<ちっちゃな、……殺し屋?> 「ご、ごっ、……ごご、ごめんなさい! し、しんで下さいっ!」  すっげぇ及び腰である。 死んで下さいと言っているのに。  二ノ宮金次郎さんの像を壊しちゃったとしても、ここまでビクビクした謝り方は出来な いだろう。見るからに気が弱い、『コラッ!』と強く一言いえば確実に泣き出しそうだ。  ……と言うか、既に泣いていた。 (怖くて)  ある休日の朝の出来事だった……。  何となく散歩代わりに低レベルエリアを歩き回っていたレインは、行き成り出て来た初 対面の可愛らしい男の子に、震えてプルプルしている剣を向けられていた。 (俺が、何かしただろうか……?)  ある意味罪悪感を覚えたレインは、彼を見てそんな事をボンヤリと思ったのだった。  勿論『しんで下さい』とは『死んで下さい』のつもりなのだろうが……、怖くて変換出 来なかったのだろうか?  いや、マイクが正確に棒読みを変換しただけの事だろう。  舌を噛まなかっただけでも褒めてあげたくなる。 しかし、彼は剣士なのだろうが……、緊張のあまり剣の持ち手が逆になっている。見る からに左手が右手より上に存在していたのだった。  そんなPKらしき男の子に対する返事はただ一つ。 「すまん、断る」  当然である。    レインはそうキッパリと言い捨てると、駅前でティッシュでも渡されたかのごとく、ス タスタと歩みを再開した。  仮にも死んでくれと言った相手に、思いっきり背中を見せているが……。 「ひ、ひんっ、待って下さいぃ〜〜」  ……見せても問題無さそうだった。   「………(スタスタ)」  そして待つ訳も無い。   「お、追いかけます! 後ろからキっちゃいますから……ます、よ、……キって良いです か?」  少年は必死の決意で追い駆けてはいたが、可愛そうなくらい自信が無さそうだ。 言葉すら心配そうに段々と疑問系になってしまっている。(キっ、とは『斬』と言いたい のだろう)  聞いてどうするんだ! 聞いて!  ……レインが突っ込みそうも無いので、ここで言っておくとしよう。  30秒後。 ……走っているのに、少年はまだ追いつけていなかった。 レベルと歩幅がかなり違うので中々追いつかないのだ。……また泣きそうになる少年。  今度はアプドゥを使って再チャレンジだ! 頑張れ、少年!    さて、この状況を絵にしてみると、『木漏れ日が刺す真昼の森の中で、育ち盛りの弟がお 兄ちゃんの後ろ姿を必死で追い駆けて走っている』、……といった感じの微笑ましい絵が出 来上がる事だろう。  誰が見ても殺し屋が、邪魔者を付け狙っているようには見えない。断じて。  だが少年にとってはそんな事はどうでも良く、ただこの訳ありそうな男の子を無視して 歩き去る無愛想な剣士レインを倒せれば、少年はそれで良いのだ。  ただ、倒せれば……。  少年のそんな強い思いが届いたのか、彼の目の前には藍色のマントが広がっていた。 やっとレインが立ち止まったのだ。これで追いつく事が出来た。 少年の顔に思わず笑みが浮かぶ、……だが、それはすぐに引き締めた。  まだ倒せた訳ではないのだ、これからレベルが80以上も違う相手と戦わねばならない。 油断大敵なのだ。  少年は今更になって持ち手が逆な事に気付き、手を直して真っ直ぐにレインへと向けた。 「……一つ聞きたい」  レインは溜息をつくように顔を伏せると、自分を殺そうとしている(……らしい)少年 に向き合い。質問した。  真っ直ぐ向けたつもりになっているが、やっぱり怖くて向きがそれている剣の事は、無 視である。 「(ビクッ)ハ、はいっ! ……何でしょう?」  こちらは、何故か驚いて背筋を伸ばしている。  廊下で突然ばったりと怖い先生に会ったら、こんな風になるのだろう。 「何故、俺を狙うんだ?」 「ええっと……、偶然最初に会った有名PCがあなただったから、です。 ゴメンなさい… …」  別に謝る所では無いのだが……、とにかく少年は謝る事が癖になってしまっているよう だった。  (なるほど、だから身に覚えが無かったのか)  レインは合点がいった。  なーるほど、良くある力試しと言う奴なのか、と。  