<未知なる友>  俺は……、別に何でもない。って言ったら変かな?  いや、ホントに何でもないただの15歳。  普通に勉強をして、普通に友達とつるんで、普通に推薦試験を通った中三男子だ。  ホントに……。  ここまで普通普通と言ってると嫌になるが……、そこまで普通過ぎるのが俺の特徴らし い。  髪型はボサボサでもなければサラサラでもないショート、身長はそう高くも無い165 cm、体重もデブとまでは言えない55kg……。  ああ、もう考えるのが嫌になってきた!  何で俺には特徴と言うものが無いんだ!  誰か、俺に少しでも目立つ特徴と言うものをくれぇ!! キーンコーンカーンコーン……  定番と言うよりむしろ聞き飽きた音が教室に鳴り響く…。  どうやら受験を終えてボーっと変な事を考えている内に6時間目が終わりを告げたよう だ。  取り合えず板書はして置いたので困る事はあるまい。  俺は短気で有名な担任の(実は結構羨ましい)短いホームルームの時間を終えると。  特に誰と一緒に帰る事も無く一人で家に帰った。  ちなみに掃除当番は来週なので今週は掃除をしなくていいのだ。  俺はテクテクと…、もといどちらかと言えばトボトボと家路を歩いていく。  季節上では春なのに、今日はとんでもなく寒い。   「(何で俺はこうも変化の無い日常をおくるんだろうな……)」 「(最近普通以上に楽しい事と言えばThe World位しかないし……。 ま、そのThe Worldで今日も遊び倒すとしますか)」  俺は2つ目の横断歩道を渡りきると、そのまま広くも無い道にちょこんと佇んでいる家 を目指した。  因みに大してでかくも無いくせにローンは20年以上残っている。  そしてボロイ。  俺はガチャリ、…いや、痛んでギィィィィと嫌な音のなる扉を開けて家に入った。 「あ、猛。洗濯物入れておいて」 「はぁい」  そう、俺の名前は浅野 猛。 名前だけは気に入っているんだけど、どうも中身が釣り合っていない気がする。ついで に言って置くが一人っ子だ。  俺はやる気の無い返事を返すと、制服を着替える為に二回へ上がっていく。  これまた使いにくい家なので我が家の階段には手すりが無い、……小さい頃に何度滑り 落ちた事か。  俺は嫌な記憶を思い出しながら、さっさとベランダに有る洗濯物を取り込む。  そして制服を脱ぐとそれをハンガーに掛け、取り込んだ洗濯物の中から自分の服を着る。  ここまですれば後は何も無いので、後は自分の部屋に入って心置きなくパソコンの電源 を入れるだけだ。  俺はカチ、と電源を入れると。立ち上がるまでの時間に上着を羽織り、そして鞄を机の 隣に引っ掛ける。  余談だけど俺は綺麗好きだ、なので狭い部屋だけどちゃんと片付いている自分の部屋は 密かに自慢に思っている。 本は本棚に出版社別に整理し、CD類は種類別に大型ラックにしまい、机もゴチャゴチ ャならない様に古い教科書や資料などは机の下に縛ってある。 ……と、やっとオンボロ中古パソコンが立ち上がったようだ。 いくら資金難とは言え、この立ち上がるだけで3分間を要するパソコンはいつか買い換 えたいものだ。 俺はThe Worldを立ち上げると、苦労して買ったFMDを丁寧に被った。 独特の剣が突き刺さるモーションが始まり、俺は超巨大ネットワークゲームに入り込ん でいく。 そして日課のように手馴れた感覚でBBSを開くと、新着記事の中で面白そうなものを 探していく。 いつもの事だが、多すぎて全部読んでいくとそれだけで貴重な数時間を潰してしまうの だ。 俺は目ぼしい記事を探して数十件に上る新しいツリーを見ていると、一つだけ面白そう な記事を見つけた。 『重斧使いはいないか?』、こんなタイトルだった。  そんなに目を引くようなタイトルではなかったけど、開いてみるとこれがまた変な内容 だったのだ。  内容は……、『重斧使いなら誰でもいい、俺と一緒に来い!』、…と言ったもの。  書き込んだPCの名前はアーザスと書いてあったけど、…それ以外は何も無い、ただ『俺 と来い』みたいな内容だけ。こんな書き込みをするとは荒らしだろうか?  俺はこれ以外の記事には特に気になるものは無かったので、そのままログインした。  いつもの様に癖でFMDの音量を調節し、一瞬真っ暗になるような感覚の後、俺は直ぐ に地面へと着地する。  辺りを覆おう巨大な緑、道を縫うようにして立てられている建物、そしてこれでもかと 言う数の大小さまざまな遺跡。  そう、ここはΩサーバー=リア・ファイルだ。  勿論、俺がここにいるのはそれに見合ってレベルが高いから。推薦終わった後に何十時 間と遊びまくった甲斐あって、遂に昨日Ωデビューを果たしたのだ。  俺のPCネームはウィール、確か原動力とか言う意味ある。  