ミヤマクワガタ

深山鍬形虫 (クワガタムシ科)


2002/7/19 君津市沖込 / NIKON F100+AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 頭部後縁に耳状突起を持つ特異な大型のクワガタムシ。大きなものでは全長8㎝をはるかに超える。ノコギリクワガタ程ではないが♂の個体変異は著しく、大顎の発達状態で長歯型、両歯型、原歯型に分けられる 。耳状突起は長歯型では顕著だが、原歯型では不明瞭となり連続的な変異を示す。羽化後しばらくは♂の体表には金褐色の短毛を密生するが、後に脱落する。また♂は大顎の内歯の形状によって「基本型」、「フジ型」、「エゾ型」の3型に分けられているが、♀では区別できない。これはおそらく遺伝的な現象であろうと考えられている。県内産の個体はほとんどが基本型である。和名は「深山」クワガタだが、ルリクワガタ類やヒメオオクワガタなどと比較してそれほど山地性が強いわけではなく、西日本などでは平地にも多い。ただ、市街地で見かけることはほとんどない。県内では県央以北では極めて稀で、上総南部や安房地域に比較的多く棲息する。
 写真は、君津市沖込で7月中旬の正午過ぎ、クヌギの樹液を吸う長歯型の基本型♂、全長6㎝程度の中型の個体である。♀はノコギリクワガタに似るが、各脚の腿節両側面が黄褐色であるため簡単に区別できる。御蔵島と神津島には近似の別種ミクラミヤマクワガタ(L. gamunus)、奄美大島にはアマミミヤマクワガタ(L. ferrieri)を産するが、種内での地理的変異は知られていない。
 県内では6月下旬~9月ごろに多くみられ、7月が最盛期。ノコギリクワガタと混生する地域では、本種のほうがやや高い標高の地域や傾斜地などに生息しており、棲み分けているようだ。一般には夜行性とされるが、完全な昼行性の場合もあり、個体や地域によって生態はかなり異なる。夜行性の個体は灯火によく集まるが、ほとんどの場合は♀である。幼虫は地中に埋没して水分を十分に含み、かなり腐朽が進んだクヌギやコナラなどの倒木やその下の腐植土を食べるため、飼育はやや難しい。幼虫期間は2年とされ、初夏に土中に蛹室を作って蛹化、羽化し翌年の初夏に野外に出る。いったん野外に出た個体は交尾産卵すると全て死滅するため、冬季に見つかる成虫は全て蛹室で休眠中のものである。



ミヤマクワガタ (クワガタムシ科 クワガタムシ亜科 クワガタムシ族)
Lucanus maculifemoratus  Motschulsky, 1861
分布 国内: 北海道、本州、四国、九州。島嶼では国後、佐渡、伊豆諸島、隠岐に知られる。なお御蔵島と奄美大島には近似の別種を産する。
県内: 市街地を除き、汎く全域に棲息するが、県央以北では極めて稀。県南部では比較的個体数が多い。
国外: 日本特産種。国外では記録されていないが、朝鮮半島に近似の別種が分布する。
変異 形態: ♂には著しい個体変異が認められる。また、亜種区分には至らないが、大顎の形状によって基本型(f. maculifemoratus  Motsculsky)、フジ型(フジミヤマクワガタ:f. nakanei Y.Kurosawa)、エゾ型(エゾミヤマクワガタ:f. hopei Parry)の遺伝的と考えられる型に分けられている 。ただし、♀では区別できない。
季節:
性差: 異型。一般に♂の大顎は大きく、♀は小さい。
生態 環境: 樹上性。クヌギ、コナラを中心とした二次林、遷移林。低山地~山地に汎く分布するが、ノコギリクワガタと混生する地域では 、本種のほうがより標高の高い地域に生息する傾向が見られる。幼虫は地中性。クヌギ、コナラなどの腐朽した埋れ木の下の腐植土層に棲息する。
発生: 年1回。6月~9月に見られ、7月下旬~8月に多い。サイクルは2年1越型。幼虫で2回越冬し、3年目の夏に蛹化し成虫で越冬、孵化から4年目の夏に活動を開始する。ただし、環境によっては幼虫期間が1年に短縮されることもある。
越冬: 幼虫(非休眠)、成虫。ただし活動を開始した成虫は交尾産卵し、越冬せずに死滅するため、越冬中の成虫はすべて蛹室で休眠中のものである。
行動: 活動時間には地域差が認められるが、基本的には全日性で、県内ではやや夜行性の傾向を示す。日中は落ち葉の下や木の洞などに潜んだり、樹上の高い位置で静止している。日没前後に活動を開始する個体が多い。灯火に飛来する性質が強いが、集まるのはほとんどが♀である。♂は特に気性が荒く、側に別の♂が来ただけで争いを始める。幼虫は埋もれ木下部の腐植土中に棲息し、土中で蛹室をつくって蛹化する。
食性 幼虫: 食植性/朽木ブナ科コナラ属クヌギコナラ、ミズナラなどのナラ類の腐朽材起源のものを好む。
成虫: 食植性/樹液。クヌギやコナラ、ミズナラ(ナラ類)、アカガシ、アラカシ、シラカシ(カシ類)、山地性のヤナギ類を好む。
類似種:
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:(南多摩)
その他: 羽化直後の個体の前翅には金褐色の微毛を密生するが、後に脱落する。
天敵 捕獲: 造網性クモ類。幼虫は捕食性コメツキムシ類幼虫、ハサミムシ類など。
寄生:

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