――――――――――僕の目の前には――――――――― ロイス、なにボケッとしてんの?         ――――――――――AIの少女が……――――――――― 落ちてる? ―――――――――――――――立っている――――――― おーい            <将来危惧による現実の重量付加―――憂い>  AIとは、ともそも危険な物だ。 それ自体の性格は関係なく、存在場所が、存在その物である体<0と1の並び>が……。  人間と、ほぼ同等に思考できるその超越的な解析・処理能力が……。  何よりも危険だ。  碧衣の騎士団は会社とユーザーの為に『不正規NPC』としてAIを削除している様だが、 彼らはNPCと言うレベルではなく、人知を超える程の『AI』なのだ。  彼だが主張している『一介のハッカーが潜り込ませている』ような物ではない、これは 実際に会ってみて確信した事。  もしもハッカーがこれ程のプログラムを持っているならば、ハッカーよりもむしろクラ ッカーとして別の事を考えるだろう。  この力を使えばもっと別の事が出来る、と。  AIを何処かの国に、もしくはテロリストに渡ったらどうなるか―――?    AIを使って核ミサイルの使用権占拠による世界征服、軍事衛星の乗っ取り、スイス銀行 口座の初期化………。  先ずはそんな事を考えてしまうが、それは難しい。筈だ。  では何故、危険か。  先に考えた事はアニメの世界の出来事に近い、実際失敗確率の方が遥かに高いだろう、 それは世界の最重要箇所にはそれなりの設備と対策が在るからだ。  だがAIには『使い方』と言う多くの可能性が存在する、破滅的危険を含む程に。  可能性から起きる様々な用途の中にこそ、危険がある。  先程の不可能は相手に対策があるから起こる事。ならば 対策があって出来ないのであれば、対策の無い利用のしかたをすればいい、これで相手 は勿論対策を取れない。簡単な結論だ。 AIの中に軍事的知識のデータを組み込み、自立して動く自動戦闘機を作ったら。 もしそれを大量生産したらどうなるか――――?  完璧な動きで、完全に周りの味方機と、人間には不可能な程の連携で動く戦闘機。  いや、戦車でも戦艦でも爆撃機でも何でもいい。  AIプログラムを悪用されてそんな物を作られたらどうなる?  ―――分かり切っている死闘。……考えたくも無い。  恐ろしい程の精度で思考しながら追尾するミサイル、AIプログラムを使った特殊なウィ ルス、ありえない何か…………。  無駄に、考えたくも無いのに危惧してしまう。  『AIが外部に漏れてしまったらどうなるか』、を。  実際、正確な看護目的の利用や安全な機械操作の為の利用などの『平和的』な使い方も 出来るだろう。  しかし……。 『おーいロイス、生きてるか〜っ? それともトイレって所にでも行ってる?』  人間の100%全てが平和的に使おうとする訳でもなく…… 『居ないのかな。よっし、口にマンドラゴラァでも入れてやろっ♪』  必ず軍部での利用が……  それよりも。  ……目の前の少女が僕のPCロイスの口の中に、赤い変な物体を入れようとしているのを 防ぐ方が先か。   彼女は本当にマンドラゴラァを持って来て、僕の口と僅か10cmくらいまで近づけて いる。後はロイスの口をこじ開ければ完了だ。  完了したあかつきには『彼女にとって』面白い結果が待っている。 「やめて下さい」  そんな事をされる訳には行かない。 「なんだ、やっぱり居たじゃん」  と、残念そうに言う。  彼女は、名前の由来となっているキンヨウアカシアの模様が入った袖口の大きいゆった りとした服を揺らしながら、諦めた口調なのに、なおもマンドラゴラァを迫っていた。  僕は左右に首を振ってそれをかわす、が、まだ諦めてくれない。  余程咥えさせたかったらしい。 何故そんなに咥えさせたいのかが僕には理解できなかった。だが、勿論理解できないと しても御免こうむるつもりだ。  