<地獄の淵………の、反対側!> 「そっちは水! ああもう、闇属性は雷系の技だって!!」 「分かってるよ!」  僕は最後の足掻きで襲い掛かってくる、騎士のようなモンスター『ナイトメア』を雷舞 で攻撃する。双剣に雷が宿り、強力な連続攻撃で一気にモンスターに止めを刺すと直ぐ次 の場所に向う。 僕の後ろで戦っている呪紋使い、苦戦しているLunaを助ける為に急いで後ろへと走り出 す。さっきスキルを使った時に離れてしまったのだ。 Lunaは防御力が低く、しかもHPも高くないので『オルグナピロン』は危ない存在だっ た。 コレは急いで助けないと幽霊になってしまう。 LunaのHPは既に半分以上削れていた。 「雷舞っ!!」 「ギリウローム!!」  僕が前衛に出て時間を稼ぐ、そしてその間にLunaが弱点の水属性の魔法スキルを放つ。 いつもの連係プレーだ。  水属性の竜巻はモンスターにエレメンタルヒットを連発し、呆気なく苦戦していたモン スターを吹き飛ばす。モンスターはモノクロになって消えてしまい、代わりに僕達の頭の 上に120の経験値となって現れた。  無理して倒しただけ有って、中々経験地が高いみたいだ。 「「危なかったー……」」  僕達は声を揃えて安堵の溜息をつく、そしてそのついでに台詞も被る。  昔から……と言っても中学に入学した時の2年前だけど、僕達は結構似たもの同士だっ た。 2人で話してると今みたいに声を揃えてしまったり、何かと趣味や好きな物が被ってし まうのだ。  その証拠と言っては難だけど、このThe worldも同じ日に始め、同じワードを選び、同 じボスモンスターに倒されてゲームオーバーになったりした事が有る。一緒にゲームオー バーになって暫くマク・アヌで話してたら『晶!?』とか聞かれたからビックリだったよ …。  その後、僕達はよくパーティを組んでレベル上げなんかをしている。今日はやっとΣサ ーバーの上級モンスターを倒せるようになって、やっぱりレベル上げに来ている。   「ショウ、雷舞ばっかリ使ってないで他のスキルも使ってよね」 「ゴメン……、戦闘中になると慌てちゃって」 「ま、いつもの事か……」  Lunaは全身に纏っている水色のローブを揺らし、『肩をすくめる』モーションを行う。 勿論コレは馬鹿にされてるのだ。  あ、何か悔しいなーー……。  でも僕が戦闘中に武器も変えれなければスキルも使い分けれないのは事実なので、反論 できない。そして反論できないのがまた悔しい…。  あーあ、何でこんなに戦闘中に緊張しちゃうのかなぁ?   僕はそんな事を考えながら、二人で北の方に有るダンジョンに向った。Lunaは何故かプ チグソが嫌いなので、徒歩で砂漠を横断していく。 因みにこのフィールドは砂漠のエリアなので『サボヘビテン』が大量に鳴いている。僕 みたいにプチグソを育てていないPCには全く関係ないアイテムなだけに、凄く鬱陶しい。 ああ、一旦気にし出すと更に気になって来た……。  僕は何だか変な気分になっていたので、早くダンジョンに行こうと『快速のタリスマン』 を使った時だった。  バタリ  そんなあらかさまな効果音を鳴らして、前の方をフラフラと歩いていたPCが倒れた。し かも、周りにモンスターが居ないのに。   「ショウ、あのPCなんか『変』みたい……」 「うん……、ゲームオーバーなら直ぐに消える筈なのに、全然消えないしね」  僕は白い上着を揺らしながら(丈が長いので走ると風を受けて揺れる)目の前で倒れた 真っ赤な髪のPCの元へ走った。呪紋使いなので足の遅いLunaも数秒遅れて走ってくる。  近付いてみると、そのPCの『変』な部分が更にはっきりと分かった。  髪は真っ赤な長すぎない長髪で上着は黒い下地に色々な刺繍が入った物、その下にやっ ぱり赤い下着を着ていてズボンも血のように濃い赤色だ。  それだけならまだ普通だと思うけど。   でもこのPCは体中に『0』とか『1』とかのデータ見たいのが浮かび上がっていて、体 も所々微妙に欠けてるんだ。一見するとバグみたいだけど、ちゃんと動いてるからプレイ ヤーは居るみたいだし、……何が有ったんだろう?  何も無い場所で行き成り倒れるなんてThe worldの仕様では有り得ない。 