<夏の美少女コンテスト!> シャリシャリ……… シャリシャリ………  飲み込むと体の心までヒンヤリするような氷の粉に『イチゴシロップ』なる赤い液体を 掛け、あたしは『カキ氷(イチゴ味)』と世間一般的に呼ばれている物を食べている。  この小笠原気団があぐらをかいて居座っているような時期にはどうあっても欠かせない 物だ。最高気温が38,2度まで行けば、誰だって食べたくなる。  と言う訳で、あたしはシャリシャリカキ氷を食べながらサラサラと溜まっていたメール を流すように読んでいた。  あ、因みに贅沢ながら自室にクーラーが付いているのでカキ氷を食べていると言っても そんなに暑い訳ではなかったりする。そう、つまりカキ氷は気分的に食べたかっただけ。   「あっと、………『夏の美少女コンテストォ!!』……?」  二十数通溜まっていたメールの中に、ひときわ目立つ文字でそんな件名のメールが届い ていた。  差出人を見てみると『CC社イベント管理チーム』となっていた。どうやらCC社の公 式なイベント案内らしい。微妙だけど。  内用は『20歳以下の外見でメイクした女性キャラで、<夏の似合う美少女!>を選ぶ コンテスト』と書かれていた。成る程、考えられないほど細かいキャラメイクが出切るT he Worldならではのイベントかもしれない。何しろパターン合計で数万を軽く超 えてしまうくらいなのだ。  今までの古いネトゲではせいぜいワンポイントや色で競うしかないのだから、技術の進 歩とCC社の努力には恐れ入ってしまうよ。ホントに。  しかも賞品は『特別に専用キャラメイクアイテムをオーダーメイド』となっている、… …これはオイシイ。つまりは優勝したら、チートでは無くて公式に自分だけの好きなアイ テムが作って貰えるのだ!  あのバルムンクの様な特別なアクセサリーが作って貰えるとは……。キャラメイクに拘 る人間として、これはもう狙うしかない。  それにこのコンテストで優勝なんてしてしまったりすれば、まず間違いなく知名度も上 がると言うもの。そうすればあたしもフィアナ末裔や.hackerz……まで行かないけど、有名 人の仲間入りできる!  暫くはBBSもあたしの話題で騒がれる! 特定の友人(名前は秘密)に思いっっきり 自慢したり出切る!  ………(想像を膨らませる事数分)………  おーし、なんかやる気が出て来たぞーー! あたしも参加しようっと!  そう思い立つが速いか、あたしは流し込むようにカキ氷を飲むと(あ、キーンとす……) すぐにHMDを用意してログインの準備を済ませる。慣れた物でここまでの動作に30秒 も掛かっていなかった。  そしてログインする前にもう一度内容を確認する。   「えっと、そうだ開催日時……、開催日時は……………………明日ぁ!?」    『何かの悪い冗談』とかではなく、ホントに明日だった。  今日まで母方の実家にて一週間ばかりのんびりと文明を忘れて自然を堪能していたのが、 気付かなかった原因だ。なんちゅータイミングの悪さ………。  これじゃあゆっくりとキャラメイクアイテムを探したり、買ったりする為にお金を貯め る時間がないじゃないかい! と、一応心の中で悪態をついてみたが、その程度で出場を諦めるようなあたしでは無い のだ。勿論の事。  ので、『こうなったら今日出切るだけでキャラメイクアイテムを買い揃えて出場してしま おう!』と開き直るまでに1秒と掛からなかった。  さすがあたし。  それに選考基準は『外見だけでなく言動も含まれます』となっている。だから少しぐら い不利が有っても本番で巻き返す事だって出来るのだ。  なんてったってあたしは本番に強い。うん、心配なっし!  そう思ってしまえばあたしの行動はロケットの推進速度よりも早い、考えが纏まった瞬 間早速あたしのキャラ『フィー』にログインすると、すぐに雑踏を書き分けてマク・アヌ の道具屋にダッシュしているのだった。  この前誰かさんに『もう少し考えてから行動した方が良いんじゃねぇのか』とか言われ たけれど、それはスッカリと忘れ去っている事にした。 