*あらすじ* <血肉を削って中古のパソコンを購入し。いつもプレイチケットをギリギリでかってプレ イしている激・貧乏人、浅野猛(たける)。 彼が繰り広げる日常と言う名のサバイバルバトルを描いているのがこのシリーズだ! 碧衣の騎士団に立ち向かうのではなく、放浪AIと不思議な出会いをするのでもなく、給 料アップのために店長と戦い、それとなく出合った仲間達に笑いながらドツかれる。 そんな微笑ましい日常の物語。 そしてそんな微笑ましい日常を打ち壊す勢いで登場してきた新キャラが居た、猛の従姉妹 である加奈である。 小さな大悪魔と称するに相応しいこの少女のとんでもない素行によって猛は今日も大ピン チだ。 そんな加奈が本日初めてコントローラーなる物を握り、The Woerldを始める事となった。 『こんにちは』と打つのに3分かかるパソコンレベルの加奈。 教育係は猛のキャラであるウィールと、仲間のアーサだけだ。 さてさて今日の猛君にはどんな困難が待ち受けているのだろう……> <(……あらすじに何者かが侵入してきた!) ??:突然だけど、今日は兄貴こと猛が主人公じゃないから。 作者(こと風月):テロっ!? と言うよりも何でお前が此処に居るぅ!? 加奈:ギャグ小説にしてしまったのが運の尽きだ、作者。今日からウチが主人公張るから、 うん、今乗っ取るって決めたから乗っ取る。それが全ての理由。 風月:そんな事できませんて! ………その、寸分の隙も無く構えていらっしゃるコブシ は何でしょう? 加奈:(にこり) 風月:(ガタガタガタ……) (この後数分間実力行使が行われ……、晴れて今回の主人公は加奈となったのだった)>          <新世界で見えたもの>  ふ、作者なんてチョロイチョロイ。  じゃなかった……、えーとマニュアルによると……。最初は情景説明辺りがセオリー、 か。  よし! 気合入れていこう♪  真新しい感覚。  見た事も無い場所。  なのに何故か懐かしい。  それがこの世界、【The World】に入ってみて最初に思った事。  とにもかくにも、ウチと言う奴はパソコンどころかテレビゲームすらまともにやったこ とが無い。  貧乏も貧乏、生まれながらにしてホームレスに近い暮らししてたし、義務教育終わるの が怖いくらいだから当然そんな機械が買える訳も無いから。  こうして兄貴の家に来ているから出切るんだ、ついでに言うと住み込む気だからこれ以 後も出来る。  つまりびーじーえむとか、効果音とか、何よりこのすりーでぃー映像とか、何でもかん でもが初めてだった。だから本当にウチは見た事も聞いたことも無い世界に来てしまった みたいに感じた。  感じながら……、気持ちの良い大草原に立ち尽くしていた。  『初心者エリア』とか言うらしいそこに。 「おい、動かないじゃん……」    まるで生まれてから一度も泳がないで、行き成り海に落っこちたかのよう。  ウチはな〜〜んにも出来ない。  その場に突っ立っては、それを動かそうとコントローラーを弄くってみるけど。数秒も しないで兄貴から「裏表が逆」と突っ込まれた。  あ、確かにボタンのでっぱりが中指に触れてるかも……。  し、し、知らなかったわけじゃない! 何かこのえふえむでぃー(へっどまうんとでぃ すぷれいとか言うらしい)を被っているとコントローラーが見えないんだから仕方ないじ ゃんか!  それに、ウチはこんなの握るの初めてなんだって!  ウチは慌ててコントローラーを持ち直す、うん、今度は何かしっくりする。   「うー………、あ、動いた」  取り合えずこのボタンを押せ、と言われたから人差し指で押したらウチのキャラが動い た!  やった、真っ直ぐに動いた! これぞ大いなる前進! 