彼女はどうあれ、僕は嫌なのだから。   『マンドラゴラァ!』といつもながら五月蝿いSEが至近距離で鳴り響いている。  そう言えば、見事にさっきまでの思考を止められてしまった。  方法と結果はどうであれ彼女の行動は成功した、と言っていいだろう。 (マンドラゴラァについては不問とする)  まぁ、あのまま考え続けても嫌な方向に思考が行くだけなのだから、ここは感謝するべ きなのかも知れない。     やっと彼女がマンドラゴラァを道具袋にしまったと思ったら、今度はズンズンと僕にぶ つかりそうなくらい近くまで歩み寄ってきた。  そしてヌッ、と顔を突き出す。 「居るんならすぐ返事しなさいよ、ボケッとしちゃって……。私の話ちゃんと聞いてた?」  声量は先程の倍。  少しきつめな印象を受ける黒い瞳と、今は少し険悪なムードを称える眉が、目前5セン チの所まで迫っている。  くしゃみでもしたら怒られそうだ、と、我ながら場違いな感想を抱いてしまった。 ……照れ、なのだろう。 「聞いていましたよ、思考中だったので少し考えるのを後に回していただけです」    僕は正直に本当の事を言った。  殆どの場面において嘘は不得意ではないが、ここはキッパリと本当の事を言っておいた。 色々と嘘をつくよりもその方が『身の為になる』と判断したからだ。  嘘とは、近くに居る限りいずれ分かってしまうもの。  親しみの有る人物なほど嘘を貫く事は難しい。  それに正直にキッパリ話せば少しは……… 「それは聞いてないのと―――――」 少しは手………、前言撤回。 彼女は呼吸を溜め、右足を引き左足を大きく踏み込み、右手を脇の辺りに引き込んで… …  僕は衝撃に備えて急所をガードし、ある程度の覚悟を決めた。  ついでに必要は無いがリアルで、ふっ、と息を止める。 「―――同じでしょうがっっっ!!!!」  放たれた。  高く高く不可能なほど宙に浮かび、鳥達と空の旅を楽しみ、やがてダイビングのように 地面へと平伏すロイスの体。  哀れ。  ……中途半端な覚悟など無駄と思い知った。  暫く動けない。 「まったく、人の気も知らないで……」  彼女はパンッパンッ、と服に付いた埃を払っている。  この世界に埃が有るかどうかは疑問だが、彼女はAI、気分的な事なのだろう。  ……と、冷静に考えては見るが、メガネがずり落ちて服は土塗れになり、HPが赤ライン に到達して効果音が出ている状況では流石にサマにならない。  僕は取り合えず身を起して『完治の水』を使うと、地面に落ちている、幸いにも傷がつ かなたったメガネを拾い上げた。  傷など最初から付かないのかもしれないが、僕は安堵の溜息を漏らした。 「気持ちを理解するのは、残念ながら僕の最も不得意な事です」 「あんたね――」 「でも、」 「努力はします」  僕は彼女と真っ直ぐに向き合っていた。  意識はしていないつもりだったが、自然と目が合ってしまう。  彼女の黒い瞳、僕の青い瞳。  AIは、危険だ。  動機はどうであれ、碧衣の騎士団のしている事は周りの概念から見れば正しい事なのだ ろう。  また、始まった。止める事の出来ない僕の悪癖……。  社会全体で考えれば……、 人命主体の平和的意見で考えれば……、 合理的に考えれば……。  AIを消し去る事は正しいのかもしれない。  このプログラムは危険なんです、削除しなければ大変な事になってしまいます。と言わ れたら何人の人が『消してくれ』と言うだろうか。  高がプログラムだと、多くの人は思っている。  核爆弾が『お願いだから助けて!』と言っても、誰がその危険性を否定できるだろうか?  仮に否定しても、事実は変えられない。  本質的に同じだ。  ……だけど。  ……もし、僕がAIだったとしたら。  例え合理的意見で決定された『削除』であったとしても、消されたくない、『生きたい』 と思うだろう。  何故だろうか……。  矛盾していても、生きたい。  これは僕の考え方に反する事だ。