<やれば出来るっ!>  ギルドを組む。  残念ながらThe Warldには他のネットゲームに良くあるこの機能が無い。  しかしながら、人が集まる事は出来る訳で、気の知れた仲間たちの集まりが無いわけで はない。  紅衣の騎士団などが良い例である。  あそこまで巨大な集まりはなかなか無いが、『エノコロ草同好会』や『プチグソ同好会』 などは中々の有名所だ。  そんな訳で、ここにも一つ『初心者の集い』と言う集団があった。  名の通り初心者同士の集まりで、それ故にお互いに安心できるというもの。  リーダーこそ上級者ではあるが、それ以外のメンバーは全て0〜19レベル程度の初心 者である。  レベルだけでなくこの世界の初心者である事が入団条件、因みに20レベル以上になる と除籍される。  それでも30人近くのメンバーの居る大所帯である。  レベルの高いリーダーとパーティを組んで遊び方のイロハを教えてもらったり、集会の ように集まってリーダーから基本的な事を教わったりするのが主な活動内容なのだが、当 然リーダーの居ない時間も多い。  そんな時はリーダーから教わった事を実践するのが活動内容な訳で……。 「皆さん、そろそろΛサーバーに行ってみませんか?」  このように自分達でパーティを組んで狩りに出かける事もある。  ……しかし、レベルが0〜19でΛサーバーは厳しいのではないだろうか。  その言葉を聞いた他のメンバーは皆そう思う。だが、そもそも皆Λサーバーと言う所自 体行った事が無いのだ。  レベルが高い事は知っていても、当然の事のように『どのぐらい強いのか』を知ってい る訳ではない。  リーダーからは『行かない方がいい』としか言われていないのである。 「6人でパーティを組めばきっと大丈夫ですよ」  重剣士のレッドは自信満々にそう言う。初心者の割りに積極的で、失敗も多いが成長も 早いのが彼である。  最近のアップデートでパーティの最大人数が変わったばかりだった。  確かに、3人で行ってもΔサーバーのエリアくらいならクリアできる。だったら6人で 行けばΛサーバーも大丈夫かも……。  皆の心が動き始めていた。 「じゃ……俺、行こうかな?」  そう言ったのは同じ初心者の集いのメンバーで最もレベルの高い剣士、ライだった。  彼はオフラインのRPGを幾つもやっているので操作が上手く、飲み込みも早かった。故 のこの自信である。  それに触発されて、10レベル以上の比較的レベルの高いメンバーが次々と挙手する。 「じゃあ僕も」 「私も」  中には操作を間違えて“お辞儀”をしていた者も居たが、最終的に9人集まっていたメ ンバーの中のちょうど5人が挙手していた。  挙手していないのは言い出したレッドと、最近入ったばかりのレベルの低いメンバーだ。  レッドは早速全員にパーティ勧誘をして6人のパーティを作り、リーダーの物である大 きなホームから5人を引き連れて出て行く。 「先ずは買出しですね……。それでは、行きましょうか」 「行ってらっしゃい」 「いてらー」  残った3人は発言から少し遅れたタイミングで手を振っていた。  一行は町に出る。  6人パーティでの行動にはまだ慣れて居ないのか、6人ともやけにピッタリとくっ付い て動いていた。  先頭のレッドの後ろから固まってついて来るその光景は、まるでオフラインRPGのよう だった。  歩くにしても同じ方向にさえ向かえば良いのだからくっ付く必要は全く無い、目の届く 範囲に居ればいいのだ。  つまり皆、慣れていない。  滑稽だった。  だが、その隊形が周りの笑いを取っているとはメンバーの誰も気付かない。  悲しきかな、初心者の定め。    そんなこんなで出来る限りの買い物を済ませ、Λサーバーへ。  そこのカオスゲートから更に【脈動する 最悪の 中心核】へと転送する。  もちろん、そのエリアがΛサーバーでも最高難易度クラスの場所であり、かつてカイト 達がメイガスと戦ったエリアである事は誰も知らない。  ここを選んだのは、“どうせなら”と言う軽い気持ちである。初心者は慣れていない分臆 病なものなのだが、人間数が集まると気が大きくなるものだ。  レッドがメンバーにエリアの確認を取っていないのも原因の一つだろう。  黄金の輪が6人のメンバー全員を包んでいく。  この時点で、既に数々のミスが重なっていたのだった。  そこは灼熱のエリア。  砂漠でこそ無いがギラギラと照りつける太陽がまるで本物のような光を降らせていて、 まるで本当に暑いかのように思えてしまう。  所々にある炎のオブジェクトが周りの風景をボヤけさせていて、それがまた何とも暑そ うな雰囲気を醸し出していた。  思わず偽者の暑さにボーーっとしてしまいそうだ。  