「うわ、ウチって飲み込み早っ」  そんな台詞をいったら兄貴はなんか落ち込んでた。なんでだろ?  ちょっとだけ考えてみたが、全然思い当たる節が無い。寧ろ喜ぶべきだろと思う。  まぁ〜、そんな事はいっか。  兄貴が落ち込むのなんて多い日は日に7〜9回はあるんだし。それにウチは今は構ってや るような暇は無いのだ。  ウチは構わず行進の練習を続けた。  そして暫くして。 「いたくないんか?」    てこてこと前進し続けてドコドコとなんかモアイみたいな石像にぶつかりまくっている ウチのキャラ。  『カナ』をもう一つの体のように使いこなせるようにならなきゃいけないというのに、 この醜態はひどい。なんだか間が抜けていて面白いように見えなくも無いけど、それは家 以外のキャラだったらの話だ。  ウチはまだ落ち込んでいる兄貴をほったらかしてその全力前進から逃れようとまたコン トローラーと格闘する。  兄貴の優先順位は3位。  1位ウチ、2位カナ、そんでもって兄貴。  他は四民平等、下僕。   「取り合えずいっぺんに言うからちゃんと頭に入れとけよ……」  あ、復活したいみたいだ。 「先ず、ボタンを押すときは上の奴以外全部片手を離さずに親指で押す事!  そして左のボタンは十字になってる、で前を押したら前に行ったろ? だったら後ろに 下がるぐらい思い付く事!  そんでもってアーサを下僕を見るような目で見ないこと!  大事な仲間なんだからな、最後のは特に重要だぞ。このゲームはパーティメンバーや他 人とどれだけ上手くやれるかが一番重要なんだ」  ウチの横で色々と指導してくれる2人のぴーしー、かたっぽのヒョロヒョロした重斧使 いが兄貴で、もう片方のヒラヒラした剣士がアーサとか言う女だ。  因みに今の説明は兄貴、アーサは妙に自然体な敬語で話す。  説明はウィール(兄貴)の方が得意だからといって補足に徹している。  ウチはその殆ど透明の不思議なケープを身に纏い、その下に無骨な軽鎧を着込んでいる ピンク色のボブカットのアーサを見る。  可愛い。けれど、  パッと見ただけで可愛いけどボケキャラってオーラを感じた。  何の迷いも無い笑顔でニコニコしている。  彼女が大切な仲間になるかどうか……それは正直に言うとまだ身妙な所。あの調子でマ イペースだから本心が悟り難いからだ。  悪い人じゃないことは先刻承知だけど、それだけじゃウチは人を好きになったりはしな い。面白くなくちゃダメだ、ギャグとしてではなく、人間としてね。  そこら辺まだ調査中なのだ。 「大事な仲間……か。兄貴、妙にアーサを買ってるね?」  あ、ピクって反応した。  リアルで。  隣に座ってるから分かる、と言うかバレバレじゃん兄貴。 「なななななな仲間ぁ〜〜は皆大切に決まってぇ〜〜るじゃないか!! アーサとは古ぅ 〜〜い付き合いなんだよ!」  声が釣りあがって『イッタリアァ〜〜ノッ』とか喋る時の発音みたいになってる兄貴。  こいつは面白いや。  さすが兄貴、ボケっぷりに独特のキレがある。  アーサはアーサで「どうしたんですか?」とか普通に鈍いし。  兄貴も「なんでもないって!? あ、あっははは」とか弁明してるし。……実際本当に いいコンビなのかもしれない。  どっかのラブコメを生ライブで見てるみたいだ。地でやってる分、というか現実な分だ け真に迫ってきて面白い。  根っからネタだなー、この2人。  それはいい、だけど。  兄貴は嘘付くのが下手な人間だけど、これだけ反応しちゃうってことはやっぱりアーサ っは特別なんだろうな……。  妹分としては中々複雑だぜ、兄貴。   「………」  暫くそのやり取りを見ていたけど、やっぱりウチはこう思うのだった。  決めた!  兄貴をくれてやるに相応しい女かどうか確かめてやる!  って。  