ジョブは重斧使いだが、一般的な斧使いとは違い少しひょろりとした印象のあるPCメ イキングで、全体的に青い。  それでも背が高くて中々デザインも良いので俺は気に入っている。   それにしても今日はやけにタウンを歩いているPCが少ない気がするな。 最上級サーバータウンだけにリア・ファイルは他のサーバーよりもPC数は少ないけど、 今日は何故かいつもの3分の1程しかPCがいない。 何かイベントでも有ったかな………、ああ、そう言えばあったあった。 今日は遺跡探索イベントの日だった。 遺跡探索イベントとは、CC社が50日に一度リア・ファイルでだけ開催するイベント の事だ。 タウン内に無数にある大小様々な遺跡から掲示板にあるヒントだけを頼りに、宝箱のあ る遺跡を探し出し、そしてその遺跡内のダンジョンを攻略すると言うものだ。 簡単そうなイベントだけど、これがまた難しいらしい。 本物以外のダンジョンは全てダミーで神像部屋が無く、永遠に降りる事になるのだ。 そして何と言ってもヒントが難しいと言うので有名で、それを解くだけで一苦労だと言 う。 それで今回のヒントは……。 『12の中心より虎を追え、そして喉を潤せばただ深きを目指せ。やがて夕暮れ龍の加護 あらん。その重みに耐えうるに相応しき者、絶望により希望が注がれる』  ……何のこっちゃ?  まあいいや、どうせ俺は着たばかりなので全くもってレベルが足りそうも無い。  無理せずにレベル上げでもするのが妥当だろう。  ………ん?  この判断もやっぱり普通だなぁ……。 「よう!」  バシィと急に肩に手を掛けられ、そのまま背中の方から景気よく挨拶(?)された。  全体的に黒い青と白の複雑な模様の入ったノースリーブの服に、丈夫そうな色々と袋の ついている皮のズボン、そして模様の無い黒いマントに最近追加された職業である証の巨 大な『弓矢』を背負ったPCだ。何となく暗い服なのに、それを弾き飛ばすかのような明 るい緑の目をしている。 いや、その前に誰? このPC。 俺は軽く「今日は」と挨拶しながら、この変に明るそうな未知のPCを不審そうに見つ める。 「お前重斧使いだよな? 丁度いい、一緒に来てくんねぇか?」  と言いつつも既に俺の手を取って歩き出してる。  それじゃ疑問系の?マーク使ってる意味無いだろ! 「ちょ、ちょっと、俺はまだ何も!」 「どうせ暇してんだろ、だったら少し付き合ってくれよ?」  と言いつつもやっぱり俺の手を引っ張って行く。  そして俺は引きずられるような形でズリズリと流されていく。  世の中にここまで強引なPCがいたとは……、て、そんな事考える前にせめて何処に行 かくらい聞かなくては!  俺は少しばかり覚悟を決めて口を開いた。 「確かに暇だからパーティを組むのは構わない、でも俺ここじゃレベル低いから高レベル エリア以外じゃなきゃ足引っ張る事になるぞ?」 「ああ〜〜、そんときゃ俺が助けるから心配すんな」  え、ちょっと待て  俺が助ける?  それはつまり俺が危険にさらされるって事か!   「俺の名前はアーザス、お前は……、ウィールだな、んじゃ宜しく! ……おっと、あそこの遺跡だ。行くぞ!」  その遺跡はリア・ファイル内に流れる川を、川沿いに下流へと進んだ先に有る入り口の 小さい地下遺跡のようだった。  そしてその周りには無数のPCが集まっている、何やら遺跡内に何か有るらしくそれに ついて話し合っているようだ。  俺は反論する暇すら与えられずに遺跡の中に引きずり込まれていった…。  何なんだこの強引さは。  ん、アーザス……?  そう言えばBBSに書き込みをしてあったあのアーザスかな……。  て事は俺…、重斧使いな為だけに勧誘された?  まぁ、この際どうでもいいけどね……。  俺はズルズルと中に入って(引きずられて)行く。 「なぁ、ここのモンスターってどれ位のレベルなんだ?」 「ざっと平均87レベルってとこだな、楽勝」  俺にとっては楽勝じゃないのですが……。  だがそんな事言ってもアーザスは気にしないだろう。  こうなったらアーザスとやらに戦闘は任せて俺は後方援助でもしていよう。  幸いにもアイテムは買い足したばっかりだ。  これだけあればアーザスが口ほどにも無い弱さでない限り、無くなる事はない筈だ。  このダンジョンは階層がかなり深そうな薄気味悪い感じがする……、特に所々落ちてい るPCの『遺品』が痛々しい。  俺達は既に他のPCが入った後らしく、魔法陣の無いダンジョンを下へ下へと降りてい く。  途中様々なPCがオカリナを使って脱出したり、何かメールを出していたりするのが目 に入った。  地下7階  ダンジョンは更に暗い紫色の模様が入っているものに変わり、より凶悪そうな感じがす る。  