けれど、どうしても感情が受け入れるべき物を拒んで しまう。  僕は何処までも合理的な考え方をする人間では無かったのか?  この感情の反発は何故だ。  何故生きたい。何故消されるのが正しいと思っても……。  『そんな事を言うのなら人間だって、地球を汚染している消されるべき物じゃないのか』 『生きる事の何が悪い』  『存在自体の悪など無い、ましてや可能性に潜む悲劇なんて悪ではない』  『何が悪い、存在を否定していいのか』  『生きているならば可能性は無限にある、その中に不都合なものが多かっただけの事』 『同じ生命に断罪の権利など有るのか』  同じ立場だったら、……と考えた途端に反論が山のように浮かび上がる。   つくづく、嫌になる。  僕は自分こそ守りたいのか、合理的に多人数を尊重する人間では無かったのか?  馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ、 思い直せ、 正しく在れ、 『計算』しろ。  感情は、思考と理念を狂わす。  正確に、ただ真っ直ぐに伸びた『正しい道』を選びたい、見つけたいのに。  僕は悩んでも感情によって霞んだ道しか分からず、  また悩んで……。  進んだは良いけれど、霞は晴れなくて、  また悩んで……。 「それがロイスの良いとこ、か。許してあげる、ロイスはいっつも正しい事を探して努力 してるもんね」  数秒の思考の中に、彼女の声が染み渡った。  それは明け方の陽光に似ている。 「努力……」    悩む事は、確かに努力かもしれない。  苦しむ事は、確かに努力かもしれない。  僕はそんな事も認めていなかったのか。  呆れ果てた、果てて空になったら、自分の辿ってきた努力の『跡』が見えた。  彼女が見せてくれた。 「そう、頑張ってる人は、嫌いじゃないよ」  成る程、……僕はついさっきまで、諦めようかと思っていたけれど。  何でだろうか、いや、答えは教えてもらった筈。 この事には確りと向き合わないといけない。  逃げたら、僕が求めていた物も、これからどうするかも、道も、分からなくなってしま う。  霞が深くなってやっぱり分からなくなるだけだ、時はさかのぼれない、引き返す事はで きない。 「やれやれ、答えを出すのは簡単では有りませんね……」  僕は長い長い道のりが少しだけ見えた気がして、ちょっと愚痴ってしまった。 「ちゃんと努力しなさいよ、努力。それと人の話もしっかり聞く事、分かったわね?」  アカシアは人差し指を立てて、僕にの目の前に掲げる。  その目は意外にも真剣だ。 「ええ、努力すると誓います 聞く事も、気持ちを理解する事も……」  それと、道を見つける事も。  彼女はニッコリと笑った。  僕は ふと見上げた空がとても澄んだ青だと知って、なだらかな地面にに腰を下ろした。  仰向けになって空を見続ける。  その視界の隣にある彼女も、同じ事を僕の隣で……。  彼女と同じように、自らを否定するものが有ったとしても。    僕は生きたいと思う。  そして、否定されている彼女にも、生きて欲しいと思う。  僕は、僕自身に嘘をつく事がヘタだ。  だから、これは嘘じゃない。  これが正しいかどうか、これから確かめて行こう。  彼女と歩きながら。  この時、僕は戦う事を誓った。  道を探す、この心の中で。 遠まわしな作品と言うか、「くどい」作品ですね。(汗) ちょっと複雑な心理描写が多過ぎたのではないかと心配しています。 意味の伝わらないゴチャゴチャしたやたら長い難しい言葉ばかり使った文章なんて、結局 は下手な文章ですからね。 複雑にしても分かり易く、コレを目指して行けたらなぁと思います。 因みにAIを使ってロイスの考えた事が出来るかどうかは分かりません、殆ど私の妄想の結 晶です。 ですが外に漏れたら軍事利用はされるだろうなぁ、と思って書いて見ました。 これは絶対不可能だぁ!なんて物があったら申し訳ない。(汗)