*あらすじ* <血肉を削って中古のパソコンを購入し。いつもプレイチケットをギリギリでかってプレ イしている激・貧乏人、浅野猛(たける)。 彼が繰り広げる日常と言う名のサバイバルバトルを描いているのがこのシリーズだ! 碧衣の騎士団に立ち向かうのではなく、放浪AIと不思議な出会いをするのでもなく、給 料アップのために店長と戦い、それとなく出合った仲間達に笑いながらドツかれる。 そんな微笑ましい日常の物語。 そしてそんな微笑ましい日常を打ち壊す勢いで登場してきた新キャラが居た、猛の従姉妹 である加奈である。 小さな大悪魔と称するに相応しいこの少女のとんでもない素行によって猛は今日も大ピン チだ。 そして今回その魔の手は猛の3人の親友が1人、アーサことそのリアルである風鳴仄花嬢 にまで伸びようとしていた。 どうなる仄花! どうする猛!! さてさて今日の猛君にはどんな困難が待ち受けているのだろう……>           <奴が目覚めた?>    時は深夜、もう真っ暗にしているので正確な時間は分からない。  取り合えず今得られる感覚で分かるのは俺が二段ベットの上で寝ていて、弟はいつもの ように中途半端なリズムを刻む鼾をかいていることだけだ。  ……いつまで二段ベットなのだろう。  と、考えてはいけない事を考える前に考えない事にして(どーせ改築は無理だし)本日 起こったことを追憶してみる。  何となくだ、いつもはバイトの疲れで泥のように眠るけどこうして偶に有る暇な日は寝 れなかったりする、だから眠るまでの暇つぶし。  またの名を作者の都合。  ………。  ともかく、今日は色々な事があった。  朝っぱらから加奈の練習試合に付き合わされて加奈の服を破ってしまうという……いや 別にオイシイ破れ方はしなかったけど、アクシデントが有ったし。  そのお陰で代わりの服を買わされることになったし。まぁ元から買うつもりはあったけ ど。  その帰りにTheWorldで馴染みのアーサこと風鳴仄花ちゃんにも偶然会ったし。そう言え ば、仄花ちゃんと会ったのは凄い確立だよな。  因みにあの後暫く談笑して分かれたんだ。 <挿絵 http://www5f.biglobe.ne.jp/~feud/nani36.jpg>  その時に明日遊びに来てもらう約束をした、と。加奈も初対面の人をよく誘えるよな。  思えばこれが一番の一大事だよな、なんてったって我が家に初めて女の子が遊びに来る わけだし。ああ、加奈は肉親なので対象外にしておく。  来る……、我が家に?  ってそう言えばこの家人に上がってもらうほど立派じゃないしむしろボロイじゃない か!?  あまりにも初めてなんで今気付いた……、そうだ、だから卓も行くばっかりで連れ込ま ないんだな。  因みに我が家は放火魔も寄り付かないようなボロである。  大正の家がしぶとく残ってるような感じだ。  だからこそ大事に使ってるから清潔さだけは保障できるけど、たぶんボブ・サップとか が来たら素手で破壊できる。  バイトで働き出してから忘れていたこの事実を思い切り思い出した。いやむしろ封印し てた事実を掘り返してしまった。  空しい。 「ほ、仄花ちゃんの家も貧乏だって言ってたから大丈夫だよな……?」  眠りの為に色々思い返していたけど、余計に眠れなくなりそうだ……。 「ぐがががががっ♪」  寝言で8ビート刻んでやがる卓にそこはかとなく殺意を覚えた俺なのだった。  明日辺りこっそり鼻栓してやる。  ………。  ああ、結局眠ってしまったらしい。  何だかんだ言っても結局は俺も健康優良児だ。    心地よく波に浚われる、夢。  夢と分かっていたけど起きたくない、時間になれば勝手に起きる体だ。  今は、体をそっと波に任せて……。 