「ふーん……」  マク・アヌ道具屋の改装されたばかりのアクセサリーコーナーにて、私は整頓された商 品の陳列を見ながら小さく唸っている。かなり品揃えは多い、そして意外にお高い。 その眼光、周りから見れば獲物を狙うチーターと言った所。   あたしはコンテストに合わせて追加されたらしい数種類のアクセサリーをHMD越しに 睨む。  余計な飾りの無い清潔な感じのするクロスに、流線型の水の紋章が描かれている髪飾り に、何故か麦わら帽子に、団扇とかの小物に………。  コンテストに出ると決めて、アクセサリーを買いに来たのは良いけど。  こうしていざ睨み合ってみると中々これと言って決め難いのだ、何しろ全てでは無いに しろ選考の大部分を占めるであろう外見はここで決まってしまうのだから。  選考は一般とCC社での投票形式になるから……とか、やっぱり優勝狙うからには何か 他とは違うパッと来るアクセントが……とか、なにかと理屈を浮かべては色々考えてしま う。  そして結局は決まらない。  ぬあー……。 「………他の人も沢山居るし、参考にしてみるかな」  そう決めると、早速あたしは周りで同じようにあーだこーだ言いながら試着したり悩ん だり話し合ったりしているPCにさり気無く近付いてみる。多分この人達もコンテストに 出場しようとしているのだろう。  敵地偵察は戦場において基本中の基本なのだ。  まず目に付いたのは赤い双剣士の少年を連れて(でも引き摺っているように見えたけど) 色々なアクセサリーを見比べている色黒でピンクの髪の重剣士の女性だった。  なにやらアクセサリーについて話し合ってる(一方的に話してるように見えたけど)み たいだ。  どっちもどっちと言う表情をしながらも双剣士の少年は真面目に答えていた。  どこかで聞いた事があるコンビのような気がするけど………、気のせいだよね。   (う〜〜む、あの少年の待遇が気になるけど、あの人は強敵っぽいな。外見だけじゃなく て雰囲気が『夏』って感じしてるし)  次に目を移して見ると、そこには特徴的な大きな帽子を被っている呪紋使いらしいこっ ちもピンクの髪の女の子が居た。  なにやら『リアルの年齢は関係ないよねー^^;』などと言いながらお題に合った腕輪 やらリボンやらを見ているみたいだ。  言動と比べると、意外にも選んでいる物はシュールだけど大人びたデザインの物ばかり だった。何か夏の空の様な色合わせの服がアクセサリーによって更に『夏』の雰囲気を醸 し出している。 (うぬ、センス良いなあの人……。要チェックかもしれない)  次に目に入ったのは、サラリと流れる金髪とスリッドの入ったロングスカートがその美 貌を引き立てている、明らかに美人な重槍使いの女性だ。  しかしこの人は何故か他の人みたいにアクセサリーを選んでる訳でもなく、ただジッと 手に持った花飾りを見つめているだけだった。  な、何を考えているのか分からない……。でも美人。  それと、気になる事に棚の後ろに数人ほどこの重槍使いの女性をジッと熱い視線で見つ めているPC達が居た。ストーカーかなぁ? ………怪しい。 (兎に角この人もめっちゃ美人だから要チェック!)  そして最後に目に入ったのが、緑の癖のあるショートヘアに白いローブを着た呪紋使い の女の子だ。  なにやら付き添いらしい銀髪……いや白髪の剣士の青年に『止めておけ』とか言われて いる。  女の子のその左手には何故か猫耳が。……なるほど、その路線で勝負するつもりなのか も知れない。  外見からして結構似合うし、それも一つの手かな。あの剣士さんは何とか止めて欲しい だろうけど。 (一部で物凄く人気が出るかもね……、要チェック、しとこうかな?) 「うーん、皆色々な方向から攻めてくるなぁ……。あたしはどうしたものか……。」  そう言って、あたしはまた悩みながら大量のアクセサリー類を見つめる。  ええいもう、いっその事大雑把に選んでしまえ!  そう思って私が手にしたのは、薄い、透き通るように薄い水色の。 細いリボンだった。 ――――――――――――・翌日・――――――――――― 「それでは、只今より厳しい予選を通過して来た上位8名による。