なので、容赦無く再び帰ろうと歩みを再開した。 しかも若干今度の方が速い。  付き合ってられるか、と言う事なのか。  いや、レインの場合はそんな深い事は考えないだろう。ただ聞きたい事を聞いて納得し て、スッキリしたから速くなっただけなのだ。  だが理由はどうあれ速いので、無情にも少年との距離は一気に開くのだった。 「ひんっ、待って下さいーっ! あなたを倒して戦利品を持って帰って皆に見せないと、 パーティに戻れないんですよー………。ぅぅ…」  暫く少年も頑張ったが、かなり離されてしまった。これではもう走っても無駄だろう。  少年の目の前には既に藍色の点になっているレインの姿が、虚しく映っている。  レベルの差は残酷だ。  だが、少年の顔はまだ諦めてはいなかった。  ここで諦めるたら終わりだ、と必死になって自分を勇めている。……やはり、泣きなが ら。   そう、ここで諦めてしまっては終わりなのだ。  少年……、ケントは弱い事を理由にパーティから追い出されかけている。……そこに彼 の憧れているあの子が居るにも関わらず、だ。 弱いせいで他のメンバーに煙たがられているのである。  だから、強くならないと、強い事を証明しないと戻る事が出来ない。   「ぜ、絶対に倒さないと……!」  今度はいつ会えるかも分からない有名(色々な意味でだが)PCレイン!  ここで逃がしたりしては、諦めてはいけないのだ!  ケントは右手を高々とかざし、その手に持った曲刀の切っ先で頭上の太陽を貫いた。… …輝ける刀身!  ピュルリラァァ♪ と鳴る笛の音!  『ア、モ〜〜ル゛ゥェレェェェ!!(巻き舌仕様)』  疾風の如く現れたのはご存知クソキゾク!  ケントは高々とジャンプし、相棒のクソキゾクへと飛び乗った。そして確りと手綱(首 輪)を握り締め、向きを調整する。  これが最後のチャンス……。  目標は勿論、先を歩いているレインである。 「行くよっ! 絶対に勝つんだっ!!」    真昼の森に一陣の風が吹き抜けた瞬間だった。  さて、一方こちらはケントがクソキゾクに乗って猛烈な勢いで迫っているとは全く気付 いていないレイン。  スタスタとのん気に森の景観を楽しみながら歩いている。  彼はこう言ったのんびりした雰囲気のフィールドが好きだった、普段が落ち着かない生 活を送っている性なのか、散歩や森林浴などが趣味なのである。 The Worldでは限りなくリアルな森林浴が楽しめる、匂いまでとは行かないが小鳥の囀 りや木々のざわめき等を聞いていると本物では無いのかと錯覚してしまう程なのだ。  レインはこの森のフィールドを満喫していた。  リアルではないが、スウッ、と腕を軽く開いて深呼吸を始めてしまう。  フゥ……、と息を吐く。  そして見事にクソキゾクに轢かれるのだった。 「あ、……あれ? 行き過ぎ、……ちゃった?」  ケントに悪気は無いのだ。 ただプチグソは急に止まれないと言う事を知らなかっただけで。  だがしかし、今の一撃は不意を突いただけにかなりダメージが入ったようだった。油断 したレインが悪い、結果オーライと言う奴である。  が、このまま戦えば良いものを、ケントはクソキゾクから降りて地面にめり込んでいる レインを助け起したのだった。  不意打ちではなく、正々堂々と戦うつもりなのだろう。  でもやっぱり及び腰だった。  「だ、だだ、大丈夫ですか? すみません!すみません! 僕の前方不注意でこんな事 に!!」 「……お前、絶対PKには向いてないぞ」  そう言うレインの表情は至って冷静である。 普通背後から行き成りプチグソに轢かれればもう少し驚くと思うのだが……。 まぁガデリカの高層ビルから落ちたり、隕石の様に降って来た放浪AIに潰されたりして いる奴にとっては、この位日常茶飯事なのだろう。  なの、だが。  ケントはその無表情さを返って『怒らせているんだ』、と解釈したようだった。 涙目になりながら2,3歩後ずさっている。  きっと類稀なるマイナス思考の持ち主なのだろう。  しかし、まだロウソクの残り火のような闘志は消えていない。 「や、やぁぁぁぁっ!!」  