<闘い> 「………この勝負、受けてくれるだろうか?」  口上など要らない。  真っ直ぐに向けた俺の長剣が、その意味を伝えてくれるだろう。  真っ直ぐに、闘いたいと。  羽根を持つ剣士は立ち止まり、振り返る。  しかしその動きから毛ほどの隙も知る事は出来ない。  好敵手とはこの事だ。 「 いいだろう。 ……蒼天のバルムンク、参る!」  それ以上の返答は要らない。  透き通るような音と共に抜き放たれた長剣が、俺に意味を返す。  受けて立つと。    闘いは、始まった。 雨が降っていた、            周りは薄暗いが。 まだ十分昼の時間と言う設定だ 草は揺れていた、            雨が降っているのに。 少し風が吹いているのだろう 俺達は駆け寄った、            お互いに剣を持ち合い。 勝つ為に                  剣戟、  かん高い金属音と共に固い金属が悲鳴をあげる。双方とも悲鳴に弾かれるように、一歩 引いた、どちらも構えを崩し隙を見せるような事はしない。 間を置いている暇など無く、また一撃っ、……二合目の打ち合いもお互いの無傷に終る。  俺は地面を蹴った。  視界をそのまま巻き戻したかのように地面が流れ、離れる。 今度は二歩引いた。バルムンクの間合いは広いと気づいたからだ。踏み込む足に他のPC とは違う力と跳躍力が有る。 この動きはあるいは飛んでいるのかもしれない、とも思わ される程に。  先程の間合いだと簡単に踏み込まれるのだ、迂闊に入れない。  俺が今無傷な事は、かなりの幸運だと言える。      ………  俺は剣を構える手から力を抜いた、……力み過ぎていたようだ。      ………  どちらも全く動かないかのように見える。  風が吹いたかと思えば髪に纏わり付いた水滴を散らし、新たな水滴を付着させた。  地面をぬかるませるほど、降ってはいないようだ。   互いに睨み合う。バルムンクはやや涼しい眼だが、俺は正に睨みつけていた。  先程の連続した打ち込みとは変わって、今度は張り詰めた『静』が辺りを支配している。  だが、目の良い者、武術に長けた者は気付くだろう。双方とも、ジリジリと摺り足で近 づいている事に。  俺達はお互いに最も有利な距離を奪い合い、戦っているのだ。  打ち合うだけが戦いではない。  強気に距離を縮めようとするバルムンク。それに乗るか乗るまいかと迷い、意を決して 応じる俺。  もう少しでこの競り合いも終る事だろう……。    ヒヤリと何かが目の脇を流れていった、僅かに反応するが、すぐにそれが自分の汗だと 理解出来た。 俺に額には汗が浮かんでいたのだ。だが冷や汗ではない、極度の集中による物だった。  蟻の走るような速さで近付く2人の剣士。  挑戦者と、覇者。                  弾けた 「くっ」 この一瞬だけ俺は何もかも捨てた。 地に付いた右足に全ての力を注ぎ、蹴り飛ばす。 「っおおぉぉぉぉ!!」    気合と共に仕掛けた、  全てを篭めて踏み出す足はバルムンクのそれに劣る事はなく、速い。 そして強い。 これなら避けられない、俺は突き出した自分の剣閃に確信を持った。  一瞬を待たずしてこの剣はバルムンクの体を貫く筈だ、と。 だがバルムンクも、速かった。  目の前まで迫ろうとしている俺の切っ先に、まるで興味がないかのように彼は瞬きすら しない。  瞼の代わりに動かしたのは腕だ。  そして見ていたのは俺の剣ではなく、腕の動き。                 そう気付いた時に見た彼の眼光は恐ろしく鋭かった。 「シッ」  正眼に構えていたバルムンクの剣が、本当に動いているのかすら分からないような滑ら かな動きで押し出された。まるで空気と一体になっているかのようだ。  真っ直ぐに向う俺の剣が『|』だとしよう、彼は『―』の角度でその壮麗な長剣を突き 出した。  狙ったのは俺の持ち手。の……上。 鍔だ。  (*柄と刀身との境目に挟み、柄を握る手を防護するもの)  ガキリと鈍い音を立てて無理矢理その動きを止められた俺の渾身の剣。  勢いを殺せ切れずに震えるバルムンクの剣。 剣が、辛うじて眉間の皮に達するまで押し込む事が出来たのに、そこまで出来た事が逆 に悔しかった。  後 刹那速ければ勝てたのだ。    諦めきれる訳がない。     俺は必死になって剣を握る手に力を込めた。            まだ、行けるっ!! 「ハッ!!」    半歩踏み込み、斜め上に剣を押し出してバルムンクの剣を引かせる。     良しっ。 引いた。  上手くいったと確信した俺は、すぐさまその部分から剣を振り下ろす!  甘かった。  バルムンクは剣を引かせたのではなく、その瞬間を狙って『折り畳んだ』のだ。  即ち切っ先を自分に向け、柄尻を前に向けた。  恐らくは俺の挑戦心から焦りが生まれるのを待っていたのだろう。 ブンッ  俺が何も無い空を切った時には、既に彼の剣の柄尻が俺の鳩尾に深々と突き刺さってい た。  引力が100倍になったのかと思うような勢いで、落とされた。    鈍い音と共に地面に突き落とされた俺は、衝撃を堪えてすぐに受身を取ろうとする。何 度も戦って来た経験による体に染み付いた反応だ。  それも、甘かった。  この近距離で受身など取っていては、……バルムンクならば反応して斬りつける事が出 切る。  戦いに模範的なセオリーなど無いのだ。  転べばすぐに受身を取れば良い、と言う絶対的な法則など何処にも存在しない。  この場合意地でも剣を構えながら尻餅を突いて、剣に備えるべきだった。         そこまで考えた所で、俺はモノクロになっていた。  段々と強くなっている雨、それはハッキリと横たわった俺にも降り注ぐ。 データである俺の体は消えていくが、もしかしたら何かは流されていくのかもしれない。  ああ、経験値か。  思わず苦笑が盛れてしまった。   消えるまでにはもう少し時間が有る。  俺はふとバルムンクを見てみた、何度も俺みたいな奴を相手にしている彼は今何を思っ ているのだろうか。 剣を収め、雨に濡れた羽根を折り畳んでいる姿はいかにも鬱陶しそうだ。  多分濡れるのが嫌なのだろう。  ……だが、何処か楽しそうに見えた。  俺の視線に気付き、彼は振り返る。  俺を倒したばかりだと言うのに、相変わらず毛ほども隙は覗えない。    しかし何故か満足げに微笑していた。 「まだまだ。だな、……だが良い闘いだった」 「ふんっ」   モノクロの俺は、きっと笑っていたことだろう。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 180度違う、とはこの事を言うのでしょう。 いつもの軽〜〜い調子は、全て頭上の星々の輝きの彼方に旅立つかのように、どっか行っ てましたね。 何でだろう?(汗) まぁ、某所では戦闘狂と呼ばれる私の気質が騒いだのかもしれませんね♪(危ないぞ、そ れ) 兎に角短いですが楽しんで頂ければ幸いです。