「 ド ッ  ッ  カ ー ー ー ー  ー  ー   ン ッ ッ ッ ! ! ! !」  下の方で何か大きな音がした。高い声みたいだ。  いったい何なのだろう?  取り合えず耳元ではないのがこれ幸いだ、けれど起きないとこっちも襲ってくるかもし れない。  その前に起きてしまおう。  俺の体はこーゆーパターンに対する対処能力が異常なほど高かった。悪戯好きな弟を持 った故である。 「―――――っ〜〜〜!?!?」  ムクリと起きて声のした下の方を見てみると、なにやら卓が身悶えしていた。耳を押さ えながら鼓膜を宥めるように。  音源地なんだろう、可哀相に。  そしてその音源と思われる加奈はパジャマ姿のままメガホンを片手に【??】を浮かべ ていた。  因みにあのパジャマは俺が小さい時のものだ、我が家では古くなっても雑巾にすらしな いで取って置く。  加奈は手をメガホンでぽんと叩くと。 「あ、間違えた」  と、おっそろしい事を軽―く言ってのけていた。  卓は二重のショックであった。 「兄貴は上だったかぁー、ったく下なんかに居るなよな卓」  自分が間違えたくせに物凄い横暴っぷりだった。  因みに俺は兄と呼ばれるが加奈より三つは上である卓は呼び捨てだ、それだけ加奈の中 で卓は株が低いらしい。  まぁ俺よりも家に居ないんだからしょうがない。基本的に加奈は単純なのでかまってく れる人間が上なのである。  だから卓は隣の家のチャッピーよりランクが下となっている。  チャッピーは『ウチの弟子』とか呼ばれているのだ、……因みに犬種はボルゾイである。 案外『兄貴』である俺はランクが高いのだ。 「……朝っぱらから何やってんだ。寝込みでも襲う気か?」    襲われた卓は無残にも強制的な二度寝に入っていた。  気絶なのかふて寝なのか分からないが、朝の6時なんだから問題は無い。そっとしてお いてやろう。 「そうだけど文句ある?」  無い胸張って言いやがった。当然とばかりに。  こーゆーときに誤魔化すとか慌てるとかの行動を取らないのが加奈である。  コイツはどんな悪事でも自信満々にやるんだろうな。 「……文句は有るが凶器を持ってる人間に言うほどバカじゃあない。ほら、ちゃんと起き てるだろ? だから取り合えず着替えさせてくれ」  凶器とは勿論メガホンの事だ、加奈の肺活量なら大声がショックウェーブとなって人を 殺せる凶器となる。  因みにアレは俺が小さい時に拾ってきたプラスチック製の物で、7年前ぐらいに加奈に 譲った物である。ドラゴンズのロゴ入り。  しかも新品同様、今でも大事にしていたとは驚きだ。……拾い物じゃなかったら素直に 嬉しいのだけどなぁ。  加奈は自分のミスを悔やむようにポンポンとメガホンを叩いてベットから降りると。 「じゃあさっさと着替えちゃって、朝練するから」  と言った。  ドッカリと俺の机の上に座りつつ。  部屋を出る気、無さそうである。因みにタンスはこの部屋にある。   じーーーーー………っ  ……し、視線が痛いっ。  いやいや肉親なんだから気にしなくていい筈だ、それに相手は加奈だし……だからこそ 何か企んでそうで心配か。  耐えられずに俺の方が目をそらしてしまう。  ま、取り合えずベッドを降りよう。  慣れたもので寝起きだろうと二段ベットの上から飛び降りるなんて芸当は簡単に出切る、 俺はスタリと畳みの上に降りるとタンスを漁る。   じーーーーー………っ  な、何なんだ? 新手の嫌がらせか?  突き刺さる視線がいつになく痛い、いやいつも痛いくらい視線鋭いけどさ、今回は格別 痛い。  だからタンスの中にある数少ない服を掴む手すら何故か緊張する。  このプレッシャーは、まるでピアノの発表会だ。いや、見たこともやったことも無いけ ど。  