もしかしてモンスターも凶悪なのでは? と言う疑問が浮かんできた頃。  ここまで来てやっと開けの残しの魔法陣があった。  俺達はここまで潜って来るのに相当暇を持て余していただけに、(アーザスが)遠慮なく それを開く。  シィィィィン、と言う音と共にレッドマウンテンと言う新しく追加されたレベル85の 大型のモアイのようなモンスターが派手な音をたてて出現した。  いかにもHPが高そうだ。  ここはアーザスの弓で先制攻撃してHPを削……。 「うらぁ!!」  予想外にもアーザスはレッドマウンテンの近くに詰め寄って『素手で』攻撃している。  しかもわざわざ装備を何も無しの状態にして戦っているみたいだ。  ……この人、馬鹿? 「こらーーっ!! 何でその弓使わないんだーー!」 「その拳一つで戦う……、これぞ、おとこぉぉぉ!!!」 んなこと知るかっ! ちゃんと戦えよ!  しかも何故かちゃんとダメージ当たっているし。  ああもう、訳の分からんPCだなぁ…。素手で戦いたいんなら拳闘士使えばいいのに… …   そう思いつつも俺は後方からお札を使っていく。  20秒ほどでレッドマウンテンは540の経験値に変わった。  苦労の割にオイシイ戦闘だったのでもう良しとしよう。  一々アーザスに突っ込みを入れていると疲れてしょうがない……。 「さぁて、先へ行っくぞーー!」 「はぁい」  俺は適当に返事をするとアーザスの後に続いて、正に遺跡らしい今にも崩れそうな石の 階段を下りていった……。  ……何となく家の階段を思い出すのは何故だろうか?(ついでにそこから落ちた記憶を 思い出すのは何故?)  2時間程降りただろうか。  降りるに連れて増えて行く魔法陣を開いて、俺達はモンスター達を狩りつつ降りていっ た。  流石に31階まで降りる頃には、俺も8レベルもレベルが上がっている。  でもそれと引き換えにアイテムは残り少なくなり、かなり心細かった。  俺は心配に思いながらも、段々と息が合うようになってきたアーザスとモンスターを蹴 散らす事に専念する。  アーザスも「俺の代わりにし死ねぇ!」とか「これぞ漢の拳よぉ!」とか言い出す以外 は戦闘において心強い限りだ。  俺も慣れてしまったので今では適度な無理の無い突込みを入れられる様になっている。  ……ん?   何で突っ込み役になっているんだ?……俺。   「やっと着いたな……」  不意にアーザスが何も無い部屋に入ってそう呟いた。  本当に何も無い部屋だ。  正にここで行き止まりですよ〜〜、と言わんばかりのスッキリさだ。  でもここまで何も無いと返って怪しい。 「グイっとな」  アーザスはしきりに壁を探り始めたかと思うと、左の壁の真ん中辺りで止まり、グイっ と壁を押していく。  ズリズリと言う音と共に壁は簡単に奥へと沈んで行き、そこには隠し部屋が広がってい た。  隠された部屋は意外と広くて天井も高い、そして何よりも禍々しい像に囲まれた金属製 の巨大な扉が印象的だ。  ……ん? それと扉の前に誰かいるみたいだ? 「アース、意外に速かったわね?」 「偶然良さそうなのを見つけたんでな、それで直ぐに引っ張って来れたんだよ」  良さそうなの……て、多分俺だろうな。 「あ、どうも初めまして。私はセレア、貴方は?」 「あ、はい。ウィールって言います」  この人はアーザスと違ってまともそうなPCだ。  中々大人っぽそうな声の呪紋使いで、長い金髪が印象的な感じがする。  そして何より灰色の目が理知的に光っているその顔は、文句なしに美人だった。  CC社のグラフィックチームもいい仕事をするものだと、俺は改めてCC社に感謝した。   「早速で悪いんだけど……、この扉を開いてくれないかしら?」 「ど〜〜も、思斧使いじゃなきゃ開かないらしいんだ」  あ、なるほど。  だから重斧使いの俺が必要だった訳か。 「それじゃあ……」  俺は両腕に最大限の力を込めて……、いや、コントローラーのボタンをこれでもかと強 く押して扉を押していく。  ギ………、ギ………、ギ………、と重そうな扉は、家の扉より数段悪い音を出しながら 開く……。   「うわぁ!!」    その先に有ったものを見て、俺は思わず情けない声を出してしまった。  残り2人も声を上げてはいないものの、兎に角驚いているようだ。  驚いてもしょうがない、その先に先に有ったのは……。 誰も見たことの無いだろう、正に未知の……… あああ……。 変な所で終わって申し訳ない。 と言うよりも変なお話で申し訳ないです。 何でこう私は変な作品ばっかり……。 序盤のリアルでのお話が長過ぎましたね。 それ以外のも直すべき点が大量に……。(汗) 兎に角、お題に沿ってすらいるか微妙な作品ですが最後まで読んでくださった方、感謝い たしますです。