『夏の美少女』決選投票 を行います!!」  専用の会場にてザワザワと盛り上がる人々の声、更にそれを助長するような明るい感じ のBGM、そして高鳴る鼓動に正面から照らされている照明器具の数々。  なんとあたしは上位8名に入っちゃったりなんかしたりしてたり………コホン。上位8 名に選ばれていた。勿論厳正なる投票の結果で。  因みに最終的に買ったアクセサリーはあの薄い水色のリボンだけだった。  模様の少ない灰色のローブに、持ち手に模様の入った布があてがわれている杖、そして 自慢の長い流れるような金髪をあの細い水色のリボンで結んでいる。これが最終的なあた しのデザインだ。  それにしてもあえていつもの格好からずらさないで落ち着いたデザインになったとは言 え。  応募者数千人の中からあたし何かが選ばれるとは……、いや、これは必然なのだ!  誰が見ても、このフィーこそ夏の美少女に最も相応しいキャラなのだから!!  ……と言うことにして置こう、うん。  私はこのステージに向けられているであろう大量の視線の一つに目が合ってしまった。 柄にもなくかなりドキッとした。  あーー、緊張するなぁ。  そうこう考えながらあたしがボーっとしている内に司会さんの口上も終わり、No1の ブラックローズと言う人からアピールが始まっていた。  あの人は、あの赤い双剣士の少年を引き摺っていた人だ。やっぱり来てたかぁ……。  その後も次々とアピールが続く。  片手を振って爽やかにアピールする人、元気良く挨拶する人、無言で目線だけ配ってす ぐに戻っていく人………。  みんな、自信と緊張と不安が入り混じっているような感じがした。 こういう時になって見ると物凄く時間が経つのは早い。遂に、ろくな台詞を考える間も なくあたしの番が来てしまったのだ。 No7のリースと言うさっきの猫耳の女の子が戻って来た。……猫耳強し。  そして順番があたしに回って来て初めて分かった事だけど、あたしはガチガチに緊張し ながらも笑っていた。緊張していれば上手く表情も出せない筈なのに、それも何故か心か ら湧いてくるような笑みだ。  心の中で何かが、誰かが後押してくれている様な感覚。  観客の視線がさっきまでとは別の物に感じる。  ―――ええい、もう四の五の考えるのは止めてしまえ!  あたしは長い金髪と長い灰色のローブを揺らし、何の物怖じもなく視線の集まるステー ジの中心角へと踏み出した。夏の日差しのような明るい笑みと共に。  ゆっくりと優雅に、……と言う訳ではなく。確りとハッキリとした歩調で私は歩く。 先程の緊張など宇宙の彼方まで消し飛ばしたかのように。クルリと一回転してみせる。 ローブの端がヒラリと揺れ、髪は光を反射する小川の様に滑らかに流れた。  何故だろうか。もう、視線が気にならなくなっていた……。 …………… 「さあ、これで全ての選手のアピールが終了しました。これより審査に移ります。 投票する皆様は規定のアドレスに投票する選手の名前とコメントを添えてメールを送信 して下さい」 スポットライトが段々と暗くなっていく…………。 あの時の感想はどうだったかと聞かれると、あたしは決まって『よく覚えてない』と答 えるようにしている。  半分は嘘じゃない、けれどもう半分は嘘だった。  けれど鬱陶しいのでそれ以上は言わない。切が無いし。  実際あのあたし自身何をやって何を喋ったかは全く覚えていない。けれど、あの時のあ の瞬間の奇妙な気持ちと、高潮した心地良さはハッキリと覚えていた。  気持ちだけを覚えている。  だから、良く覚えてない。  気持ちの方は確りと心の中にしまって置こう。  それと  この、自分だけの小さな羽根飾りも。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― ……ぅぅ、難しい。 何て書き難いのだろうか、コンテストって(苦) しかも実際考えてみたら有り得な……(カット) 前回の宣言に答えられていない作品で申し訳有りません。けれど良い経験になりました。 この作品で得た経験を基に、更に精進を重ねていきたいと思います。