<さぁ、先ずは心から> 『ダメ………、こっちも問題外……』 『うーーん、まぁまぁだけど弱そう………、あっちは強そうだけどゴツすぎ………』 『あれは……、いい感じだけどあらかさまな美形で怪しいなぁ』  私はマク・アヌの入り口付近に有る階段に覚えたばかりの『座る』アクションを使って 腰掛け、そこを行き来する無数のPCを値踏みしていた。通り過ぎるPCを見ては次を見て ……、と言った感じで。  その際に一々喋ってる(口癖)けど、パーティモードらしいので聞こえてない筈だ……、 多分。 いやいや、『ダメ』とか言われて反論してこないんだから絶対聞こえていないみたいだ。   『ネトゲを初めたばっかりだから慣れてないなぁ、私』  まぁ、初めて一週間でここまで出来れば上等………、の部類に入るんだと思う。  中学に入って少し時間の出来た私は、最近『The World』と言う話題のネトゲを始めてい た。中学に入って、念願のマイパソコンを買って貰えたのが理由だったりする。  そして今は手っ取り早く感嘆にレベルを上げる為、高レベルそうで一緒に冒険してくれ そうなPCを探しているのだ。……無論、美形な。  ゲームでも私は格好良さを求めてしまうのだった。……別に絶対と言う訳じゃなくて、 何となくだけど。 『やっぱり一緒に行動するんだから格好良い人じゃないとね………』  周りには聞こえない独り言を喋っていると、夕日と運河の混ざった橋の方から妙に目立 つPCがやってくるのが見えた。  銀髪と言うより白の長髪で真っ黒い鎧、そして長身に似合っている藍色のマント………、 そして、そしてそして、美形。凄そうな武器も持っているのでレベルも高そうな感じがす る。  けど少し性格暗そうなのが傷かな……、でも…… 『合・格……!』  そう言うと、自分でも呆れるくらいな単純さで、私は走り寄っていくのだった。  大丈夫、世の中努力と根性が有れば何とかなるんだから。  私は他のザコ(さっき切り捨てたPC)の間をすり抜けて、その。PCの前に立った。… …自分から話すのは初めてなので、少し緊張する。 「すみません、私初心者なんですけど……。一緒に冒険して貰えますか?」  私は用件ばかり並べて話しかけた、自慢じゃ無いけど口はそれほど上手くないのだ。  行き成り走って近付いて来て『仲間にして下さい』と言われたせいなのか、この剣士さ んは少し困った顔をしていた。……やっぱり失敗しちゃったかな?  幸先良くないなぁ。 「あ、ああ……、それは構わないが……」  え、いいの?   彼は少し考え込むように目を閉じる、そして直ぐに思い直したかの様に。 「………まぁいいか。もう一人仲間が来るから、そいつを待って『Δ目覚めし 秋風の 大 森林』に行くつもりだ。そこで良いのなら一緒に行こう」  やった、Δサーバー行く予定だったんだ。幸先良いなー♪  でも、もう一人の仲間ってどんな人だろう……。  変な人だったらやだな、と。予想外のスピードで進んでいく展開に、私は少し不安にな った。  まぁ、初心者は不安になってばかりが普通なんだよね、うん。 「………来たか」 「へ、何処ですか?」  私は辺りを見回して見たけど、周りのPCは通り過ぎていくばかりでみんな普通の通行人 みたいだった。  おかしーなー、こっち来てるなら分かる筈だけど……。  それっぽそうなPCは近くには居ない。 「おまたせぇ!」  ……え、この子ぉ!?  目の前に居たのは、このPCは違うだろうと最初から対象外にしていたPCだった。  緑の髪に猫耳、そして私と同じか少し上くらいの顔、それでいて呪紋使い……。  この明らかにツボを狙ったかのようなPCが仲間の人だったなんて……、ゲームの中とは 言え私は思いっきり驚いてしまった。  この剣士さん、もしかして危ない趣味が有るんじゃ………。  おっと、いけない。 ここはゲームなんだ……、だから色んな人が仲間でもおかしくないよね、うん。 私は呆然とその猫耳PCを見ながら、無理矢理混乱しかけた自分を納得させた。 「あれ、この子は?」 「……一緒に来たいらしい」 なんだかこの剣士さん口数少ないなぁ……、私が言うのも難だけど。 それにしても話し振りからしてこの人達凄く仲良さそう……、じゃなくて!  自己紹介しないと。   「えっと、アーサです! 12歳です! 宜しくお願いします!」  そこまで緊張しなくても………。自分でもそう思った。  声が上ずっている上に、ボタン間違えて『お辞儀』ではなく『手を上げる』をしてしま ったのだ。