*あらすじ* <血肉を削って中古のパソコンを購入し。いつもプレイチケットをギリギリでかってプレ イしている激・貧乏人、浅野猛(たける)。 彼が繰り広げる日常と言う名のサバイバルバトルを描いているのがこのシリーズだ! 碧衣の騎士団に立ち向かうのではなく、放浪AIと不思議な出会いをするのでもなく、給 料アップのために店長と戦い、それとなく出合った仲間達に笑いながらドツかれる。 そんな微笑ましい日常の物語。 そしてそんな微笑ましい日常を打ち壊す勢いで登場してきた新キャラが居た、猛の従姉妹 である加奈である。 小さな大悪魔と称するに相応しいこの少女のとんでもない素行によって猛は今日も大ピン チだ。 彼の慌てふためき弄られ具合を本日も存分にお味わい下さい♪ さてさて今日の猛君にはどんな困難が待ち受けているのだろう……>            <衝撃的出会い?>  えっと、取り合えずあらすじで好き放題語ってる作者をシメて良いだろうか?  俺は慌てふためいてなければ弄られてもいなーーいっ!!  作者め………っ!  むぅ……、これ以上反発するのも難なので話を元に戻すとしよう。  今現在俺は従姉妹の加奈と練習試合をしている、空手の練習試合だ。  こんなヒョロヒョロした体をしているけど、俺も昔は友達のお父さんに空手のイロハを 教えてもらっていた事があるのだ。(勿論タダだから教えてもらった)   だから格闘技をやって無い人間よりは強い程度に強い、けれどどっかの組に入ってるよ うな人には勿論敵わない程度に弱い。  そう、つまりピッカピカの中学一年生に、しかも女の子に負ける道理はこれっぽっちも 無いのだ。  何と言っても俺はもう高校二年生で、しかも健全な男子なのだから。  ……じゃあ何で庭で土の味を味わってるのだろうか?   不思議だ。 「てーんでダメだな兄貴。ハッ、弱い弱い」  そう、不思議なくらい加奈は強かった、と言う訳だ。  ちょっと見ないうちにホント逞しくなって……と感心するレベルを遙かに超えた上達っ ぷりだった。ほんの2,3年前は俺でも3割くらいは勝てていたのに、今では勝率0%の始 末、そしてその結果がこの情け無い俺の体勢だ。  つばを後ろにしてスポーツキャップを被った加奈はニヤリと笑いつつ満足そーに地面に 叩き伏せられた俺を見ている。  情けない事にしばらく立てなかった、腹筋に力が入らない。   「でも……、ウチの体には触れられなかったとは言え拳で服に触れられたのは称賛するよ。 称賛するから、破った分後で弁償しなよ、兄貴?」  因みに俺だってわざと余裕で避けられる所を紙一重で避けていた事ぐらいは分かる。  こいつ、わざとボロくなった服を新調する為に練習試合を持ちかけたな……。  まぁ、分かっていながら謀を阻止できなかった俺も俺だけど。  加奈は満足げに腹の辺りの破れている制服をピラピラさせている、既成事実とでも言い たいのだろう。これでもかってぐらいに嬉しそうだ。  例えるなら勝利の美酒に酔いながら戦利品を搬送を待ってウキウキしている、と言った 所だろうか。  こうして笑っていてくれれば可愛いのだけど。  何故だろうか? 俺には今にも死にそうな重病人を前にしてデカイ鎌を持った死神がニ タリと笑うような空恐ろしい笑顔にしか見えなかった。  けれど、取り合えず。 「女の子が服破かれて喜ぶな」  と、突っ込んでおいた。  体はボロ雑巾だが一応口と肺だけは無事なようだ。  ………。  そんなわけで、浅野家特製の悲しくなるぐらい薄―い麦茶を飲みながら俺たちは一服し ていた。  休憩もあるが、主にあの有るのか無いのか分からないような狭い庭で一戦やらかせた傷 を癒す為だ。  因みに俺は適当に消毒して休憩すれば大抵の怪我ならすぐ動けるようになる。 「兄貴……、いつから化け物になった。立てないぐらいにボコられといて何でもうそんな に余裕なわけ?」  痛いあんまり余裕ってわけでは無いが、さっさと休息を終えてコップを片手にテキパキ と昼食の準備をする俺を見て、加奈はそんな感想を抱いたようだ。  加奈の手によって倒された人間は普通すぐには回復しないらしい。 「こんな生活続けてるとタフになるんだよ」  俺は朝の味噌汁の残りを温めながらそう言った。  ええと、冷ご飯がまだ有ったよな……。  こんな俺の日常。バイトして……帰ってきてもご飯が用意されているわけでもなく、仕 方無しに体に鞭打って料理する。そしてまた短期高収入の恐ろしくハードなバイト……。  