたのがバレた?」 「違う、メールの着信音の方……ってお前そんな事してたのかぁっ!? 通りで初夢に大 相撲の本場所が出てきた訳だ……」  まったく許せん奴だ。  今日こそは懲らしめて……。 「じゃ」  我が弟はこの時点で玄関口に立っていた。  こう言う時だけ忍者のような体のこなしをする弟なのだった。ついでに言えば、ほとぼ りが冷めるまで友人宅に止まって来る事も辞さないような根性も有ったりする。  毎度の事ながら俺はまた奴を取り逃がしていたのだった。……おそらく奴が帰ってくる のは『浅野家の幸せ守る憲法第15条』に記されている12時間と言う時効が過ぎた後だ ろう。  ……完璧に負けた。  不運な事に、奴は悪戯に人生を賭けていた。  そのうちタレントかマジシャンになるんじゃないか?  俺は怒るよりむしろ感心して玄関先を駆けて行くその弟の後姿を見送ったのだった。  そしてスゴスゴと二階の自分の部屋へと戻る。 「逃げられたよ……」  俺はさっきとは別の溜息をつきながら世界へと戻ってくる。  こう言う出来事は1回や2回ではないのだ。  大体何をやっていたのか想像がついているのだろう、アーサは微妙に笑顔だった。 「相変わらず楽しい弟さんですねw」 「まあ、ね」  楽しい事は楽しいだろう、被害者(と書いて浅野猛……つまり俺と読む)以外は。  まったく傍迷惑で疲れる弟だ……。  けれど、今の出来事で殺気までのシリアスな毒気が抜かれてしまったのも確かだ。   俺の心はちょっとだけ癒されたのかもしれない。そこで、ふと別の見方からの考えが 過ぎる。  ……まさか。    卓は、そんな事までちゃんと考えて………!  ビュゥゥゥゥゥゥゥッ!!  この時ボロ小屋(=我が家)に隙間風が吹いた、隙間風が吹く立て付けの悪い窓際に有 るのは俺達の使っている二段ベッドだ。そして俺の使っている上のベッドの枕から、見事 に風に誘われて朝青龍のブロマイドが落ちてくる。  144kgの肉体が輝いていた。  小脇には『by卓、敬愛する兄者へ♪』なんて洒落た文字で書いてる。    ぷるぷるぷるぷる………っ!  HMDを着けながら器用に空中でブロマイドをキャッチした俺の腕が小刻みに震える。  ぜっっっっっったいアイツは俺を見て楽しんでるだけだ!!!  そう、心の中で叫んだのだった。  その時…… 『ピンポンパンぽーん♪ イヤッハァ!ナイスな心の友よ、ご機嫌いかがかなぁーん?  元気で生きのいい新着メールが届いたよーん。 開けてみないかーい?』  このタイミングで来るか普通っ!?  俺はメールを開くより先に鬼気迫るような勢いで設定を元に戻したのだった。因みに音 声データのファイル名は『コードGGXvolY』……ったく何処から落としたんだよ、 こんな音声を。  これからは用心してセキュリティソフトでも入れようか……?  3秒でそんな金は無い事に気付いた。  悲し過ぎる。  まぁ、そんな事を言っていてもどうにかなるわけではないので、俺はさっき届いたメー ルを開く。  因みに片方は未承諾広告……つまりスパムメールなので即刻削除だ。 「えーっと………あ、宝くじの抽選結果か」  宝くじイベント……。  これはCC社が企画しているイベントではなく、ワイズマンと言うPCが個人的に作った システムらしい。  詳しい経緯は知らないけれど、何でも巨大な資金を生かして数名の商売仲間と友に経営 している宝くじなのだそうだ。システムも知名度も確りしていて、今ではかなり流行って いるらしい。  因みに1等は200000000GP、そんだけお金があるんならもう稼がなくても良い んじゃないかとも思うけれど。彼らは物を買うためではなくて競技みたいな感覚でお金を 集めているらしい、……やはり金持ちは違うのだ。   「ウィールさん、その宝くじ買いました? 私は500枚バラで買ったのに全部外れてた んですよー、5等も当たらないなんて酷いですよね」  500枚かって一枚も当たらないって……。ある意味1等を取るよりも難しくないだろ うか? 正当に訴訟が起せそうだ。  しかしアーサなら普通にやってしまいそうにも思えた。彼女はそんな人間なのだ。  言っておくが宝くじ辞自体はリアルとさほど変わらない確立で当たるようになっている。 「それは残念………って、一枚300GPだから単純計算で150000GPも使ったの?  良くそんなお金が有ったね」 「はい、全財産空っぽです!」  いや、そんな笑顔で言われても……。対応に困るのだけど。  