ウスバキトンボ

薄羽黄蜻蛉 (トンボ科)


2001/5/6 木更津市中尾 / NIKON NewFM2T + AF MicroNikkor 105mm F2.8 /Kodak Kodachrome PKL200

 体の割に大きな翅を持つ中型のトンボ。きわめて移動性の強いトンボで、春になると遠く南洋から太平洋を渡って飛来し、各地で世代を繰り返し、夏以降に数を増やす。日当たりのよい草原や畑の上を、大群で漂うように栄養飛翔する姿をよく見かける。飛翔は比較的緩やかだが、一旦飛び立つとなかなかとまらずに飛び続ける。
 写真は、木更津市中尾で5月上旬の正午過ぎ、枯れ草の茎にとまって休む成熟♂である。かなりくたびれた個体であり、もしかしたら太平洋を越えてきた南洋生まれの個体なのかもしれない。雌雄同型。♂♀共に成熟しても粉を吹いたりせず、斑紋などに差はないが、とまりさえすれば尾部付属器の形状で区別できる。ショウジョウトンボやオオキトンボの未成熟個体に似るが、本種のほうが翅がはるかに大きいので区別は難しくない。
 幼虫期間が極めて短く、産卵から羽化までたった40日程。世代を繰り返しながら北上し、時には北海道南部にまで達することがある。ただ亜熱帯性の種であることから幼虫は低温に弱く、水温が4℃以下になると耐えられず死んでしまうため本土のほとんどの地域では越冬できない。ウラナミシジミやイチモンジセセリのようなサイクルを繰り返すが、群れをなしてもっとダイナミックな移動を行うことが知られている。



ウスバキトンボ (トンボ科 ハネビロトンボ亜科 ハネビロトンボ群)
Pantala flavescens (Fabricius, 1798)
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では佐渡~南西諸島。但し土着地は九州南部以南に限られる。
県内: 初夏~晩秋にほぼ全域で記録される。
国外: 全世界の熱帯~亜熱帯に汎く分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 同型。腹端の尾部付属器を観察する必要がある。
生態 環境: 止水性及び緩流性。平地~丘陵。池沼、水田、湿地、用水路のほか、防火水槽や学校のプールなど。様々な環境で生育する。
発生: 多化性。晩春~秋まで、環境の許す限り年4回5回程度世代を繰り返す。県内では 南部では5月~12月中旬、北部では6月~11月末ごろまで見ることができる。盛夏の時期には産卵から40日程度で羽化することが確かめられている。
越冬: 幼虫。但し、九州以北では低温により越冬不可能。一般に冬季の水温が4℃以下の地域では死滅する。
行動: 昼行性。静止時は翅を開いてぶら下がってとまる。飛翔はゆるやかだが一旦飛び立つとほとんどとまらずに漂うように飛び続ける。移動性はきわめて強く、毎年春になると南洋から大群で海を渡ってくることが知られる。羽化後、風に乗って北上を続けながら栄養飛翔を行い、成熟すると付近の水辺で打水産卵する。気候の許す限り時には北海道まで北上することがあるが、九州以南を除き、冬の訪れと共に死滅するというサイクルを繰り返す。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカなど)。
成虫: 捕食性。小型~中型の鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: 未成熟の大型アカネ属に似るが、後翅の大きさが異なる。
保 護: 指定されていない。
その他: 春先、本州南方の気象観測船などで本種が大群で渡ってくる姿が観察されていることから、関東地方以北のものは九州南部で越冬した個体が北上したものではなく、主にこれら南洋諸島から飛来する個体に由来するものであると考えられる。
天敵 捕獲: ヤンマ類や大型のサナエトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 不明。

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