暑いのが嫌いなのか、メンバーの1人である呪紋使いのアクアは早くも足取りすらフラ フラしている。  もっとも、彼は普段から歩き方がぎこちなかったが。   「あれ? 魔法陣を開けてないのにモンスターがいるっスよ?」  フラリと離れそうになったアクアを連れ戻していた拳闘士のヴォルトが不思議そうに言 う。  なるほど、彼は全てのモンスターが魔法陣から出ると思っているようだ。  有り勝ちな勘違いである。 「ハハハ、アレは野良モンスターと言ってねぇ。フィールドやダンジョンに予め設置され ているモンスターの事なのさ。魔法陣によるモンスターの出現はある程度ランダムだし、 バランスを取る為に固定出現するモンスターが必要だったのだろうねぇ」  お気に入りのメガネをキラリと光らせるアクションをしながら、重槍使いのノーブルが 答えた。  因みに上の台詞はリーダーの説明をほぼそのまま真似しただけである。 「そのくらい知っておきたまえよ。ハハハ」  いかにも自分の言葉のように語るノーブル。 「で、その野良モンスターが君のすぐ後ろに居るッス」  ヴォルトの無邪気な言葉がサラリと言い放たれた。  ノーブルのメガネがカクッとずり落ちる。  彼が恐る恐る振り返ると………、そこには青く凶悪な怪物が悠然と聳え立っていた。  デッカイ鎧で覆ったデッカイ体、デッカイ鉄球と槍を両手に装備した“いかにも強そう” なモンスターである。  名前は『イガポッド』。  物理攻撃主体のLサイズモンスター、正真正銘の強敵だった。  存在感だけで誰もが強敵と理解できるような奴である。 「うっひゃぁぁぁぁああ!?」  やはり高レベルなエリアに来たのが応えていたのだろう、心の中でビクビクしていたの が爆発してしまったようだ。  もとより怖がりなのだ。  ノーブルは初心者とは思えない恐ろしく素早い動きで隣にいたライの後ろに隠れる。突 風が吹いたかのような一瞬の出来事である。  こういう行動だけは凄まじい技術を発するのがノーブルだった。  対して早くもイガポッドに向けて剣を構えているライ、笑みすら浮かべている彼の背中 は対照的にとても頼もしい。  まるで本物の戦士のようだ。 「えっと……、アイツは雷属性っぽいから木属性のスキルで攻撃すれば良いんだな」 「違ぅー、雷には闇だって」  でもやっぱり初心者なのだった。  そんな彼に知識面で勤勉な重斧使いレイがフォローを入れる。  因みにあの無骨な鎧を着たタイプの重斧使いではなく、エンジェルタイプ。即ちパーテ ィ唯一の女の子である。  彼女も中々に勇ましく、武器交換に手間取っているライよりも早く斧の一撃を放ってい た。  しかし……。 ガンッ!(10)  鈍く強い音こそしたが、それは鎧に弾かれた音。イガポッドのもつ物理体制のお陰で殆 どダメージが入らない。  重斧使いのエレメンタルヒットでこのダメージだ。   「硬いー、硬いよこいつー!」  MISSしないだけマシなのだが、流石に10は腹が立つのだろう。  返って来た反撃を何とか避けつつレイが毒づく。  イガポッドのHPバーが100分の1も削られていないのは更に不満だった。 「……よしっ、準備完了! レッド、一緒に攻めるぞ!」 「了解しました」  武器を『魔人ころし』に変更したライ、その呼びかけに応えるレッド。  この2人はいつも一緒に練習をしている仲である、それ故に呼吸も合っている。  レイを庇うようにして突っ込み、2人同時にイガポッドへと襲いかかった! 「アニスラッシュ!」 「カラミティ!」  袈裟切りと逆袈裟の連続切りが、下段と上段の攻撃を組み合わせた大技が、イガポッド を襲う!  鉄板の上に数十個の鉄球を落としたかのような音が鳴り響き、2人の全力を込めた攻撃 が綺麗に入る。  僅かにイガポッドが仰け反った。  しかしダメージはどれも10前後だ。HPバーがほんの僅かに減っただけだった。  しかし、目に見えて減っている事は確かである。 「このまま削るしかないな……。だが、削り通せば倒せる!」 「そのようですね。まぁ、根性で頑張りましょうか」  2人がそう話していた時だった。  突然イガポッドが後ろを振り返った、かと思うとその振り返った勢いで鉄球を振り下ろ した。  巨体の癖に素早い。  地面に途轍もなく重たいものが叩き付けられたような音が、地面から鳴り響いた。 「にゅあららぁ〜〜!?」  何ともやる気の無い悲鳴をあげたのは、呪紋使いのアクアだ。  彼は他の仲間が戦っている内にイガポッドの背後を取って安全な場所からスキルを使お うと試みたのだが、如何せんイガポッドの攻撃範囲を甘く見ていた。  それと、モンスターは目で物を見ているわけではないと言う事を失念した。モンスター は攻撃範囲内に居るキャラクターなら背後にいても分かるのである。  それがこの『幽霊』状態の原因だ。 