彼女は俺と違ってお金にがめつくないらしい。  聞く所によればリアルも決して豊かじゃない筈なんだけど……、全財産を失っても浮か べていられるこの笑顔はいったい?  まばゆい笑顔だけれども、俺みたいに作り笑いを浮かべているわけでは無さそうだ、仲 間の絆がそれを知らせてくれる。  はぁ……本当に、彼女から見習うべき事は多いみたいだ。 「あ……そう言えば俺も一枚買ってたっけ」  俺は無駄使いはゲームでも絶対にしない人間だったけれど、アーサに勧められて一枚だ け買った覚えがあった。  一枚だけでも当たる確立が無い訳ではない、当たる確立はかなり低いが確かめてみて損 はないだろう。 「一等は291347が全部揃っている事ですよ」 「分かった……291347だね。……えーーと………291、34、7…。あーー惜し い、外れたぁ! やっぱり宝くじなんて中々当たらないもんだよね」  ちょっと待った。  何か不自然だったぞ?  俺は慌てて自分の番号を確認する。それこそ目の穴をかっ穿るかのようにHMDの画面を よーーーーーーく見直してみる。 「当たりは291347………俺は291347…………。……あびょーーーーん」  唾を飲み込んだ。  冷や汗が流れた。  目の玉が志村○のバ○殿様の如く飛び出した。  思わず自分の頬を抓って力加減を間違え思いっきり捻りきった痛みで悶え苦しむ。  一通り馬鹿な事をやって現実なことを確かめる。  そして思いっきり叫んだ。 「二億GP当たったぜ、バカヤロウーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!!」  心身のストレス?  忘れたわそんなものっ。  弟の悪戯?  所詮子供の戯れさっ。  万年貧乏?  ノンノン、俺は今日から成金重斧使いだぜっ。 「お、おめでとう御座います! ウィールさん!」 「やった、遂にやったぜアーサっ!!」  その後手を取り合って幸せのダンスなんか踊っちゃうんだから、二人とも案外お茶目さ んだ。  まぁ、つまりそのくらい俺達はこの幸運を喜んだ。今までと今後の運勢全てを使い切っ た気がしたが、その辺りは気にしない事にしよう。  兎に角2人で喜んだ、何ゆえアーサまであんなにはしゃいでいたのか今一謎だったけれ ども。いや、きっと彼女は場の雰囲気に流されただけのだろう。  まぁそんなどうでもいい事は忘れて二人ではしゃぎまくった。  そして数分経ってある事に気付く。  そう、とっても目立っている事に。  マク・アヌの橋の上に結構な人だかりが出来た辺りで、俺達は物凄―――く目立ってい る事にやっとこさ気付いた。  それはもう立派な人だかりだった。  きっと松井が日本に帰って来た時の羽田空港はこんな感じになるのだろう。  ダブルで顔面から火炎放射した。  新しいスキルが生まれた瞬間だった。   「あ…アーサっ! カオスゲートからランダムで飛ぼう!」  勿論注目される事に慣れている筈も無い一般庶民の俺達は、この視線に耐えられなかっ た。  と言うか偉業を成し遂げて目立つならばともかく、理由が理由だけに素晴らしく恥かし かった。  お約束のように回れ右をする俺達、こう言う時は三十六計逃げるに如かずだ。  俺はアーサの手を引いて無理やりこの凄まじい人込み(どっからこんなに集まったんだ 暇人どもめっ)の間を駆け抜ける。  その間にヒューヒューと口笛を鳴らされたり、背中を叩かれたり、頭の上を真っ黒な短 剣が掠めたり、『頑張れよ』とかやけに真剣な声で応援されたりしたもんだから二人とも更 に輪をかけて真っ赤になった。  ここまで来ると顔面がじっくり茹でられた蛸のようだ。  そんなこんなで苦労しながらカオスゲートまで走っていくと、俺達はすぐにランダムで ワードを選んで転送した。  急いで、兎に角急いで!  後ろを振り返っている余裕なんて無いかったのだから。  何故そんなに切羽詰っていたのか? それは『嫉妬組合』なる怪しい組織が俺達の後を 追ってきていたからだ。  全国のバカップルどもを抹殺する為に結成された恐ろしきPK集団である。  そんな人々が全員武器を構えて戦闘モードに入ってやって来るのだから、タウンの中と は言えムンムンと漂ってくる殺気が濃くて怖過ぎる。火をつけたらきっと燃えるだろう。  「ジィィィィィク嫉妬ぉぉぉ!!!」  そんな声が聞こえてきた瞬間に俺達の姿は消えた。  ほんっっっとうに転送システムに感謝した。 ………。 