やっぱり加奈も思春期だ、そーゆー事に興味が? いや俺の日常を見たいだけか? も しや寝ぼけて隙を見せたらあのメガホンで攻撃が? 目線で相手を居竦むませると言う達 人の技の練習か? それとも何か別の思惑が?  わ、分からん。 「……でぇ〜〜いっ視線が痛いわぁーーっ! 何見てるんだよ加奈」  このままじゃストレス溜まるわい。 「何って、兄貴がオロオロする様を見てた」  コイツ俺のナイーブハートを見て弄んで楽しんでやがる。  いい笑顔の加奈。  緊張とは別の意味でプルプル震えるマイハンド。 「出てけーーっ!!」  景気良く部屋から蹴りだしてやったのだった。  こーゆー突込みのときだけは力で勝てるんだよな、俺。  でも朝から大々的に突っ込みは疲れる……。  朝練は地獄のようだった。  そんな訳でお昼。  俺と加奈はこの時ばかりは喧騒を忘れてのほほんとお茶を啜るのだった。  何故わざわざ朝練を一行で飛ばしたのかは各自で悟って欲しい、誰にでも語りたくない 過去は有るもんだ。  俺はボコボコに腫上がった顔を冷えたコップで冷やすと、またのほほんとお茶を啜る。  あー、血の味がするぜ。  そんな一部血生臭いけど和やかな雰囲気の中を『コンコン』と扉を叩く音が響き渡った。  それに続いて。 「ごめん下さーい、風鳴です。浅野猛さんいらっしゃいますかー?」  と声がする。  チャイムは鳴らないのではなく最初から無い。取り敢えずは、電車の中で必死に説明し てメモ帳に3枚も手製の地図を描いた事が無駄にならなかった幸福を噛み締める。 「はーい、いるよー!」  そして返事をして玄関に向かうのだった。  彼女は超が付くほど方向音痴なのである。だから始めて来るここに無事辿り付けた事に 感動なのだ。  駅まで迎えに行くとも言ったけど『それじゃあいつになっても治りませんから』と断ら れてしまったので、今の今までなんか変な雰囲気で待っていたのだった。  ああ、宝くじで1万円当てたときより嬉しい。  これは相当な喜びである。1万と言ったら半月分の食費に相当するのだから。 「よく迷わずに来れたね。何も無いどころか相当にボロイ家だけど、ささ入ってよ」 「始発で出たんですけどー……」  ………頑張ったんだね。  その努力に、思わず涙ぐんでしまった俺なのだった。  いったい何時間迷ったのだろう。駅から真っ直ぐ10分ぐらい歩くだけの道がこれほど 遠かったとは……。  帰りはちゃんと送ろうと決心した。  聞いてみたところ弁当持参で食べたらしいので昼食の心配は無いそうだ。  しかしそこまで覚悟していたのかと改めて感動する。  そんな訳で俺たちは2階の俺の部屋で、The Worldを立ち上げていた。仄花ちゃんはノ ートパソコン持参だ、相当厳重に仕舞い込まれたケースから取り出す辺り同類(貧乏)の 性を感じる。  そして加奈は仄花ちゃんに持ってきてもらったFMDとコントローラーを装備してご満悦 の様子だ。  そう、今回は加奈にTheWorldを教えるために集まったのである。  なんせ我が家にはコントローラーは一つしかないのだ、しかもマシンスペックも低い。  ThaWorldはコントローラーとFMDさえあれば二人同時プレイも可能なのだけど、俺のパ ソコンだと残念ながら二人同時プレイは重すぎて不可能なのだ。  と言う訳で丁度コントローラーも二つ持っていた仄花ちゃんが『私がパソコンを持って 行ってあげようか?』と加奈に言ったのがこの会合のそもそもの始まりと言うわけだ。  勿論俺の承諾もなしに加奈は二つ返事でOKしたから。  ま、俺も願ったり敵ったりだけど。  ……ん、もう立ち上がったみたいだ。  加奈は早速仄花ちゃんから借りたコントローラーを握って、気付いて離して、物凄く慣 れない手つきでキャラを作っていく。  