って生活を続けていれば、嫌でも疲労回復速度なんかは早くなるのである。  いやそれだけじゃなく、ちょっとくらい不調を無視しても体を動かせるようになる、だ から俺はこうして動けるわけだ。  けっして大丈夫なわけじゃないが、加奈には余裕に見えたらしい。 「ま、動けるならいいや。昼飯食べたらちゃんとユニ○ロ連れてってよね」 「はいはい、了解」  我侭だけど高望みしない所が流石に浅野家の血筋だった。  俺は妙な所で血縁関係を感じつつも、二人分のご飯と味噌汁をテーブルに用意する。俺 も加奈もご飯には有れば必ず梅干を乗せるのでついでに梅干も初期配置だ。   「いただきまーす!」  飯は全身全霊をとして米一粒、ワカメ一枚たりとも残さずに食え!  残したら奪われると思え!  そんな浅野家の掟を忠実に守っているので、開始の呪文を唱えられた後の食卓は暫し真 面目な租借の音だけが残った。    そもそも、まともに着れるような私服が一枚も無いので普段から制服を私服代わりに着 ていると言う加奈。  我が家より貧乏な暮らしをしていたそうだが、流石に女の子がそれではあまりにも可哀 相だとは思っていた。と言うか本人はそれで普通だからなのか明るく振舞っているが、こ っちから見ればかなり不憫だ。  なので服の一着や二着くらいは買ってあげる気は戦う前から有ったのである。夏休みの 半分近くをバイトで潰し抜いたので奇跡的にも金銭的余裕が有ることが大きな理由だけど。  で、ユニ○ロに行って来た。 「黒いGパンに赤シャツ……。ま、加奈らしいといえばそうか」 「似合うっしょ?」 「ああ、実に逞しい」  逞しいと言われて実に嬉しそうにするのが加奈の性格なのであった。  もうちょっと女の子っぽい服を買うかと思った俺はまだまだ甘いらしい。  まぁ、ユニ○ロの服はシンプルなデザインが多いので本当に似合わない事は無い。ツギ ハギだらけの制服から幾分かレベルアップした加奈はかなり印象が違って見えた。  人はボロイ服を着ていれば貧乏人に見える、そしてゴージャスな服を着ていれば金持ち に見える。  つまり、見た目だけ貧乏人から一般人に昇格した加奈はやっと目立たなくなってくれた。  ……ツギハギだらけの制服を着た少女と一緒に店内に入ってく時点で大分目立っていた のだ、何か凄くホッとした俺なのだった。  で、今はその帰り道。  ハッとなって振り返る人が格段に少なくなった事に少なからず感動しつつも、俺たちは 頭の上が高速道路になっている歩道を歩いていた。  よっぽど嬉しかったのか加奈はさっきから機嫌が麗しいらしく、俺に飛びついたりその ままヘッドロック極めてみたりそこから何故か背負い投げしてみたりとハイテンションだ。  勿論俺は痛かった。  頼むからこーゆーときくらいは微笑ましく見守る兄貴で居たいものだ、と文字通り痛切 に思う。 「どーしたんだ? さっきからウチをそんなにジロジロ見て。あ、もしや兄貴……そうか そうか♪」 「自己完結すんな。人目につかなくて感動してるんだよ」  実際は今度飛びつかれたら古傷が開きそうだから警戒していたわけだが、その辺は大人 の余裕で黙ってるとしよう。  どこまで持つかとても信用できたもんじゃない余裕ではあるが。 「ウチは『そうか』つっただけだけど? こーゆーときに慌てて否定するのは妖しい証拠 だぜ」  ニヤリと笑う加奈。  しかーし俺だってそんなに好き放題させるほど甘くない。 「そりゃ、肯定したくなかったもんな」  残念ながらお約束の展開は、無い。  スパッと言い切ってくれよう。  作者がなにか言っているようだがそんな抗議文句は聞かん、俺には気になる人が居るの だ。  ……お、なんか加奈が悔しがってる。  所詮はお子様よ、俺の冷静な対応に負けを認めたらしい。  一気にムスッとしている加奈を笑いながら宥めていると、先にある噴水の辺りになにや ら見知ったような人影が見えた。  多分噴水の近くにあるベンチで休んでいたのだろう、その影は俺たちの姿に気付くとな にやら嬉しそうに走ってくる。 「浅野さーーん!」  こ、この癖は……!  人の名前を呼びながら走って近付いて来て挨拶、という今時珍しい癖を持っている人間 といえば彼女しか居ない。  The Worldでいつも行動を共にする4人組の1人、アーサだ。……と言ってもこっちは リアルだから確か風鳴仄花ちゃんと言う事になる。  前回OFF会をやった時に会ったのクリスマスだったから、毎日のように会っているのに 随分と久しぶりだ。  