ヒラタクワガタ

扁鍬形虫 (クワガタムシ科)


2007/7/1 館山市滝川 / NIKON F100+AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 名前のとおりひらべったい大型のクワガタムシ。腹部に比して頭部と胸部が大きく脚が短いため、重厚なイメージがある。例えていえばノコギリクワガタが軽快なスポーツカーだとすれば 、黒光りする幅の広いがっちりした体に短い脚、太い大顎、ゆったりと動く本種は重戦車とでもいえようか。
 写真は、館山市滝川で8月下旬に放置された休耕田に生えたネコヤナギに潜んでいた♂で、全長6.5㎝の中型の個体である。大きいものでは全長8㎝を超えるものもいるという。本土では顕著な地理的変異は知られていないが、特に南西諸島では顕著な変異が知られ、多くの亜種に分けられている。大きさには個体変異が大きいが、大顎の中央付近にある大きな内歯より先のノコギリ状の小歯が消失する程度であり、ノコギリクワガタやミヤマクワガタ、コクワガタのような顕著な差はない。最近、輸入が解禁され(てしまった?)た外国産亜種と、本土産亜種との交雑個体が野外で確認されて大騒ぎになっている。日本産の各亜種は長い年月を経て亜種として分化した歴史を持つ貴重なものであり、外国産亜種の安易な放流は厳に慎むべきである。
 平地~山地まで汎く棲息し、県内では平野部で比較的多く見つかるが、個体数は多くはない。♀は産卵の際に特徴的な産卵痕を残す。幼虫はクヌギやコナラなどのかなり腐朽した材を食べ、付近の土中に蛹室をつくり蛹化する。幼虫期間は2年といわれている。本種もコクワガタと同様にうまく飼えば成虫で3年ほど生きることが知られ、野外でも木の洞や石の下などで成虫越冬する。♂の大顎の挟む力は日本産のクワガタムシの中で最も強く、うっかり指などを挟まれると穴があいて血が出てしまうほどである。また、一旦挟むとなかなか離してくれないので、つかまえるときには気をつけよう。



ヒラタクワガタ 日本本土亜種 (クワガタムシ科 クワガタムシ亜科 オオクワガタ族)
Dorcus platymelus pilifer  (Snellen van Vollenhoven, 1861)
分布 国内: 本州、四国、九州。平地~低山地に汎く分布する。島嶼では伊豆諸島、対馬、南西諸島全域。
県内: 市街地を除き、汎く全域に棲息するが、やや局地的な傾向がある。比較的低平地に多い。
国外: 朝鮮半島、台湾、中国大陸南部~ベトナム、フィリピンに分布する。
変異 形態: 南西諸島を中心に多くの亜種に分けられる。対馬(ssp. castanicolor (Motsculsky, 1861))、吐喝喇宝島(ssp.takaraensis (Fujita et Ichikawa, 1985))、奄美大島(ssp. elegans (Boileau, 1899))、徳之島(ssp. tokunoshimaensis (Fujita et Ichikawa, 1985))、沖永良部(ssp. okinoerabuensis (Fujita et Ichikawa, 1985))、大東諸島(ssp. daitoensis (Fujita et Ichikawa, 1986))、八重山諸島(ssp. sakishimanus (Nomura, 1964))などが知られる。他に奄美諸島、対馬にはそれぞれ近似の別種を産する。♂の個体の大小による差は比較的小さく、小型の個体で第1内歯より先の小歯が消失する程度。
季節:
性差: 異型。一般に♂の大顎は大きく、♀は小さい。
生態 環境: 樹上性。クヌギ-コナラ林(落葉広葉樹林)が分布の中心だが、スダジイ林(照葉樹林)や山地のブナ林などにも棲息し、また放置された休耕田などに発生したヤナギ類などにもよく集まる。幼虫は潜材性。各種広葉樹の朽木にトンネルを掘り、その中で暮らす。
発生: 年1回。5月~10月に見られる。サイクルは2年1越型。幼虫で2回越冬し、3年目の夏に蛹化し成虫で越冬、孵化から4年目の夏に活動を開始する。ただし、環境によっては幼虫期間が1年に短縮されることもある。
越冬: 幼虫(非休眠)・成虫。成虫で最長3年程生存することが知られている。
行動: 夜行性。日中は木の洞などに隠れていてほとんど活動しない。日没以降に活動を開始して夜間に樹液に集まるほか、灯火にも飛来する。♀は産卵時に大きな産卵痕を残す。
食性 幼虫: 食植性/朽木ブナ科コナラ属クヌギコナラ、ミズナラ(ナラ類)、アカガシアラカシシラカシ(カシ類) 、シイ類のほか、バラ科サクラ類ヤナギ科ヤナギ類などの広葉樹が主体だが、稀にアカマツなどの針葉樹も食べることがあるという。
成虫: 食植性/樹液。クヌギやコナラ、ミズナラ(ナラ類)、アカガシ、アラカシ、シラカシ(カシ類)、ヤナギ類に集まるが、特に低平地のヤナギ類を好む。
類似種: 小型の♂はコクワガタに似るが 、内歯の形状が異なる。
保 護: 千葉県:、東京都:C(北多摩・南多摩)、栃木:、群馬:VU
その他: 県内の産地はほとんどが低平地もしくは河川周辺に集中している。ただ、多産することはほとんどなく、個体数は少ない。
天敵 捕獲: 造網性クモ類。幼虫は捕食性コメツキムシ類幼虫、ヒラタムシ類、ハサミムシ類など。
寄生:

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