――― 『天地のハザマに、華は咲く』 ―――  A.D.2025  ………天国と地獄と言う概念を信じている方は多いかと思う。 皆さんは信じているだろうか? それは、どうでもいいことだ。……さしたる問題ではない。 だが一つ疑問がある。アクマ、と言う固有の存在の名を出すと、人はなぜか想像上の産物だと片付けてしまうという。 コレは何故だろうか? 神を信じる人間は数多と居ると言うのに、不公平なものだと思わないだろうか。 しかし、それもどうでもいいこと。……さしたる問題ではない。 ……おや? ところでもう一つ、質問したい。宜しいだろうか? ……今、何か聞こえているかな? どこか遠くで、叫び声のようなものが――― ―――キャァァァァアアアァァァァァアアァァァァァッッッ!!!! ……気のせい、ではないようだ。 では、あれは見えるだろうか? いや、……君ならば、見えるはずだ。 飛び去っていく六対の黒き羽を、その漆黒の腕が抱いている一人の男の姿が。誰かも分らぬ骸が。……君は、能力者(ディーパ)だからね。 そう……この壊れかけた現実は、紛れもなく真実。 あの黒い影の正体……それは人間に取り憑き、人間を堕落させ、そして人間の魂を食らう存在……。そう、悪魔(マルバス)と呼ばれるものだ。 彼らが最初に確認されたのは比較的新しく、十数年前と言われている。 その脅威に抗するべく立ち上がった秘密組織『月光』もまた、10年ほど前に頭角を現したとされている。 闇から現れ闇を纏い闇へと人を誘おうとする悪魔……。 闇に隠れ闇を纏い闇から人を救おうとする『月光』……。 両者の戦いは、君たちのあずかり知らぬ所で熾烈を極めていた。 ある時、秘密組織『月光』は硬直する戦線に業を煮やし、ついにとある【秘薬】を完成させた。 それは力ある霊能力者の血をいくつも犠牲にした薬、二度とは作れぬ薬、……『悪魔を根絶やしにする力を持った薬』 舞台は……中部で開発されたそれを、極秘裏に用意された超音速運送機で北海道に居る強力な霊媒師の所へ届けようとするところから始まる…… ――― 『第零話−発現−』 ――― 空は暗く曇天に汚れている……そんな中で爆発音を轟かせて進む、一機のステルス音速機があった 「……高度、異常なし。……気圧、異常なし。……風速、異常なし。……システムオール・グリーン」 「第3号定期連絡、各部異常ありません。通常運転を続行します」 「ラジャー……」 「まったく、何を運んでるんだか知らないが……今日のブツはやたら厳重に管理されてるな」 (その直後、操縦士の不信は……現実のものとなる。聞こえるはずのない、鳥の羽ばたくような音を聞くことによって) (呟いた操縦士の目の前に、真っ黒な翼の生えた人間……いや怪物の姿が目に入った) (まるで運命を予告する凶鳥の如きその翼は−−) 「な、何だあれはっ!?」 (大きく広げられた翼はそのまま闇となり、操縦士の視界を覆いつくす。彼の閉ざされた前途を表すかのように) 「なっ……え……? 前が見えない!? ウソだろおいっっ」 (それと同時に鳴り響く警告音、システムランプは尽く血の色を発していた。……まるで彼の運命を告げるかのように) (そう、全ては定められたことだった。……悪魔の手によって) 『危険です、自動操縦装置にエラーが発生しました。危険です、左右第一・第二エンジンが原因不明の発熱により停止しました。危険です、危険です……』 (鳴り響く警戒音……それもやがてはパニックに陥った操縦士の叫びで聞こえなくなり……) (最後には、笑えない花火のように空中分解した機体の爆発音に消えた……) ――――その薬を飲めば、たちどころに自身の霊能力を活性化し、悪魔に対する絶対的な抵抗力を持つという。 組織が追い求めた夢の秘薬……… それは爆発と共に、キラキラと容器のガラス片を撒き散らしながら、曇天の空に混ざって消えた―――― 秘密組織『月光』の悪魔掃討の夢はそこで潰えたかと思われた。 ………だが、しかし 数週間後、日本各地で小さいながらも『能力』を開花させた者達が現れたことを、『月光』は察知した 雨に混じって降り注いだほんの極少量の薬品に触れた者の中で、特に適合率の高い人間にだけ能力が開花したようであった 組織は、動き出した………それが4年前の話である A.D.2025  ……舞台は、現在へと流転する……