トノサマバッタ

殿様飛蝗 (バッタ科)


2001/6/27 木更津市菅生 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のバッタ。乾いた荒地や草丈の低い明るい草原を歩いていると、足元から大きな羽音を立てて勢いよく飛び出すため、驚かされることがある。このような環境であれば造成地などでも容易に発生するため、県内では比較的見かける機会が多い種である。和名は大型種であることに由来するものと考えられ、「大名バッタ」と呼ばれることもある。飛び方は力強く直線的だが、着陸するときには空中で羽を緩やかに上に閉じて急降下する。
 写真は木更津市で6月下旬の正午過ぎ、荒地の地上で様子を覗う緑色型の♀である。若干の個体差はあるが、一般に♀は♂より一回り程度大きいので、区別は簡単。通常は写真のように頭部~腹部前半と後脚腿節が若草色の緑色型だが、全身が枯草色の褐色型も見られる。♂はクルマバッタやクルマバッタモドキの♀に似るが、前胸部背面がそれほど盛り上がらず、この部分に「X」字状の斑紋を欠くので、簡単に見分けられる。
 通常年2回程度発生し、6月~11月上旬まで見られるが、盛夏~初秋に個体数が多い。飛翔力はバッタ類の中でも群を抜いて強く、一回の飛翔で50m~100m程度は平気で飛ぶが、通常は単独で行動し、生息する環境を離れることはない。これを孤独相と呼ぶ。ただ、単位面積あたりの生息数が限界を超えると群生相と呼ばれる相変異を起こし、集団で長距離を移動するようになる。これがいわゆる「飛蝗」で、字面から「イナゴの大群」と呼ばれることが多いが、その正体は実は本種。農耕民族の間で古来から恐れられてきた現象である。中央アジア~中国大陸、アフリカなど大陸内陸部の草原では現在でもたびたび発生し、深刻な食糧不足の要因のひとつになる場合もあるという。



トノサマバッタ (バッタ科 トノサマバッタ亜科)
Locusta migratoria  Linnaeus, 1758
分布 国内: 本土全域。平地~低山地を中心に汎く分布する。島嶼では伊豆諸島、小笠原諸島、対馬、種子島、屋久島、奄美大島、沖永良部島、沖縄本島、久米島、大東諸島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島など、ほとんどの主要な島嶼に分布する。
県内: 一部の市街地を除き、汎く全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島、中国大陸、台湾、フィリピン、東南アジア、東シベリア~欧州、アフリカ、豪州など旧世界のほとんどの地域に分布する。
変異 形態: 従来地理的変異は認められていなかったが、近年本種を8亜種にわけ、日本産を中国大陸、フィリピン、セレベス、ボルネオ、マレーシアに分布する東南アジア亜種(ssp.manilensis )に含める説が主流となっている。♂♀共に緑色型、褐色型の色彩変異のほか、相変異が知られる。通常の緑色型や褐色型は孤独相と呼ばれているが、群生相として羽化すると、体色はすべて暗褐色~黒褐色で、頭部と胸部が発達し、 脚はやや短くなり、特に翅が著しく長大化する。
季節: 知られていない。
性差: 異型。外見上の形質の差はないが、一般に♀は♂よりはるかに大きい。
生態 環境: 地上性。イネ科草本の繁茂する草原、林縁、荒蕪地など。明るくやや乾燥した、開けた環境を好む。 肥沃な土地よりやせた土地を好む傾向がある。
発生: 年2回。6月~11月上旬に見られる。寒冷地では年1回。南西諸島では多化性で、周年発生する。
越冬:
行動: 昼行性。日中活発に飛翔 し、♂♀共によく発音する。摂食時以外はあまり草の上などには上らない。♂は差し出された棒切れを♀と間違えて抱きつく習性があり、近年防除の手段として注目されているという。
食 性 食植性/イネ科カヤツリグサ科草本を中心とする。群生相はとくにそれに限定されず、木本も含めて多くの植物を食べる。
類似種: ♂はクルマバッタ、クルマバッタモドキの♀に似るが、体型が異なり、後翅に斑紋を欠く。
保 護: 指定されていない。
その他: 仮面ライダーのモデル(?)。別名「ダイミョウバッタ」。普通種で個体数も多い。県内での「飛蝗」現象は、香取郡笹川村須賀山で、明治20年と明治31年に記録されている。 また、国内では鹿児島県馬毛島での1986年10月の記録でが最も新しいものである。
天敵 捕獲: オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、大型の徘徊性クモ類、造網性クモ類など。 幼虫はこのほかスズメバチ類、アシナガバチ類、サシガメ類。
寄生: 幼虫は、アナバチ科のキアシハナダカバチモドキ(Stizus pulcherrimus  (F.Smith1856))、ジガバチ科のヌカダカバチ(Tachysphex nigricolor nigricolor  (Dalla Torre))が知られる。

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