コフキトンボ

粉吹蜻蛉 (トンボ科)


2003/6/15 安房郡丸山町堂谷 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 やや小型のトンボ。和名は成熟した♂が全身に粉を吹くことによる。比較的広く開けた抽水植物や浮葉植物の繁茂する池や沼などを好み、街中でもそのような環境が残されていれば姿を見かけることがあるが個体数はそれほど多くない。
 写真は、安房郡丸山町で6月中旬の午後、農業用堰のほとりの枯れたアシの茎にとまって縄張りを確保する成熟♂である。♂は成熟すると全身に腹部に白粉を吹き、複眼が黒化する。♀は多型で、関東では♂と同型のものが主だが、およそ10%~20%の割合で翅の中央部に褐色の帯を持つ「オビトンボ型」が見られる。なお北海道と沖縄では全てオビトンボ型であるが、沖縄のものは褐色帯がほとんど消失したような個体も多い。シオヤトンボに似るが、それよりやや小型で、♂は複眼が黒く、♀は無斑型であっても翅の基部が褐色になるので区別はそれほど難しくない。
 県内全域に分布するが、開発や生活排水の流入などによる池沼の水質汚濁が原因で、かなり個体数が減っており、比較的珍しいトンボの部類に入ってしまった。「オビトンボ型」の♀はかつて北総地域では非常に高い比率で見つかっていたようだが、近年では本種そのものを見かけなくなった場所も多い。



コフキトンボ (トンボ科 アカネ亜科)
Deielia phaon (Selys, 1883)
分布 国内: 本土全域。島嶼では南西諸島のほぼ全域。
県内: 一部の市街地を除き、ほぼ全域に生息する。
国外: 中国大陸(華南~東北部)に分布する。
変異 形態: ♀は多型で、その出現率に地域差があることが知られる。亜種区分は認められていない。
季節: 知られていない。
性差: 未成熟個体は同型。成熟個体は異型もしくは同型。♂は成熟すると全身が黒化し、強く白粉で覆われる。また、♀は多型で、 通常は♂と同様に成熟するが、地域によっては翅端部に褐色帯をもつ型(オビトンボ型)が多く表れることがある。
生態 環境: 止水性および緩流性。平地~丘陵地。水辺に挺水植物と抽水植物の多い池沼や水田、用水路。底質は砂泥 で有機質が多く、水質はやや濁ったあるいは濁った陸水。開けた明るい環境を好む。
発生: 年1回。6月~9月末頃に見られる。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を開いて平らにとまる。飛翔は敏速だが移動性は弱く、羽化水域を遠く離れることはない。羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、付近の雑木林などの林縁で栄養飛翔を行う 。成熟した♂は水辺に戻り、日中は水面から突き出した杭や枯れたアシなどにとまって縄張を確保する。盛夏にはやや顕著な黄昏飛翔性を示し、日中には抽水植物などにぶら下がって休み、主に夕方に水域の上を盛んに飛び回って♀を探す。♀を見つけると直ちに交尾する。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカなど)。
成虫: 捕食性。小型~中型の鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: シオヤトンボに似るが、出現時期と複眼の色調が異なる。
保 護: 千葉市:、神奈川県:
その他: ♀のオビトンボ型の出現率は、北海道では100%、東北~関東地方では10%~20%、中部~九州と南西諸島北部では10%未満、南西諸島南部では100%だという。
天敵 捕獲: ヤンマ類や大型のサナエトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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