ツクツクボウシ

つくつく法師 (セミ科)


2004/8/21 13:10 館山市大神宮(県立館山野鳥の森) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 夏の終わりを告げる中型のセミ。和名はもちろん鳴き声に由来する。本種もミンミンゼミと同様、大木の高い位置にとまっていることが多く、さらに体型がスリムなので、ミンミンゼミより見つけにくい。まさに声はすれども姿は見えずといったところである。
 写真は県立館山野鳥の森で8月下旬の午後、林縁のサクラにとまって休む♀である。雌雄は色調や斑紋などに差はないが、♂は♀よりはるかに腹部が大きく、♀は腹端に長い産卵管を持つので区別は簡単。ヒグラシやハルゼミに似るが、ヒグラシとは鳴き声と腹部の色が異なり、ハルゼミとは発生時期が異なるので見分けるのは難しくない。また本種と酷似するクロイワツクツクが近年になって県南部に定着したとされるが、鳴き声が異なる。
 ニイニイゼミが姿を消す頃にようやく現れ、お盆~残暑の頃が最盛期。ミンミンゼミが姿を消す頃に数を減らし始め、残暑が終わり、秋風が吹き始める頃に姿を消すが、10月中旬になっても生き残った♂がかすれ声で鳴いていることもあり、物哀しい。平地~低山地の林に多く、社寺境内や市街地の街路樹などでも普通。かなりの都市部にも適応している種のひとつ。合唱性はないが、最盛期にはその独特の節回しが、あたかも輪唱しているように聞こえる。ひょっとしたら、これが「蝉時雨」の由来なのかも、と思ったりもする。



ツクツクボウシ (セミ科 セミ亜科)
Meimuna opalifera  (Walker, 1850)
分布 国内: 北海道、本州、四国、九州。 平地~低山地に汎く分布する。島嶼では対馬、種子島、屋久島、トカラ列島(中之島)から記録されている。
県内: 都市部を含め、汎く全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島、中国大陸、台湾に分布する。
変異 形態: 亜種区分は認められていないが、屋久島産は若干鳴き方が異なるという。他に奄美群島、沖縄本島、久米島にはオオシマゼミ(M. oshimaensis  (Matsumura, 1905))、九州(大隈半島)~奄美群島、沖縄諸島にはクロイワツクツク(M. kuroiwae Matsumura, 1917)、石垣、西表にはイワサキゼミ(M. iwasakii Matsumura, 1913)、小笠原諸島にはオガサワラゼミ(M. boninensis (Distant, 1905))が分布する。体色は安定しており、色彩変異はほとんどない。
季節:
性差: 異型。♂腹部は♀より大きい。♂腹部腹面には大きな発音器官があるが、♀は小さい。♀は腹端に長い産卵管を持つ。
生態 環境: 樹上性。各種樹林、社寺境内、公園など。針葉樹林~広葉樹林まで汎く棲息する。都市公園や街路樹、社寺境内などにも普通。幼虫は地中性
発生: 年1回。8月中旬~10月上旬。卵期は60日型。翌年の梅雨時に孵化する。幼虫期間は飼育では2年程度だが、自然状態ではもう少し長いものと思われる。
越冬: 幼虫。最初の冬を卵で越し、その後数回幼虫で越冬する。
行動: 昼行性。午前中はあまり活発でなく、午後が中心。特に夕方から日没直後が最高潮となる。
食 性 食植性/汁液広食性。様々な樹種を利用するが、広葉樹に多い傾向がある。幼虫は土中で根から、成虫は幹や枝から吸汁する。
類似種: ヒグラシに似るが、斑紋と鳴声が異なり、ハルゼミに似るが発生時期が異なる。 本種と酷似するクロイワツクツクは近年県南部に定着した。
保 護: 指定されていない。
その他: 普通種。個体数も多い。和名は鳴き声に由来する。
天敵 捕獲: 成虫はハラビロカマキリ、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどのカマキリ類 、ヤブキリなどの捕食性キリギリス類、造網性クモ類、徘徊性クモ類。卵はウシカメムシなどのカメムシ類。
寄生: セミヤドリガ科のセミヤドリガ(成虫)が知られるが、寄生個体の生存に関しては特に影響はないらしい。昆虫ではないが、幼虫には冬虫夏草の一種、バッカクキン科のツクツクボウシタケ(Isaria sinclairii)などがつく。

メイン