暗転の大陸―『シャング』

      他の大陸から初めてこのシャングにやって来た者が居たとしよう。

      最初に一転して太陽が遠く短くなる事に気付くだろう、次に町に行けば活気こそ有れど人々の目の輝きが僅かに少なく雰囲気も何処と無く重たいと言う事に気付く。

      そして運が悪ければやって来たその日にスリのカモにされ、その年に生涯初めての地震を味わう事になる。

      踏んだり蹴ったりだと嘆いた果てに空を見上げても、殆どの場合曇っているか黄砂が舞っていて、暗い。

      そのような場所が、1000年以上も昔に罪人の流刑所として使われた過去を持つ大陸、シャングである。

      常に天候が悪く日が差し難くしかも日の昇っている時間が短い、その為にこの大陸の平均気温は低く、そして乾燥している。

      しかし中央部にある一帯では地面自体が強力な火の魔力を帯びていて、その影響により広大な砂漠もあり、これは大昔の魔法の失敗によってできた物と言われている。

      乾いてるとは言え雨も雪も降らないわけでは無い、しかし異様に細かい砂で出来ている砂漠から舞い上げられた砂が常に空を舞っている為、雨も雪も茶色である。

      唯一の水源であるフアゾルト大河も当然の如く暗褐色に濁っている、先ずは大規模に水をろ過する施設が必要だった。

      この大陸は暗い故に草木はコケ類すらも少なく、その僅かな身を動物から守る為に強力な毒を持つ物が多い。

      また、そう言った自然故に草食動物も少なく、数過剰となっている肉食動物は確実に獲物をし止める為様々な進化を遂げて攻撃的になっている。時には魔物すら喰らう。

      次に人々はそんな自然から身を守る強靭な柵を作らねばならなかった、そして人間を格好の餌とするその動物達に打ち勝つ武器も必要だった。

      1000年以上も昔。 自分が罪人で有ろうとも、ここには罪人しか居ない。即ち皆平等であり、罪人と言って差別される事は無い。

      お互い過去の詮索はしないと決め、その為全員の身分は全て平民となり、リーダーシップの有る者が皆の合意で代表となる共和制が築かれた。

      弱肉強食の民主主義、助け合わぬような人間性の無いものは死に絶えるしかなかった。

      流されて来た人々は必死になって協力し、持てる限りの知恵と技術を尽くして生きる為技術と文化を作り上げていった。

      その過程の中で彼らが最も良く用いた物が終末神セファイドの教典だった、“更なる挑戦を続けよ、己が求める物を手にせよ、最高の終末を作るべし”

      そのような言葉と共に様々な物の考え方や実験の心構え、効率の良さの求め方などが書かれたこの教典は瞬く間に人々の間に浸透し、セファイドを崇める起源となった。

      現在のファングは世界最高峰の科学力を誇り、何とか野生動物や魔物や天災に耐え抜けるだけの国力を有するようになった。陣術の普及もソレイユに次ぐ物がある。

      この国には“発明家ギルド”と言う物があり、各地にその研究機関がある。そのギルドでは様々な発明品を発明家達から一手に集めて販売の仲介をしたり、

      大発明の宣伝や生産も手掛けたりしている。この発明品の数々を他国に売ってシャングは心細い食料を補っているのである。

      国民の中には自らの祖先が罪人と言う事を気にしている者も多く、彼らにとって他の大陸の人間は『自分達をこの地に追いやった者』であり、決して快い感情は持っていない

      今では航路も確りと確立されているが、罪人と言う過去故に他の大陸行ったシャング人が差別対照になることは少なくない。

      そして発明家ギルドの強力な後ろ盾を持つうら若き美少女、

      シャング1の秀才と名高い現評議員長フィリット・ジュノウ・オドソン・シャング(17)はその差別を無くすと宣言している。

      差別を無くす為に取る方法は贖罪なのだろうか?