その結果、私は幾人か周りのPCの視線を集める事になる。  ああ、恥ずかしいなぁ……。馬鹿だ、私……。 「私はリース、13歳だから一つ年上だね。宜しく〜〜♪」 「……レインだ」  2人とも、私の失敗については何も言わなかった。笑われてもおかしくないのに……。  何か、2人とも見た目も性格も違うけど良い人みたいだった。  何とか直ぐに手を下ろした私は、それとは別の安心感をこの2人から感じた。うん、や っぱり幸先はいいな♪ 「レイン相変わらず短いなぁ〜〜…」 「レイン=ウェルバー、二十歳、剣士でPKK……『天翔ける大燕』、と呼ばれている。…こ れで良いか? ………さぁ、さっさと行くぞ」 「あ、はい!」  レインさんか……、意外と律儀?  リースさ……この人は呼び捨ての方がいいのかな? 逆にかしこまると嫌がられそうだ し。  色々な想いを胸に、私はマク・アヌのカオスゲートを潜り抜けた……。  『Δ目覚めし 秋風の 大森林』と呟いて……。  その後だった………、ゲートを潜らなくても、ワードを喋らなくても、近くてボタンを 押してワード打てば転送出来ると言う事を知ったのは。  慣れない金色の輪に包まれて、私は視界が緑と茶色しかないようなエリアに転送された。  『大森林』と言うだけあって、周りは未開のジャングルみたいな場所だ。背の高い木々 が覆い被さるように密集していて、時々派の揺れるザワザワッと言った音が聞こえる。  その上鳥の鳴き声まで聞こえて来て……、面白みの無い言い方だけど本当にジャングル へ来たみたいな気がしてきた。  噂通り、このゲームは本当にリアリティが有って凄い……。  だけどやっぱりレインさん達は慣れているのか、少しマップを確認しただけで回りを確 認せずにスタスタと進んでいってしまう。  しかも私のレベルだとレインさんの普通の歩調にすら追いつけない、同じ剣士でもレベ ルが違うとこんなにも歩く速さが違うのだと、私は初めて知った。  あーー、走っても追いつけないーーーっ!  ちょっと焦ってしまった。 「あ、レインチョッと止まって?」 「……ん?」 「……アプドゥ! もぅいいよ、さ、いこ〜〜♪」  リース、さっきは変なPCと思ってすみませんでした……。  あんたはええ人や……。  私が速く走ろうと夢中で、チャットが有る事を忘れていたのにさり気無く気付いてくれ るなんて……。 「あ、ありがとう……、ございます」 「礼には及ばないって、可愛い実験だ……。新しい仲間の為だもん!」 …………実験台、って言ったよね? 今…… 「……ついたぞ」  魔法陣を5,6個開いた後(因みにこの間に3レベルも上がった)、どうやら目的地に着 いたみたいだ。  私達はマップの読み込みで少し待った後、ジャングルの中の少し開けた場所に出ていた。 そこには大きな地下遺跡みたいな物が在って、その入り口らしい物が地面にひょっこりと 顔を出している。  でもレインさん達はその遺跡には入らず、遺跡の前の広場で止まってしまう。と言うよ りも、リースは既に何かのアイテムらしきビニール風呂敷(?)のような物を広げていた。 聞いてみると、ここで待ち合わせをしていると言った答えが返ってきた。  ……誰を待っているんだろうか? 2人の話し振りからして更に新しくパーティを組む 仲間……、と言う訳では無いみたいだ。  私がそんな事を考えていると、不意にレインさんが話し掛けて来た。珍しいというか、 さっきまで行動していて初めての事なので私は完全に不意を付かれる形になる。 「……放浪AIを、知っているか?」 「何ですかそれ、AI……?」 「………」  私の答えを聞いて、レインさんは黙り込んでしまった。  寡黙な人では有るけど……、何か悪い事言っちゃたかな?  こんな時ですら、リースの準備は進んでいる。  お弁当って……、そんな物出して何に使うのかな?  そんな時だった、さっきまで全く人気の無かった遺跡から誰かの足音が聞こえたのは。  タイミングが良いのか悪いのか……、兎に角待っていたPCが来たみたいだ。 「……来たか、アスティア」 「こん〜〜〜♪」  レインさんは少し間を置いて、リースはネット語(?)らしい短い挨拶を送る。  ついでに言うと、私はカチカチに固まったこんな挨拶しか出来なかった。 「は、初めましてっ! アーサです!」  そのPCは、ゆっくりと私達の元へ近付いてくる。 それにつれて、リアルな遠くがボケて見える機能が外れ、そのPCの全身がはっきりと見 えるようになる。 