別に最初からどんな人間か見るつもりだったけど、ちょっとレベルアップだ。骨の髄ま で見極めてオイシイかどうかまでチェックしてやろう。  ウチももう兄貴の家に住み込む気満々だし、要注意人物は要チェックや!   「(カナが妙に気合の入った忍び笑いもらしている……)」  新たな楽しみを見つけたウチに兄貴は早速冷や汗を流しているみたいだった。  追い詰められた子ウサギのような表情が可愛いじゃないか。  クックックック……。  何かを誤魔化しているような気がしないでも無い、でもま、こうするのが一番楽しい道 なんだと思う。   「さて、色々やらなきゃないけないことが増えたし。練習練習っ!」  ラブコメの間に一応自由に走ったり歩いたりすることはできるようになったし、アイテ ムも何とか使えるようになった。  フラフラとしながら移動したり、間違って黄金の針金を兄貴に使っちゃったリしたけれ ど。  因みに兄貴は開かなかった。  けど慣れるまでには時間が掛かるんだから仕方ない、取り合えず今は慣れなくても一通 りのやり方を覚えるのが最優先だ。  ウチは失敗するたびにちょっとだけ『カナ』に心の中で謝りながら、練習を続けた。   リアルなら何百倍も上手くできる事を『カナ』には失敗させてしまっているのだ、この ウチが、ウチの為に動く子を。  だからちょっとだけ心苦しくなるし、この子のためにも頑張ろうとも思う。上手くでき ないと愛着が湧くのかもしれない。  いつの間にかウチは『カナ』というやつが気に入っていた。  そのことを兄貴に話したら「お前は絶対強くなれる、その意気だ」って言われた。  当たり前のことを言うな、兄貴。  照れるじゃないか。  休日だったから練習は長い間続いた。  ご飯を挟んで暗くなってもアーサのぷれいやーである仄花も帰らずにウチに付き合って くれた。  もうかれこれ4時間ぐらいやってるんじゃ無いだろうか?  2人とも飽きずにコーチに徹してくれている。 というかウチが弟子の内は絶対退屈なん かさせないけどね。  なるほど、アーサは付き合いは良い方……と。見張りはウチがやるからOK。  煩い人も居ないし。  因みにこの家の母親は女の子2人が兄貴にくっつく様にして寝てたって、一緒にお風呂 に入っても、夜の街に出かけようとも。特に何も言わないとウチは確信している。  布団の洗濯も、お風呂の掃除も、夜の戸締りもな〜〜にもやらない人なのだ、働いても いないのに。今更誰かをしつけるほどの力も無い、ただ切れると怖い人だ。  その分父親……(こう言ってると本当の父親みたいに聞えるけどウチにとっては伯父さ ん)はまともな人だけど、毎日ボロ雑巾のようになって夜遅く帰ってくるので休日でもな い限り何か言うどころか完全熟睡してしまう。因みに休日は稀だった。  だからこの家は子供の自立心が強いのだ。別名放置主義家庭。  まぁ、ギャグ小説で何かあるわけじゃないけどね。   「最初はどうなるかと思ったけど、ホントに飲み込み早いな。カナ」  4時間も練習すれば流石に初心者だって普通に動けるようになる。  けどウチは普通の初心者とは違うから普通以上に動けるようになっていた、空手3段の 空間把握能力は伊達じゃない。何ごとにも適応なのだ。  自慢じゃないけどウチは天才的な速さで動きが上達した、中一の若い脳みその強さなの か。違うな、ウチの格闘センスがなせる業だろう、きっと。  毎日のように兄貴に技をかけてるのも伊達じゃない。  『カナ』は兄貴がかるーく振るってきた斧をサイドステップで避けると間髪おかずに体 勢を仰け反らせてバックステップに続けた。  瞬間『カナ』の再度ステップの着地地点に細身の剣が閃く。これもバレバレのコンビネ ーション。  