その際間違えたり、間違えたり、間違えたり。  仄花ちゃんが重大なミスをする前に何度となく慌てて止めに入っている。  今時学校では週何時間もパソコンの授業が有ると言うのに……、本当に馴染みの無い奴 だ。  その様子を苦笑しながら見つつ、俺は画面すら見ないブラインドタッチでマクアヌに先 にログインしておく。  待っているとカオスゲートの前辺りにフラリと出現するだろう。  後ろから覗いても面白みが無いので、俺はそのまま加奈の方は見ないようにして、キャ ラが完成するのを大人しく待つことにした。    それにしてもいつもながらマク・アヌは人込みが凄い。  そしてそれに合わないようでしっくりと来ている静かな雰囲気の町並みが、いつもの独 特な感じを作り出していた。ここに来ると『ああ、The Worldなんだなぁ』と感じる。  そんな中で息づく俺のキャラ、“ウィール”はリアルと同じ長身のヒョリョヒョロの重斧 使いである。  男の重斧使いだと何かとゴツゴツしたイメージのキャラが多いけど、俺の場合普通を通 り越してガリガリだ、限界まで痩せたデザインにしてある。  はっきり言うと弱そう。凄く。  ……俺は見栄を張らない男なのだ。  つまり自分に似せたらこうなったと言う事。 「あ、兄貴発見。……一発で分かったぜおい。ま、想像より兄貴らしくていいや、うん。 カッコよくてゴツイ兄貴なんて兄貴じゃない」  どうせそうだよ。  と、つまりあんな台詞を言うと言う事はあの拳闘士(グラップラー)の女の子が加奈か な?   隣にアーサも居るし間違いないみたいだ、名前は……カナ……か、まぁいいけどね。  いやそれ以前に良く取れたなそんな名前? ここまでポピュラーだと大抵取られてる筈 だけど、運のいい事に加奈が登録する直前に『前のカナ』さんがキャラを削除していたら しい。  ビギナーズラックって本当に有るんだな。 「ほら、カナちゃん。パーティ招待」 「あ、そうだったそうだった。えぇと……こう? だったよな」  と同時に俺の所にパーティコールが届く。  デフォルトで『パーティ希望!』だ。   「メッセージくらい自分で入れた方が良いぞ、他の人を誘う時は。よっし、じゃあ先ずは 【萌え立つ 過越しの 碧野】で初心者チュートリアルに行こう」 「なんだよ、この町は見ないのか?」 「まともに歩けるようになったらな。取り合えずこの町はルートタウンって言って嫌でも 戻ってくる“振り出し”みたいな所なんだ、だから最初に見なくても後でちゃんと見るこ とになるから大丈夫」 「ふぅん……」  カナはパソコンすら、いや、コンピューターすら初心者なのだ。  だから先ずはこんな人の多いところじゃなくて人の少ないエリアでチャットの使い方と かマナーとかを教える必要が有るだろう。  コイツの場合この性格だからマナー指導が一番問題だな。逆に戦闘は体で一瞬で覚えそ うだ。  俺はカナとアーサが近くに居る事を確認すると、カオスゲートをターゲットしてワード を入力する。  うん、昔変な噂が有ったけどいつも通り普通の最弱エリアだ。決定、と。  ボタンを押した瞬間俺たち3人の姿が黄金の輪に包まれる。  遠めでしか見たことの無いカナは大はしゃぎだ。  その輪が全身を包み、転送し、俺たちの姿をマクアヌから消して碧野へと出現させる… …。         ……続く。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あああ、また続けてしまいましたっ。 急いで時間も掛けているのに予定より進まないです……(汗 日常シーンが楽しいので思わず伸ばしてしまう傾向があるようで、精進が足りないですね。 ともかく今度こそThe Worldでの冒険活劇になる予定です、お楽しみに!