僕は血の変わりにデータを流しているPCの痛々しい姿を見て、凄く心配になって来た。 「ちょっと、あなた大丈夫?」「大丈夫ですか?」  やっぱりLunaも心配みたいだ、また考える事も言う事も同じみたいだね。 何だか双子みたいだ……。  因みに昔は『真似しないでよ!』って言って喧嘩になった事も有ったけど、今では2人 とも『似たもの同士なんだ』って事で落ち着いている。……慣れと言うやつだろうか。  僕達は同時に倒れてるPCの横に屈みこみ、返事を待つ。  この行為もまた同じタイミングだ。 「俺、は………誰だ?」 「「はい?」」 「そうじゃなくて、どうかしたんですか?」 「誰…………、だった」  何かホントに壊れちゃってるみたいだ……。 何度か聞き直したりアイテムトレードの要請をしてみたりしたけれど、帰って来るのは 同じような言葉ばかり、僕達は『何かのイベントキャラのバグなんだ』と言う事で納得し。  気になる赤いPCを尻目に、ダンジョンへと潜って行った。  さーーて、このレベルでダンジョンは厳しいから集中しないと……。あのPCの事はダン ジョンを出てからゆっくり考えよう。  僕達はダンジョンへと続く階段を下りて行く……。  Lunaの情報だと、ここは3階層で良いアイテムが神像部屋で出る代わりに、神像部屋の 前に強いモンスターが出るらしい。  このレベルでそんなのに勝てるのかな……。  そんな不安を広げて増やして行くのがダンジョンと言う物なのか、この闇属性の気味悪 いダンジョンはいかにも強そうなモンスターが出るような気がした。  心なしかいつもよりダンジョンが暗いような気もする。 「雷舞!!雷舞!!雷舞!!」 「あんたねぇ……、そんな馬鹿みたいに連続して使わなくてもいいでしょ。……まいいか、 ちょうど闇属性だし」  僕は高レベルのモンスター相手のギリギリな戦いで緊張し、雷舞を連発するのがやっと なほど固まってしまっていた。  昔から、僕は臆病だった……、ゲームですら。いつも強敵が出てくると緊張して動けな くなってしまう。その度にゲームオーバーになってしまい、アクションゲームなどでは最 後までクリアした記憶が無い。  行動が似ていると言っても、Lunaは全然臆病じゃない。強敵にも的確な判断で向ってい ける勇気が有る、勿論リアルでも。  リアルのLunaは佐藤斎と言って、クラス委員。僕は万年掃除当番の黒崎なんて呼ばれて いる。 僕は……、何でこんなに臆病なんだろうか? 何で、なんで…… 「ショウ! 後ろ!!」 「……えっ?」  その瞬間、僕のFMDがフラッシュし、HPが限界まで削られてしまった。体を見てみれ ば半透明な『幽霊』と呼ばれる状態になっている。  考えに耽っていたら注意を払うのを忘れていたようだ。……ここもLunaと違う所で、僕 があがり性で失敗ばかりなのに対してLunaは失敗とは無縁だった。     「ギライドーン!」 残り2体だったモンスターがLunaの正確なタイミングで放ったスキル攻撃によって崩 れ去った。Lunaは丁度2体が集まって来るタイミングを狙ってスキルを使ったんだ。  そう、自分にギリギリまでモンスターを近づけた。  僕には怖くてとても成功しそうに無い戦法だ、一歩間違えば自分がやられちゃうから… ……怖くて出来ない。 「……リプメイン」 「ゴメン……」 「ほら、次の階が最後だから頑張って。シャキッとしろ!」 「了解、分かったよ」  決めた。 怖がらないでちゃんと戦おう、それで絶対に神像部屋まで行くんだ。どんな事があって も、全体に神像部屋まで行かなきゃいけない! 直ぐには直らないかもしれない……、でも今はこの臆病を抑えないとね。  僕は何とか調子を取り戻して戦えるようになり、再びLunaと呼吸を合わせてモンスター を倒せるようになっていく。今度は少し進歩してライロームも使えるようになった。 有難う、Luna……。  4つぐらい魔法陣を開いただろうか、最深部で彷徨っていた(オーブを忘れた)僕達は 急に開けた場所に出た。4つの大きな石の柱があって、床の中央に向けて様々な禍々しい 模様が描いてある。 どうやら最深階の神像部屋の前に辿り着いたみたいだ、……そして見渡してみると部屋 の真ん中に魔法陣が有る。 いかにも『強そうなモンスターが出ますよ』って言っているみたいだ。