「……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇっ! こ、ここまで来れば大丈夫だろう……」 「すっごく怖かったです……」  俺達は転送を終えてから一目散にダンジョンまで走ってきたのだ。あまりにも急いでい たのでプチグソを使う事すら忘れてしまった。  落ち着いて考えてみれば苦笑ものだけど、人間と心理と言うのはそんなものである。  だけどそこは逞しい俺達のこと。  アレだけ焦っていたにも関わらずピラミッドのようなダンジョンの中で一息つき、ちょ っとだけ辺りをウロウロして落ち着くと。数分後にはフツーに魔法陣を開けて探索を楽し み、のん気に青色の宝箱を黄金の針金でほじくり開けたりしていたのだった。  喉元過ぎれば熱さなんて綺麗さっぱり忘れてしまうのが俺達である。  因みに中に入っていたのは『黄金の針金』である。 「しっかしまぁ、こんなにもくじ運の悪い俺が1等だなんて……」  再び感慨に耽ってみる。  夢のように思えるけれど、ヒリヒリ痛む頬から判断して確りとこれは現実だった。まぁ ゲームではあるのだけれど。 「普段が地獄の底でへばり付きながら閻魔様に鞭を振るわれているような生活ですから、 きっとお釈迦様が蜘蛛の糸を垂らして下さったんですよ」   「……微妙に複雑な表現するね」  何処まで行ってもアーサは天然素材で作られた脳をフル稼働させているようだ。  かわいい顔で俺でも偶についていけなくなるほどに爆走してしまう。  因みにこのくらいならまだまだアーサにしてみれば『軽い方』だ。前なんてあんな事を ……いや、思い出すまい。  俺は開いてはいけない記憶の扉を再び閉じて、南京錠で確りと封印した。 「しっかし本当に当たってるのかな……、うん……数字はちゃんと合ってる。夢じゃない んだよな……良し! アーサ、今度好きなものを好きなだけ買ったげるよ♪」  既に俺の頭の中ではホームを買って調度品を買って武器も最高クラスの物を揃えて……、 と皮算用が始まっていた。  数学のテストを解いている時と比較してその演算スピードはおよそ4倍、ある意味俺の 頭は単純な造りといえるだろう。  兎に角頭の中は幸せな計画で早くも一杯である。 「じゃあ今度アクセサリーのお店に連れて行って下さいね♪」  嬉しそうに笑うアーサの姿がとても眩しかった。  そしてその後に続く言葉は眩し過ぎて涙が出てきそうな程強烈だった。 「……あ。ところでその宝くじですけど、第何回の物か確認しましたか? 聞いていたと ころ番号しか見てなかったみたいですけど……?」 !!! 「………ハ、ハハハッ! 勿論今回のものだよ」  若干乾いた笑い声になったけれど、こう言う時はアーサは鋭くなかった。  俺の笑い方が明らかに不自然だった事に毛筋すら気付かなかったようだ。  冷や汗を流す俺。  相変わらず笑顔のアーサ。 「そうですよね。当たり前のことを質問しちゃってすいません」 「いいよ、そう言う気が利くところがアーサの良い所なんだし!」  今度はやけに語尾が強くなったのだけど、やっぱりアーサは気付かなかった。  何の疑いも持っていない。ぜんっっっぜん気付く素振りが無い。  すっごく笑顔で楽しそうに嬉しそうにしている。彼女はまるで自分の事にように俺の幸 福を喜んでくれていた。  自分は500枚全部外れたというのに……、何ていい子なんだ。  その仕草はまるでエンジェル。  しかし……エンジェルよ、俺は暗に語っているんだ。第24回のくじで第26回の1等 に当たっている事をっ!  これだけヒントを出しているんだ! 気付いてくれ、エンジェル……!!  もうプライドがどうこうではなくて、常識的に言い出せる筈が無いのである。  また別の意味で涙が出そうだった。  勿論、エンジェルはそんな俺の心の葛藤に気付くはずもない。  何と言っても彼女は頭の中が天然素材だったから。  NOoooooooooooooooooooooo!!!!    お釈迦様の糸が切れた瞬間の叫びが、心の中で響いた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ああ、またまた時間が……! 毎回遅れてすみません。(汗) しかし今回はやけにハイテンションな作品になりましたね。自分でも凄いノリになってい ると思いました。(ぁ) あ、それと朝青龍とか志村健とか松井とか、彼らはあくまで『比喩っ』として使っている ので突っ込みは入れないで下さいね?(苦笑)