ケントはレインが無事だと(やっと)分かると、ガタガタ震える足を押さえ込んで剣を 地面と水平に構え、地面を蹴り飛ばすように走った!    ……狙うは眉間っ!!  ケントは頑張って怖さに負けて目を瞑らないようにしながらレインを見据え、走る!  レインの目の前に迫る冷たい鏡のような鋼の切っ先!  ……が、首をかしげる時の様に簡単にかわされたかと思うと。スッと出された足に引っ 掛けられて。 景気良くケントはヘッドスライディングならぬフェイス(顔面)スライディングを決め たのだった。  そりゃあ、誰だって突進されたら避ける。 そのくらいにケントの突きは真っ直ぐ過ぎたのだ。  フェイントも入れないでそんな事をしたら、速さに劣る方が避けられるのは当然である。  溜息をつくレイン。 「ふぅ……、まぁそこまで気負っているならば気が済むまでかかって来ればいい。そんな にPKしたいのなら、出来るか諦めるかするまで相手をしてやる」    やっとこの鈍男もやる気になったようだ、諦めたとも言えるが。  ここまで来て初めて剣を抜いた、フィランギと呼ばれる嶺の3分の2が刃になっている 攻撃的な形状の物だ。  こうなったら戦闘狂と呼ばれるレインの事、もう引かないだろう。 「は、はい。どうも有難う御座います!」  どっちがPKなのか分からない会話である。  とにかく。  この時から壮絶な戦いが始まったのだ。  勿論、1つの戦いはすぐに4倍以上レベルの高いレインに軍配が上がる。 ………が。  何しろケントはやられてもやられてもセーブポイントから戻って来ては闘いを挑むのだ。 根性が続く限り来てやる、と言う心積もりなのである。  そして『気が済むまでかかって来い』と言った以上、レインもその相手をする事になる。  長期戦。  この戦いは夏休みを3日間潰して行われたのである。  まさに壮絶なり。    ――――――――――――― 「……で、結局125,5敗(0,5は半殺し)した所で、やっと1度も回復してないレ インに勝って帰って行った訳ね」  目の前に居る少女、リースはガデリカの夜道を歩きながらレインの話を聞いている。  と言うより聞き出している。  学校に行っていて、自分が居なかった時の事をレインから聞いているのだ。 「ああ、負けた。 アイツは筋が良い、未来(さき)が楽しみな奴だ……」 「ふーん」  自分がログインしてない間にそんな事が、と彼女は少し悔しそうである。  だが、リースがあの場に居たら間違いなくややこしくなるので。彼女が居なかったのは 間違いなく幸運な事だっただろう。  そんな人なのである。  だがリースが悔しがっている事などどうでも良い、とでも言うかのようにレインは他の 事を考えていた。  ケントが何処に居るのか、である。  一応敵同士だった訳だが、今会えばいい友人になれる気がする……。 (また会いたいものだ、機会が有れば)  だがそれもどうでも良い事。会う時は会えるし、会えない時は会えないものなのである。  考えていてもしょうがない。  レインはここで考えを打ち切った。  ……その時だった。 「あ、また会いましたね♪」  背後から優しそうな声が聞こえてきた。  少なからず期待を込めて振り合えると、そこには緑色のラインが入った鎧を着た騎士。 碧衣の騎士団の団員がニッコリと笑っていた。  満面の笑みである。  ダッシュで逃げる約二名。 「待てぃ! チートアイテム所持の疑いで拘束するーっ!」  今日こそは逃がすものかと追い駆ける初老の碧衣の騎士。    シリアスとは、そう続かないものである。  レインが居る限り。 ―――――― 翌日  ケントはΛサーバーのダンジョンを探索していた。  あの子の居るパーティに入りながら、レインと戦った事で身に付けたテクニックを使っ て活躍していた。  少しだけ、自信がついたようだ。 ――――――――――――――――――――――――――――― また訳の分からない作品を……(汗) 読み難く、意味の通らない文で申し訳ないです! しかも遅れてます!(滝汗) くぅ、ギャグやろうとするのは難しいです……。 と、とにかく。ここまで読んで下さった方が居たら有難う御座います。 次も、頑張りますので! 宜しくです!