そしてLunaの情 報が確かならホントに強いモンスターが出るのだろう。 僕は既にコントローラーを握っている手に汗をかいていた。体と心が限界近くまで緊張 していた。 「行く……、よ?」 「うん……」  Lunaは出来る限りのスキルで能力を強化し、戦闘に備える。 僕達は覚悟を決めて部屋の中央に有る魔法陣にコツコツと近付いていく……。 そして、開く。 独特の効果音が広い空洞になっているこの部屋に響き、光となった魔法陣の輪は巨大な 影に変わっていく。魔法陣よりもモンスターが大きい為に、モンスターが魔法陣をぶち壊 して出て来ているように思えた。 先ず目に入ったのは4本の手から生えている巨大な剣、そして骸骨の体……。 名前は『アンゴルモア』………、強力なボスモンスターだ。 「つ、強いよコイツは!」 「………」  僕は暫く我を忘れて動けなくなっていた、殆ど何も考えられずに突っ立ってしまう。  そしてすぐさま強力な衝撃が走る。ボスモンスターような強敵が、隙だらけのPCに攻撃 してこない訳が無いのだ。  僕は10mくらい吹っ飛ばされ、そのまま激しい音を立てて壁に激突する。HPは4分の 3近く削られてしまっている。  そうだ……、突っ立っている場合じゃないんだ。何とかしてコイツに勝たないと。勝っ て神像部屋で……。  僕はアイテム袋から『完治の水』を取り出すと、それを使って何とかもう一度アンゴル モアに立ち向かって行く。そしてひたすら攻撃ボタンを連打して、HPが少なくなったらア イテムで回復を繰り返す。 その間にLunaはゆっくりだけど確実にアンゴルモアのHPを削って行く。アンゴルモア は遠距離攻撃をあまりしてこないと言う事を知ってるようだった。 ゲームだと言うのに、FMDを通して見えるアンゴルモアの強大な姿は、とんでもなく怖 かった。The worldはリアルなゲームだと言われているけど、これはやり過ぎだと思う。 リアルでは手にべったり汗が張り付き、足は小刻みにゆれ、オマケに額にまで汗をかい ている。コレはもうゲームだと言っていられなかった。 心なしか本当に戦っているような感覚すらするぐらいだ。 「……はぁ、はぁ」  何時間経っただろうか?  恐ろしく高いアンゴルモアのHPが見えなくなる位まで減ってきた。恐らく後2発…… いや、1発で倒せる。動きは変わらないものの、相手のHPバーは如実にそのデータを語 っている。  Lunaはさっきから動いていない、多分アイテムとSPが尽きてしまったのだろう。そし て僕も殆ど残っていない。だけど、何とか一発くらいならスキルを使えそうだ。   「……雷舞!!」  僕の攻撃が当りアンゴルモアにダメージが入った。お願い、コレで倒れてくれ……!  しかし無情にもアンゴルモアは4本の腕のうち、左上の剣を振り翳す。その切っ先は剣 なのに死神の鎌のように見えた。  うそ……、ここまで来て……。  もう、『復活の秘薬』は無かった。   「リウローム!」  突然Lunaが発動したスキルがアンゴルモアを直撃し、僅かに削ったダメージがその巨大 なHPに残る僅かな残りかすを削り取る。左程強くないこのスキルも、この時ばかりは最 強の技のように見えた・  激しい音を立ててアンゴルモアは剣を振り翳した格好のまま後ろに倒れる。そしてそれ と同時に大岩が崖から落ちてきたような激しい地響きと効果音が起こる。 ギリウロームを使えるSPが溜まる前に、リウロームで攻撃した方が良いと判断した Lunaの的確な判断のお陰で、二人ともどうやら生き残れたみたいだ。  やっと、勝利する事が出来た……。  そう思うと今まで我慢していた恐怖が開放され、どっと疲れになって体に戻ってくる。 何だかフルマラソンをした後みたいに体が疲れ切っている。 「やったね、コレでアイテム神像まで………きゃっ!!」  突然Lunaの体が壁際まで吹っ飛ばされ、激しい衝突音と飛び散る瓦礫と共に大ダメージ を受ける。何とか幽霊にはならなかった物の、殆ど瀕死状態までHPが削られてしまって いる。  僕は突然の事に頭が回らなかったけど、唯一可能性が有る方向……つまり倒した筈のア ンゴルモアの方を振り向いた。  すると、……アンゴルモアは立ち上がっていた。有り得ない事に、完全にHPを回復さ せている。