「だ、大丈夫かなぁ? アクア君」 「まぁ、何とかねぇ〜」  すぐさまノーブルが蘇生の秘薬をアクアに使った。  にへらへらとしながらも今度は確りと距離を取っているアクア、中々油断なら無い。  因みにノーブルはアイテム係である。  いや、別に役に立たないから押し付けられている訳ではない。  彼はいつも自分からその役を買って出ていた。誰にもその理由を話さないが、誰もがそ の理由は知っている。  ガクガクブルブルしている姿をみれば、誰だって一目瞭然である。  攻撃するのが怖いのだ。  だったら重槍使いと言う最も攻撃的な職業にしなきゃいいのに……、そう思うがそれは 永遠の謎である。 「俺も参戦するッス、皆で時間を掛けて攻撃すればきっと倒せるはずッス!」  後ろからイガポッドの動きを観察していたヴォルトがようやく前線に出てくる、じっく り動きを覚えたので絶対に攻撃には当らない心積もりだ。  彼は準備して計算して戦うタイプである。 「おうっ、いっくぜー!」 「根性ですね」 「ガリガリ削っちゃうもんねー!」 「攻撃してればそのうち倒せるし〜?」 「えーっと、闘士の血と騎士の血と……」  全員が協力してイガポッドに向かっていく。一発は10と小さくても、それを200回 繰り返せば2000になる。2000を越えるイガポッドのHPを削り尽くすことは不可 能ではないのだ。  しつこく、しつこく攻め続けた。  その必死に攻撃に対して容赦なくイガポッドの強烈な反撃が返って来るが。  あるいは仲間の呼びかけで避け。  あるいは突き飛ばして避け。  あるいはその攻撃を別の攻撃で防ぎ。  あるいはHPに余裕の有る者が受ける。  基本を忠実に守った連係プレーで幾つもの危機を乗り越えていく。  例え幽霊になってもすぐに仲間が回復する。  そんな粘り強い戦いが何時までも続き……。  イガポッドのHPに赤い部分が目立つようになる、まだまだ誰も手を休めない。  最初はレッドとライが率先して攻撃を続けた。  そして段々と赤い部分の方が多くなる、気を抜く者は誰も居ない。  アクアとて調子を掴めば確りと魔法スキルを放ってくれる、それに完璧に動きを覚えた ヴォルトは全ての攻撃を避けて見せ、一度も回復を必要としなかった。  やがては……そのHPバーが真っ赤に染まる、誰も手を抜くような事はしない。  レッドとライの攻撃を見て前衛の戦い方を覚えてからは、レイの攻撃は目覚しかった。  それに、遂にはあのノーブルすらも前線に加わって戦い始めたのだ、震える手で放った ノーブルのダブルスィープが決定打となった。      ……………。      地響きが鳴る。  遂にイガポッドが倒れたのだ。  全員の頭の上には『520』の経験値が浮かび上がった。それで半数のメンバーがレベ ルアップする。  この苦労の末に得た勝利の報酬にしてはいささか少なくはあるが、皆満足だった。  無茶とも言える苦労をしたが達成感のある戦いだった。 「ああっと、これで俺は初心者の集いを抜けなきゃ駄目みたいだ」 「ええっ、そうなのっ!?」  どうやらライは20レベルに達したらしい。  残念そうにレイが驚いた。  卒業とは、同時に初心者の集いで使われているホームに入れなくなる事を意味する。 「別にThe Warldからいなくなる訳じゃないんだから、そんなに嫌そうな声出すなよ。皆、 またパーティを組みたくなったらいつでも呼んでくれよな」 「勿論、そのつもりですよ」  レッドが微笑しながら応える。  かく言うレッドも19レベルである、彼ももうすぐ卒業だった。 「当然っスね」 「いつでも呼ばれるからね〜」 「ふ、卒業おめでとう御座いますよぉライ君。ま、私もそう遠くない事では有るのですが ねぇ」  積極的なヴォルトに受身のアクア、相変わらずどっちとも言えないノーブル。  卒業したって皆仲間には変わりないようだ。  ライはそう感じた。 「それはそうと、場所変えないの? レッド」  こんなの続けてたら身が持たないよ。と目で訴えるレイ。  勿論その事はレッドも気付いている。 「それは私も考えていた所です、効率的に見てやはりまだΔサーバーで狩りをした方が効 率が良いようですし」 「それじゃ、戻ろうか? 皆さん?」  やけに『戻ろうか』を強調して喋るノーブル。  この台詞に皆が笑みを漏らした。 「よーーし、もう一度出直して冒険ッスー!!」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ルール的には街の雑踏でも描写すれば事足りたのですが……、何となく5人以上使いこな したくなった今日この頃です。 しかし6人も同時に使っていると頭が混乱してきますね。 約一名勝手に暴走するし……。(ノーブル……) まぁ、楽しんで頂ければ幸いです。