さっきまではこのくらいの手加減で調度良かったけど、もうそろそろ通じないと知らせ る必要が在るだろう。  『カナ』は長く残して巻いた鉢巻を揺らすと、それが揺れきらない内に素早く踏み込ん だ。瞬間バカ丁寧にも2人はガッチガチにガードの構えを取る、まぁ、セオリーだし。  モンスターとのお約束染みた戦闘に慣れるにはこれで良いのかもしれない、けどそれは さっき殲滅したゴブリンぐらいで十分足りている。  にやり。  唯一使いこなせるようになったモーションをここぞとばかりに使ってみる。  得物の威嚇無しで拳闘士(ナックルマスター)の攻撃を受けようなんて言語道断なのだ、 これは武器の違いによる優位を消し去る事になる。   「せやっ!!」  空手の時の癖で思い切り叫んでコブシを突き出す、兄貴の鎧に思い切り正拳を叩き込ん だ。  同時に鈍い衝撃が返ってくるけど痛いわけじゃないので遠慮なくそのまま更に突っ込 む! 「さっきのは、囮だバカもーーん!! ………っと」  そのまま鎧を引っ掴んで気持ちよく投げ飛ばしたのだった、アーサの方向に。  ウチは柔道も有段者である、背負い投げくらいお手の物だ。  ビュ〜〜ン、と景気良く飛んでいく兄貴。  うん、さすが兄貴、やられ姿が良く似合う。  因みに拳闘士の攻撃の型でも有るのでちゃんと精密に掴んだり飛ばしたり出来るのが嬉 しい。  正拳の『0』を見る限り、まだダメージは全然見たいだけど。 「ゴメンアーサ!! ほぎゃっ!?」  兄貴は予定通り勢い良くアーサに衝突した、アーサの方もまさかウチが投げ技を使うな って思ってもなかったらしくまともにおでことおでこが火花を上げる。この瞬間ウチとは 逆にアーサは経験有ってもセンスは無い方だと分かった。  あ、なんか『12』とか入った。  兄貴が強いとアーサにいくダメージが大きくなるんだろう、使えるな投げって。  ウチは満足げに頷いて、ついでにヘルプを見ながら一泊遅れて『カナ』も頷かせる。ど うやら『動く』事に関してはウチは飲み込みがいいらしい。  アーサに癒しの水を使おうとしてサンダルをプレゼントしちゃった事からも伺える、『動 く』だけ、以外はダメダメだった。  なんか慣れ無いんだよな、あの中に浮かぶカーソルとかチャットの拭き雑な切り替え操 作とか。  「あの……、これ、どうすればいいですか?」  アーサがサンダルを片手に困ってた。 「兄貴の墓前にでも埋めといて。いつか、倒すから」  ウチはニッコリと答える。 「……本気なんだろうなー、コイツの場合」  兄貴はゲンナリと突っ込んだ。   「取り合えずこの中では、リアルと違って兄貴が一番強いんだから兄貴を目標にするのは とーぜん♪  折角死んでも大丈夫な世界なんだからとことん闘るからね♪」  ウチは上機嫌だった。  心なしか『カナ』も表情は変わらないのにそんな風に見えるから不思議。  ウチが鉢巻巻いて動きやすい黒のショートパンツと胸に巻いた晒しの上に直接赤い上着 って感じのデザインにしたから、この子もきっとウチみたいな性格になったのかもしれな い。  ますます可愛いやつめ。  ウチは5レベルになったばっかりの分身を見つめて、満足げに微笑んだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー こ、此処までは侵入させんからな加奈っ!! ってなわけで私の中でキャラが疼く、そうだ今回はコイツを主人公にしてみよう! って ノリで思いつきで今回は主人公チェンジしてみました。 見事に暴走っぷりを見せてくれたのでちょっと満足しております。 次回はちゃんとボコられな………こほん、攻撃は回避していつもの主人公で書きますので ご心配なく。 それにしても、初心者を主人公にすると言葉が全然使えなくなって難しいですね。ホント。