ぼやけた人形の緑が段々と大きくはっきりとしていく……。  ……綺麗なPCだった。 これが第一印象。  薄い緑で統一されたワンピースの上に、濃い緑で金刺繍の入った滑らかな皮鎧と、手に は細長いハルバード。……そして、背中にはワシのような大きな茶色い羽根。  長い茶色の髪は本物かそれ以上に綺麗で、なんだか正に美人のお姉さんと言った感じが する。  そのPCは羽を截たんで軽くお辞儀をすると、私にも丁寧に自己紹介してくれた。 「私はアスティアです。アーサさんですね、初めまして」  凄く優しそうで綺麗な声………、ああ、宮姉もコレくらい綺麗な人なら良かったのに。  あ、いけないいけない。無い物ねだりしても仕方ないよね。  でもいいなぁ………。  ………あれっ?  でも羽なんてPCエディットに有ったっけ?  ………もしかして、この人チーターなの??   「……やはり羽が気になるか、だが彼女はチーターではないからな」 「じゃあ、何ですか?」  私は少しトゲの有る声で返した。チーターじゃなくて、どうやってPCをここまで変えれ るだろうか?  自分で変なくったって違法なPCは使っていけない筈だ。 「今の内に言っておいた方が良さそうですね……、私は放浪、と。世間ではそう呼ばれて います」  あーー、また出たーー。  だから放浪AIって何。そしてチーターとはどう違うの? と言うかどっちもダメなんじ ゃ……。  私は心の中で自問したけど、当たり前ながら答えは出なかった……。   ……こんなに綺麗な人なのに、これも全部違法なソフトで作り出した物なのかな?    ……こんなに優しそうな声なのに、これも全部ボイスチェンジャーで作り出した物な の?  分からない事だらけで、私は混乱していた。所詮、初心者なんてこんな物なんだと、痛 いほど実感した。  無知なのが……、こんなに悔しい物だったなんて。知らなかった……。 「……放浪AIとは、NPCでもPCでもない。言わば自分で考えて動くNPCの様なものだ」 「私達はこの『世界』に住んでいます、ですから余り外からの規約は受けないんです。… …そう、道案内の為の村人Bが勝手に意思を持って動きだした様なもの。――と言った方 が分かり易いでしょうか?」  皆、私の無知を補ってくれようとする。  でも、私の頭は全てを掻き混ぜようとするかのように混乱するばかり。 「え、え、コンピューターが勝手に喋るの?」 「そうだね、そんな感じ。混乱している割には中々鋭いね♪」  な、なんてすとぉー!  混乱して適当に言った意見が正しかったなんて……。  ……でも、この人が機械?  COUが計算して声出してるの?  とてもそうには見えないけど……。でも、チーターじゃなくて良かった。  本当に機械のAIなんだったら、法律を犯してる訳じゃないしね。  それに今の言葉からして、嘘も付いていない……。 「ご、御免なさい……、疑っちゃって……」  今度は、間違えずに確りと『お辞儀』が出来た。  ホントなら土下座ぐらいしたいけど、そんなコマンドは無かった。  私は……、ただ、ただ、『お辞儀』のコマンドを何回も押した。コントローラーが滑り落 ちるくらい繰り返した。    私は疑ったり疑われたりするのが嫌いだった。  なのに、自分から無知をいい事に疑って掛かるなんて……。  馬鹿だ、私……。  PCでは俯いて、リアルでは泣いていた私の視界が。一面の淡い緑に変わった。  そう、柔らかくて、いい匂いのしそうな若葉色……。  アスティアさんは、私を咎める事なんてしなかった。……咎められて、文句言われて当 然なのに。     その緑色は、彼女の緑だった。    薄く、優しい緑……。感じられないけど、優しく抱かれた時に感じる、いい匂いがする 気がした……。 「私も貴女も、世界に生きています。……生きていれば間違いも戸惑いも有りますよ?」  彼女は、微笑んでくれた。  そのその優しい声で。   誰もが、PCもAIも…… 共にこの世界に生きている そこに違いを見出すのは、ちょっとした恥ずかしさなんだと…… 私は知った 知る事が出来た ――――――――――――――――――――――――――― ま、また良く分からないお話が出来てしまった……。 ………(汗) と、兎に角、今回の主人公は私がいつも使っている『素』で語ったつもりです。 ……ええ、激しく難しくて恥ずかしかったですとも!(えばるな) とある方から女性的な文を書く、とか言われたので挑戦してみました。(笑) と言うか、何て微妙な動機だ……。