……そしてそれだけじゃない。 ……緑色の斑点を全身に浮かべていた。  僕は体中の血が凍り付いて全身の血の流れが止まったかのような恐怖を感じた。  と同時にどう足掻こうが絶対に勝てない事も悟った。 「倒した筈のモンスターが生き返るなんて……、そんな、馬鹿な……」 「ショウ! ボヤっとしてないで、戦うよっ!」 「無理だよ……」 「無理じゃない! 無理なんかないっ!!」  Lunaは回復したばかりの少ないSPを使って果敢に攻撃している、しかしダメージは当 る物のアンゴルモアのHPバーが減った様子は無かった。  僕も一応攻撃をしてみたけど、結果は同じだ。2人とも4本の剣で又も壁際まで吹き飛 ばされてしまう。  暗い部屋が恐怖をそそり、緑色のアンゴルモアの姿が絶望を齎しているみたいだ……  何も、出来る気がしなかった。アイテムもHPも無い、こんな状況で何が出来るのだろ うか?  必死に戦って何になるんだろうか? 無駄じゃないか? 怖いだけじゃないか?  諦めと絶望が吹雪のように体に降りかかる、そして体温の代わりに希望を奪っていく。  Lunaは戦っているけど、それも結局無駄じゃないか!!  何もかも、全部無駄なんだ!! 「きゃあ……っ! こいつぅ」 「Luna、もう止めようよ……。ゲームオーバーくらい、良いじゃないか」 「だめっ! 知らないの? 緑色のモンスターに倒されると意識不明になるんだよ っ!?」 「もういいよ……、止めよう」 「あなた本気で言ってるの!? そんな事私がゆるさ……っ!!」 「Lunaっ!?」  又もやLunaは吹っ飛ばされて、壁際にまで飛ばされてしまう。そして改めて閉まってい る扉が目に入ってしまい、心に逃げられない事が刻み付けられる。  それでもLunaは立ち上がり、アンゴルモアにスキルを発動しようとする。  今度はLunaも回復していない……、僕と同じで回復アイテムが無くなってしまったのだ ろう。けれど、それでも諦めようとしない。  意地でも足掻いてみせる心積もりのようだった。 「何で、そんなに……」 「何で? 決まってるじゃないの……」  Lunaは遂に最後のSPを使い果たしてしまい、既に杖で殴りかかっている。そして直ぐ に4本の内一本の腕で弾き飛ばされる。  LunaのHPが、赤くなっていく……。 「ここで倒されたら、もう戻って来れないから!」  それでもLunaは、また挑みかかって行く。……そして結果は同じ、今度は残りHPが1 桁にまで減っている。  次は、ない……。  広い空間にLunaの荒い息使いと、ギシギシと言うアンゴルモアの間接音だけが響いてい る。 僕の音は、無い。 「そんなに、死にたくないの?」 「私じゃない! あなたが好きだから、やられて欲しくないからっ!! だから戦う の!!」 「…………っ!!」  今度こそ最後の一撃になる筈の剣を、アンゴルモアは振り上げた。そして狙い違わず振 り下ろす。  僕は走った、ただ追いつけるように。 走って、走って、Lunaの上に覆い被さるように突っ込んで走り込み。何とか剣が当る前 にその下を滑り抜ける事が出来た。 そして立ち上がり、体に付いた埃を払う。……いつの間にかPCに感覚が宿っていた。 僕は双剣を威嚇するようにしてアンゴルモアに突きつけ、お互いに牽制しあう。 緊張は……………無かった、恐怖も。 何だか、さっきまでの自分が凄く馬鹿で情けなく思えた。あんなにLunaが頑張っていた のに『止めよう』だなんて……。 僕は馬鹿だ。だから今度はその埋め合わせをしないといけない! 「Luna、下がって……。SPが溜まったらスキルで援護して」 「了解!」   その後、僕達はこうして生きている。 と言う事は、そう、勝てたんだ。……ギリギリでね。 そして思いっきりLunaに説教をされた。 あの後、僕は神像部屋で…… ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 凄く焦った作品です。 何と言っても恋愛物、私には始めてのジャンルで御座います。(でもバトル物なってる) それにしても主人公が女々しいですね、そのお陰でLunaが逞しくなってしまいましたよ。 (苦笑) あっと、それでは時間が押しているので失礼します。