加奈より二つ上だけあって半年も会わないと結構背が伸びたと感じる。因みにセミロン グのサラサラとした髪を左の方でリボンで結んでいる加奈とは比べるまでも無い正統派の 美少女である。  どっちかと言うと加奈はアウトローだ。   「兄貴。……あれ、誰? と言うかウチも浅野なんだけど」 「本人を目の前にしてあれとか言うな。The world仲間の風鳴ちゃんだ」  ペコリ、と初対面である加奈にお辞儀する風鳴ちゃん。 「はい、風鳴仄花(かざなきほのか)って言います。えっと、言葉を返すみたいですけど 彼女は……?」  何だろう、リアルで本当に礼儀正しい人間を見るのが凄く久しぶりな気がする。  ちょっと感動だ、そして加奈に会うのが着替えた後で良かったと本気で神に感謝した。 「同じ浅野ってことで従姉妹の加奈だよ、危ないからあんまり近づかないようにね」  加奈がさり気無く足を踏んでいるが、体重が無い分蹴りと違って威力が無い。  顔色を変えずににこやかに言い切った俺なのだった。  ザマーミロ、ははは。  今朝の非道な攻撃に対するささやかなお返しである。   チッと小さく舌打ちする加奈に気付いていない風鳴ちゃんは、そうなんですかーとにこ やかに受止めてくれた。  なんか最近ハードだったのでそのごく自然な裏表の無い笑顔に凄く癒された。 「それにしても久々に名古屋まで出張ってきた甲斐があったかな、まさか風鳴ちゃんと会 うとは思わなかったよ」  考えてみれば物凄い確率である、けどまぁ人生長いんだからこんな事も偶にはあるのだ ろう。 「私もですよー、まさか名古屋に来て道に迷ってたら浅野さんに出会えるとは思ってもい ませんでした! これでやっと帰れます……!」  ああ、だからさっき俺の顔見てそんなに嬉しそうだったのか。  俺が1人で納得しているとなんか不機嫌な加奈が口を挟んできた。 「だからウチも浅野なんだってば、ややこしいから下の名前で呼びなよ」 「え、はい、……じゃあ猛さんで。あ、この際だから私も仄花で良いですよ、姉妹沢山い ますし」  何となく加奈は同じ苗字なのに苗字で呼ばれるのが嫌なようだ。  そう言えばあいつは一人っ子だから同じ苗字の人間が居るのに苗字で呼ばれるって事に 慣れてないのかもしれない、俺は卓が居るから特に気にならなかったけど独占欲の強い加 奈は気になるのだろう。  そんなわけで、意外にも加奈のお陰でちょっぴり距離が縮まったのだった。  と、それよりも本題に戻らないと。 「で、どこに行こうとして迷ってたの?」 「名鉄の改札口なんですけど……」  ………。  あの、加奈すら一瞬コメントする事ができなかった。  そんな素晴らしく寒々しい間が俺たちの間を駆け抜けて行った。   「あの、どうかしました? あ、もしかして物凄く遠いとかっ!? 私大分歩き回って疲 れちゃったくらいですし」 「いやそんな事は無いけど」  だって俺たちのすぐ後ろにはデカデカとこれでもかって言うくらいに名古屋駅が佇んで いるんだから。ねぇ。  距離にしてざっと12歩くらい。ジャンプ3回分くらい。  どっからどうやって迷ってこの場所まで来ると、名古屋駅を探してるなどと言えるのだ ろうか? ちか過ぎて目に入りきらないとか?  仄花ちゃんの行為は背の立つ川で溺れる人間を連想させるのだった。  30秒後。 「こ、ここだったんですか……!!」  仄花ちゃんはいかにも気付かなかったとばかりにお驚きになった。  いっしゅんバカにされてのだろうかと思った俺なのだった。  けれど俺は知っている、彼女だからこそこーゆーリアクションは限りなく素なのだと。  そして事件は始まったのだった。  それは途中まで一緒に乗っていく電車の中での出来事、隣に座っている仄花ちゃんにさ り気無く加奈が言う一言が切欠だ。 「ね、今度遊びに来ない?」 「いいですよー」  素晴らしくお気軽な事件の始まりだった。 <続く?> ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 遅刻やぁぁーーーー、しかもまた続き物にしてしまったぁぁぁーーーー。 うーん、最近どうも一つの作品が一回で収まりきらないみたいです。 たぶんリアルでのキャラ陣営を濃くしすぎたせいですね……、これはこれで楽しいのです がThe Worldの描写が少なくなって冷や汗をかくばかりです。 次回はやっとTheWorldのお話になる予定です、良かったらお楽しみに〜!